1年生大会開幕〜公式戦初登板〜

kamataはおっちょこちょいですね。」

 息子yasuに対する監督の評価である。実は、監督の眼力はさすがだなと思う出来事があったのだった。

 1028日、シーズン最後の公式戦八代地区1年生大会。八代地区の7つの高校が激突するこの大会は、高専八代にとっては2年後の選手権を占う重要な大会だ。また、強豪校としては、日頃公式戦に出ることができないメンバーを試す絶好の機会。学校で思惑は違うものの高校生のフレッシュな選手たちが一同に会する大会だ。

 その大会に向けて、息子yasuは先発投手を言い渡された。初めての公式戦でさぞかし緊張していることだろう。その心配がやはり現実となったのだ。

kamataくん、スパイク忘れたから、私が取りに帰りましたよ。ハハハ。穴があいているスパイクということで見つけやすかったですけど。」

 後援会長のTさんが、会場である県営八代野球場でお会いするなり、こう切り出された。空いた口がふさがらないおいら。スパイクを忘れるなんて・・・。しかも穴空きだったとは。Yasuが中学野球の時、スパイクを忘れて大活躍をした後輩がいたが、その後輩は、試合に遅れて参加し、見事にタイムリーを放った。この忘れ物がいったい吉と出るのか凶とでるのか。

 秋雨前線と大陸からやってきた低気圧が28日の午前3時ごろから熊本地方に雨を降らせた。雨は朝方まで残り、大会の開催が心配されたが、スマホの雨雲レーダーが10時前には雨雲は消えてしまうという予報を出していた。

 
グランド整備が必要なくらい雨が降っていました

 午前9時半試合開始予定は1時間延びて、10時半試合開始だ。相手は八代清流高校。八代南高校と氷川高校の2校が高校再編により合併となった新設校である。八代地区の中学校の主力メンバー出身たちで構成された1年生チームは、強固で警戒すべきチームだ。夏に練習試合をしているが、11分けと分が悪い。接戦になるとの予想を立てて球場入りした。














今日は今一つ調子に乗れないyasu




 それにしても気になるのは息子yasuの調子である。投手の親父ほどつらいものはない。外野手として応援するときは、たまにしか飛んでこない打球だけ心配していればよかったが。投手とか捕手とかは11球が勝負。これほど応援していて心臓に悪いポジションはない。

 そうこうしているうちに試合時間となり、両チームは顔を合わせ試合開始となった。
清流の先攻で1回の表の始まりを知らせるサイレンが鳴った。

「ウ〜〜〜〜〜〜〜。カキ〜〜〜〜〜ン。」

 先頭打者はyasuの初球を見事にとらえ、打球はセンター前へ。サイレンが鳴り終わらないうちに早くもピンチを迎えてしまった。スパイクを忘れた息子に対する野球の神様のお灸だったのかもしれない。

 清流は定石通り初球をバントで2塁へ送り、わずか2球で12塁のピンチを迎えた。3番はこれも定石通りセカンドへゴロを放ち、ランナーを3塁に進塁させる。23塁のピンチに最も警戒しなければならない4番バッターを迎えた。
初球力んでショーバンのボール。

「バッターだけ、バッターだけ。」

 2年生のキャプテンがyasuに声をかけてくれている。Yasu警戒するあまりノースリー。
 一つストライクを取ってワンスリー。苦し紛れに投げるストレート系の球を見事にとらえたが打球はセカンドの正面に。1回の表は何とか無得点に抑える。

 この日のyasuの調子は最悪だ。降り出した足の歩幅が7歩のはずが5歩だったそうな。下半身をうまく使えず手投げになっている。そのせいかわからないが、変化球が決まらない苦しいピッチング。

 2回の表もボール先攻。2死後、7番バッターにレフト前に運ばれ、ランナーを出す。しかし、8番打者をライトフライに打ち取りとりあえずこの回も無得点。ほっとする親父。

 3回の表、9番を三振に切ってとった後、さっき打たれた1番には粘られ歩かせてしまう。2死後、二盗、三盗を許し、ピンチを迎えるが、3番打者をサードゴロに打ち取りこの回も無得点に抑える。スライダーが決まらない中、何とかカットボールを投げて打ち取っていたようだ。


 4回の表、清流の攻撃。最も警戒する4番をカットボールで内野フライに打ち取り、5番に打たれたレフトへの大飛球をnaoがナイスキャッチしてくれ、2死となった。


 この回も無事に終わりそうだと安心した直後だった。インコースに投げた球をうまく打った打球はファウル気味だったが1塁線を抜け2塁打を許してしまう。このピンチにさっきも打たれている7番にショート強襲ヒット。これがtaiのグラブをはじき、レフトへ転々とする間に2塁ランナーが帰り1点を先制されてしまう。2死からの得点だけに痛い先制点だ。湧きかえる清流高校後援会。しゃもじの音が球場にこだまする。


先制を許す苦しい展開です


 なおも22塁のピンチ。ここで何とか後続を断ち4回の表を終わって0−1。今日の高専打線は全く音なし。3回までノーヒット。先週、強豪球磨工業から2試合で11点取った打戦とは思えない低調ぶり。何とか4回に相手のミスで2点を入れ逆転したが、5回から変わったryoに清流打戦が襲いかかり1点を入れ同点とする。


 5回の裏、これまた相手のミスで1点を返し、5回を終わって3−2の高専のリード。しかし、ヒット数は清流がもうすでに7本。高専はわずかに1本に抑えられていた。いつもなら、繋がる打戦がこの日は全く別のチームという感じ。リードしているものの試合内容では完全に相手に負けていた。





 7回に同点とされ、3−3で迎えた8回の裏高専八代の攻撃。期待のryoが倒れ、enoも三振。8yasuに打席が回ってきた。上位打線が完全に抑え込まれているんだ。下位打線が打てるはずもない。


 下を向いていたが、yasuの打った打球は思いのほか鋭いアタリだった。打球は三遊間に飛び、処理をショートがもたついた分間一髪セーフ。2死ながら逆転のランナーが出る。


yasu 2死からショートゴロエラーで出塁


 9番は、このところヒットが出ていないkuwa。唇を舐めながら静かに見守る高専の後援会。
 この場面で、監督のサインは何とエンドランだった。相手投手の投じた球はインコース高めの明らかにボール。それを大根切り気味に打った打球は、鮮やかな弧を描き、問題なくレフトの頭上を越えた。


エンドランが幸いしたのか kuwaの見事なバッティング


打球は問題なくレフトの頭上を越えた


「長打だ。走れ!yasu。」


 yasuはエンドランのまま1塁から長駆ホームイン。高専八代貴重な勝ち越し点。笑顔を見せるkuwa


yasu 1塁から長駆ホームイン 8回の裏の貴重な勝ち越し点


チームを救ったkuwa


 彼のバッティングに1番のtakeが応えた。前進守備のセンターの頭上を破るタイムリー2塁打と放ち5−3に。9回の表の清流の攻撃をryoが無得点に抑え、1年生大会の初戦を苦しみながらものにした。


takeは相手投手の失投を見逃さなかった


takeの打球は前進守備のセンターの頭上を抜けた


kuwa ホームインで5−3と2点リード


1年生チーム 公式戦初勝利でした


健闘をたたえ合う選手たち 試合が終われば野球を愛する大切な仲間だ


 後援会が陣取る内野スタンドではお祭り騒ぎ。だれともなく握手を求めあう。勝利の味は格別だ。笑顔であいさつをする選手たち。やはり勝たなければ、負ける悔しさもわからないはず。本当に、勝ててよかった。


 Yasuは調子が悪く、本来の投球はできなかったが、悪いなりに何とか踏ん張っていた。これをいい経験にしてほしい。また、打戦は水もの。いつでもタイムリーが出るとは限らない。やはりしっかり守ってリズムをつくり、少ないチャンスでも得点をあげられるようなチームにならなければと思う。



 次の試合は、11月3日、八代東戦だ。県南地区の中学出身の4番打者を並べたような重量打線が相手。今度は、yasuも相当打たれる覚悟をしておいた方がいいだろう。しかし、勝負はやってみなければわからない。すばらしい仲間とともに野球ができる喜びを味わいながら、最後まであきらめずに戦ってほしい。


 どんよりとした曇り空が、いつの間にかさわやかなマイナスイオンを伴った青空に変わっていたことに、球場を出た後にようやく気付いたのだった。



 八代清流高校のみなさん、試合をしてくれてありがとうございました。2人のすばらしいピッチャーを中心とした守りには苦戦を強いられました。今度ともよろしくお願いします。




八代清流
高専八代 ×


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