5/17瀬の主現る ロストワールド甑 瀬々野浦

2003年も寒グロ好調で幕を明け、これからの釣果が期待された。しかし、土曜日曜のたびに天候が悪く我々サラリーマン釣り師にとっては、臥薪嘗胆の日々が続いていた。

極めつけは、3月2日。日曜日にもかかわらず仕事だった。その日は、それまで荒れていた天気の中で久しぶりの快晴無風の春のうららのつり日和。試しに川内港のえびす丸に電話を入れる。「釣れてますか?」「はい、みなさん笑顔でしたよ。」とえびす丸のおばちゃんが全員クーラー満タンだったことを正に恵比須顔ならぬえびす声で語ってくれた。問題は、明日である。

「明日でますか?」「明日はだめね。天気が悪いが。」ガクッ!このところ宇治群島は5年ぶりのメジナのあたり年で、3時間で50枚だの、ムラがなくどの磯に乗ってもクーラー満タンだのという威勢のいい話しをポイント八代店の店長がしてくれていたのだ。この話しを聞いていた私は、さっそく離島釣行の計画をたて、竿磨き、イメージトレーニングに励んだ。ところが、前説の悪天候と土曜日曜のモホロビチッチ不連続状態でもおわかりのように、離島に行けない


無念の北浦湾内

おみやげもちょっとだけ
 どころか、近場の磯にも自然に拒否されつづけだった。

翌3月3日は、1年に2回しか許されない平日釣行の日にもかかわらず、春の嵐で北浦の湾内に。「kamataさん、春一番は台風のうねりより怖いで。」の渋いあゆ丸船長の一声でお土産ゲット作戦に変更。これをかわきりに、一辺島での珍嵐アンド遠矢ウキ完敗。水島のチヌ事件。立神様のお怒りでの撃沈と結果を出すことができなかった。

その間に寒グロシーズンはあえなく終了。メジナちゃんも 
              


産卵に入り、宇治でも水温の低下と共に爆釣は終わりを告げた。

さて、新学期に入り、仕事も一段落し、5月17日、今年のベストシーズンにできなかった離島遠征を計画。相変わらず天気は梅雨の前兆を思わせるような雨が続いていた。しかし、冬とは違い東っ気の風で九州の西側は思いのほか静かだった。場所は、3月中旬に1人30枚の釣果があったという下甑に決定。それも、4月1日に解禁になった手打へとねらいを定めた。

何度電話しても「今日は出ません。」という返事しか返ってこなかった第1近海へ電話を入れると、「17日は釣り大会がはいってて乗せられん。」嫌な予感がしたが気を取り直し、同じ阿久根港から出るシーエクスプレスさゆりに電話。「いいですよ。出ますよ。瀬々野浦ならいいよ。」よっしゃ、いけるぞ!久しぶりの甑に夢踊り、釣友のueno氏に連絡。午後10時に人吉盆地を出発した。途中買い物をし、午前1時に阿久根港に到着。1時間ほど仮眠を取った後、さゆりが停泊している阿久根港大島行きの定期船の桟橋へと荷物を運んだ。

天気予報は曇り一時雨。波高2メートル。予定通り午前3時に暗闇の阿久根港を定員13名の釣り客を乗せていざ出航。さゆりはその名のごとくきれのいいエンジン音を轟かせながら夜の海を西に向けてひた走るのであった。船の中は修学旅行の学生みたいににぎやか。おかげで寝る場所もない。隣に居座ったのが北九州石鯛クラブの面々。タバコを吹かせながら釣り談義に花を咲かせていた。反対側の隣は水俣潮友会の2人。総じてさゆりの構成メンバーは、底物9名、上物4名。計13名だった。

今季底物は絶好調。南は離島から枕崎、秋目、甑、天草でも好釣果が聞かれていた。それに対して、上物はメジナの産卵期、水温の低下でパッとせず。そういや、チヌののっこみってあったんかいなというくらいの低迷。一抹の不安を持ちながらもそこは甑。しっかり魚は答えを出してくれるさ。まるで麻雀屋のような空気の中で気持ちを奮い立たせていた。

1時間ほどしてエンジン音が緩やかになった。「あれっ、もう着いたんかいな。」と首をかしげていると、どうやら中甑鹿島の港についたらしい。北九州石鯛クラブのお騒がせ集団が暗闇の防波堤に消えていった。船は再びエンジン全開。瀬々野浦目指して甑島の西海岸をひた走った。それからというものうねりが結構あり気持ち悪くなってしまった。午前5時に瀬々野浦港に到着。そこから、地元の第2永福丸に乗り換えて各磯場へと向かうのだ。すでに夜は明けていて、素晴らしいロケーションが釣り人を待っていた。

地球が46億年の産物であることを無言で語っている通称ナポレオン岩。高瀬崎、鷹の巣、タテビラ瀬、黒瀬。磯釣り師なら1度は乗ってみたいフィールドが防波堤の目と鼻の先に広がっているのだ。人間の世界では、町村合併問題で議員全員が辞職に追い込まれるという椿事が行われている下甑。しかし、そんな人間様の修羅をやさしく包むように地層の縞模様の岩肌をした瀬がそこにいるのだ。そこには、時空を超えたイメージの世界とまったく同じものが広がっている。一瞬もあり永遠もある世界だ。

荷物を永福丸に積み替えた。永福丸の船長は、鹿児島弁がなく、とてもわかりやすい日本語をしゃべる。おかげで、上礁の時の指示が的確でわかりやすい。はじめに、底物の客から降ろし始める。鷹の巣のかべに1人、ハナレに1組。ナポレオン岩に2人と次々に降ろしていった。水俣潮友会の2人をナポレオン岩と高瀬崎との間の水道の瀬に乗せ、いよいよ我々の番である。緊張が走る。すると、船は地寄りの磯へ向かうではないか。おいおい、もう少し沖側がいいのにな。船は、一ヶ瀬横の瀬につけ我々を降ろした。

瀬は、まるでピアノの鍵盤のような形をしている。黒鍵にあたるところは高くて安全だが、左側しか釣りができそうもない。白鍵の部分は低すぎて波をかぶり、これから上げ潮で満潮を迎えるのでとても竿が出せそうもない。しかたなく上の段から竿を出すことにした。仕掛けをつくろうと竿ケースを開けて、愛用のメガドライを出したとたんに体に電気が走った。「ない、ない。」リールをセットしようにもシートの片側のストッパーが外れていてないのだ。これがないとメガドライが使えない。いろいろ探したが見つからない。どうやら前の釣行の時にあわててリールストッパーが外れていたのを気づかずに磯を後にしたらしい。

私はすぐに気持ちを切り替えて、中国製磯竿1号ー540、3980円を取り出した。竿は2本以上持っていっておけという教えを守っていて本当によかった。これは、以前kawazoe氏が一辺島で穂先を折り修理したものであった。1号竿だというのに穂先が固いという違和感はあったが、釣りができないという最悪の事態は回避できてほっとし、すでに釣り始めているueno氏の横で竿を出した。エサは、オキアミ生、集魚材はマルキューのV10を半分とダイワのクロパンを半分ほど混ぜ、柔らかめに仕上げた。期待の第1投。しかけは、釣研のレーダーソナー。全遊動と半遊動の釣り両方が楽しめるという秘密兵器だ。仕 


                             
掛けがなじむと下ウキが親ウキから離れてしもりはじめる。するといきなり赤い親ウキが消しこまれた。第1投からイスズミちゃんがお出迎え。海へお帰り願って気を取り直し、第2投。エサだけ取られてしまった。タナが浅いなと感じた筆者は、タナを浅くし1ヒロ半までに。これだけタナが浅いとこのしかけは意味がないと2段ウキに変えた。

すると、仕掛けをかえたとたんに魚がヒット。クロかなと思ってやり取りをしていると浮いてきたのはデカバンのタカベ。これは、おいしい魚なのでキープ。魚が多いなとこの時はまだ余裕だったが、それからというものの釣れてくるのはタカベばかり。撒きえさにタカベが沸いていて、仕掛けを入れても5秒も立たないうちにタカベ、オヤビッチャなどのえさ取り軍団がつけエサを食ってしまった。

その時である。3枚目のイスズミをかけた途端、いきなり1メートルはあろうかという赤いそして黒い点々模様がある正体不明の魚が、その魚に向かってライズしてきたのである。一瞬何が起こったのかわからなかった。得体の知れない魚がいる。それがロストワールド甑だということをまざまざと見せつけられた。

そんな珍事件の後、がんばってはみるが、一向にえさ取の猛攻は衰えることを知らず。潮もあてがずっと続いていたため、瀬変わりすることに。船は、今度はナポレオン岩を通りすぎ、反対の岬との間にできた湾の奥にできた、自然が創り出したトンネルの横の小さな瀬に上礁した。釣り座は狭いが、潮も動いており、なんとなくいい雰囲気。

期待の第1投。沖に流れる本流に引かれる潮に乗せていくとまたまた第1投から鋭いウキの消しこみが。しかし、浮いてきたのはまたしてもオヤビッチャ。がっくりしていると隣のueno氏が竿を曲げている。前の瀬では、コッパ1枚とタカベの入れ食いに閉口していた彼だったが、どうも竿の曲がりがえさ取と違うねん。数度の突っ込みをかわして上がってきた魚は、なんと30センチオーバーの口太ではないですか。やったね、uenoさん。磯場に活気が戻る。俄然やる気になる私。

ところが、それからというものぱったりと魚はハリ掛かりしてくれない。えさだけが取られる状態が続いた。そして、ウキ下を更に浅くして1ヒロ半に。すると、本命らしきエサの取られかたに遭遇。すぐに、矢引きのところにジンタン7号を噛みつけて潮のヨレに投入。すると、じわりとあたりウキが消しこまれる。道糸を張りながら合わせるタイミングを計っていると、親ウキまで消しこまれ一気に竿にのってきた。

一気にしめ込むこの引き味は、そうなつかしの愛するクロちゃんの引きではないか。数度のしめこみをかわしてあがってきたのは、いい型の口太だった。慎重にタモ入れし、魚を手元で確認した。ブルーアイ、エメラルドグリーンの魚体は潮の良さとこれからの地合い到来を提示してくれた。時計を確認すると、10時半。瀬替わりして良かったね。それから、私は2枚、3枚と立て続けにヒット。隣でエサだけ取られる状態だったueno氏にも矢引きにガンダマを情報提供すると、彼も入れ食いモードに入る。

だが、入れ食いも長くは続かず、魚は見えるが釣れないという状態に。潮がどうも関係しているらしい。潮が変わると魚が食ってくる。何とか8枚目のメジナをゲットした私は、納竿準備に。ueno氏は、仕掛けを竿1本以上深くしてイサキを上げていた。程なく船が迎えに来て納竿。午後1時45分。お疲れ様。

私はタカベ7枚のほかに36センチのクロを筆頭にオナガ交じりで8枚。ueno氏は7枚にイサキ4枚、タカベ。水俣潮友会の2人も17枚と好釣果に恵まれた。型はこの時期なので甑サイズとはいかなかったが、釣りの面白さ、醍醐味を心いくまで堪能させてくれた自然に感謝しながら、さゆりに乗って下甑に別れを告げた。帰港した阿久根港で空を見上げると天気予報に反して爽やかな青空が広がっていた。

                      
々野浦での釣果

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