6/29オナガ警報発令中 上甑・里

このところ天気は雨、雨、雨。梅雨といってもこれだけ降ればいいかげんにしてくれと言いたくなる。なぜ、こんなにも天気が気になるのだろう。それは、自分が正真正銘の釣りバカであることを証明しているのだ。作家の開高健は言った。中国の諺にこんなものがあると。「3時間だけ幸せになりたかったら、おいしいものを食べなさい。3日だけ幸せになりたかったら結婚しなさい。」なるほど、おい、納得してどうする。そして、「永遠に幸せになりたかったら・・・」さて、みなさんは永遠に幸せになりたかったら何をしなさいだと思いますか。釣りバカのあなたなら答えは簡単ですよね。そうです。釣りをしなさいなのだ。中国4000年の歴史は釣りが人生を楽しむための最大の人間の業であると見とめているのだ。

そんなことを知ってかしらずか、釣友のueno氏の禁断症状が激しくなってきた。もう1ヶ月も釣りをしていないと嘆き節が始まる。私も最後の梅雨グロを楽しみたいと二人の利害が一致。行き先は、ueno氏のたっての希望で中甑の鹿島に決定。東シナ海に浮かぶ甑島は、対馬暖流の影響を受け、四季折々の魚が集まり、釣り人を楽しませてくれる。特に、中甑の鹿島では、梅雨グロシーズンに入り、二人で40枚釣れただの、マダイやイサキが食っているなど、釣り雑誌やインターネット上をアジテーションしている。

早速、阿久根港から出る海上タクシーの近海に電話を入れると、「ダイコーさんの釣り大会が入っててだめです。」なに、やはり釣り大会が入ってまたも我々の行く手を阻む行事が組まれていた。あせる気持ちを押さえながら、串木野港から出る誠芳丸に電話を入れるとようやくO.Kの返事。安心した我々は、イメージトレーニングに励んだ。ところが、天気予報はまたも芳しくない。アジア有数のモンスーン地帯である日本列島を証明するかのような、雨マークが続いていた。梅雨前線は、釣行日に限って活動が活発になっていくようだった。

前日の6月28日は、鹿児島県薩摩地方は雨、大雨洪水雷警報が発令され、おまけに海上は波浪注意報、波の高さ3メートルであった。悪いことに翌29日の釣行天気予報も雨のち曇り、降水確率60%。南東のち西の風やや強く8メートル。波の高さ2.5メートルだった。今年に入って死亡事故を起こしている鹿児島県遊魚船協同組合は当然慎重な判断を下すだろうと予想していた。

案の定、前日の午後3時ごろ私の携帯がなった。「kamataさんですか。明日は波が高いのでやめます。」予想していたことが的中した。すぐに、同じ串木野港から出る釣りキチに電話すると、「朝6時に判断します。」とのこと。ここで、ueno氏と協議に入った。釣りキチでもいいがもし出なかったらこまる。それよりも、下甑は多分波や風向きなどでだめだろうが、上甑なら船も大きいし、風向きによっては十分釣りができるところがあるのではと考えた。

我々は、2002年のメジナ最悪シーズンに2回釣行し、惨敗を食らっていることが一瞬脳裏をよぎったが、今はそんなこといっていられない。すぐに、串木野港発の蝶栄丸に電話すると、「出ますよ。午前3時出航だよ。」とあっさり返事が。さすが石原船長。甑近辺の海況を知り尽くした上での決定だ。目標が決まった我々は、またまた夜の国道3号線を南に下った。

午前11時に串木野港に到着。仮眠を取ろうとするが興奮のために一睡もできないうちに午前2時半を迎えた。この悪天候で客が少ないと思いきや。いるわいるわ、一体どこからわいてきたのかこの釣りバカは。14、5人の釣り客でにぎわっていた。よく聞いているとダイコーの大会は中止になり、こちらに流れてきたようだ。となるとその釣り客は、釣具メーカーのフィールド・テスタークラスが乗ってきたことになる。

ライフジャケットの刺繍が我々素人にプレッシャーをかけているようだ。南の釣りでお馴染みの釣研フィールドテスターN氏も来ていた。それらのメンバーを乗せて、蝶栄丸は予定より15分早く午前2時45分に串木野港を後にした。蝶栄丸は大きいので船の中はゆったりくつろぐことができた。

さて、一眠りしようかと考えていると、隣にいる初老のおじさんが話しかけて来た。「上物ですか。」そうだと答えると、意味深な話しを始めた。「オナガが来るよ。仕掛けは太くしてきたかね。」そう言えば、そのことをすっかり忘れていた。不覚にも2.5号の道糸しか巻いてこなかったのである。ライトタックルしかないことを告げると、「心配しなさんな。釣れるサイズしか釣れんから。」この言葉が今回の釣行の伏線になろうとは、釣りバカ2人組みは知る由もなかったのである。思ったより揺れない船内で仮眠していると、エンジン音が緩やかになってきた。

来た。エンジンの逆噴射が始まり、最初の渡礁が開始された。黒神にN氏らが渡礁した模様。船内に緊張感が走る。そして、次々に釣り客が石原船長に呼ばれ、暗闇の瀬に消えていく。そして、「kamataさん、行こうか。」の声でついに我々の番になった。磯の名は犬島。上甑の沖磯群の中でもいい場所のようだ。乗った磯は、足場がよく潮もよく動いており、手前には適当なサラシもあり、期待が持てそうな場所だ。船長の「船付けと右側の先端、そしてその間のサラシでもいいよ。」とポイントをわかりやすいアドバイスでやる気モードに。ueno氏は月明かりで仕掛けを作るという神業を始めていた。

私は、撒き餌づくりから始める。オキアミ2角にパン粉1.5キロ。集魚材は今回初めて使うダイワの海苔グレ。海水を混ぜて柔らかめに仕上げた。タックルは、メガドライ1.5号ー50、道糸はアプロードのTZ2.5号、竿1本のところに山元式なるほどウキ止めをつけ、釣研のレーダーソナーと潜行ストッパーを。そして、トルネードVハード2.5号をハリスに、ハリはグランののませの5号を使った。ueno氏と共に右側の先端部分に釣り座を構え、第1投。撒き餌をかぶせるとえさ取出現。スズメダイ、ネンブツダイなどがいるようだ。

数もさほど多くなく、これは期待が持てると釣り続けるが、一向に本命らしきあたりがない。エサを取られるだけの状態が続いた。ウキ下を深くするが変化なし。ハリスを2号に落とすも変化なし。おまけに左下にあるサラシが強すぎて、右からの潮とぶつかり、潮のヨレがあちこちにでき、道糸が取られる状態で当たりが拾えなかった。30分経った時、私はこの釣り座に見切りをつけ、もう一つのポイント船付けに釣り座を構えた。とにかく当たりが渋い。えさ取りさえハリがかりしない状態だ。私はハリスを1.75号まで落とし、ウキを2段ウキの固定に変え、食い渋りに対応することに。そのうち満潮を迎え下げ潮が動き始めた。

二人は全く当たりがないまま釣り始めから3時間が経過した午前8時過ぎ、隣のueno氏の竿ダイワの大島1.5号が見事なアーチを描いていた。本命らしき格闘のあと浮いてきたのは、7,800グラムの口太であった。「よかったね、uenoさん。」久しぶりの釣行で幸先のいいスタートを切った釣友に素直に喜ぶことができた。ところが、こちらはいまだにあたりなし。そうしているうちに9時ごろ再びueno氏竿を曲げ、やや小ぶりのメジナちゃんゲット。「kamataさん、こっちにこんね。」2枚ゲットしたueno氏

は、やさしい言葉をかける。しかし、1度ここでやると決めた以上、しばらくここで勝負すると言うのが釣り道たるもの。必死の形相で竿を振りつづけた。注意深く偏光グラスで海の中を覗いているとでたっ!釣り人の嫌われ者ウスバハギの登場だ。通称ハゴイタと呼ばれるこの魚は、ウキや道糸など色のついたものを鋭い歯でかむ癖がある。あえてこの野郎と言わせてもらうが、この野郎のおかげで私はたくさんのウキを流している。

私はこの野郎の退治に取りかかった。ウスバハギは魚のくせに泳ぐのが苦手である。それを利用して撒き餌でおびき寄せてタモ網ですくうという方法である。何か原始的な匂いのする捕獲方法だが、前回の下甑ではこれがまんまとはまり、50センチのウスバハギをゲットしている。しかし、このウスバハギは中々知能指数が高く、私の網を無視して悠々と撒き餌を拾っている。ゆるせん。それなら釣ってやるとウキ下を浅くし、トライ。完全にメジナちゃんを忘れていることに気づいたときにはもう遅かった。ここからが悲劇の始まりであった。

なんとウスバハギをかけてしまったのだ。この野郎は縦横無尽に暴れた。重い魚体を何とか浮かせて取りこもうとするも激しく抵抗するハゲ野郎。おとなしくしろと言うが早いか、信じられない出来事が起こる。愛竿メガドライがボキッと鈍い音を立てて真中から折れてしまったのだ。悔しさのあまりにそのハゲ野朗を捕獲し、クーラーにぶちこんだ。59センチあるハゴイタだった。値段を言いたら悪いけどネット通販で58000円もしたんだぞ。山本釣具センターで同じ竿が48000円で売られていたのを見た時はがっくりしたけどな。メガドライの瀕死の重傷に選手交替。ダイコーの強豪1号の登場だ。外ガイドの竿に命をかけるダイコーらしくしなやかで強くとても使い勝手がいい。

竿を折られたショックを忘れて竿を撃ち振るいつづけた。すると、石原船長のことば通り、下げ潮に代わり潮が左に動き出した。私が釣り座を変えなかったのはこのこともあったのだ。すると、当たりウキがもぞもぞと前あたりの後ゆっくりしもりはじめる。緊張が走る。パチンコで言えばスーパーリーチが掛かった状態である。唇をなめながら合わせのタイミングを計っていると、親ウキまでも海中に消えた。間違いない当たりだ。鋭くあわせを入れた。

見事な弧を描く強豪1号。対馬暖流の本流が育てた魚の急なしめこみを竿をねかせるなどの竿さばきで応戦しながら少しずつ浮かせると、見事な口太が浮いてきた。タモにいれると37センチのクロであった。ついに会えた。エメラルドグリーンの瞳を持つこの恋人をやさしくしめてクーラーに入れる。時計を見たら10時をまわっていた。空が明るくなった気がした。ボウズを脱したこの至福のとき。釣った本人しかわからないであろう喜びに浸っていた。一匹の魚がどれだけ釣り人のモチベーションを高めるかわからない。トーパミンという脳内モルヒネが出たまま、更なる獲物を求めて竿を振りつづけた。

しかし、ハリ掛かりするのは、ウマヅラ3枚、再びハゴイタ56センチ、ブダイ41センチと外道のオンパレード。メジナの魚影が時々飛びこんでくるがえさを食ってくれない。見える魚は釣れないというのはこのことだ。そして、潮が引いて左側にできたサラシの際に仕掛けを入れると鋭いウキの消しこみが。一直線に瀬につっこうもうとするその行動はまさしくクロであった。浮かせると32センチのオナガであった。

しかし、その後その場所はエサ取り天国になってしまった。ueno氏も同様、バリやウマヅラの外道に苦しめられ、メジナに会うことができないでいた。私はあきらめることなくさっき口太が食った場所をウキ下を浅く1ヒロ半にして探ると再びもぞもぞとした当たりの後、親ウキが沈んだ。再び魚との格闘が始まった。1回目の鋭いしめこみをドラッグ調整でかわした後、浮かせた魚はこれも39センチの口太だった。

時計は11時を回っていた。ueno氏を見ると真剣モード。そして、そのueno氏もかつてない強烈な引きが襲った。のされそうになるueno氏。ueno氏がんばれ。ファイト!1度ウキが見えかけたがueno氏がリールを巻くとその一瞬の隙をねらって再び瀬につっこうもうとする。私は、もう疑う余地はないと思った。「やつだ。オナガだ。」私はタモを持ってueno氏の現場にかけつけた。オナガはタモ入れを一発で決めないとやられる恐れがある。タモを持つ手にも緊張が走ったその時、「あー」という悲鳴にも似た声と共に、大島は放物線の状態から解放されることになった。痛恨のバラシ。オナガだ。

私はオナガリベンジを決めようと緊張の釣りに突入。ほどなく私の竿にも強い当たりが。強烈な引きを竿を寝かせて耐えに耐えた。わずかながらではあるが少しずつ浮いてきた。青黒い魚体も確認。間違いない。やつだ。絶対取ってやると力を入れた瞬間、痛恨のバラシ。飲まれていたらしい。ハリスがハリのちもとから切れていた。

それから4連続バラシをやってのける。がくっ。すべて飲まれていた。尾長は口太と違い引きもさることながら、歯が鋭い。だから飲まれると厄介だ。飲ませないためには、大きく2つの方法がある。一つは、タナをきっちりと合わせること。もう一つは、ウキにあたりが出たと思ったら、できるだけ早くあわせを入れることである。しかし、オナガは上下動のはげしい魚で、タナを合わせるのは困難を極める。また、早合わせもラインコントロールがうまくできないと成立しないという技術的な難しさがある。だからこそ、オナガは釣り人を熱くさせるのだろうと思う。

そして、納竿15分前、私の強豪1号が再び大きくしなった。うんひくなあと思いきや。あれっ、たたくぞ。もしかして、、。そうです。磯釣り師なら誰もが期待する、そうバリでありました。産卵を控えた40センチのバリちゃんでした。お後がよろしいようで。船の中でつぶやいていた初老の一言「釣れるサイズしか釣れんから。」は本当であった。私は、心の中でオナガ警報発令中と叫びながら、蝶栄丸に乗りこみシャバという現実へと戻るのであった。


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