7/23イス釣り師誕生〜夜釣り開幕戦〜 中甑 鹿島

夏休みがやってきた。子どもたちにとっては待望の季節だ。しかし、我々磯釣り師にとっては、我慢の季節である。灼熱の太陽の中での釣りは、熱中症と紙一重の世界だ。とてもやってられないということで、この季節は磯釣り師の多くは夜釣り(ナイトゲーム)シーズンを楽しんでいる。

今回も例によって、ueno氏と夜釣りを計画した。対象魚はズバリ「イサキ」くんである。ある専門家によれば日本人が長生きなのは、四季があるかららしい。四季は食べものの旬という言葉を生み出した。古来から我々のご先祖様は四季折々の旬の食べ物をいただいて生きてきたのだ。夏の旬の魚といえば、磯釣り師なら迷わず「イサキ」と答えるだろう。

「夏のイサキの塩焼きはうまいもんなあ。」とueno氏が生唾を飲みこみながら呟く。イサキねらいなら遠投かご釣りがメインである。私は昨年の初めての夜釣りシーズンで枕崎で1回も当たりがないという屈辱の2連敗をくらっているだけに、かご釣りに対しては苦手意識があるのだが、今回は何とかリベンジをと気持ちを前向きに持っていくことにした。

しかし、私は知っている。ueno氏の本当のねらいを。それは、南九州限定、夏に旬を迎える魚である。ほとんど夜にしか釣れない。そして、中々釣れないことや余りにも美味のために一般の市場に出回ることはなく、料亭でしかお目にかかることができない超高級魚。ここまでいえばたいていの磯釣り師なら答えることができるだろう。その魚はシブダイである。

南九州の磯釣り師はこのシブダイをねらう人が多く、ブッコミや遠投かごで釣ることができる。引きが強く、大型になるので、道糸は最低でも10号、ブッコミでは、ハリス24号にムツバリを使ったりと、かなりの太仕掛けで勝負しなくてはならない相手だ。

そのueno氏の意図を見抜いている私は、早速7月23日の夜から24日の朝までという釣行を計画、釣行先は梅雨グロねらいに行けなかった中甑に決定。串木野港から出る誠芳丸に電話を入れた。すると、驚いたことに20日の夜釣りでは、シブダイが5枚だの、4キロのフエフキダイ(タバメ)が釣れただの、クロも釣れただの、余りにも釣れていたので満タンのクーラーを隣の蝶栄丸の客が来て、名刺をもらいに来ただの、威勢意のいい話しが飛びこんできた。この話しを聞いた私は、アドレナリンが全身を駆け巡るのがわかるほど上気していた。私は、この話しを10倍くらい膨らましてueno氏へ伝える。やる気モードに替わるueno氏。

こうして、夜釣り開幕戦は華々しく始まることになった。そこで気になるのは天気。フィリピンのルソン島付近にいる台風が気になるが、太平洋側の高気圧の勢力が強く、その台風は中国大陸へとさよならしていった。天気の心配がなくなった我々は、23日の午後12時半に人吉を出発。

高速道路を通り、買い物をしながら午後3時半に串木野港に到着。午後4時10分に誠芳丸は、串木野港を後にした。船長の中村さんはとても親切で気さくな人だ。早速我々は船長に情報収集を試みた。そこで、我々は驚くべき情報を得ることになる。なんとシブダイがふかせで釣れるということである。シブダイは底物というイメージがあるが、さすが甑というべきか。つぎに、そのタナに驚かされた。なんと2ヒロというのだ。す、す、す、すごい!まるで梅雨グロのようなタナの浅さに驚き、同じにニヤリ。タナが浅いということは活性が高いということだからだ。「4キロのフエフキが食ってくることがあるからその時は格闘してください。」

船長は笑いながら我々をその気にさせ、台風のうねりの中を誠芳丸は中甑の鹿島方面へと急いだ。「今日は、台風のうねりがはいっちょるし、南西の風だから北向きの場所に行きましょう。」船長に勧められた磯は、通称「鳥の巣」。20日の夜釣りでシブダイが5枚上がったところで、一番のお勧めポイントらしい。

左の沈み瀬の向こう側の落ちこみにシブダイが潜んでいて、釣り座から左に潮が動いた時に食ってくるそうで、右に動いた時にクロが食ってきたそうである。すぐに瀬上がりして、昼用、夜釣り用の仕掛けを作り夕マズ目の釣りに入った。

ところが、潮まわりは最悪の長潮が示すとおり、潮が全く動かない。エサを撒くと、青い熱帯魚、えさ取がわんさかいた。3週間の入院から帰ってきた(入院費15000円)メガドライで第1投。しかし、えさを取らない。えさとりさえ口を使わないというのは最悪の状態である。1時間ほどして、上野氏はあっさりと夜釣りの準備に取りかかっている。私はあきらめきれずにウキが見えなくなるまでトライしたが、当たりなし。不安なスタートを切った。

夜の帳が下りて、「よふよふしろくなりゆくやまぎわに」ueno氏の電気ウキが光った。いよいよ夜釣り開始である。いつもueno氏に先行されている私は、本命ポイントのueno氏の右横にかまえ気合十分で第1投。全く反応なしの時間が1時間ほど続いた午後8時半、私の電気ウキがいきなり海中に消えた。慌てて合わせると一気に竿にのってきた。これはでかい。5号竿が大きくしなった。uenoさんお先に釣らせていただきましたよ。10号道糸という太仕掛けにものをいわせてぶりあげた。急いでぶりあげた魚を見に行く私。何が釣れたのだろう。夜釣りならではの楽しみにわくわくしながらヘッドライトをピチピチはねている魚に当てると、がくっ!ししし白い!そう、イスズミさんでした。

私はやはり差別はいけないと思う。しかし、釣りの世界では、明らかに魚を差別している。イスズミは嫌いだ。夏になると元気になるこの魚は、磯ぐさい上に食べてまずい。また、釣り上げた時に必ずといっていいほどうんこをたれるので、地方によっては呼称が変わるほどの嫌われ者だ。イズスミ、イスズミ、ヒツオ、ババチンなど。40オーバーのこの外道を見ながらがっくりする私。

海にお帰り願った後、今度はueno氏が竿を曲げた。そして、ぶりあげた魚を見ると何とクロホシフエダイであった。ピンク色に輝くその魚体にうっとりするueno氏。10日前、通知表書きで身動きの取れない私をほっといて、1人で枕崎へ行き惨敗を食らっていたueno氏にとってこの1枚は非常にうれしい1枚であったに違いない。これで3回連続で先行されてしまった。

程なく、私にに当たりが。よし、時合だ。慎重にぶりあげてみれば、またまたイスであった。がくっ!ここでまたueno氏ヒット。格闘の末上がってきたのは今度は本命のシブダイ。キロクラスはありそうな魚体であった。絶好調のueno氏。やはり船長のことば通り、沈み瀬の奥の落ちこみから魚が出てきているようである。夕まず目の釣りを早々と見切りをつけ、本命釣り座を確保し釣り始めたueno氏の作戦が見事にはまった。

「kamataさんこっちでせんね。」3枚目のシブダイを釣り上げたueno氏はやさしい言葉をかける。今回はその言葉に甘えてueno氏の左に釣り座を構えた。根掛かり覚悟で問題の沈み瀬の近くに仕掛けをいれた。すると、予定通りに釣研の電気ウキが揺れながら海中に消えた。よし!竿にのってきた。一気に糸を巻き浮かせた。

ぶり上げてびっくり。その魚は36センチのイサキであった。「こんなのいるのかよ。2ヒロやそこらで。」イサキのタナは釣り氏の常識では最低でも竿1本と思っていたのだが。この余りにも浅いタナに驚きながら私はボウズを脱した喜びに浸っていた。その後、イスとイサキ(40センチ・32センチ)を交互に釣り上げた。ueno氏もイサキをゲットしたあと、魚からの反応が途絶えた。

時計を見ると、午後11時。満天の星の下、大満足のueno氏と悔しさいっぱいの私は、お魚さんだけお食事はだめよと焼肉タイム。磯で飲むビールはまた格別だ。

蚊に悩ませられながらも午前1時まで頑張るが、釣れてくるのはイスズミばかり。一向に本命のあたりなし。釣れないと疲労感が倍になる。しばらく横になって3時まで休憩して再び竿を出すと、ueno氏久しぶりにイサキを上げる。その後、フエフキの子どもを釣ったところで大トラブル発生。シマノの遠投EV5号が道糸を巻き込んでしまった。釣り続行不可能に。朝まず目まで待つことにした。

朝が来た。右方面へいい感じの潮が流れ始めた。クロの本命潮である。3回続けて魚を掛けるが3回ともイスズミ。場所をはじめのところに戻って32センチのクロと38センチのブダイをつったものの、あとは釣れてくるのはイスズミばかりであった。イスズミでけでも20枚は釣っているだろう。ueno氏はそんな中44センチの口太メジナをゲットし、超ご満悦。中甑の魚影の濃さに驚きながらも、イス釣り師誕生と自分を責めながら8月のシブリベンジを誓うのであった。


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