11/3磯釣り情報化時代・・・秋磯第3戦 中甑 鹿島

2003年の秋磯シーズンも第3回目の釣行を迎えた。人々が祭りでにぎ合うこの時期に私は人里はなれた場所で2ヶ月近く会えないでいるエメラルドグリーンの瞳を持つ恋人に会いに行くことにした。熊本県庁のプロムナードのイチョウの葉が色づいてきた。水温もメジナ釣りの最適温度20℃に近い23℃となり、九州各地の沖磯では好釣果が聞かれるようになった。

行き付けの磯をざっと紹介すると、南郷水島はムラはあるものの2キロから足裏サイズまでのメジナ、良型のイサキが釣れている。宮崎県北の雄、北浦では、コンスタントに良型が上がっている。日向市の先の門川では、どの沖磯でもキロサイズを越えるメジナが釣り師を喜ばせていた。

さて、どこに行こうかなと考えていたところに愛用の携帯рフIモードから釣りナビを見ていると体に電気が走った。「中甑・メジナ800g〜2キロ釣る人20枚。」すぐに、この話しを20倍くらいに膨らませてueno氏に伝えた。誠芳丸に電話すると、「いいですよ。地磯の方がいいですね。12、3枚釣れていますよ。ハリス1.75号、グレバリ2号でした。」この話しを聞いて誠芳丸に予約を入れた。

徳島県が生んだ二人の名人はこう言っている。メジナを釣るために秘訣は何ですか。江頭弘則氏は「それは、釣れているところに行くことです。」また、磯釣りの神様松田稔氏は、「釣れんところに行っても釣れんのじゃ。」今や磯釣りは情報戦になっている。情報をいかに正確に集めるのかということにかかっている。今回の釣行では、そのことを思い知らされる結果となった。天気予報を見た。天気も大切の情報の一つだ。

2003年11月3日(月)長潮。はるか南海上に発生した台風19号のうねりが気になるが、波の予報は、1.5メートル。午後から、北風が強まるので後2メートルという予報だ。いけるぞ。天気予報は、降水確率60%、午後から30%。雨は、多少降るが、ピーカンの日よりメジナの警戒心が薄れる曇りや小雨のほうがいい結果が出ていることに、我々はそれをいい情報と考えた。結局、雨に濡れるのを嫌う八代在住のK氏はリタイヤし、uenoとの二人での釣行となった。

午前2時に人吉を出発。串木野港へと車を走らせた。途中で遠雷を観測したかと思うと、阿久根に入ったころから集中豪雨にみまわれた。これって本当に60%?その集中豪雨をあとにしてやっとの思いで港に到着。15分遅れたにもかかわらず、一言の詫びもいわない若者1人を追加し、10名の釣り客を乗せ、誠芳丸は暗闇の串木野港を出航した。

この船に10名は苦しい。前のカーペットの部分に3人ごろ寝。後ろの座席にぎゅうぎゅうの5名。そして、船室にも2人が座っていた。そのために、いつもは船長に状況を聞きながら情報を集めるのに、この船内の状況では会話もはばかれる。結局、船長に大切なくわしい仕掛け、ウキ下などを聞くのを断念したのである。これがまず今回の第1の敗因だ。

次ぎの敗因は私の責任である。いろいろの角度から情報を集めようという意図で、中甑に詳しい串木野にある某釣具店に前日の状況を聞いてみた。「潮が動かんだったよ。あまりよくなかったね。タナは竿1本半から2本。撒き餌はオキアミを少なくして、パン粉などの軽いものを混ぜて魚を浮かせて釣らないとね。先週までは、口太が入れ食いだったよ。今は食いが渋くなっているよ。尾長が回ってきたね。そのせいで、口太が釣れなくなったんだろう。」やけに親切に教えてくれるなあとその時は思った。ところが、この話しをまともに聞いたのが第2失敗である。「思ったより、うねりがないね。西磯に行けるかも。」暗闇の船の中でueno氏が期待を込めてつぶやいた。

甑の鹿島一帯は、魚の宝庫である。つい先日も日本一の磯釣り師を決める大会ダイワグレマスターズの九州予選がここ鹿島の西磯で行われた。釣り師の技もさることながら鹿島の磯の実力も素晴らしく、選手の多くがクーラー満タンだったという。東側に比べ西磯は数型ともに上回り、名礁が点在している。しかし、北西の季節風が吹くメジナシーズンになると慢性的な時化に見舞われるのだ。だから、中々乗れない磯もあるのだ。

さて、今回はどうだろう。中甑島が近づいてきた。蘭牟田の瀬戸を抜けた。西が荒れているときは、ここから船が揺れ出す。しかし、うねりが小さい。これはいける。初めての鹿島、夏の夜釣りで乗った思いでの地「鳥の巣」に2人が乗った。さて、これからいよいよ西磯だ。期待が膨らんで最高潮に達すると、円崎を越えたところで船長の声がした。「鎌田さん準備して。」よっしゃ、行くぞ。断崖の突き出た部分の北風の風裏に当たるところに船は付けられた。この磯は後で聞いたが、「灯台下」または「ギンバナ」と呼ばれている。3日前は、尾長12枚、昨日は7、8枚。型は小さ


中甑 円崎 灯台下(ギンバナ)

いものの数は申し分ないところだそうだ。沖に向かって、右側が高くなっていて、そこが一つのポイント。船を付けたところが少し低くなっていてそこも実績あり。また、その2つの間のワンドもいいとのこと。手前はドン深になっており浅そうな沈み瀬もないので魚も取りこみやすい。

中村船長は、我々初心者にうってつけの場所を用意してくれた。二人ではもったいない磯で、我々は早速仕掛けづくりに。時計を見たら6時半。uenoさんは沖側の高いところを、私は、船付けのところに釣り座を構えた。気になる潮は緩やかにトローッと沖の右側に流れて何となくいい雰囲気。時々表層部分が左に流れて二枚潮になったが、水深のあることろではそれはつき物。全く気にならなかった。所々にピトンの後があり、石鯛野郎も数多く乗った場所であることがよく分かった。釣り始める前に撒き餌をうつ。えさとりなどの状況を見るためだ。魚は見えなかった。とにかく魚を寄せるためにまず撒き餌だ。いつもより多めに撒いた。

そして、魚からの反応を期待しつつ、第1投。竿1.5号、道糸2.5号、ハリス1.75号。1番実績が高い、0号の親ウキをスルスルにして、あたりウキとしてグレハリスウキ00号をセット。ウキ止めを竿2本のところにセットし、仕掛けがなじむとゆっくり親ウキがしもって、海面の少し下に漂うように小さなジンタンをあたりウキの下に噛み付けた。エサを取られなかったことを確認して、第2投。

これもエサが取られない。矢引きのところにジンタン8号をうち、第3投。エサが取られた。しかし、どの地点でエサが取られたのかわからない。表層なのか、深いところなのか。それを確めるためにもう一度同じ仕掛けで第4投。これもえさを取られたぞ。オキアミの頭を取りハリの大きさに合わせたサイズにし、第5投。仕掛けがなじんだところで、いきなりの強いあたりが。体制を取るひまもなく、0.5秒ほどでバラシ。道糸からいってしまった。

ということは、ああ、おれのお気に入りのグレックスのウキグレディア0号が自由のみとなり、水面を漂っている。値段を言ったら悪いけど、1850円と580円のゴールデンコンビをわずか0.5秒で失ってしまったことになる。グレハリスウキはわけのわからないお魚さんと仲良く海中に消えていった模様。

頭にカーッと血が上った。無意識のうちにライフジャケットの右のポケットに手を突っ込んだ。つかんだハリスは2.5号。今日用意してきた仕掛けの中で最強コンビだ。絶対取ってやる。ハリは新発売のがまかつのひねくれグレ5号。刺さりの良さは群を抜いている。さあ、もう一度勝負するぞ。メジナ釣りを忘れ、そのわけのわからぬ魚の正体を知るべく、竿をうち振るいつづけた。

そして、7時半頃、グレディアG2がまた、勢いよく海中に消えた。一気にのされそうになる私。「ううっ、こいつは一体何者だ。」必死に耐えるもののバラシ。あれっ、瀬ずれでもないのに何で。」と仕掛けをチェックするとハリはずれ。「くそっ、絶対釣ってやる。」そして、再びグレディアG2が勢い良く海中に消えた。ウキの変化より先に道糸に魚信が来ていた。ビュンビュンと糸鳴りがする。ドラッグから道糸がどんどん出ていく。

タナは竿2本と1ヒロくらいか。これ以上糸が出ていったら瀬ずれでやられる。竿を力を込めて懸命に立てる。幸いなことに何とか敵の先制パンチを止めた。何だろう。この強烈な引きは口太とは考えられない。ポンピングしながら浮かせにかかった。重たい魚体ではあったが、最初の突っ込みからするとまるで別の魚のようにわりとあっさりと浮いてきた。往生際がいいのは、イサキ、マダイ、チヌなどのわりと深い層にいる魚の特徴でもある。そして、浮いてきた魚を注意深く確めた。赤ピンクの魚体、黄色いヒレ。「よっしゃ、シブだ。」


      今回の釣り座 船付付近

タモに納めたその魚は、夜釣りの恋人シブダイであった。41センチ、キロオーバーの良型。はるか上空を飛んでいるとんびにもって行かれないように大切にクーラーに入れた。実は、もしかするとと思っていた。その直前にueno氏がシブダイのお友達のクロホシフエダイをゲットしていたからだ。

時計を見ると8時。いつのまにか降り出した雨は全く気にならなかった。シブダイを釣り上げていい気分で釣りを再開するが、後が続かず、やがて干潮の9時を迎えた。そろそろ朝マズ目のゴーデンタイムは終了とハリスを1.75号に落とした。食ってこなかったので、ウキをG2でも更に感度の良いプロ山元ウキに変えてゆっくり沈めて探っていき、食うタナを見つける作戦だ。

再びウキが一気に斜め右に走った。一瞬のうちに竿を立て最初の突っ込みをかわすべく、竿を右に左に振りながら、魚の引きが直接仕掛けにダメージを与えないようにした。「よしっ、始めの突っ込みをかわしたぞ。」尾長ならキロオーバーかも。期待を込めて竿を寝かせたり、沈み瀬に突っ込もうとする敵を何とかしのいだり、この竿1本半くらいで食った魚を何としても釣り上げるべく幾度となく突っ込んでくる相手を何とか浮かせたら途端に力が抜けた。

しししし、白い。はい、はい、イスズミさんでした。タモに納めたイスは40はゆうに超えていた。海にお帰り願ったが、これをきっかけにイスズミくんの猛攻に合う。ueno氏は33センチの尾長を1枚釣ったが、順調にイスを釣り上げていた。私も魚信の少なさから、ueno氏の横に来て釣るが、これもイスばかり。午後になると、イスに混じってクロが見えたが大量のボラも浮いてきた。もしかしてウキ下は、竿2本とかじゃなくて浅いのかも。そう思ったときはすでに遅しであった。散々イスにもてあそばれた後釣りを終えるしかなかった。






串木野港に帰ってきて、みんなの釣果を見ることにした。チームグレックスの上手そうな太目のおっさんが、悲しそうに「竿2本まで深くしたけど、さっぱりやった。全遊動でもだめ。ウキ下を2ヒロにしたらやっとで食ったよ。」やっぱり、我々と同じように目にあってしまったな。

実は、私たちもだめだったんですよ。といいかけた途端、体が凍りついた。そのクーラーは、キロクラスも含め、2桁のクロが満タンだった。何でそれで悲しい顔をするんだよ。我々の心の傷は広がった。その隣で、「だめやった。」嘆く男のクーラーをおそるおそる覗くと、そこには3キロはあるヒラマサが納まっていた。クロも数匹御用となっていた。「今晩は刺身ですね。」誠芳丸の船長が笑った。

そして、船長が我々のほうを向いた。やばい!逃げようかと思ったが正直に釣果を報告。2人でシブ1枚、クロフエ1枚、オナガ1枚、後はイスズミ天国だったことを伝えた。すると、思いがけなく船長が急にまじめな顔で、「えっ、それは本当ですか。」次ぎの瞬間、我々二人を気の毒がる表情で続けた。「昨日までは、上がっていたんですけどね。」良く聞く言葉だ。釣れなかった時、船長と話をするのはつらいことだ。

釣れなかった自分たちも悲しい気持ちになるし、折角A級ポイントに乗せたのに釣ってくれないというのは、瀬渡し業を営む船長にとっても多大な損害になるはずだ。しかし、今後の勉強のためにとウキ下を聞いてがっくり。「あそこは、1ヒロ半から2ヒロできましたよ。」同時に、某釣具店のおやじの言葉が頭を駆け巡った。「ウキ下は、竿2本から1本半。」おいおい、釣れなかったのを人のせいにするのは良くないぞ。ueno氏と徒労感を
背負いながら九州自動車道を北上して帰路についた。


超高級魚 シブダイ

 家に帰って惨敗したことを妻に告げた。しかし、魚を見るなり、「おおでかいじゃない。」とかあちゃん。ほっとする一言だ。次ぎの日、折角の獲物を家族に振舞うことに。三枚下ろしの半身は刺身に。後は塩焼きに。包丁を入れるときから、包丁に脂がべっとりつき、この即料亭行きの魚が相当にうまいことが予想できた。

あの刺身をほとんど食べないかあちゃんが食って一言「うまい。」息子も「かなりうまい。」と指を立ててくれた。釣り人にとってこれほどの喜びはない。家族あっての釣りなんだなあとしみじみ思う瞬間だ。傷ついた釣り師の心を癒してくれるのは、やはり家族だ。その家族愛を確めるためにシブダイの刺身を口に運びながら、またも次回への釣行に夢膨らませるのであった。

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