2/27笑っていいとも!中甑 鹿島

立春を過ぎ、梅の花も咲き、いよいよ春の訪れだ。三寒四温の名のごとく本格的な春を迎えるまではこの時期の気候は大変不安定だ。当然、海況も1年のうちで最も不安定な時期だといえる。春は誰もが待ち望む季節だ。

しかし、憂鬱な春を迎えなければならない人もいる。例えば、地方の行政マンたちである。小泉内閣は、三位一体行財政改革の一貫として地方交付金のカットを打ち出した。そのため、今年度の予算が立たない地方自治体が出てきているのだ。税源移譲はどうしたんだという行政マンの叫びが聞こえてきそうだ。このままでは、首都圏の自治体のみが肥え太り、地方自治体は冬の時代を迎える。

人吉市でも大幅減の中で予算編成を余儀なくされるそうだ。これからは地方の時代といいながら、地方自治体に補助金をつかませて様々な施設を作らせておいて、後は自分たちの財政力に見合った地方自治運営をというのは、余りにも無責任だ。三寒四温の移り変わりのような政府の政策にはもうこりごりだ。はたして、今の政策で我々末端のサラリーマンにも春がやってくるのであろうか。

春といえば、いよいよ春闘の季節を迎える。今年の春闘はサラリーマンのおじさんたちは特に注目しなければならない。中国のおかげで日本は長い不況から一転好景気を迎えているそうだ。IT関連や自動車の輸出の伸びが目立っているそうだ。自動車業界でダントツで1位のトヨタが賃上げをするか否か、これは、我々公務員の給料にも影響するので注目せざるを得ない。労働者に春がやってくるのを願ってやまない。 

そして、ここにも春を待ち望む釣り師がいる。前回の野間池で惨敗をくらって一気に厳寒の思いをさせられた筆者。早く愛しのエメラルドグリーンの瞳を持つ恋人に会いに行かなくちゃ。今度こそはという思いで2週間と少しを過ごした。前回の惨敗の傷を癒すのは、やはり自分と最も相性のいい所、そして今一番釣れている所である。

2月の寒クロも終わり、最も難しい春メジナの時期にそんな所があるのかね、という人もいることだろう。それがあるのだ。釣りナビを見ていると、2月24日付で「鹿島西磯では、クロが絶好調!西崎4番では、えびの市のSさんが40枚の爆釣で釣り頭となった。その他2桁釣果が続々出ており全員が釣果に恵まれた。」この情報を得た私は当然今まででも悪いイメージが全くないこの鹿島に決めた。

実は、釣行予定日はうまい具合に休みが取れたため平日に。ところが、子ども会の会長をしている筆者は、釣行当日の午後6時までにはナイトハイクの仕事のためにもどらなくてはならない。また、釣行前日も組合の4役会に9時ごろまで参加しなければならないため、比較的早い時間帯に出航しなければならない、宇治群島行きの第8恵比寿丸のようなところは間に合わない。黒島や硫黄島などなら午前2時ごろ出航だから大丈夫と思っていたが、不運にも荒磯と黒潮丸の船長はともに「お客さんが集まらなくてね。」と船を出せないとのこと。大事な平日釣行を何とか充実したものにしたいと当初は、離島のオナガねらいと方針を立てていたのだが、渡りグロねらいに切り替えた方がよさそうだ。

2月27日(金)小潮。天気予報は晴れ、降水確率0%、北西のち西北西の風6〜7メートル、波の高さ2、5メートル。鹿島の西磯はあれることが予想されたが、釣りきちの船長が「出ますよ。午前5時出航です。」といったものだから仕方がない。私は、気がつくと午前2時に人吉を出発。九州自動車道から南九州自動車道を経て、午前4時に串木野港に到着。釣り客は全部で10名。これだけ釣れているのにたった10名。さすがに平日だ。もうこれは好釣果はもらったようなもの。イグロークーラー持ってきててよかったとこの時は思っていた。

釣りきちは遊漁船としては大きい部類に入る。だから、荒れ気味の海でも出航できるようだ。10名の釣りキチを乗せた釣りきちはのんびりと午前5時22分に串木野港を離れた。予想通り九州と甑島の水道はがっぱんがっぱん揺れた。白々と夜が明け始めた。船は蘭牟田の瀬戸に入った。船はどうやら西磯に行くようだ。よしっ!いいぞ。

鳥の巣、ダンママを過ぎ、円崎灯台、池屋崎も過ぎた。ここからは私にとっては未知の世界である。どこまで行くのだろう。期待で心臓が破裂しそうだ。最初の渡礁は常連さんで2日前に爆釣した西崎4番に1人、そこから、更に湾の奥へと進んで小さな離れ瀬に2人乗せた。「赤い服の人用意して。」自分のことらしい。向かった磯は切立った断崖のあるいかにも底物瀬というところに降り立った。


   立神から西崎方面を望む

その名は「立神」。「渡りグロが入っているからね。ここもいいよ。」常連さんの1人が声をかけてくれた。「高い段から、向こう側をねらって。」船長はそう言い残して、避難港、千畳方面へと船を走らせていった。前を見ると見事


 立神の裏の切立った断崖
な断崖が顔を見せていた。「立神」の由来が一発でわかる様相だ。

さて早速釣りを始めた。風は正面吹き、白波立ち足もとのサラシは大きく、釣りをする条件としては大変厳しい状態であった。「こりゃ、ちょっとのことでは仕掛けは入らんぞ。」始めは、とりあえず釣研から新しく出たウキ「スクエアG2」を試したが、2Bに変更。しかし、釣れない。ウキしたを2ヒロから竿2本まで2往復したがまったく当たりなし。エサも取られない。3Bに変更したが結果


魚が口を使わない!虚しく漂うだけのグレックスKAMA2B

は同じだ。そういえば、撒き餌しても全く魚が見えなかったもんな。普通釣れなくても、気配くらいはあるはずだが、それもない。どうなってんだ。撒き餌は、オキアミ生2角、アミ1.5キロ、グレパワーV9、パン粉1キロ、アミダッシュグレ、そしてこれでもかと、マルキュウの起爆剤「グレにはこれだ」まで混ぜたのに。えさ取り1匹見えなかった。潮は沖に出ることはなく、立神の裏の壁に当たってくる潮が延々と続いた。

そして、昨年4月の一辺島以来の完全無欠のノーフィッシュに終わった。リベンジどころか返り討ちにあってしまった原因をあれこれと考え、結局自分がへたであると結論付けながら、午後1時回収の15分前に磯の掃除をして回収の船に乗り込んだ。

私の軽いクーラーを持ったほかの客が、「ほら、軽い。」と言うと残りの客が大笑い。おいおい自分たちが釣れたからといってボーズの私をいじめなくてもと思いながら、「どうでしたか。」と尋ねた。「この人だけ小さいの2枚釣って、後はみんなボーズだよ。」えっ!「エサも1回も取られんかったよ。」信じられない。「年末の里(上甑)と同じやん。」と美礁会の2人が吐き捨てるように呟いた。「小さなハナレ瀬でやっと2枚だよ。」船長も一番高いところにいて笑ってる。

私の前に瀬に乗った人を回収してみんなはその人の釣果に注目した。1人の人が尋ねる。「どうやった。」「えさもとられんやったよ。」がはははは。船内に爆笑の渦が。磯釣り師は総じて皆寝不足である。徹夜麻雀をやったことのある人は経験があると思うが、寝不足で夜明け前になるとみんな精神状態がおかしくなり、「ポン、チー」とかちょっとしたことでも笑いが止まらなくなることがある。今は正にそういう状態である。そして、2日前40枚釣ったおじさんがトライした、同じ西崎の4番での釣果にみんなの注目が集まった。「どうやった。」「オール阪神巨人に似ているその小柄なおっさんは「300枚」と叫んだ。船内大爆笑。本当は3枚しか釣れなかったことをみんな容易に予想できていた。
そのおっさんもみんなと同様首をかしげるばかり。「鹿島は去年の10月のマスターズからずっと良かったんやがね。」「2日前も西崎で40枚、千畳で50枚。みんな2桁釣りやったんよ。」「潮が悪かったんかな。」私も「鹿島でこんなの初めてですよ。」といつのまにかみんなの会話に加わっていた。

「おいっ、急に水温が下がったんだよ。」考えられなくはない。出航していない2日間は時化ていたのだから。急激な水温の低下は魚の食いを一気に落としてしまう。そうかもしれないと思った瞬間、船長がよせばいいのに水温を測ってみんなに報告した。「おいっ、17、1度だって、この前より1度もあがっとるやんけ。」逆だった。

この船長の一言に1人の常連客がぶちきれた。「今日釣れんやったのは、船頭が悪い。」「そうだ、そうだ。」船内に暴動が起きるような雰囲気に一瞬なったが、その後はまたまた爆笑の渦が。もうすっかり凪になっていた鹿島を右に見ながら船長はエンジンを全開にしていた。結局、2日前は全部で800枚くらい釣れていた同じ場所で、今日は全部で5枚。10人中8人はボーズとなった。これはもう笑うしかないでしょう。うん、笑っ
ていいとも!


さようなら立神 千畳方面を望
TOP BACK