3/13ああ 憧れの草垣群島

「さくら、さくら、いま さきほこる」子どもたちの歌声が教室に響く。2003年度の学校も別れの季節真っ只中だ。学校というところは、様々な人との出会いと別れを演出し、筋書きのないドラマを職員と子どもたちが演じる夢舞台だ。暇つぶしのために人類が始めた学校は、今はなくてはならない教育現場となった。先進国では、義務教育を定め、国を上げて国民の育成に取り組んでいる。当然日本でも戦後民主教育の萌芽とともにいわゆる6・3・3制が定められ、憲法の中でも教育の理念が第26条で「全て国民はその能力に応じ等しく教育を受ける権利を有する」としっかりと明記された。国民も「義務教育はこれを無償とする」の理想実現のために、高知県のある地域で始まった教科書を無償にする運動を展開した。国家も国民も義務教育に対してその重要性を認め政策、国民運動に具現化していった。

しかし、この義務教育を脅かそうとする男たちがいる。小泉首相と竹中大臣である。彼らは、6月まとめる予定の「第4段骨太方針」の中で、義務教育費国庫負担制度という補助金をなくし、一般財源化するハラらしい。一般財源化されることに当初喜んでいた地方自治体首長たちも交付金が大幅カットされる状況を目の当たりにして、目がさめた。次々に義務教育国庫負担制度を堅持する意思表示を始めた。

「50人、60人学級ができてもいい」とアジっている宮城県知事をはじめとする改革派知事たちを除き、今では地方の県知事たちはこぞって義務教育国庫負担制度を守れと声をあげてくれそうな雰囲気だ。その声を後押しすべく始めた署名活動も順調に浸透している。保護者の夜の家庭訪問では、他の単産から降りてきた同じ署名とつながったことを確認した。家庭訪問では保護者の熱い思いに触れ、エネルギーをもらった。

3月13日、春闘の決起集会で署名の訴えをした。その時朗報が。私の職場のPTA会長が義務教育国庫負担制度の堅持を求める意見書を小泉首相を始め、財務大臣、総務大臣など関係者へ提出してくれるというのだ。今や教育関係者はこの運動にイデオロギーや立場を越えて一致団結しているといってもいいであろう。

日本には、これらのほかに一致団結しているものがある。それは釣りである。全国一千万の釣人があこがれる釣り場、人気実績ともにナンバーワンといえば、誰もが男女群島と言うであろう。筆者もそれは否定しない。しかし、本州の人間には余り馴染みのないであろう磯釣り師憧れの地がある。川辺郡笠沙町の無人島、草垣群島である。黒潮の本流にほど近いこの群島では、海の生物の桃源郷である。枕崎港から高速船で3時間もかかるこの釣場は、時化やすく釣り人を中々寄せ付けない。何回か行こうと計画だけはしていたがいつも予定だけで終わっていた自分の中では憧れ度ナンバーワンの場所である。

今年のシーズンはあまり好釣果が聞かれないが、uenoサンを何とか説得し、3月13日枕崎港から出る武岡フィシングの第8美和丸で行くことにした。「前日の昼に電話ください。」の言葉通り電話すると、「出ますよ。0時出航です。」やった。ついに憧れの草垣群島にいけるぞ。種子島地方の天気予報では、曇りでだんだん天気は回復に向かうのだが、波の予報が2.5メートルだった。絶対に出航は有りえないと思って、第2希望の瀬々野浦、片野浦方面へ行く近海に電話しようとしていたからだ。uenoサンに電話すると、やはり喜んでいた。2人はついにあこがれの草垣群島へと午後8時半人吉を出発した。

午後11時前に枕崎港へ到着。すでに磯釣り師でにぎわっていた。何と貸切のマイクロバスでやってきた輩もいた。さすが、草垣へ行く釣り師のバカ度はすごい。バカの壁はすでにビッグバンを起こしていると思われた。船も瀬渡し船としては見たこともない大きさだ。2隻体制で、一つは日帰り、もう一つは1泊2日だそうだ。

早速我々は荷物を積み、船は午前0時10分枕崎港を離れた。出航後みんなは横になって寝た。しかし、興奮のため中々寝られない。他の釣り人も同じらしく、寝息のたたない異様な空気を感じていた。興奮のボルテージは最高潮に達する。いよいよ現実から非現実の世界へと旅立つのだ。ここで、「風の又三郎」、「つりばしわたれ」、「風の強い日」のファンタジー作品なら、風が吹くところだが。

3時間きっかりたったとき、エンジンの回転が急に緩やかになった。いよいよ渡礁が始まった。「こちら、第8。7番から始めています。」1泊2日釣りの船と連絡を取っている船長の声で状況が少しつかめた。ここ草垣は、一番北から上ノ島、中ノ島、下ノ島、南ノ島などに分かれて群島を形成している。大きな瀬の名前には番号がつけられていて、北から0番、南の14番まで続いている。7番だから丁度真ん中当たりであろうと予想できた。右手に灯台の明かりがぼんやりと見える。東側からの渡礁だ。しかし、潮の流れが速く中々渡礁できない。2度、3度と繰り返し、そのたび


                                    渡礁を開始 第8美和丸

荷物を2つ、3つやっとで乗せるような状態だ。「kamataさん」いよいよ我々の番である。潮の流れが速く、やっとで渡礁完了。早速磯の状況をヘッドライトを当てながら確認した。

これから、オナガとの一騎打ちだ。オナガは潮がゆるく仕掛けが落ち付く所がいいのだが。船付けは潮が川のように流れだめ。その右側のワンドは反転流ができており、やるならここか。「裏でもいいよ」という船長の言葉を確めに行ったが、釣り座は低く取りこみやすそうなのだが、波をかぶる場所らしく岩が濡れていて滑りやすく危険と判断。結局、2人とも船付けの場所で夜釣りを始めることにした。

しかし、潮の速さは半端ではない。一旦引かれ潮に乗ったら大変。あっという間に本流に導かれ流されて電気ウキが視界から消えていく。「こりゃ、釣りにならん。」uenoサンは早々と夜釣りを断念。結局、2人でuenoサンが釣り上げたエサとりのアカマツカサが唯一の夜釣りの釣果となった。昼釣りは船付けのワンドを私が裏


イスズミと格闘するueno氏

の本流釣り場をuenoサンが釣り座を構え朝マズメの釣りを開始。しかし、イスズミ、ソウシハギ、ダツのオンパレードで修了。釣果は、ヒラマサの子とカイワリのみ。

12時10分、回収の船に乗りこんだ。他の客も全くだめ。1枚、と3枚釣ったのが目だった釣果だった。「口太は産休に入ったようです。」船長は屈託ない笑顔で打ちひしがれた釣り人を慰めた。潮の流れが速く、オナガねらいも全滅だったそうだ。みんなが釣れないと妙に安心するぼくた


19,000円のヒラマ


19,000円のカイワリ

ち。「もっと腕を磨いてから、またおいで。」我々が乗った12番を見ながら、草垣はそう言っているように感じた。ほとんどの釣り人が船のデッキに出て草垣群島を眺めていた。みんなの思いは同じだろう。「また来るぞ。草垣君。」我々は気持ちを奮い立たせながら、また、3時間の船旅に。枕崎のお魚センターで晩御飯のおかずを調達し傷を癒しながら、我々釣りバカ2人は、それぞれ19,000円のヒラマサ、カイワリをクーラーに入れて持ち返るのであった。


草垣群島12番を臨む

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