4/4のっこみって何? 天草松島

4月になった。学校は入学式や新学期、会社は入社式、人事異動などの時期だ。新しい門出に胸膨らませる人もいれば、不本意ながら職を追われる人もいる。それぞれの道に幸多かれと願うばかりである。さて、読者のあなたがもし釣りバカなら釣りに行けない時はどうしているだろうか?

私は、そんな時はよく近所の魚屋に足を運ぶことにしている。釣り師は魚を見るだけでうれしくなるものだ。いるいるいろんな魚が。春を告げる魚メバル。根魚のガラカブ。この時期の夜釣りでよく釣れるアジ。そして、色鮮やかな桜鯛と呼ばれるマダイ。釣り師はこれらの魚を見るともう春が来たんだと季節を感じることが出来るのだ。

しかし、どういうわけだか今日は魚があまり並んでいない。「先生!釣りは行っとんなっですか?」行き付けの魚屋さんが声をかけてきた。「いやあ、海が時化てなかなか行かれんとです。最近時化で魚も少なかっでしょう?」「そぎゃんですたい。何も知らん人は魚のいっちょんなかねですもん。時化たら魚がとれんとにですね。」そんなたわいもない会話を楽しみながらいつものように刺身1.5人分を買う。今日は、久しぶりにこのカンパチ(もちろん天然)で一杯やろう。「840円です。」ちょっと高いと感じる人もいるだろう。でも、安くてわけのわからないパックの魚を食わされるよりはよっぽどいい。魚屋で魚を選んで会話を楽しみながら得られる幸せを考えたら840円は安いものだ。

家に帰って刺身が大好物の息子とカンパチのこりこり感を楽しみながらビールを味わっていると「のっこみ」という言葉が頭に浮かぶ。普通の人には馴染みの薄いこの言葉は、釣り師にとっては珠玉の言葉だ。「のっこみ」という言葉が一番似合う魚はチヌである。

チヌは、水温の下がった冬場は深場の岩礁地帯などの越冬場所で静かに時を過ごす。そして、春になると産卵をひかえたチヌは荒食いをするために浅場に「のっこんで」くる。50センチを越えるサイズを釣るのに一番のチャンスがこの「のっこみ」の時期である。釣りナビでは連日チヌの好釣果が聞かれるようになった。4月4日予定通りの時化で予約していた中甑の鹿島行きの誠芳丸がでないことを確認すると、かねてから狙っていた天草の松島の磯へ案内してくれる勢力丸に電話した。

「一番船は4時半です。今日も50センチが出ました。」チヌの顔を見たいのはuenoさんも同じで2人は午前2時に人吉を出発。エサを買い、いよいよ目的地に近づいてきた。4号橋渡りすぐに左はシードーナツ。そこから150メートルいくと勢力丸の旅館「海の都」が見えるはずだが。

私は全く気づかなかったが、uenoさんは初めての場所にもかかわらず一発で見付けた。大きな看板があるわけでもないのにさすがにuenoさんだ。最近老眼が入って仕掛けづくりが大変と嘆いていた人とは思えない。海の都の名前とは程遠いくらい小さな古いこじんまりとした旅館である。狭い駐車場に車を止めて急な階段を重い荷物を運びながら降りて旅館を通りぬけるとすぐそこに海が広がっていた。船が泊めてある桟橋までは遠く、リヤカーつきのバイクで釣り道具などの荷物を運んでくれる。

天気予報通りの弱く冷たい雨がぽつぽつ。残念なことに強い風が吹いている。船頭さんが「どこか行きたい所はありませんか。」誰もいないようだ。我々は初めてなのでもちろんノー。「風裏がいいですかね。」みんなでうなずいた。「風裏とそうでないところはどっちがいいんですか?」とuenoさん。「風裏じゃないところのほうがいいんですけどね。」と船頭さんが当然のコメントを。

一番船と思いきや第1段を渡船させてきた勢力丸が暗闇の中から忽然と現れた。なんとまあ可愛い船だろう。前回は離島行きの第8美和丸に乗っていたせいか、今回お世話になる勢力丸はとても小さく感じた。6人の釣りバカを乗せた勢力丸は強風の中を暗黒の夢舞台へと走った。

4号橋を過ぎたところで船頭さんが「犬は大丈夫な人?」と聞いてきた。何でいきなり犬なの?と思ったが、後でわけを聞いてわかった。今から行くであろう磯には犬が住み着いていて釣り師の弁当などをかすめとってしまうそうだ。吠えたり噛み付いたりはしないそうでそこらへんは犬もいきるために考えているものだなあと感心しているとuenoさんが間髪入れずに呟いた。

「おら、犬は苦手。吠えられたりするとすかんたいなあ。釣りどころじゃなくなるもん。」uenoさんは筋金入りと言えるほど犬がだいの苦手である。釣れれば犬なんて関係ないと思っている筆者とは意見が食い違った。しかし、釣りを楽しむためには自分だけでなく相手も楽しんでいなくてはならないことを知っている私はuenoさんの意見を尊重。一番先にいた2人組みにその磯を譲った。

シードーナツを過ぎた先の湾から今度は逆戻り。右手に4号橋を左手にシードーナツが見える小さな島に私とuenoさんは降ろされた。この磯の名前は「ミアテ島」である。「潮がこっちに動いた時はそこで。橋の方へ動き出したらこっち。タナは竿1本。」さあいよいよのっこみチヌとの勝負が始まる。堆積岩の地層らしく砂が多く、また、チヌが多い証拠に磯には牡蠣がらがいっぱいついている。大潮。満潮が8時ごろか。これから潮が満ちてくるので荷物をとにかく高いところに置き、仕掛け


  ミアテ島から天草4号橋を望む

づくりに入った。オキアミ生4キロにマルキューのチヌパワームギを1袋とビッグワンチヌを1袋を混ぜ海水で硬めに仕上げた。uenoさんは右の水道が気になるらしく、そこを釣り座に。私は左側にかまえた。

朝マズ目は適度な潮が走っていてとてもいい雰囲気だった。ガラカブやメバルの子どもが釣研で最も信頼を寄せている棒ウキBMウキ0.5号を高速で消し込ませ楽しませてくれた。その後は潮が川の流れのように走り始め強風と共に釣りづらい条件がそろってしまった。船頭さんの言ってた「干潮の3時間が勝負」の言葉通り、12時過ぎに潮がゆるくなったわずかな時間に27センチのメイタ(チヌの幼魚、関東では海津という)を何とか釣り上げたが後は釣りにならず、釣れる雰囲気がまったくないまま午後6時に竿を納めた。

uenoさんもメイタ1枚。「のっこみなのにメイタがつれるかあ?」と嘆いていた。港に帰って私たち以外の釣人も惨敗が多かった。40センチを釣ったのが2、3人。最後の5人もみなボーズ。潮が速すぎたもん。ミアテ島でも近くにいい雰囲気の真珠棚があったのだが、今日の潮は真珠棚方面には見向きもしないで反対に流れていた。

あそこにチヌがいるのはわかっているんだけどなあ。わかっていても潮が行かなきゃチヌは撒き餌によってこない。でも今日はショックがすくなかった。惨敗が続いていてもう慣れっこになってしまったこともあるが、渡船代が1500円の格安だったこと。そして、若船頭さんがドリンク剤をサービスしてくれたからもある。帰りのドライブ事故のないようにという心遣いがうれしかった。惨敗したが、ころんでもただでは起きない私は、小さな貝「ビノ」をとってビールのつまみに持って帰った。のっこみチヌねらいの釣 

                         
ミアテ島の釣果

行であったが、のっこんでいるのは魚ではなく我々釣りバカ2人組みだったことに気づき松島の磯を後にした。


やめられないとまらないおいしいビノ

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