5/17逃がした魚は大きかった 門川
あーあ。uenoさんと2人で何回経験したであろう溜息をつく。釣り人憧れの魚の楽園「甑島」への釣行を計画したが、これであえなく3連続で中止である。今年は本当にだめだ。休日の度に天候悪化で時化。たまたま晴れていて出航できてもここ数日間で最悪の状態だったり等。
uenoさんもここ数年来経験したことのないスランプに苦しんでいるようだ。「片野浦がいいですよ。昨日もね、大きいのを釣ってたよ。私もこれから行くところです。」阿久根港から出航する海上タクシー「第一近海」の船長の声が弾んでいる。いいなあ、平日に行ける人は。仕事と趣味が一致しているこの船長は、「早崎のあたりでね、オナガの大きいのが出たよ。夜釣りでもクロがでるよ。日曜日は釣り大会があって早めの回収になるけどよろしく。」とバリトン声でまくし立てる。
5月15日(土)、16日(日)と大型連休で出来なかった2日釣りをuenoさんと計画。二人とも必死の思いで家族を説得し、天気予報に一喜一憂する日々を送った。ところがだ、天気予報はまたもや、、、、。
しかたがない。今話題の韓国ドラマ「冬のソナタ」でも見て過ごすとするか。「冬のソナタ」はテレビドラマをまったくといって良いほど見ない筆者をとりこにしてしまうほどのおそろしいドラマだ。同級生の河添くんが目に涙をためながら「かまちゃん冬ソナはよかばい。」といわれてみたのがきっかけだ。うちのかあちゃんも冬ソナの病気にかかってしまったようで、この前も「おとうさん、ヨン様ににてるよ。髪型かえて。」とわけのわからないことを叫んでいた。職場の女性たちの中にも病気の人がいて、「タオルを横において見らんば。」と意味不明なことを呟く。その人のパソコンの画面を開くとそこにはヨン様がいた。
しかし見てしまったら最後だ。読者の中に30代から40代の人がいたらご用心。あの独特の映像感覚。昔懐かしい純愛路線。儒教思想を基盤として生きるとは何かと問いつづけた人物像。台詞の少なさは映像に表れる様々な伏線を自分なりに意味付けて自分の中に「冬のソナタ」の世界を作り上げることができる。話しの展開のテンポが遅いのもいい。昔の国民の憧れであった「巨人の星」みたいに、1球を投じるために30分の番組の全てを費やしてしまうという展開。今のドラマは展開が早すぎてついていけない。人間の深層を深くえぐった尾崎豊、ガム、オフコースなどの路線に近い単純だが深みのある音楽。
また、俳優も素晴らしい。顔の表情だけで人物の思いとそれをとりまく100も200もある状況を全て表現してしまう。正に自分とは違う人間の人生を生きるという俳優の本来のあり方を筆者に納得するまで見せてくれる。それら全ての要素が有機的につながりあった至高のドラマ。娯楽とはいいがたい芸術の域まで達している。いや限りなく宗教に近い。それが、「冬のソナタ」である。
「先生、とにかく冬ソナのDVDが飛ぶように売れました。」と喜びを持って私に報告してくれたダンデイーな生協理事長の目はやはり潤んでいた。彼も仕事を忘れDVD全20巻を見てしまったそうだ。あと、1巻見れば20巻全てを見てしまうのに、それを我慢できずにDVD全巻を買ってしまった河添氏。なぜに「冬のソナタ」はこうも中年のおじちゃんおばちゃんを病気にしてしまうのだろう。と書きながら筆者の目も潤んでいるのだった。
おいおい、これは釣り日記だぞ。冬ソナばかり見ているわけにはいかない。何とか釣りが出来るところをさがさなくちゃ。「予報でね、雷がなるらしいんですよ。現地の渡船から中止の連絡が入りましたわ。向こう(甑)の天気は半日早いみたい。」と近海の船長の中止の連絡をヒントに天気が半日遅い九州の東側に行くことにした。
門川の渡船「功丸」のホームページで連日メジナの好釣果が報告されていたことにスランプ脱出の命運をかけることに。北浦はきっとA級ポイントには乗れないだろうし、水島はメジナの数より人の人数の方が多いかもしれない。多少時化てきても何とか乗れる沖磯があり、最悪でも良型チヌが出る堤防を持つ門川に決めた。渡船は前回お世話になった清栄丸。初めての客であるにもかかわらず、ハチガササレという超A級ポイントに乗せてくれたことを思い出した。
「出ます。5時に来てください。」5月15日(土)上り中潮初日。天気予報では、夕方まで何とか持つかどうかという天気。午前1時半に人吉を出発。門川には4時半に到着した。船小屋でお茶を飲んでいると、清栄丸のおばちゃんが登場。「天気はどげんでしょうかね。」部屋の中には所狭しと魚拓が並んでいる。平成16年5月5日イシダイの66センチに目を奪われていると、船長眠そうに登場。「ちょっとうねりがはいっちょリますね。さあ行きましょうか。」午前5時半に出航。これから天気が悪くなるとは思えないほど爽やかで気持ちのいい朝だ。
朝日につつまれたビロウ島
船はゆっくりと8人の釣り客を乗せてビロウ島に向けて出発。ここ門川は5隻ある渡船が最初に取る瀬の順番を決めている。清栄丸は4番目で夜釣り客の回収と同時に乗せるようだ。「熊本からの方」と船長の声。我々のことらしい。船は、名礁コタツの横の「タツガハナ」につけた。うねりでばっかんばっかんゆれる中、何とか上礁を済ませ、釣り場の状況を把握することに。でこぼこした石が階段状に並んでいるような瀬ではっきり言って大変釣りづらい。右にこたつのと間にできたワンドに大サラシ、左はタンポシタとのワンドにできた大サラシがあり、釣り座はやはり先端に決めた。
午前3時過ぎが満潮で10時4分が干潮。潮はゆっくりとコタツ方面へと動いている。手前のサラシに撒き餌を入れて釣り始める。いかにも良型のメジナがいそうな雰囲気を持った磯だ。しかし、その雰囲気とは裏腹に海の中はえさ取り天国であった。
どこから来たのか、サバ子とアジ子のオンパレード。こいつらは数が多い上にスピードが速く、仕掛けが着水した音にすばやく反応し、海が黒くなるほどの状態である。更に追い討ちをかけるように干潮が近づくと当て潮となり、沖から潮が入らない状態に。海の色もだんだんと緑色、いわゆる菜っ葉潮に変わっていった。こうなるとえさ取りさえ口を使わない
やばい菜っ葉潮だタツガハナからコタツ方面へ
海も悪くなってきた中で奮闘中の上野氏(タンポシタ方面)
海へと変貌していった。両隣のコタツ、タンポシタの釣り人の竿も全く曲がる気配がない。干潮を過ぎてからの潮の動きに期待したが、変わる気配がなく、右に行ったり左にいったりの繰り返し。おまけに10時過ぎから天候が急に悪くなってきた。昼前にぱらっと雨が来たかと思うと、昼過ぎからは本降りとなってきた。海はだんだんうねりが大きくなり足下はサラシで真っ白。この菜っ葉潮では期待薄。今回もボウズ確実だ。隣のタンポシタのクロ釣り師2名はリタイヤ。コタツの底物師も回収の船に。釣り人は我々2人とタンポシタに1人、コタツに1人となってしまった。
あきらめかけた昼過ぎ、uenoさんが妙な事を始めた。磯竿を持って何やらサラシの中に仕掛けを入れて右に左にと動かしている。uenoさんドリンクが切れたな、と思った瞬間。uenoさんが合わせをいれた。竿が大きく曲がっている。根掛かりかなと思ったが、そいつは横っぱしりを始めた。30秒ほどしてバラシ。悔しがるuenoさん。
実は、uenoさんはクロ釣りに見切りをつけ、えさ取りのサバ子を釣って背掛けにし、サバ子を泳がせてスズキを狙う作戦に切り替えていたのだ。5月のこの時期に海が荒れてサラシが多く出た時にヒラスズキがルアーや生き餌で釣れるということは知ってはいたが、まさか本当に実行するとは。スズキ狙いのし掛けはもってきてないのにそりゃ無理だよと思っていたのだが。
この捨て身のuenoさんの釣りバカ根性に敬意を表していると、再び、「食った!」また、ヒラスズキを食わせたようだ。足下からドッと黒い影が出た。3分間くらいのやり取りでやっとで浮かせた。玉網係の私。何とか浮いた魚を入れようとするが、えら洗いをして必死に抵抗。おまけに大波ですくいづらい。そうこうしているうちにバラシ。
これはいるぞ。私もスズキ狙いに切り替えた。すると、いきなりの強い当たり。すぐにもぐりこまれバラシ。俄然やる気に。また、掛けたぞ。しかし、これもバラシ。どうもハリが小さいためハリ掛かりが浅いのだろう。すっかりスズキ狙いにはまったuenoさんが再び掛けた。今度はいつになく慎重なuenoさん。魚の動きに合わせて瀬上で行ったり来たりしている。
前回のばらした魚も大きかったが、今回のもでかい。魚はタンポシタ方面のサラシの中に逃げこんだ。こちらの方が取りこみやすくしてやったりである。ようやく姿が見えた。でかい。80センチは裕に越えるサイズ。何度も突っ込みを見せる。uenoさんもとっさにドラッグをゆるめたりして応戦。この一対一の攻防は、見ていてとてもスリリングだ。ダイワのハリスタフロンZ2号が何度も魚の突っ込みに絶えてる。もうやり取りを始めて5分は経っているだろう。今度は魚は右に走り、コタツ方面のサラシへと逃げた。とうとう力尽きたのか、スズキが浮いた。uenoさんの勝ち!グロッキーで浮いているスズキ。
ところがだ。魚がでか過ぎて、玉網に中々はいらない。折角入れても波がどっかーんともっていき、中々すくえない。早くすくわないと。そして、やっとのことで玉網にすくった。ななめの体制で魚を上げると玉網が折れてしまう。そこで、獲物が真下にくるようにしてあげようとしたその時大波が獲物を捕らえた玉網を襲った。あっ!と思ったときはすでに遅かった。
玉網はばらばらに崩壊してしまったのだった。絶えに絶えていたタフロンZもついに力尽き、最後のヒラスズキのライズにジエンド。痛恨のバラシ。ごめんuenoさん!取りこんだと思ったのに。でもuenoさんは満足げな顔で「よかばい。魚ば浮かせたけん。」何と寛大なお方だろう。後光がさしている。その後、私も50センチクラスのスズキ(フッコ)掛けて浮かせたが、痛恨のハリはずれ。残念。結局、2人とも魚を釣り上げることはできなかったが、十分
ああ無念のタツガハナ
に楽しめた釣行だった。釣れなかった釣り人の中でボウズの我々は妙にはしゃいでいた。「今度、泳がせ釣りをやってみましょう。」この日は、魚釣りバナで5.3キロの石鯛が上がる。功丸のホームページによれば、高ダン、イカダバエ、魚釣りバナ、コブタン、長ハエでクロが出たそうだ。知幸丸では、中島のボーズで7枚が釣り頭。トモヅナ、養老院、ブリバエなどで600gから1.3kが13枚出ていたとのこと。あまり釣れなかった清栄丸の客の釣果に溜息をつきながら船長はパソコンに向かっていた。そんな中でも我々はとても満足していた。なぜって、泳がせ釣りという新しい釣りの面白さを味わえたからだ。今度は、ちゃんと仕掛けを準備してくるぞ。待ってろよスズキくん!