8/3ああ無念の鹿島

このところ惨敗が続いている磯釣り。師匠であるuenoさんもスランプに陥っている。一昨年は平国のイカダでミロク蟹をエサに50オーバーを連発。一辺島で55センチオーバーのチヌを2枚、昨年は、鹿島の夜釣りでシブダイ、クロフエ多数、60オーバーのコロダイ2枚など私から見れば輝かしい釣果を上げていたuenoさんだが。2004年の開幕戦から北浦でボーズでスタート。それからというもの私と同じく船釣りを除いてはパッとしない結果が続いていた。我々の休日と天候との不連続状態がその主な原因と考えていたが、今回の夜釣り開幕戦は、好天に恵まれている。今回こそは言い訳できない。

台風10号が去った8月3日(火)中潮。決戦の舞台は当然今までも相性のいい場所、中甑の鹿島に決定。翌4日には、退職された体育サークルの先生方をよんで水泳教室のうち合わせ会をする予定だが、そこで我々が釣った魚でご機嫌をとろうという作戦なのだ。

もう後には引けない。何とか釣らなくては。早速、誠芳丸へ電話する。「弁慶がいいですね。シブの型のいいのがあがりましたよ。今回そこに行きましょうかね。」台風の影響であまり実績がないのだが、N村船長の声から期待が持てることを確認した。午後3時に串木野港に到着するために午前11時に人吉を出発。えさなどを購入し、港に到着。奈良ナンバーの車に乗ってきた二人組と合流し、午後3時20分に出航した。

波の予報天草1メートル。何の疑いもなく船長に尋ねた。「弁慶に乗れますかね。」ところが意外な答えが返ってきた。「東側はだめですね。西側は凪なので、西磯に行きましょう。」台風の返り波が残っていたのか、はたまた、南東の風は甑の東側をしけらせてしまったのか、やはり自然というものは人間の思うようにはいかないものだ。

串木野港をでると予想以上に海は荒れていた。予報では場所によっては雷雨もあるらしい。この波と天候の不安定さから船長の判断は正しいと確信した。だんだん甑に近づいていく。さて弁慶はというとやはり波を少々かぶっていた。船は蘭牟田の海峡にさしかかった。すると今度は信じられないような凪が待っていた。西磯のこんな姿を見たのは初めてだ。油を一面に敷き詰めたようなべた凪だ。

本来なら西磯は実績が高く我々はそれを歓迎すべきところなのだが、この時期は夜焚きで赤いか漁やイサキ漁が最盛期。西磯では、夜でも歌舞伎町のネオンのようになる。光はプランクトンを呼び寄せ、それにイカや我々の対象魚であるイサキも集まっていく。シブダイなどの底ものの魚は当然警戒心を呼びおこされる。簡単に言えば、夜焚き船が近くにあると釣れないということである。だから、船長も東磯を勧めるのでしょう。

「由良島に行きましょうかね。イサキが16枚くらい釣れました。その後、もう一回乗せたんですが、1枚でしたがね。」相変わらず誠実な船長である。マイナス材料でもお構いなしに正直に客に話してくれる。円崎を過ぎ、池屋崎を過ぎた。すると懐かしい磯が見えてきた。去年の8月13日に乗ったエガ瀬が見えてきた。私が初めてまともなシブダイを


今回の決戦場 エガ瀬

釣った思い出の場所だ。「なつかしいですね。あそこで去年、シブダイやらイサキやら結構釣れましたよ。」思わず正直な我々釣り人も船長にこう言ってしまった。

船長が動いた。「ちょっと海の中を調べてみましょうかね。」魚探で魚がいるか調べている。「あっ、いますよ。イサキがいます。」私たちにはさっぱりわからないのだが、船長によると水深14,5メートルの地点にイサキの群れが見えるという。「ここでいいですか。」

おれたちゃ、イサキねらいではないんだけどな。でもやはり海で生きるプロの一声は大きい。ここでもシブやタバメがでないわけではないし、まあいいか。我々は、1年ぶりにエガ瀬に上礁した。斜めに傾いた地層が所々削れて階段のようになっている平らな磯。手前に根が張りだして取り込みが難しい瀬。透き通った水がグラデーションのようにだんだん深い蒼色をたたえている。

不思議だね。海だけ見てもその美しさはなかなか見えないが、海とつながっているものと一緒に見ると海の美しさがひきたつ。海が美しいと岩礁がまた美しく思えてくるから不思議だ。おそらく何万年もの長い年月を経てできたものだろう。自然が作ったこんな芸術作品を見ていると大好きな詩人草野心平のある詩を思い出す。


                     草野心平
雨に濡れて。
独り。
石がゐる。
億年を蔵して。
にぶいひかりの。
もやのなかに。

石とは「石ころ」という言葉があるくらいに普段私たちにとって取るに足らないものであり、多くの人はただの石を連想するに違いない。もう6年以上も前の話だが、この詩を6年生に授業したことがあった。「石」と黒板に字を書き、石について思うことを発表してもらった。

「石ころ」などの言葉が出たがあまり考えたことがないという反応だった。そして、「雨に濡れて、、、」と後に続く言葉を黒板に書いていくと子どもたちの表情が変わった。「まるで生きているようだ。」「ずっと生き続けている価値あるものに思えてきた。」と始めの感想とは違った反応を見せるようになった。たしかにただの石なのだが、雨に濡れている形象、にぶいひかりのもやの形象と響きあわせると石が何十億年もの地球の歴史をしょい込んだ価値あるものに思えてくるから不思議だ。

石を自分たちと重ねて考えてみると、自分たちの存在もずっと昔の我々人間の祖先から命を受け継いできた尊いものだということに気づくであろう。そして、その命は今を経て、未来へ続くものであることを。

授業が終わって、ある女の子がこんな感想を書いてくれた。「私はこの勉強でこの世の中に無駄のものはひとつもないということがわかりました。」私はこの子の言葉を決して忘れることができないのだ。12歳に満たない子どもたちがこんな発見をすることができるのだ。やはり、草野心平さんの詩はすごい。その子どもたちも今はもう高校3年生になっている。きっと立派に成長しているに違いない。

磯の上でビールを飲みながら瞑想にふけっていた。磯で飲むビールは最高だ。美しい海の形象と億年を蔵した磯の形象と響きあわせるとアサヒのスーパードライの味はまた格別なものとなる。いかんいかんまた悪い癖が出た。今日は観光にきたのではない。釣りという魚との真剣勝負に来たのだ。

早速仕掛け作りに入った。夕まずめと朝まずめようにまずはライトタックルを。メガドライM2ー1.5号、道糸2.5号、ハリス2.25号。、浮きはグレックス遠投KAMA2Bに潮受けゴムを装着した。夜釣りタックルは、ブレイゾン遠投5号に道糸10号、ハリス8号。ウキは電気ウキ0.8号で水中ウキ0.5号のセットで。ハリはマダイバリ11号で勝負だ。

沖向きの釣り座はuenoさんが、地寄り側の浅場には私が入った。15分ほど撒き餌をしてみた。オヤビッチャ、瑠璃色の小魚は見えるものの本命魚の姿は当然のことく見えない。夏磯はこんなものと早速第1投。えさはとられない。しかし、しばらくするとえさが全く残らない状態になった。

午後6時半を回ったところで上野さんに強い当たりが。懸命にやり取りをするuenoさん。しかし、残念ながらバラシ。イスか尾長だろうか。悔しがるuenoさん。すぐにヘビータックルに変えてトライしていた。程なく私にも当たりが。重いだけであまり引かないな。すぐに外道とわかった。あがってき


最初のお客様 アオブダイ

た魚はアオブダイ。普段ならがっくりだが、今日は違う。美しい海と響き合わせるといとおしく思えてくるから不思議だ。優しく海へお帰り願った。

今日はどうも魚の活性が悪い。去年は夕まずめにシブダイを釣り上げたというのに。だんだんと夜のとばりが降りていくにつれて私の心も不安になっていった。予想通り、二人とも本命を釣り上


夕まずめのエガ瀬

げることができないどころか、えさ取りさえ釣ることができない始末。満潮を迎えuenoさんが大型のイスを釣り上げて地合到来かと思われたところで悪夢がやってきた。

午後9時半頃、いきなり暗くなってきたかと思うと、風が急に強く吹いてきた。やばい!と思ったときにはすでに遅し、いきなり雷鳴が轟き始め、甑の山に落雷が。魚釣りは命をかけてまでやる遊びではありません。我々は磯の壁に張り付いて、雷雨が去っていくのを待った。

午後11時過ぎには雷雲も去り、釣りができるようになった。しかし、魚の活性は最後まであがることなく、カマスを2匹釣り上げたuenoさんと私もオジサンを2匹釣るのが精一杯。絵に描いたような惨敗であった。他の2名のブッコミ釣り師も


エガ瀬の釣果

見事な惨敗でボウス。今日誠芳丸に乗った客はそろってボーズクラブ入会となった。

せっかくイワシのトロ箱で勝負したのに。ガックリ肩を落とすuenoさん。瀬に座り込んでしまった。まるで億年を蔵した石に見えてくるから不思議だ。私はこの釣行で学びました。この世の中に無駄な釣りはひとつもないということを。雨に濡れた二人の釣り師はもうすでに次回の釣行に夢を託しているのだった。


惨敗に独り石になるuenoさん


TOP BACK