11/13 気まグレな恋人に会いたくて 下甑手打

いよいよ本格シーズン到来だ。水温が22度まで下がり、愛しのメジナくんに会える日が刻々と近づいているように思う。釣りナビの釣果情報も九州の北から好釣果が聞かれるようになってきた。大分、宮崎の延岡、天草などではすでに本格シーズン入りした感がある。

南九州でも好調時には2桁という日もあれば、ボーズということもあるようだ。どこも気まグレな天気や潮などの自然条件により釣れたり釣れなかったりする。この時期のクロはそういう気まグレな魚になってしまうようだ。ああ早くあいたいなあ。エメラルドグリーンの瞳を持つ恋人に。

11月に入って、公私ともに忙しくなる時期にも関わらず何とか13日だけは奇跡的に確保できた。行き先は、11月ということもあり、御所浦か水俣の恋路島あたりを考えていたが、1月以来40オーバーのクロを見ていない筆者は、またしても出来心で下甑の片野浦に行く第1近海に電話してしまった。

「いいですよ、前日の昼に電話してください。」久しぶりに聞くバリトン声だ。天気は運良く低気圧が去って12日の金曜日は北西の風が吹きやや波が高いようで船止めらしい。13日には風は北の風から北東に変わる予報だった。2.5メートルの予報だった波も13日には1.5メートルまで落ちるそうだ。今年の3月〜5月までは天気予報に悩まされたが、秋は度重なる台風の上陸にも関わらず運良く釣りに行けている。今回も何とかなりそうだ。

金曜日は県の執行委員会で熊本にいた。午前中の会議が終わり、弁当を食べた後近海の船長の携帯に電話すると意外な答えが返ってきた。「1泊2日釣りの人だけにしたんですよ。ごめんなさい。」他に1日釣りの客がいなかったんだな。しかたがない。同じ阿久根から出るシーエクスプレスさゆりに電話した。「いいですよ。行き先は手打です。3時半に来てください。」ここに電話して断られたことあったっけ。苦笑しながらр切った。

11月13日(土)大潮の最終日。天気予報は晴れ。午前1時15分に自宅を出発。九七トンネルを通り、午前3時前には阿久根港に到着。ところが、びっくり。釣り客は私を含め4人だった。後3人は1泊2日釣りの底物師で、グレねらいは私一人ということになる。一体どういうことだ。この時期にしては少なすぎでは。疑念を抱いたまま船に乗り込んだ。

定刻3時半にさゆりは阿久根港を出発。港を出るといつも確認するのが船の揺れだ。船のゆれ方を感じて磯での状況を予想し、仕掛けをどうしたらいいかを考える。中々楽しいひとときだ。今回は予想以上に波が穏やかだった。釣りができるのはありがたいことだが、べた凪もこまったものなんだが。と考えているうちにいつの間にかねむってっしまったようで、いきなりエンジンの音が緩やかになってきた。

時計を見ると、午前5時半。どうやら手打港についたらしい。さゆりは地元の瀬渡し船久丸の横に付けた。久丸の沖瀬船長はまだ船にはいなかった。まだ時間があるようなので手打港の岸壁に上がった。

漁協らしい建物のあかりが港の海の底を照らしていた。海の底が丸見え。小魚が気持ちよさそうに泳いでいる。小さな波によりできた光の網がゆらゆらと動き幻想的な雰囲気を放っていた。岸壁の上には無数のイカスミの後がある。だれかがここでエギングをしたらしい。

港といえば、ゴミが散乱し、海水はにごって汚いというのが相場だが、ここは違う。別世界だ。釣り師しか味わえない美しい情景を味わっていると、沖瀬船長がやってきた。「6時出航ね。」できるだけ早く出航してほしいんだけどな。それには、訳がある。ここ手打は10月いっぱいで西磯が禁漁期間となり、釣り場が限られてくる。瀬口鼻から中のオサン、沖のオサンあたりが中心になってくる。そのうえ、手打は他の船が早くいい場所を押さえてしまう。串木野港からでるナポレオン隼ははやくて先日の午後10時には出発するし、牛深からやってくるクイーンパートナーもかなり早い。しかし、このさゆりはのんびりした出航。大丈夫かな。ようやく午前6時になりエンジンが動き始めた。

さあ、出航だ。東の空が白み始めた中、3名の底物師と1名の上物師を乗せ、手打港をでた。さあ、船はどっちに行くんだろう。右に行けば有名磯、左に舵を取ればよく知らない東磯。沖堤防に近づくと右へ旋回した。よしっ、第1関門クリア。

しばらくすると朝の薄明かりの中であまり大きくない平らな独立磯が見えてきた。最初の渡礁は底物師からだ。そこは底物のA級ポイントで「花見瀬」という。2人の兄ちゃんが渡礁を済ませた。さあ、次は我々だ。興奮のボルテージは最高潮に。船は、中のオサン瀬方面へと進んだ。

船長がライトを照らしている。あれっ、いない。何と上物、底物ともにA級ポイントである中のオサン瀬に誰もいないのだ。よっしゃあと思ったが、船長の一言でうーんと迷ってしまう。潮が速くて釣りにならないのではということだ。「撒き餌がきかんかもんなあ。」底物師ははやばや中のオサンを諦めて「ヘタオサに」と地よりの磯に渡礁した。

うーん決断できない。秋磯はガンガンの本流よりは地よりの磯の方がいいのかなあなどと考えていると、船は手打湾内へと向かっていた。まあいいか、船長に従おう。船が付けた瀬は瀬口鼻から一つ内側に突き出たところだ。どこかで見たことがあるぞ。もしかして。

明るくなると、乗せられた瀬は去年惨敗を食らった「黒瀬」であることがわかった。前回の黒瀬は、梅雨グロの時期で、潮が走らず緩やかな当たり潮、餌取りの猛攻をかわせず、3時間足らずで中のオサン瀬に瀬替わりしたことを思い出した。黒瀬に乗せられるなら中のオサンに乗ったのに。「ポイントはこの鼻のところな」と言い残して去っていった船長の言葉を信じてがんばるしかない。撒き餌を作り始めた。今


黒瀬の鼻での釣り座

回の釣りでは一つの課題を持って取り組むことにした。それは、釣る前に撒き餌を30分から1時間ほど続けてから釣り始めると数釣れるという定説を検証することだ。本当にそうか自分の目で確かめないと気が済まない私は早速30分間撒き餌を打ち続けた。

鼻の先端に潮がぶつかってサラシができている。そこに間断なく少しずつ撒き餌を入れていった。高い位置から除くが朝一で瀬を通り抜けたボラの群れ以外は魚はまだ見えない。30分ほど撒き餌をして仕掛けを作りながらも撒き餌を切らさないようにしながら、午前7時には第1投。潮は沖に向かって程よい速さで走っている。

鼻の左手前に仕掛けを入れた。竿は1.5号の中通し竿。道糸2号、ハリス1.75号、ウキは全遊動ななめを飛ばしウキに釣研グレハリスウキ00号の2ヒロ固定の2段ウキ。感度重視でいくことに。仕掛けが馴染むと当たりウキがじわじわ沈み始める。さあどうかなと思っていると、いきなりゆらゆらと当たりウキの不規則な沈み方の後、いきなり視界から消えていった。

グンと竿に乗ってきた。あまり強い引きではないがしぶとい。浮いてきた魚はぎらっと光った。あちゃー、イスズミではないか。早速、海へお帰り願った。イスズミだったが、第1投から釣れてくるということは魚の活性がいいのでは。もしかして、これが撒き餌効果かも。第2投は餌がない。海をさらによく見ていると、餌取りがいつのまにかわんさかいるではないか。

これも悲しいかな撒き餌効果なのかも。手前に撒き餌を3杯うち、今度はやや沖側に仕掛けを入れ撒き餌を1杯かぶせた。仕掛けが馴染むと今度は何の前触れもなくいきなり当たりウキが走り、飛ばしウキまで海中に消えた。竿を立てるだけでぐーんと乗ってきた。結構引くなあと浮かせたのは足裏クラスのオナガ君ではないか。

3投目から釣れるなんてラッキー。これまでのパターンでは、朝から釣れるときは大体その日はよく釣れることが多い。がまかつの層グレが喉のやや浅いところにかかっている。何か久しぶりだなあ。なにかなつかしい人にあったような不思議な気分だ。相変わら


第3投目で釣れたオナガくん

ずエメラルドグリーンの瞳は健在だ。優しい目でこちらを見つめているような気がする。こんな瞳最近見たような気がするけどなあ。ああそうだ。1週間前の県教育研究集会でこんな瞳を見たっけ。思い出した。受付の業務をしていたときだった。30代後半と見た女性が私を見るなり突然声をかけてきたのだ。「先輩覚えてますか?」彼女の瞳を見るなり私の記憶のビデオテープが20年一気に巻き戻されたのがわかった。M子だ。反射的に「うん。」と答えた。20年前熊本大学の学生だった頃、私は大学の合唱団の学生指揮をしていた。その時に1年生で合唱団に入部してきたのが彼女だった。

いつも笑顔を絶やさない、そして、宮崎美子、斉藤慶子に勝るとも劣らない美形はすぐに我が合唱団の男性部員の憧れの的になっていた。誰が彼女のハートを射止めるか多くの男が名乗り出ようとしていた。彼女の人気は美形だけではない。笑顔を絶やさない、そして、決して相手の印象を悪くするような言動はみられないところも良かった。話しかけてもいつもうんうんとうなずきながら話を聞いてくれる。誰に対しても態度が変わらないのもいい。

私もいつの間にか他の男性部員と同じ状況になっていった。ところが、秋ぐらいだろうかしばらくするとM子に彼ができたという話が舞い込んできた。「やっぱりね。」でも、諦めきれない私は思いきって、彼女を映画に誘うことにした。世間話をした後、「今度映画に行かない?」とさりげなく誘うと、「はーい」と2つ返事が返ってきた。あまりにもあっさりとO、Kしたので、拍子抜けした。

熊本の新市街の映画館で見た映画は今でも覚えている。「ラ・トラビアータ」椿姫だった。知っているだけの音楽の知識を時折降りまぜ楽しく話しながら、バスで帰り大学周辺の黒髪地区の路地を彼女と歩いた。別れ際に思い切って切り出した。「俺とつきあわない?」いつも2つ返事の彼女はこの時はさすがに黙ってしまった。長い沈黙が続いた。耐えきれなくなった私はつい「彼氏に悪いかもね。」と言ってしまった。

何も言わずに黙っているM子。「じゃあ、さよなら、今日は楽しかったよ。」自分でまいた種なのに最後まで後処理することなく別れた。我ながらずるい。彼女も丁寧にお辞儀した。少し気まずい心のまま次の日を迎えたが、練習にはいつもと変わらない彼女がいた。

その後、彼女は中学校教師に採用され、私と同じく組合に加入したことを風の便りに聞いた。彼女が就職して2,3年たった頃だろうか、突然彼女から電話がかかってきたのだ。「私組合をやめようと思ってるんです。」かなり悩んでいたらしい。彼女の話によると組合は何もしてくれないとのこと。組合の良さは自分で行動して発見するものだというアドバイスをしておいた。意識の高い家庭科教師らしい悩みだった。

そうだ、これでいいんだ。私は彼女にとって良き先輩でいようと思うのだった。ほんとになつかしいなあ18年ぶりに彼女にあったことになる。「先輩の書いた文章見ました。」組合の機関誌に嫌々ながら書いた原稿を読んだというのだ。「今どこにいるの?」「熊本です」簡単な会話の後私は業務があるので別れた。

彼女の笑顔は20年前と変わらなかった。彼女が去った後すぐに熊本支部で名簿を調べた。姓が変わっていた。幸せな家庭を築いているようだ。ほっとした。でも、一つ彼女に聞きたいことがある。それは、「付き合ってくれ」と言ったとき、もう少し押したらうんといってくれたのかなあ。どんなんだろう。おいっ、どうなんだよっ。と気づいたら釣った尾長グレに話しかけていた。おっと、いかんいかん。いつもの悪い癖が出た。観光に来たのではないぞ。グレとの真剣勝負に来たんだった。ハリを結び直して、第4投。しかし、このころから餌取りの動きが活発になり、イスズミやオヤビッチャの大活躍が始まった。餌取りを手前に寄せて、沖を釣るという秋磯


餌取りの代表選手オヤビッチャ

の攻め方のセオリーをやってみるが、本命より餌取りの方が一枚上だ。7時半頃、2枚目の足裏サイズのオナガが釣れた後は、餌取りのライズが始まっていた。遠投していたポイントも餌取りの猛攻でつぶれてしまった。

仕方がないので鼻の左側で竿を出した。すると、そこにもすでに餌取りの猛攻が始まっていて手遅れだった。潮が満ちてきて満潮近くになった。サラシが強くなってきたので、仕掛けの馴染みが悪くなってきた。ウキを3Bに変え、Bのガン玉を噛みつけ、ハリスにG6を段うちにした。

すると、もぞもぞとした前当たりの後ゆっくりしもり始めた。ウキが見えなくなるまで慎重に待ってゆっくり竿に乗せる感じで合わせるとギューンと乗ってきた。今までにない重量感。数度の締め込みのあと浮いてきたのは700グラムほどの口太メジナだった。大事に玉網入れし、クーラーに入れた。えさとりは多いが何とかポツポツ釣れているから、このまま粘れば数釣れるかもしれないし、キロクラス


やっとであえたね口太メジナ

のクロにも出会うかも。手前はだめだ。遠投しかない。撒き餌を少しやめてみるが、やはり結果は同じ。

また、鼻の右側で釣っていると鋭いウキの消し込み。魚は勢いよく手前に突っ込んできた。クロだな。しかも良いサイズ。しかし、手前の根にハリスを飛ばされジ・エンド。潮が満ちていたので手前に出られないのだ。せっかく良い当たりだったのに。

9時頃に鼻の右側と左側で1枚ずつオナガの足裏サイズを上げると今度は完全に潮が止まってしまった。満潮を過ぎ、下げに入って潮が走るはずなんだけど。それどころか、潮は手前に当たってくる。右側でも左側でも手前に来た。どう考えても、沖に遠投しなければ釣れない状況の中、この潮は最悪だ。前回の惨敗の再現フィルムのようになってきた。瀬替わりを待ち続けるも久丸はやってこない。

トリプルセンサー5Bで餌取りの層を一気に突破しようと試みたが下の層にも餌取りがいた。そうこうしているうちに回収の1時間前の12時になっていた。もう最後の手段、ウキを遠矢グレZF中00号を出した。これはいい。餌取りが餌をとる瞬間までウキが教えてくれる。だから、餌がない状態でずっと仕掛けを入れておくことがなく、効率が良い。

そして、回収30分前、遠矢グレが勢いよく海中から消えた。よっしゃ、と合わせるとギューンと乗ってきた。クロに間違いない。7,800クラスか、とやり取りを始めようとするもいきなりのバラシ。信じられないが、ハリのちもとのハリスが痛んでいたのに気がつかなかった。チェックを怠っていたのだ。ガックリ、今回の釣りはこれで終了と竿を納めた。小さいのばかり5枚というやや心残りの釣りとなった。1時きっかりに回収に来た久丸。1泊2日釣りの底物師に瀬替わりを呼びか


さようなら黒瀬

ていたところを見ると石鯛もあまり芳しくなかったみたい。でも、手打での楽しい釣りができて良かった。もしも、中のオサン瀬にのっていたら。どういう結果になっていたかなあ。

船長に聞きたいことがある。渡礁の時、中のオサンに乗せてくれと強く押したら乗せてくれただろうか。なんて、相変わらず釣れなかったことを人のせいにしようとする私だった。いかんいかん、やはり良き釣り人でいよう。絶好の釣り日和で釣りができたことを手打の自然を満喫できたことに感謝しよう。

さゆりが待つ手打港に入り、さゆりに乗り換えた。1日釣りは私1人なので、この大きな船は貸し切りである。1人の客しかいないのに阿久根まで帰ってくれることに感謝しながら眠りについた。寝ながら見た夢は寒クロシーズンまっただ中で釣りをしている自分だった。だんだん、クロ釣りの感触を取り戻しながら、きっとまた会いに行くよ。気まグレなエメラルドグリーンの瞳を持つ恋人に。


美しい秋の手打港 さあ帰っぞ

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