12/29 佐多DAY 釣り納め 佐多

2004年最後の大潮の日、私は陸の上にいた。教育会館の大掃除と餅つきの陣頭指揮をとっていた。子どもは元気で庭駆け回り、おじさんは掃除と餅つきでくたくただ。途中、臼が割れるというアクシデントがあり、昼過ぎまでかかってしまった。これが何かの前触れでなければいいけど。

さて、昼になったとき満を持して甑島の中で最も好調と思われる瀬々野浦へと誘(いざな)ってくれる永福丸に電話した。「明日は出ますけど、明後日はわからないね。1日釣りでどうですか。」しぶしぶ承知するしかない。臼が割れた後、キャッシュで新しい臼を買ってきたというuenoさんの表情がにわかに険しくなった。

弱い気圧の谷が明日の午後から九州を通過。東シナ海には原因不明のうねりがある。おまけに低気圧が去った後、強い北西の風が吹くという。北西の風に最も弱い瀬々野浦。予断を許さない海況のようだ。せっかく二人とも家族を説得しての1泊2日釣りなのに。

北西風を避けられる釣り場で2日釣りができるところはないだろうか。いろいろ考えたあげく初めてで不安も大きいが、大隅半島の佐多で2日釣りという結論に達した。瀬々野浦も大変捨てがたいが、たまには冒険も必要と決断した。

12月29日下り中潮初日。午前1時50分に人吉を出発。午前5時に佐多大泊港に到着。恵比寿堂釣具店で予約していたエサを受け取り、漁協の自動販売機で充分すぎるほどの氷を買い、今回お世話になるりさ丸がいる田尻港へ向かった。海中展望船「さたでー号」の隣の岸壁にはすでに釣り人であふれかえっている。ざっと80人はいただろう。

ここは5ハイの遊漁船があり、のんびりとした7時出航である。やはり、ここも野間池と同じように釣り場を競って奪い合うのではなく、あらかじめ入る瀬を決めておいて安全第一で渡礁を行うようだ。宮崎の北浦も磯場のじゃんけんでのる瀬を決めたりしている。

これがあるべき姿ではないだろうか。自分さえよければいいという考えでは自然と向き合う我々釣り師には馴染まない。自分さえよければいいという競争原理は釣りの世界では排除しなければならないのだ。みんなでマナーを守って楽しく遊ぶのが釣りなんだとつくづく思う。

「教育の世界に競争が必要だ。」某テレビ局のコメンテーターが叫んでいる。ゆとり教育で日本の子どもたちの学力が落ちた文部行政に学校現場に批判の矛先が向けられているらしい。「運動会で順位を決めない。みんなでゴールするといった競争を排除した学校現場を放置してきた文部行政に責任がある。」

教育に関して関心を持ってもらうのは現場にいる我々にとってとてもありがたいことだが、ピントがずれているのも困ったものだ。どこに、運動会で順位を決めないような学校があったのだろう。少なくとも自分が知っている範囲では(日教組全国教育研究集会、民間教育団体研修会等)聞いたことがない。

現実にあったとしてもこれはごくまれなケースである。1つの事例を十把一絡げにしてあたかもそれが問題の本質であるかのようにアジテーションするのはいかがなものか。報道に携わる方々は真実にもとづいてコメントしてもらいたいものだ。

学校には、そのコメンテーターが期待する自分さえよければいいという競争原理はないかもしれないが、その代わりに共創原理を理想としている。お互いに競い合うなかで高めあう関係を共に創る(共創)ものである。

高めあうことでその所属している集団全体が高まるのである。スポーツの世界で説明するとわかりやすい。ボクシングであれほどの殴り合いをした後でも試合が終われば抱き合いお互いの健闘をたたえ合う。勝負は決したが、その試合を勝者も敗者も共に創ったといえるのではないか。アメリカのメジャーリーグのように、自分の球団さえよければいいというのではなく、野球界全体が発展するような施策が日本でもあっていのではないか。

ゆとり教育は単に授業時間を削減したのではなく、知識偏重から自ら学び自ら判断するといった学力観の転換であり、以前の規準でテストをすれば前回のと値が落ちるのは当たり前なのだ。教育現場があまりにも知られていないがためにこんな誤解を生む。これからも更に開かれた学校づくりが必要だと思った。そういう点からして釣りの世界も「共創」原理があるべき姿として浮かび上がってくる。
私とuenoさんは釣りの師弟関係でもあるが「共創」によって結ばれているのでは。

そうこうしているうちにりさ丸が3番目に登場。人の流れが変わった。23人は乗っただろう。船の中は荷物で足の踏み場もない。午前7時予定通り出航。思ったより波もない。西磯に行くかな。船はまず港の右前方に位置するビロウ島に着けた。ウノクソという北西風を避けられる中ではA級ポイントへ。更に西ヘ進み佐多岬灯台のある大輪島の裏瀬尻へ2人。

我々はぎりぎりで予約したから最後だろうとリラックス。さあ、西磯に行くか。と期待したが、船は舵を180度変え、東磯へと向かった。今日の天気では仕方がない。東磯は大隅半島の広大な地磯が果てしなく続いている。ごつごつとした岩肌と足下の果てしないサラシは何かを期待させるには充分なステューエーションだ。

次々と釣り人を下ろし、残り3人となった。「uenoん。」船長がuenoさんを呼んだ。何やら長く話している。話の内容はこうだった。今から乗せようとする場所は東磯のこの辺の中では1番良い場所だそうで、必ずクロが釣れるところだそうだ。ところが、ここは時化ると高波の危険があり、船で迎えに来れなくなるかもしれないそうだ。船での緊急撤収が不可能となると、裏の崖をロッククライミングしながら3時間かけて港へ歩いて帰らなければならないらしい。だから、道具はできるだけ少なくしてとのこと。

さあ、今まさに自ら考え自ら判断する学力が我々に問われているのだ。「早く決めない。」船長からせかせられようやくこの瀬にのることを決意。クーラーは船に置いていくことにした。慎重に渡礁を済ませ、磯の状況の把握に


船長も太鼓判 東磯実力ナンバー1 荒崎

かかった。8時すぎが満潮になるためか足下はサラシで覆われている。船を着けたところが深くなっており両サイドには浅い根がある。まるですり鉢状のようなところだ。なぜ、こんなにわかるかというと今回からグラスモードの偏光グラスを使っているからだ。海面のギラツキを押さえてくれ、今まで使っていたサングラスとは桁違いの使い良さだ。

さあ、エサを撒くぞ。しかし、魚1匹見えない。寒クロ釣りではよくあること。気にせずに釣り始めた。仕掛けは、強風を意識して、竿は1.5号の中通し竿。道糸2号、ハリス2号。ハリはひねくれぐれ5号から。タナは2ヒロから始めた。潮は左にある水道から程よい速さで走っている。そして、右の浅い根に当たって潮のよれが発生している。クロが食うならあそこか瀬際だな。と方針も決まり竿を振った。

3投目にやっとでエサをとられた。魚はいるようだ。安心して第4投を流していると、早くもグレックスのKAMAスリム3Bがするどく消し込まれていった。ぐんと竿に乗った。あまり大きくない。浮いた魚はがっくりのイスズミ足裏サイズ。「おらエサもとられん。」とuenoさん。

8時を過ぎたが当たりがない。根がたくさんあるせいか、仕掛けが落ち着かないようだ。ウキを4Bに変えていると、「来た。」とuenoさんの声。見ると瀬際で食わせた魚とやり取りの真っ最中。浮いてきた魚はクロだ。玉網に収まったのは35センチの口太。してやったりのuenoさん。タナは2ヒロだ。今日のこの状況なら深いタナではないと思っていたがやはりそうだった。地合かも。

仕掛けを変えた私はすかさず釣り始めた。瀬際を攻めているとウキがゆっくりと消し込まれていった。合わせるとずんとした重量感が竿に来た。よしっとやり取りを始めるといきなりのバラシ。うそっ、何で?ハリはずれであった。たぶんクロでろう。再び攻めるとまたウキが消し込んだ。上がってきたのは、手のひらのコッパグレ。海へお帰り願い。再びトライ。しかし、その魚を最後に二人とも魚をかけること


遊んでくれたハコフグ

ができなくなってしまった。単発的に、私にハコフグ。uenoさんにブダイが遊びに来てくれたものの、納竿午後4時までバラシが1回という結果で釣りを終えた。

今日は魚の機嫌が悪かったかなあ。本日の状況はあまり良くないようだ。7枚釣ったのが竿頭。釣れても大体1,2枚くらいだったようだ。田尻港に戻ってみるが、他の釣り人もあま


釣り人の活性が低い 佐多田尻港

り元気がないようだ。明日は、K氏やT氏と一緒に鍋を囲むことになっていて食材を提供しなければならない。1日目は絵に描いたようなボーズ。このままでは帰れない。

悲壮な決意でりさ丸が経営している民宿「なぎさ」


お世話になった民宿「なぎさ」

で今日の疲れを癒した。一番釣れるところに乗せてもらったのに2人で1枚という結果を申し訳なく船長に報告した。船長によると今日は風が強くあまり良い釣果は出ていないとのことだった。明日出ることを確認して、船長の手料理に舌鼓を打った。ものすごい風が吹いている。明日は必ず結果を出すぞと午後7時半には床についた。


2日目の東磯 大瀬

あっという間に朝が来た。午前6時半に田尻港につくと、やはり80人近い釣り人でにぎわっていた。今日の波の予想は1.5メートル。もしかして西磯に行けるかも。21名の釣り人の期待を乗せてりさ丸は田尻港を離れた。

しかし、沖に出ると昨日はなかったうねりがあった。程なく船は左へ舵を取った。今日は西磯には行かないのかな。東磯から乗せ始めた。3番目くらいに「uenoさん」と声がかかった。我々が乗せられたところは、大瀬という場所で、左右に張り出し根があり、釣り座はワンドになっている。潮は左斜めから右手前へ当ててきている。

おそらく瀬際にいる魚を釣る所なんだと判断。早速、撒き餌を開始し釣りがスタート。しかし、魚の気配がまったくない。そして、魚からの反応もないまま納竿の午後1時となった。

予想もしない2日釣りでの連続ボーズ。自然は、私のおごりをいさめてくれたようだ。もっと腕を磨いてからおいでと。我々は2日間の釣りをサポートしてくれたりさ丸の船長に挨拶をして佐多を後にした。帰りの車の中でははやくも2005年初釣りを硫黄島でと決めたのだった。


首と磯に挟まれたuenoさん


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