1/5 メジナは潮で喰う 下甑手打

2004年は、京都清水寺の「災」のように地震や津波など不幸な事件が相次いだ。難しいことについて俺の判断を仰ぎにくるなという首相がいる。児童誘拐を携帯電話を使いながらゲーム感覚で実行する人間がいる。出生率は過去最低に。アルカイダのテロへの不安。拉致問題について虚偽の報告を平気で行う隣国がある。これらの出来事を目の当たりにし、先行き不透明な世の中にいることさえもう慣れっこになっている自分。これから次の世代の者が希望と夢を持って生きることのできる世の中をつくることが大人である自分に課せられた責任だ。教員という仕事の意味を今年も改めて考えていきたい2005年にしたいものだ。そんな先行き不透明な世の中でも外に出て自然の中で渇いた心と体を潤したいと願う自分がいる。水辺に住む生き物と握手したい、魚をこの手でつかんで彼らの生命の鼓動を聴いてみたい。そして、どんな生き物にも等しく命があることを実感したい。そんな思いに駆られ上野さんと1年間の無病息災を祈念するために初釣りを行うことにした。

ねらいは当然昨年の釣り納めでの惨敗で即決した硫黄島。日時は、1月4日、5日。小潮、長潮と潮回りは最悪だが、行ける時にしか行けないというサラリーマン釣り師である我々に選択の余地はない。今年の寒クロシーズンは台風の時化続きに高水温も手伝ってかなり遅れている模様。携帯サイトを覗いていると、「宮崎のクロは冬眠しているっす」や、「ボーズ覚悟で予約してください。」という甑の某遊漁船の船長の言葉が立ち上がってくる。遅れているのではなく、メジナのはずれ年ではという疑念を抱かざるを得ないのだ。さあ問題はいつものように天候だ。

12月31日からこの冬一番の寒気が入り、平野でも雪が降る天候となった。正月は当然時化だが2日は何とか船は出た模様。黒潮丸の釣果速報を見て期待は最高潮に高まった。「1月2日からの夜釣りで、えびの市のSさん2名は2〜3kgの尾長グロを2人で10匹。一時は入れ食いとなり、年初めから好釣果!絶好調だった日中の地グロは、潮回りが小さいためか、やや釣りムラが出ている。それでも場所、釣り方によってはキロ級交ざりで2桁釣りも見られているなど釣況も回復傾向だ。」3日の昼に黒潮丸の船長に電話を入れた。「風が強くて時化てきているんですよ。4日は無理ですね。9日からの2日釣りでどうですかね。」4日は低気圧の影響で日本列島全体で天気がぐずつくようだ。翌5日は低気圧通過後おきまりの北西風の時化だ。uenoさんと相談して、5日の1日釣りに切り替えることにした。始めは「近場にしょい。」と言っていたuenoさんだが、あれこれ話しているうちに「やっぱ甑に行こうか。行けるときに行っとかんと、またいつ行かれるかわからんもん。」ここでやっと意見の一致を見た。

さて、どこに行けるかな。まず、永福丸に電話。「時化ですう。フェリーも欠航してます。」空を見上げると雲が思いの外速く動いている。甑は無理かな。片野浦に行く海上タクシー近海に電話するも「今甑にいるんですわ。」と断られた。手打に行くシーエクスプレスさゆりも「今日はだめ、時化ですよ。」やばい、ここは、最後のカード最強の瀬渡し船蝶栄丸に連絡だ。「7時の天気予報で判断します。」だった。uenoさんと甑がだめなら野間池に行こうかと相談していると、何か一つ連絡し忘れているところを思い出した。串木野港から手打へと渡してくれるFナポレオン隼にだめもとで連絡してみるか。すると意外な答えが返ってきた。「7時に電話してください。」初めのうちは2.5メートルの波だが、後1.5メートルに落ちる予報に賭けるしかない。7時に電話すると「6時出航です。」隼は通常甑の中で最も早い午後10時〜11時に出航するのだが、午前6時出航とは驚きだ。船長の粋な計らいにうれしくなり予定より1時間以上も早く港に着いてしまった。

ナポレオン隼の正面に車を止めると、隣には中甑へ行くハーバーワンが出船準備を始めていた。5時45分に船長登場。「ぼちぼち食い始めたんだよ。」と常連さんと話している。これまで手打は本来の実力が出ていないが、この船長の言葉から今回は期待が持てそうだ。午前6時7分に北風の中、ナポレオン隼は港を離れた。やはり予想通りがっぱんがっぱん揺れている。1時間ほどしてエンジン音が緩やかになった。どうしたんだろう。夜明けの甑列島が見えてきたところでまだ手打には着いていないようだが。どうやら、港を出るときにスクリューにロープが絡まっていたらしく、常連客の1人が必死でロープを取っている。2.5メートルの波に揺られながら再びスタートする間、「おら、船酔いしたばい。」と正月以来胃の不調を訴えているuenoさんが溜息混じりにつぶやいた。ようやく再出発する頃にはすっかり朝を迎えていた。

午前8時過ぎに手打東海岸に着き、エンジン音が緩やかになった。右手に長目の浜が見える近くの瀬にキザクラのフィールドテスターの方が乗られた。風はまともに東から吹き付け、足下はサラシで真っ白。こんなんで釣りできるんかいなと思うような場所だった。船が西に向きを変えた途中で釣り人がちらほら見える。地元の渡船久丸が動いているようだ。しばらく走ると右手に手打港が見えてきた。どこに乗せてもらえるのかな。いつものように期待で胸がいっぱいになってきた。「kamataさん、準備して。2人でいいんだよね。」船長が笑顔で渡礁準備を促してくれた。船は超A級の中のオサン瀬方面へと進んでいる。ところがやはり先客がいるようだ。船は今度はやや左に舵をとった。中のオサン瀬の先に小さく見える沖のオサン瀬に乗せてくれるようだ。一度は乗ってみたかったところだったので船長にただ感謝である。荷物を運ぶのを手伝ってくれた常連さんが「船着けの反対のワンドと先端のワレがポイントです。」と教えてくれた。「3時回収な。」という言葉を残して隼は荒波の中を去っていった。瀬上げが遅れたので通常1時か2時回収のところを延長してくれるという。やったね。船長ありがとう。


沖のオサン瀬ワレで奮闘中のuenoさん

無事渡礁を済ませ、磯全体の把握から始めた。南北に細長く低い瀬でワレは風を背中に受けることができ釣りやすそうだ。反対方向になるワンドのポイントは風をまともに受け、釣り座は波に洗われるという釣りづらい条件。すぐに上野さんは「おらあっちですっばい。」とフォローの風で釣りやすそうなワレのポイントに入った。しかたなく私は、正面吹きのワンドのポイントにバッカンを置いた。ワンドは磯が低く波を被るためとても釣りができる状況ではない。そこでワンドから10メートル右のやや高いところから釣ることした。磯全体が駆け上がりになっていて、手前には張り出し根が微妙な感じで出ている。たとえ魚を掛けたとしてもどう取り込んだらいいのかわからない。魚を掛けたら手前に来て勝負したいのだが波をよけながらの取り込みになりそうだ。

竿は強風でもトラブルの少ないメガドライM2/1.5号ー53。2500のLBに道糸はダイヤフィッシング誘い2.5号。白なのに劣化しない糸で強度も中々のもの。巻き癖が着きにくく、ラインが見えやすいのでお気に入りの一つだ。ハリスは最強のサンラインパワーストリーム2号、ハリは4号で競技ヴィトム、短グレ、層グレ、ひねくれグレなどを使った。ウキは始めは釣研全遊動EX・D00号で沈め釣りをと考えていたが、このがちゃがちゃした海の状況では全遊動は難しいとグレックス遠投KAMA3Bの半遊動に切り替えた。

午前8時40分、タナは2ヒロからまず瀬際からチェック。長潮という一番動かない潮周りにも関わらず、仕掛けは瀬に対して右に平行にごいごい流れていた。あっという間に仕掛けが持って行かれる。おまけに正面吹きの強風で道糸は大きな弧を描き手前の瀬にひっかかりそうな気配。瀬際はだめと遠投しようとするが、アゲンストの風は仕掛けを押し返し、思うところに入れられない。撒き餌をすると冬の甑によく見られるイワシのようなキビナゴのような小魚が群れているのが確認できた。魚の姿さえ確認できなかった前回の佐多での惨敗よりは良い状況のようだ。エサもとられるようになった。

しかし、この風何とかしてくれよ。時折やってくるビッグウエイブをかわしながらの釣りは中々楽しいがちょっとつらい。仕掛けが強風と波で入らないので、BBのガン次郎を他に、ハリスの上にG1、ハリ上30cmにG6、それでも仕掛けが入らないのでハリスの真ん中にもG4を噛みつけた。これでやっとで仕掛けの馴染みが良くなっていた。潮は強風も後押ししてか相変わらず右に流れていき勝負にならない時間帯が続いた。



ワンドの釣り座 強烈な風と波で苦戦

「ばらしたあ。」とワレからuenoさんのこんな声が聞こえてきた。あっちは当たりがあるようだ。いいなあ。そうしているうちに午前9時半に何となく殺気だった雰囲気を感じ後ろを振り返るとuenoさんが魚とのやり取りをしているではないか。玉網を入れている。「クロばい、クロ。」uenoさん歓喜の表情。良かったねuenoさん。「1ヒロ半ばい。」即座に情報をいただいた。やはり、ワレのほうが良いようだ。しばらく釣り続けるも風と波は益々強くなるばかり。こりゃ釣りにならんとuenoさんの釣り座で竿を出すことにした。潮が磯の先端に向けて走っており、良い雰囲気。竿1本先に群れているウスバハギはさほど気にはならなかった。30分ほどしてウキを沈めていると竿引きで当たりが来た。しかし、痛恨のハリはずれ。そのバラシを最後に魚からの反応は途絶えた。

11時半になり、満潮近くになってきた。2人では狭すぎるこの釣り座に見切りを付け、さっきのワンドの釣り座にもどって玉砕することにした。潮位が上がってきたので釣り座を更に上の方にした。仕切り直しの第1投。風が一瞬弱くなる時を待って仕掛けを竿1本先に投入。撒き餌をこれも風を見計らってウキの手前に2杯、足下に1杯かぶせる。おやっ、潮の向きが変わっている。留守をしている間に潮が沖に向かって緩やかに動いていた。フカセからまん棒の動きも良い感じ。何かが変わるかもと思った途端、海面下50センチほどを漂っていたウキが海中に消えた。同時に道糸が走り竿引きの当たりとなった。手応えは中々のサイズ。しかし竿を叩き始めた。でたあ、イスかあ。がっかりしながらやり取りを続けると、真っ白なサラシの中から灰青色した魚が跳ねているのが見えた。やった、クロだ。大波がくるのでやや遠い地点からの玉入れで難しかったが、何とかキャッチ。玉網を引き寄せる動作が我ながらぎこちない。だって久しぶりだったんだもん。やはり1ヒロ半だった。やはり潮だね。潮が変わったら一発で喰ってきた。釣り雑誌などで「メジナは潮で喰う」とあったが、ほんとにその通りだ。



2005年の初メジナ

見えたときは足裏サイズくらいに見えたが、結構良型だ。36cm、850gのぽっちゃり型のクロだった。前回惨敗を食らっているせいか魚を小さめに見る傾向がある。しかし、ボーズを脱しほっと胸をなで下ろした。さっきはあれほど苦労したのに釣れるときは第1投でも釣れるんだね。やっぱり君はきまグレだね。やっと逢えたね。いったいどこにいたんだよ。久しぶりのグレちゃんにつもる話しもあるのだが、時合いを逃してなるものか。更なる獲物を目指して竿を振った。ハリを飲み込んでいたのでタナを20cm浅くした。さっきとほぼ同じ地点に流しているとやはり同じようなウキの消し込みが。慎重なやり取りのあと浮いた魚はやはりクロだ。まるまると太った40cm、1.1kgの恋人をやさしくクーラーに入れた。ハリがクチビルぎりぎりに皮一枚にかかっていた。クロはいるクロはいるぞ。魚の気配を感じながら集中して仕掛けの投入を繰り返した。ところが食いはするもののハリ掛かりが浅いのかはずれてばかりだった。4発連続でハリはずれのあとハリをひねくれグレに変えた。するとまたまた当たり。やり取りをしながら浮かせるとでたあ、イス!手前にはイスズミがいるようだ。

私のやり取りを見ていたuenoさんがやってきた。「釣れたんな。」指を2本立てて、「2枚」というと、uenoさんはこちらにやってきた。私の右隣の高いところにバッカンを置いた。ところがそこに大波が挨拶代わりに上野さんを襲った。uenoさんびしょびしょに。波と風の洗礼を受けしばらくするとまた元の釣り座にかえっていった。uenoさんが帰って再びクロを掛けて取り込んだ。今度も良型で、39cmの1.06kg。これで3枚目。我が家の食材としてはこれで十分。12時をまわり、食いが悪くなってきたので、磯を休ませることにした。昼食タイムのあと、再び釣り始めた。満潮を迎えて潮が止まっていた。上潮の動きはまずまずだが、カラマン棒の動きから底潮はまったく動いていないようだ。予想通り餌取りにエサが持たない状態になった。その時間帯に釣れたのは唯一イチノジのみであった。午後も2時半を過ぎ、潮が少しずつ動き出した。

風波ともに弱まっていき午前中とは違って釣りやすくなってきた。G4のガン玉をはずした。グレが釣れたときと同じ潮だ。さしエサが残りだした。これはチャンス。すると、本当に予言通りウキがもぞもぞとした前当たりの後ゆっくりとしもっていった。道糸を少し送り込んでから、少しずつ糸を張り気味にしながら合わせるとぐーんと竿にのってきた。この手応えは間違いなくクロだ。浮いてきたのは、ちょっと小振りの35cmのクロだった。これで4枚。タナは1ヒロと少し。やっぱりメジナは潮で喰うね。さあ、これからだというところだが、どうしても当たりが拾えない。魚がエサをくわえているのはわかるのだが、合わせきれないのだ。魚を掛けてもどうしてもハリはずれとなってしまう。これは釣り人の技術の問題なので私のこれからの課題にしなければならない。餌取りの小魚がワンド方面に急いで逃げる様子が見えた。何か新たな魚が入ってきたかなと考えていると。遠投気味にしていたウキが鋭い消し込みを見せた。いきなり強い引きが竿をおそった。なんだこいつは。竿を明らかに小刻みに叩いている。やつは横走りし始めた。黄色い尻尾も見えた。青物だな。慎重に振りあげるとそこには磯のレインボースプリンターと言われるツムブリが跳ねていた。ツムブリだったか。同じく2匹目をゲットしたところで、上野さんを呼んだ。明らかに時合に思えたからだ。

青物2打数2安打ということを伝えると、uenoさんもこちらで釣り始めた。しかし、その後ぴたりと青物の反応は途絶えてしまった。納竿20分前、ゆっくりしもっていたウキが加速し、再び道糸が走った。これはクロだろうとやり取りを始めると、やつはいきなり瀬際に突っ込み始めた。何だこいつは。もっと糸を信用すれば良かったが、弱気になってついレバーをはずしてしまった。竿を立て直すとこなく、手前の根にハリスが触れてしまった。痛恨のバラシ。魚拓サイズだったかも。悔しさとともにこれは終了の合図だねと納竿することにした。午後4時丁度に隼は迎えに来てくれた。船長が「どうやった?」「1枚」「4枚」と素直に答えると、「そんなに悪かったの?」と声をかける。技術がないのでしかたがない。「波しぶきをかぶっちゃってですね。」


ありがとう 沖のオサン瀬

気がつくとウエアーが潮をふいて真っ白になっていた。釣りに夢中で潮を被っていたことさえ忘れてしまっていたようだ。その、ふいている潮を見ながら、改めてメジナは潮で喰う魚なんだなと思い知らされた。船長は不満だったと思うけど自分にとってはこの4枚はとても価値のある魚だ。大事に家に持ち帰り、翌日河添氏を招待してメジナ料理を振る舞った。寒クロの刺身を食したが、脂の乗りは今一歩だった。卵も小さかった。やはり、今年のメジナは遅れているようだ。ツムブリのから揚げをほおばりながら心は次回の硫黄島への釣行に思いをはせているのであった。


初釣りの釣果

メジナ(40cm、39cm、36cm、35cm)
レインボースプリンター ツムブリ
恥ずかしがり屋のオジサン


メジナ料理しゃぶしゃぶ、造り、ツムブリのから揚げ

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