1/9 食い渋る魚を喰わせるには 北浦

1 はじめに

開幕戦をまずまずの釣果で終えたが、硫黄島の尾長釣りの目標が残っている。1月9日、10日とuenoさんと2日釣りを計画した。ところが、9日にこの冬一番の寒気団が日本列島を襲うという予報が入り、暗雲が立ちこめる2人。8日の昼に黒潮丸で電話。「北西が強くてね。5時にまた電話してくださいな。」やばい。5時に電話すると、「明日はだめです。2.5から3メートルの波だよ。kamataさん上物でしょう?明日出れば、間違いなく尾長が釣れるんだけどねえ。また、今度連絡くださいな。」渡船業者である泉船長にとってもこの時化はかなりの痛手だったようだ。これで、3連続時化で計画変更を余儀なくされた。いつものことだが夜釣りの尾長最盛期を迎えている硫黄島だけに残念だ。1日釣りに切り替えよう。北西の風が強く、九州の西海岸は船が出そうもない。そこで、北西の風を避けられそうな釣り場に連絡を取った。最近、釣れている鹿児島県秋目の海周丸に電話した。「時化でだめです。」北西の風裏になりそうな秋目でさえ出船を控えている。これは九州の東海岸しかない。宮崎県のグレは冬眠中で、例えば、門川ではある渡船客40名で全員ボーズという輝かしい記録を残したという。不安いっぱいだ。ご無沙汰のあゆ丸菊地船長に連絡を取った。「出ますよ。5時に来れる?」交渉成立だ。午前0時45分に人吉を出発した。

2 日時・場所

2005年1月9日(日)午前7時〜午後5時 宮崎県北浦 大平バエ

3 研究の仮説

食い渋る魚を喰わせるには、仕掛け等の釣り方をいろいろ変えることが大切なのではないか

4 仮説の検証

@タナの深さを変える

A餌取りをかわす

B仕掛けを変える

Cあっちむいてほい釣法

D番外編

5 検証の実際

@タナの深さを変える

さあ、午前4時45分あゆ丸船長登場。荷物を詰め込み北浦古江港を後にした。夜明けを持つ北浦の海。高島の黒い影の左を通過しながら船長が乗れる瀬にライトを当てて確認している。烏帽子には明かりが見える。先客がいるようだ。北浦でも例外ではなくかなり魚が喰い渋っている。散発的に釣果がでている程度でボーズもかなり多いらしい。検証にはもってこいの釣り場といえる。3日前に大バエで7,8枚が1番目だった釣果だ。船は低く小さな独立礁の前でエンジン音をゆるめた。「青バエだ。」ところが先客あり。隣の小さな青バエのチョンに2人を乗せた。この喰い渋りでもさすが北浦ブランド。休日ということもあり多数の瀬泊まりがいるようである。青バエにも乗せようとライトを当てていたが、先客の数が多かったようだ。

船は舵を180度変え、島野浦方面へと走る。高島の壁にライトを当てている。誰もいないようだが、瀬が波を被り危険とみたか、更に先へと進んだ。最近釣れていた地の二つにはやはり先客が。船は更に進む。島野浦の地寄りの磯に近づいた。「かまちゃん、行こうか。大平バエ。」去年の初釣りでのった思い出の場所だ。一方、uenoさんは昨年ここで惨敗を食らっており、残念そうである。「船着けのところから釣って。」と言い残して去っていった。

G3のレーダーソナーで釣り始めるが、大平バエの釣り座はワレになっており、海は凪だがうまい具合にサラシができたり、潮のヨレができている。おまけに突風を伴う強風で仕掛けが入らない。すぐに3Bの半遊動に切り替えた。昨年は、2ヒロで釣れたので、それほど浅いタナでは喰わないと予想し、3ヒロから釣り始めた。8時過ぎに左の瀬際でいきなり当たりがあった。対応ができずにバラシ。それ以降魚からの応答がなくなった。喰い渋りはタナの深さと関係があると考え、2ヒロから竿2本の間を行ったり来たり。しかし、本命の気配はなし。竿2本以上入れてもこの釣り座の根の状況から取り込みは不可能と判断。タナの深さではどうにもならないと結論づけた。


北浦のミステリーワールド 大平バエ

A餌取りをかわす

釣り始めてからエサが取られるようになった。しかし、ハリの色がはげている。もしかして。しばらくすると、おやっ、ハリがない。このう!キタマクラの仕業だな。ウキの入りがちょっと悪い。合わせると竿にのっているが、弱い引きだ。キタマクラが案の定上がってきた。偏光グラスで覗くといるはいるは、キタマクラの大群が見える。低水温に強いこのえさとりは魚のくせに泳ぐのが苦手である。撒き餌で手前に寄せて、沖を釣り始めた。潮は緑色の菜っ葉潮。上野さんと私は早くも戦闘意欲が失せてきた。餌取りをかわすのは簡単だが、クロがいないのだ。かなり水温が下がっているようだ。魚がいなければ餌取りをかわしても意味がない。われわれは次なる方法を試すことにした。


前半戦で活躍したキタマクラ

B仕掛けを変える

前述のように、レーダーソナーから3Bの遊動仕掛けに変えた。風の強さによって道糸にガン玉2BをハリスにG4、G8を打ったりした。風で道糸が取られるため、2.5号から1.7号に変えた。uenoさんもハリを3号までハリスを1.25号に落とした。前当たりが出たと思ったら、誘いをかけてみる。風がゆるみ、潮が動かなくなったので、遠矢グレZFBBに変えてみた。風が強くなったので、また釣研トーナメント弾丸3Bに変えた。uenoさんも全遊動にしたりと仕掛けを変えたが一向に進展がなかった。仕掛けを変えるだけでは喰い渋るクロをとらえることはできないようだ。


やっとで喰った33cmのクロちゃん

Cあっちむいてほい釣法

いろいろ試したが、2人とも本命の魚をかけることができない。時間だけがいたずらに過ぎていった。こうなりゃ、奥の手だ。名付けてあっちむいてほい釣法。本来は、餌取りを避けるために、撒き餌を餌取りのためだけに撒いて、仕掛けを入れたところには決して撒き餌を打たないのだ。こうすることによって、餌取りと本命を分離することができる。私のあっちむいてほい釣法はそうではない。仕掛けを投げたところには決して視線を向けないのだ。それどころか、釣りたいという気持ちをおさえて知らんぷりを決めるのだ。これは、半分やけくその方法だが、結構実績があるのだ。筏で釣りをしている時、ぼーっとしているといきなり魚が喰ったりすることがあった。置き竿にしていた仕掛けにいつの間にかタチウオが喰ってきていたことがあった。リールの道糸が絡まり、直している最中にいきなり当たってきたとか。読者の皆さんにもきっと一つくらい経験があるはず。これには、釣り人の殺気を魚に感じさせないという効果があるのではと私は分析している。絶対釣るぞと意気込んでばかりいては、魚にその殺気を悟られてしまうのでは。釣れないときは、いろいろやってみることだ。

全く釣れずに昼の12時を過ぎた頃、ぼーっとしていて仕掛けを回収しようとゆっくりリールを巻こうとすると、道糸が走った。反射的に合わせるとグンとのってきた。引きからクロに間違いない。仕掛けは釣り座左のシズミ瀬に入っていて、瀬ずれの危険が大。急いで巻いた。しかし、魚の走りが早く、今にも瀬ずれしそうだ。とっさに道糸をゆるめ、魚をシズミ瀬の向こう側に持って行った。向こう側も張り出し根が出ていて、早く浮かせないとばらしてしまう。それでも、何とか魚を浮かせることに成功。足裏サイズに見えたので、1.5号の竿を信じて振りあげた。魚を確認すると33cmのきれいなクロが磯の上で跳ねていた。やっと会いに来てくれたねありがとう。いろいろやったが、この喰い渋りの状況で魚を喰わせた方法は、あっちむいてほい釣法だったのだ。

D番外編

魚が釣れないときは本当に暇でしょうがない。集中力もとぎれてくる。そんなときは、せっかく魚釣りにきたのだが、他の楽しみも味わうのも悪くない。筆者は、以前野間池で磯釣りしか味わえない生理現象について書いたことがある。この北浦では魚釣り以外にも楽しみがあるのだ。それが、この磯弁である。北浦では、何と磯にまであったかいお弁当を届けてくれるのだ。寒い釣りの中での弁当は五臓六腑にしみわたる。特にうまいのが塩鯖である。あらかじめ船長に弁当を注文していればO.K。500円であったかい弁当を届けてくれるのでこれほどうれしいサービスはない。午前10時過ぎにあゆ丸が状況を聞きにやってくるが、その時に磯弁もついでに届けてくれるのだ。

「潮が動かなくて苦戦です。」船長にこれまでの状況を知らせる。この船長との話し合いで瀬替わりをするかどうか決断するためだ。上野さんは、あまりにも魚の生命反応がないので、強く瀬替わりを求めていた。その思いに答えようとした。「瀬替わりするよりここでねばっちょったほうがいいと思うけどね。」船長のこの一声で私は瀬替わりを諦めた。このへんの状況にいちばん詳しいのは船長において他にはいない。船長も客に釣らせようと考えてくれているのだ。海の世界で船長の権限は絶対である。釣り人の命を一手に預かっているのだ。この日は、これが正解だったようだ。どの磯でも大苦戦。青バエで良型の尾長が1枚釣れた以外は、目立った釣果もなかったようだった。


釣れない!磯弁をぱくつくuenoさん

6 成果と課題

 結局喰い渋る魚を喰わせるためにいろいろと釣り方を変えてみたが、いい結果は得られなかった。腕が悪いとも言えるが、釣れない時は何をやってもつれない時があるのも事実。釣れないのも釣りであり、釣れないからこそ釣り師は釣りという業に情熱を傾けるのではないだろうか。釣りは楽しいのが釣り。釣れなくても釣りという行為を心から楽しめるような心構えが必要ではないかと思った。

釣りを終え港に戻った。みんなのクーラーは軽かった。「かまちゃん、どうやった。」声をかけてくる菊地船長。「1枚。」「大きさは?」「こまい。」良型ならあゆ丸のホームべージに乗せてもらえるのだが。待合所に入って、しばらくくつろいだ。待合所のゆで卵はなぜかうまい。自然と卵に手が出てしまう。船長のおかみさんが傷ついた釣り師のためにみそ汁を用意してくれていた。体が芯から温まった。「ありがとうございました。」4500円を払っておかみさんの笑顔をもらった。「きいつけてな。」船長が声をかけてくれた。釣れなかったけど、すがすがしい気持ちで北浦を後にするのであった。


待合所のごちそう


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