2/27 クロはサラシを釣れ 硫黄島

「春一番が♪掃除したてのサッシの窓にほこりの渦を♪・・・」40代のおじさんにはお馴染みのキャンディーズ「微笑みがえし」が頭を駆けめぐる。毎年この時期になると、青春時代にインプリンティングされたこの歌が耳から離れなくなるのだ。春は生き物にとって躍動を約束させる季節だ。彼らは子孫を残す目的を果たすために活動を始める。「ふもとには桃や桜や杏咲き 群がる花々に蝶は舞い 億万万の蝶は舞い 七色の霞たなびく・・・」大好きな草野心平の「富士山」の詩にも春の輝かしい生物の饗宴が描かれている。世界中で生み出された文学、芸術の多くはいてつく冬が早く終わり春を待ち望む思いが託されている。

しかし、こんな中でも「冬が終わらなければいいのに。」と韓国ドラマ「冬のソナタ」のユジンのように春の到来を拒否したい輩がいる。ご存じクロ釣り師である。気まグレな寒クロは1月後半になり突然九州各地で爆釣し始めた。甑では下甑の瀬々野浦から手打、そして上甑の里へと波及。更には「眠れる獅子」中甑の鹿島でもキロクラスを20枚〜40枚、全員クーラー満タンというとてつもない釣れ方になった。渡りのクロは定石通り白子を持った雄から釣れ始め、2月の中旬にはいると真子を持った雌が釣れだした。雌が釣れ出すといよいよ乗っ込みクロも後半戦となる。そして、産卵間近になると極端に警戒心が強くなり水温低下とともに超喰い渋り状態へと突入することになるのだ。

1月29日に硫黄島釣行後、家族の機嫌直しをしている間にクロは爆釣。2月12日、uenoさんも瀬々野浦での抜け駆け釣行でクロを10枚ゲット。いても立ってもいられずに急遽2月20日に計画したが、あえなく時化で予定通りオジャン。2月12日以外は土日はお決まりの時化でポセイドンはサラリーマン釣り師に厳しい試練を与えられたようだ。また、ポセイドンは春一番というやっかいな贈り物を届けに来る。キャンディーズの歌には、切ない思いが歌われているが、漁業関係者にとっての春一番はとてつもなく恐ろしい歌だ。どこからともなく突然やってきて猛烈な時化を誘発させてしまう。「春一番は台風のうねりよりこわい」というのが遊漁船長の一致した意見だろう。現に私も1年に2回しか許されない平日釣行の日に春一番、二番ということで2年連続で北浦の湾内に泣いた。じゃあ、せっかく行ける日の2月12日は何をしていたの?ということなんだが、前述のように家族旅行に行っていたのだ。下関へフグを喰らいに。念願だ


下関 唐戸市場 市場のにおいにびっくりの息子

った観光客のために土日だけを開放してくれるという唐戸市場にも行った。そして、私にとっての最も癒される場所、下関水族館の魚に会いに行く。いるいるいろんな魚が。その中で目にとまったのが大水槽ではなく、誰もが見過ごしてしまいそうな小さな水槽だ。しかし、釣り人なら必ずそこで足を止めるに違いない。そこは、20秒ごとに人工的に水を噴射させサラシができるようにセットされていて、磯際に住む魚たちが元気に泳いでいた。しばらく観察しているとあることに気がついた。入れられているいろんな魚の中で唯一サラシの泡に向かって泳ごうとするものがいる。クロだ。彼らは判で押したようにサラシが出るたびにその泡に向かって泳いでいるではないか。時折、バリに追いかけられて岩の隙間に逃げ込んだりしていた。臆病なところは相変わらずだなあ。なるほど、サラシに仕掛けを入れれば言わずもがなだな。「クロはサラシを釣れ」という磯釣り師の格言を思い出した。よしっ、今回のテーマはこれでいこう。

2月27日(日)大潮。インフルエンザ大流行の中、1時間おきにうがいをするという万全の体制で天気予報を待った。北の風曇り時々晴れ降水確率10%。波は2.5メートルのち1.5メートルで微妙。硫黄島への釣りをサポートしてくれる黒潮丸の泉船長の携帯へ連絡を入れた。「時化で流れた団体さんの予約が入って来ちゃってね。黒島じゃだめですか。いいところに乗せるように言っとくから。」おいおいそりゃないよ。せっかく硫黄島の尾長をと思ったのに。黒島には行ったことがないからまあいいいか。上野さんは春闘駅伝のため今回は1人での釣行となる。

午後11時半、自宅を出発。午前2時前には枕崎港に到着した。ちょっと早すぎたかなと思いきや、ものすごい数の磯釣り師が集まっていた。気温0度。釣り人の吐く白い息があちこちでゆれている。その白い息が一つになって暗闇にぽつんとついている電灯に映るるもやと一体化しているようだ。時折吹いてくる冷たい北風に肩をすぼめる釣り人たち。映像だけ見れば静鬱そのものなのだが、みな心は熱いにちがいない。カチカチカチと岸壁で音がする。黒島に行く3人の釣り人が赤貝を割っている。遠くからやっていた底物師だろう。赤貝を割るテンポがだんだん速くそして強くなっていく。釣り人の心はすでに口白(イシガキダイの成魚)が待つ離島釣行の夢ステージへと駆け上っているのだ。

2時15分頃、かつての名俳優ユルブリンナーそっくりの荒磯フィッシングの船長が登場。黒潮丸からまわってきたkamataです。挨拶すると、「こっちも客が急に増えてね。向こうに乗った方がいいかもよ。」と船長の答えが返ってきた。黒潮丸の船長にこのことを伝えると、「こっちに乗って」と返ってきた。良かった。ことの顛末はどうであれ、硫黄島に行けるのは間違いない。ほっとして、荷物を船に積み込んだ。今日の釣り客は多い。20名は乗っているだろう。天気に翻弄され続けた磯釣り師たちが今シーズン最後のロマンを求めてこの黒潮丸に集まってきたようだ。キャビン内も満員で寝ることができない。みんな体を寄せ合っている。やがて船内の明かりが消され、エンジンがかかり船はゆっくりと港を離れた。普通なら、このあたりで釣り人の寝息が聞こえてくるはずだが、この寿司詰め状態では、寝ることは不可能だった。暖房も効いていない、そして、酸素の薄い空間の中、目に見えない釣り人の異様な熱気を体に感じながら、夢ステージへの船旅をひたすら耐えていると、思いのほか早くエンジン音が緩やかになった。

午前4時40分、平瀬から渡礁を始めたようだ。「尾長は船を着けた所ね。瀬際をねらって、クロは裏だよ。」船長がスピーカーで指示を与えている。最初の渡礁を終えると船は向きを変え、あまり遠くない瀬に5,6人乗せた。この前乗せてもらった鵜瀬だな。鵜瀬への渡礁を終えると、今度は3人の団体客と1人の客、そして、「kamataさんも準備して」と思ったより早く声がかかった。5人の客を乗せられる瀬が硫黄島にあるのかなと不安になった。キャビンを出て、ライトを当てている所をみて船が目指しているところが新島であることがわかった。渡礁を早やかに済ませ船長のアドバイスに耳を傾けた。「ここも尾長が出るからね。船着けのところ。1ヒロ半だよ。クロのポイントはいろいろあるからその人に聞いてくださいな。」詳しいことはわからないがこの常連さんの言うことを良く聞くことなんだなと理解した。

さっそく、よろしくお願いしますと挨拶した。「ここもポイントだけど、これから先1キロ歩いたところにもポイントがあります。わたしはそこに行きますので。」この新島は、昭和新島というくらいだから昭和の火山活動により、海底が隆起して登場した無人島である。溶岩が冷え固まってできた岩が連なった島で、植物はまったく確認できない。最近、火星に水があることが確認されて話題になっているが、ここにはそんな気配さえ感じられない。海上では火星以上に生命反応がないが、海の中は違う。新島という溶岩でできた隆起物は、複雑な地形となっており、魚たちの格好の住みかとなっている。そのため、魚影は非常に濃い。口太ならこの硫黄島でもトップクラスではないだろうか。よく魚が釣れる新島にもかかわらず、ここはあんまり人気の釣り場ではない。原因はこの島の地形と釣り場の関係にある。ポイントはいくつかあるが代表的なものは、船着け、ワレ、高場の3カ所である。船着けは問題ないのだが、あと2つは、おそろしく大きな溶岩でできた岩を重いエサが入ったバッカンや竿などを抱えて飛び移ったりしながら歩かなければならない。いや、歩くというよりもまるでロッククライミングのようだ。前回歩いたときはもう移動するだけで体力を使い果たし釣り座にへたり込んでしまった。uenoさんも「おらいやばい。」と歩くことを拒否。しかし、釣果はつらい移動を克服した者にだけ約束されているようで、船着けは歩くのをためらった試練としてイスズミなどの外道天国になることが多いようだ。本当は、1キロはなく正味200メートルくらいだと思うが、その距離が1キロメートルくらいに感じるのだ。

頼りの釣り師はそそくさと荷物をもって暗闇に消えてしまった。昼間でさえ歩くのが大変なのに、夜に移動するとは。あの釣り師はかなりのベテランらしい。残された4人で船着けで尾長にトライ。撒き餌がたまる瀬際で釣るが、餌取りの猛攻でジ・エンド。他の釣り師もイスズミのオンパレードで尾長釣りを終えた。


新島の朝焼け 竹島を望む

朝だ。朝焼けが美しい。昼のクロ釣りが始まる。私はせっかくの離島釣りを満喫するために岩から岩への飛び移りをすることを決めた。食料と飲み物、ナイフ、リール、ウキなどの小物をドンゴロスに詰め、玉網と竿を持ち移動を始めた。山あり谷ありの道程だ。手に何も持たなくても危険な岩のぼりだから慎重に足場が動かないかどうか確かめながら移動した。今日は、前回よりも遠いところへ行こう。くじけそうになる心にむち打って釣りができそうなポイントを探しながら歩いた。


移動途中温泉がわいているところあり

途中で温泉の沸いているところがあり、あとで聞いたが温泉下というポイントもあるそうだ。釣りに来たのに山登りをすることになるとは。汗だくになりながら去年釣りをしたところを越え、一番高いところまでやってきた。広々とした高台から下を見下ろして釣りができそうなポイントがないかどうか探した。下の方へ降りて視線を右に移すとあのベテラン釣り師が波しぶきを体全体に浴びながら魚との格闘の真っ最中。上がってきたのはイスズミ。

よし、ここでおれも勝負しよう。船着けに行ってエサの入ったバッカンを抱えて戻って時計を見ると7時半になっていた。釣りを始めるまで1時間近くを費やしてしまったことになる。釣りができそうなところは3カ所。海に向かって右側のワレはサラシができていていい雰囲気なのだが、釣り座となりそうなところは波を被っている。9時が満潮でこれから潮が満ちてくるので危険と判断。正面はサラシはあまりないが足場が抜群にいい。張り出し根も少なく取り込みやすそうだ。とりあえずそこにバッカンをおいて仕掛けを作り始めた。すると、後ろから声がした。「ここのポイントはそこじゃなくて、左側の方ですよ。」なぞのベテラン釣り師がポイントを解説してくれた。「ここは高場というポイントです。そこはポイントじゃありませんよ。左側にワレがあってサラシができているでしょう。そこに撒き餌をしてサラシを釣ってください。ここは下げ潮のポイントだから、満潮を過ぎてからが釣れますよ。」「あそこは釣れましたか?」「尾長釣れましたよ。2匹。」と言って50cm以上だったことを手を広げて見せてくれた。がんばってくださいと謎の釣り師は笑顔で消えていった。


高場の釣り座

さあ、クロとの真剣勝負だ。竿は振りあげ可能なダイコーの強豪2号。道糸2.5号にハリス2.5号。ウキは前回の硫黄島の鵜瀬で威力を見せつけられたLets0号の全遊動に矢引きのところにJ6のJクッションをつけた。ハリはスーパーヴィトム5号を中心にいろいろ変えてみた。撒き餌は夜釣りと同じく更にオキアミ生3kgとアミ3kgを混ぜて集魚材は入れずに仕上げた。午前8時前期待の第1投。足下の瀬際のサラシに仕掛けを投入した。撒き餌をワレに3杯打ち、ウキの手前に1杯かぶせて様子を見た。白いサラシによく目立つ赤朱色のウキがいきなり勢いよく海中に消えた。同時に道糸が走った。かなりの重量感が竿を襲った。何だこいつは。良くひくじゃありませんか。しかし、敵は横走りし始めた。もしかして。浮いてきた。ぎらっと白く光る。白いサラシに浮いてきたのは、イスズミだった。ちょっとガックリしたが、魚からの反応に活性は悪くないことにほっとし、第2投。今度はできるだけ瀬際に仕掛けが落ち着くように竿でコントロールした。今度も勢いよくスパンとウキが消し込んだ。Letsの感度は抜群のようだ。今度も中々の引き。しかし、今度は横走りしないぞ。太ハリスを信じて強引に巻き上げると、サラシの上に浮いてばちゃばちゃと跳ねている魚は本命のクロだった。やったね、第2投でボーズ脱出。振りあげるとやや溶岩色に染まった地グロが跳ねていた。34,5cmくらいかな。大事に締めてドンゴロスに入れた。今日はいけるかも。

小さいわりにかなり引く新島の地クロ

潮は、左から当たってきてワレにぶつかり反対側の沖へと流れている。今はいい状態なのだろう。今のうちに釣らなくちゃ。その後、イスズミとクロを交互に2枚ずつ釣ったところでクロの当たりが遠のいた。魚たちが学習し始めたらしい。警戒心の強いクロはかくれ、イスズミに混じって、熱帯系のキュウセンベラや七色のブダイなど他の外道たちが釣り座へとやってくるようになった。実はこれからが勝負なんだけど。タナを変えたり、ポイントを変えたり試行錯誤するもののクロは顔を出してくれなかった。そうこうしているうちに満潮を迎えた。潮は止まるかと思いきや変わらず動き続けている。久しぶりにクロをかけたと思えば今度は小ぶりの尾長が釣れだした。25cmキーパーサイズぎりぎりから30cm位まで。釣っても釣っても同じサイズの尾長が上がってきた。どうやら尾長の大群が撒き餌に集まってきたらしい。良型の口太を釣ろうとするがどうしても小尾長をかわしきれない。仕掛けを3Bの半遊動にして、感度重視から口太のいるタナを直撃する作戦に出たが時すでに遅し。15mほど沖に浮いている魚を発見して釣ったが3打数3安打のイスズミだった。小尾長の群れは、何とあのイスズミさえも沖へ追い出してしまうほど強烈だったようだ。

下げ潮が本格的に流れ出し、30cmオーバーの口太が連続で釣れだしたが、無情のタイムアップ。時計を見ると午前11時半。納竿は12時のはずだから移動に30分は費やすだろうからここらで終わりにしよう。十分楽しめたことだし。対岸の瀬では、さっきの謎のクロ釣り師が本命らしき魚と格闘していた。振りあげた魚はどう見ても40cm近くあるクロだった。最後の最後まで諦めない根性はさすがだなと思った。荷物をまとめ、また、道なき岩場をのぼりながら帰っていると、あの謎の釣り師は今度は違うポイントにいた。そこは、私も目を付けていたのだが、波を被って釣りができそうもないので断念したところだった。すごく浅いし、根だらけで、ここが離島でなければクロのポイントにはなりえないようなところに思えた。しかし、そのおっちゃん釣り師は魚をかけている。釣り上げられた魚はまたもクロ。これもキロ近い地クロ。しばらく釣りを見学していると、私を見つけて、今日の回収は午後1時20分なんですよ。これからが釣れますよ。ここでいっしょに釣りましょう。おいおい、お誘いはありがたいが知っていたんなら最初から言ってくれよ。もうエサもすべて流してしまったというのに。


今回の釣果 25cm〜35cmを18枚

やっとの思いで船着けに戻った。船着けの3人はそれぞれイスズミをかわしながら良型の口太を7,8枚くらい釣っていたようだ。1時15分ごろやっとで謎のクロ釣り師参上。「100枚は釣ったんじゃあないんですか。」と3人の中のリーダー格の男が謎の男に声をかける。尾長が釣れたんですよね、と声をかけ、クーラーの中身を拝見させてもらうことにした。やや大型のクーラーに入りきれないほどいっぱい釣っていた。更にクーラーに入りきれない魚はエサを入れていた大型のバケツにも満杯に入れられていた。目測で40枚以上は入っていただろう。それもすべて700〜1kgまでの良型ぞろい。50cmオーバーの尾長も2枚クーラーの底に埋まっていた。「どんな仕掛けだったんですか。」「固定ですよ。タナは最初は50cmの矢引。あとで1ヒロにしました。サラシのあるところをねらうといいんです。ハリスは4号ですよ。硫黄島は場所によって釣り方が違うんです。ここは、とにかく太仕掛けで手返しを早くすること。引きのポイントだから午前中が下げ潮になる中潮や大潮がいいですね。」なるほどやはりクロはサラシを釣れだな。「硫黄島はいいポイントには中々乗れないでしょう。だから、ここで工夫してたくさん釣るしかないんですよ。最初のところも私が開発したポイントなんですよ。あなたが釣っていた高場もいいところで途中でやめて惜しかったですね。下げになってからいい型のクロが釣れるんだけど。」そんな会話を楽しんでいると黒潮丸がやってきた。手際よく荷物を受け渡し、安全に船に乗り込んだ。「釣れましたか。」「はいっ、小さかったけどね。」久しぶりに船長の問いに笑顔で返すことができた。
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ありがとう 新島

港へかえってびっくり。今日の硫黄島は絶好調。どこも良く釣れていて、尾長もかなり数が出ていた。アラカブの仲間で1匹5,000円もする超高級魚をゲットした釣り人あり、上物の仕掛けで石鯛をゲットするものあり、クロの爆釣あり。尾長の数釣りあり。そういえばみんなのクーラーはどれも重かった。底物だけは、良くなかったようで、ボーズもあったようだが、クロはボーズなしだったようだ。離島の底力をまざまざと見せつけられた今回の釣行。たまにはこんなこともあっていいよね。船長に礼を言って釣り人の夢ステージの基地枕崎をあとにした。

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