3/4 昨日までは・・・ 水島

3月に入った。人々は春の到来に心躍らせる。しかし、磯釣り師にとっては、我慢の時期である。3月は、私のこれまでの短い釣り経験の中で最も海況が不安定な時期である。春一番、春の嵐は突然やってきて、時には船を飲み込んでしまう。そんな自然の猛威には人間はほんとにちっぽけな存在でしかないことを改めて考えさせられる。現に私のわずかな釣り経験の中で、最も貧果に終わっているのがこの3月だ。2001年3月、磯釣り2回目の門川でしかも超A級のハチガササレに乗せてもらったにもかかわらずボウズ。2002年3月、獅子島の地磯で乗っ込みチヌをねらってバラシで釣果なし。2003年3月、宇治群島5年ぶりのクロの当たり年で全員クーラー満タンの翌日、心は宇治へと向かっていたが、大時化で北浦の湾内でガラカブと戯れ、続く枕崎でも時化で沖堤に避難。イサキのウリ坊とタカベに翻弄される。2004年3月、やはり、春2番で北浦の湾内。そして、あこがれの草垣群島で口太の産前休暇でボウズとこれまで散々な結果、ていうかまともな魚を釣ったことがないのだ。魚の方の事情も微妙。クロは3月ぐらいから産卵には入って食いが悪くなるし、チヌも乗っ込みには時期的にやや早くボウズ覚悟での釣行となる。でも、それもあるけど一番は腕がわるいのだ。例年、あーあ3月はきびしいなと思っていたが、今年は事情がちょっと違う。クロの食いが各地で遅れているのだ。普通は12月くらいから活発に喰い出さなければならないのだが、今年は1月の下旬になってやっと荒喰いを始めた。そして、2月に入り甑島各地で絶好調。それまで冬眠したのでは?と言われていた宮崎のグレも喰いだした。喰いの遅れはそのまま乗っ込み状態が3月にずれこむことを意味していて、今年こそは3月にまともな魚を釣るチャンスとなったのだ。

3月4日(金)は日曜日の学校行事のため土曜日の準備の日が出勤となるので、その代休措置として休みが取れた。平日に釣行できるまたとないチャンス。これを生かす手はない。早速、瀬々野浦に渡してくれる永福丸に予約を入れた。ところが、やはり春の寒波が到来し翌日は平地でも雪が降る予報で海上は大時化。「時化ですう。」の永福丸のおばちゃんの声でまたも計画変更を余儀なくされた。波の予想は3メートル。これじゃあ、離島を含め、九州の西側、南側の磯はすべてだめということになる。ところが不思議なことに釣りができる沖磯がある。宮崎側の磯である。宮崎側の予報では、1.5メートルから2メートルとなっている。北西の季節風を避けられるとはいえこうも九州の西と東では違うのか。「水島はえらいよく釣れよるげな。」とuenoさんが一声かけてくる。宮崎県南部の沖磯水島は、夫婦浦港から渡船で15分ほどの位置にあり、太平洋上にぽつんと浮いた孤高の岩礁である。この釣り場は、潮通しが抜群に良く、クロ、尾長、石鯛、イサキの宝庫として磯釣り師の間では垂涎の地である。

水島の人気の秘密は、一つは釣れてくる魚のサイズがあげられる。釣り座から50〜60cmものクロが泳いでいるのが確認でき、実際に3kgを越える魚が数多くあがっている。水島で3kgのヒラスズキをあげている上野さんは水島がたいそうお気に入りである。でも、私は水島でいい思いをしたことが一度もない。ていうか一度もクロを釣ったことがないのだ。また、水島を敬遠してしまうもう一つの理由は、釣り場の状況にある。釣り座の面積に対して釣り師の数はかなりすごい。釣り人の人口密度は、おそらく日本中探してもここ以上の場所はないのではないか。人気実力共にナンバーワンの一瀬船着けの収容人員は通常なら4人てとこだが、ここは10人から12人となる。60cm間隔で釣り人が肩を並べて釣るというまるでパチンコを打っている時のようなことになるのだ。当然まわりの客に気を使いながらの釣りとなる。時折仕掛けが絡んだりして「すみません。」なんてことがしょっちゅうなのだ。それに、もし近くに腕のいい釣り師がいたら、腕が未熟な自分の分までぼこぼこ釣られてしまう。釣りのうでの差がはっきりと出てしまう。どうしよう、いくら最近絶好調だからと言って相性の良くない釣り場には正直言って行きたくはない。

しかし、選択の余地のない私は、水島への釣りをサポートしてくれる2つの渡船のうち第八喜代丸にお世話になることにした。自宅を午後11時半に出発し、夫婦浦港に午前2時過ぎに到着、休憩したあと船小屋に入って船長に「宜しくお願いします。」と挨拶。「今日は、5人だからゆっくり釣ればいいがね。昨日までみんなよう釣っちょったよ。」船長も最近の好釣果にご機嫌のようだ。もう一つの渡船夫婦丸のHPから発進させられている情報によると、今週はクロの入れ食いでクーラー満タンが当たり前とのこと。平日だから釣り人も少ないことだし、また釣りができれば御の字という天候なのにさらに好調の釣り場に行けるというのはいいものだ。しかし、逆の心配もある。「昨日までは良かったんですけどね。」好調という情報を聞いて惨敗を喰らった時のこの船長の言葉を私は何回聞かされたことだろう。そんな不安も少し抱えながら午前3時半に船に乗り込み、港を離れた。季節風が吹き荒れる天候のはずだが不思議なことに波は穏やかだ。港を離れて10分くらいするとさずがにうねりが大きくなってきた。水島の近くまで来るとかなり波がありばっかんばっかん揺れている。船長がライトで瀬の状況を確認したあと瀬付けを始めた。2人での渡礁だ。もう1人の方は地元の人らしく、「こんなに少ない水島は初めてです。」と胸の内を語ってくれた。「荷物を高いところに置いて。」そう言い残して、うねりの中を喜代丸は去っていった。

しばらくして夫婦丸の客も7,8人渡礁してきた。「じゃんけんしましょう。」ここの釣り座はじゃんけんして勝った人から自分が釣りたい釣り座を選ぶことができる。2人でのじゃんけんだ。勝った。一番くじである。幸先のいいスタートだ。るんるん気分で私はさっそく夜釣りの準備を始めた。もう1人の方は一眠りされるようだ。タックルは竿5号。ここは遠投かご釣りで大アジや大サバが出る。特にここのサバはかなり美味しいらしく、家族へのおみやげに気合いを入れて釣り始めた。釣りタナはあらかじめ船長から聞いたとおり竿2本。おみやげ、おみやげと念じながら釣るが当たりがない。夜釣りは私を含め3人がトライ。1人の人がアジを4,5枚くらいあげておられたが、私ともう1人はボウズ。1回道糸が走る当たりがあったのだが魚を掛けきれなかった。遠投かご釣りは、まだまだ修行が足りないようだ。しかし、ここ数日夜釣りでも絶好調だったアジ、サバが今一歩の釣果だったことでこれからの昼釣りに不安を覚えた。


船着け 右が喜代丸 左が夫婦丸の客


朝になった。釣り人が活動し始める。風は思ったより強くなく波もうねりはあるもののそれほど気にする状態ではない。風が強くなることが予想されるので、タックルはメガドライM2ー1.5号ー53。道糸2.5号、ハリス2号。仕掛けは、始めはLeTs0号にJ5のJクッションを装着し、まずは2ヒロから竿1本までのタナを探ることにした。絶好調なら朝まずめから釣れ始めるはずだがみんな当たりすらない状況が続く。やっとで魚からの反応が出たと思えば釣れたのはキタマクラ。変更グラスからたくさんのキタマクラがいることがわかった。今日の船着けは10名。先端部分にあるコブを目印にして沖に向かって右側が喜代丸、左側が夫婦丸と決められている。2番船でやってきた3人を含め喜代丸が5名、夫婦丸が5名。そして、高段に夫婦丸の客が何人か釣っている。私は、喜代丸の中で1番くじだから船付けのど真ん中つまり一番いい場所で釣っていることになる。しかし、釣り始めて1時間何もつれていない。どうしよう、不安だけが体を支配している。入れ食いを期待していたのは私だけではなく、他の客も同じで首をかしげるばかり。小潮まわりで潮はあまり動いていない。ゆるやかに高段方面に流れている。すると、釣り場に変化がおこった。夫婦丸の客の1人が魚とのやり取りを始めている。浮いてきたのは綺麗な800gほどの口太だ。第1号が釣れるといきなりテンションがあがった。

次に私の隣の釣り師が魚とのやり取りを始めた。結構引いている。魚がぎらっと光った。あちゃーイスズミかなと思いきや、あがってきた魚はこれも綺麗な1kg弱のクロだった。玉網は私がかけてあげた。「タナはどれくらいですか。」と聞くと、「2ヒロくらいですよ。」今までの水島と違ってかなり浅いようだ。これなら全遊動よりも固定仕掛けののほうが良さそうだ。狭い釣り座は釣りにくいが人に仕掛けを聞くときなどは重宝する。その釣り師の仕掛けは固定の2段ウキ。他の釣り師も遠矢グレやLETsを使っているものもいたが、大体みな同じような固定の仕掛けであった。小型の棒ウキを装着し、釣り始めた。8時を過ぎるとポツポツ他の釣り師の竿が曲がり始めた。どうやら魚の活性が上がってきたらしい。高段の釣り師も魚をかけた。私の隣の釣り師も2枚、3枚とゲット。ほとんど同じ釣り座で釣っているはずなのにこちらは一向に魚をかけることができない。楽しいはずの釣りが苛立ちへと変わっていった。タナを聞くと1ヒロ半と答えてくれた。そうこうしているうちに午前9時半をまわっていた。今日は、入れ食いとはいかないものの、ほとんどの釣り師に釣果が出ていた。この時点で釣る人3枚くらいか。

しかし、私の竿には相変わらず音沙汰なし。私の気持ちを察してか、隣の釣り師が「ハリスの真ん中に小さいガン玉を打ったらどうですか。」などとアドバイスしてくれるようになった。ああ情けない。だから水島はいやだと言ったんだよ、とぼやきが始まっていた。冷静さを失ってしまい、いつもなら仕掛けをすぐに変えて対応するのに自分が自分でなくなっていくようだった。すっかり自信を失ってしまっていた。午前も10時をまわるとウスバに混じってクロが浮いているのがはっきりと確認できた。いるいるものすごい数だ。夏磯のものすごい餌取りの群れのように良型クロが見えている。手前には、60はあろうかというクロが見えたりかくれたりしている。しかし、魚は見えるが活性は低いようで活発にエサは追っていないようだ。また、かなり喰い渋っているようで、小粒の当たりウキなら少しずつしもっていくが途中でどうしてもつけエサを離してしまう。隣の釣り師も何度も何度も素バリを引いている。完全に消し込んでから合わせるのではなく、ウキに少しでも変化が現れたらすぐさま合わせているようだ。今日の釣りはかなり難しくなりそうだ。何とか魚にあった仕掛けを探しながら試行錯誤の末、当たりウキに釣研のグレハリスウキG2にG4のガン玉を噛みつけ、1ヒロ半のタナでうまいこと潮のヨレに投入できた。ウキに前当たりが出て、ゆっくりとしもっていった。しかし、今度のはやる気のある入り方だ。


喰い渋った水島のクロ

慎重に合わせるとギューンと竿にのってきた。引きからして間違いなくクロだとわかった。慎重なやり取りの末、浮いてきたのは35cmクラスのクロ。隣の釣り師に玉網をかけてもらった。重圧から解放された瞬間だ。時計を見ると10時をまわっていた。「これで家に帰れます。」掬ってくれたお礼とともに笑顔で隣の釣り師に話しかけた。しかし、不安は消えなかった。これは「釣った」のではなく、はっきり言って「釣れた」1匹だからだ。魚を喰わせる地点を予想しながらどこに仕掛けを入れるのか、どこにどれくらい撒き餌をかぶせるのかなど自分の思い描いたイメージ通りに釣れて始めて釣ったと言うことになると思う。私はこの時点でまだ魚をどのように喰わせるのか明確なビジョンを持てずにいた。釣り人が多すぎて仕掛けを思うように入れられないのも自分を失ってしまう要因の一つだと思う。とりあえずつけエサと撒き餌を合わせることだけに気をつけながら釣り続けた。他の釣り師もポツポツと釣れるものの入れ食いとはいかず、いつスイッチが入るんだろうと釣り師たちもいらいらが募っているようだ。


風強すぎ 南郷大島を望む

風と波はますます強くなり更に釣りづらくなってきた釣れない状況に飯を喰うのも忘れて釣っていると、隠居方面からの潮が入り船着けからの引かれ潮との合流点が見えてきた。予定通りウキがゆっくりしもっていき本日2回目の本命らしき魚からの反応だった。浮いてきたのは同サイズのクロ。これでやっと2枚。時間は午前11時。


イサキくんの歓迎も受けた

やっとでビジョンが見えてきた。やがてその潮が釣り座からまっすぐ沖へと払い出すようになった。一瀬の両側から潮が走り、沖に潮目ができるパターンだな。手前から仕掛けを流していくと沖でウキがはっきりと消し込んだ。合わせるとギューンと竿に来た。浮いてきた魚はやはり同サイズのクロ。これで3枚目。そして、さらにしばらくして同じパターンでイサキをゲットして時計を見ると11時半。1ヒロ半のタナでイサキが食うから驚きだ。しかし、その本命潮もやがてなくなり、沖に向かって左に動き出し魚は右側の釣り座で釣れるようになった。その後あたりなく納竿の2時を迎え、残念ながら水島を後にした。午後2時の時点で釣り頭は隣の釣り師が7枚、他の釣り師も3〜5枚ずつ釣っていたようだ。あまり釣れていないようだが、かけ算すると平均を5枚としてかける10人でこの瀬だけで50枚は釣れている計算になる。やはり、水島は名礁たるにふさわしい釣り場であることを再確認した。


無念 また来るぞ 名礁水島に


夫婦浦港の船小屋


今回の釣果

釣りの難しさを改めて認識させられた今回の釣行。どんな状況でも強い精神力をもって自分の釣りに徹するということに大切さを改めて感じさせられた。だから、「昨日までは、いっぱい釣っちょったんやけどね。」と船長に言われてももう悔しく思わなくなった。「昨日までは・・・」ではなく、これから自分がどのような釣りをやっていくかしっかりとビジョンを持つことに注意してクロとの知恵比べをやっていこう。「昨日までは・・・」ではなく、「今日から釣れだしたね。」と言われるようにがんばりたいと思う。


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