3/7 潮目をねらえ 下甑瀬々野浦

今年の3月はどういうわけだか天候の条件に恵まれた。前回の水島といい、今回の瀬々野浦といい、2回の平日ともに釣りができるという幸運。特に今回の瀬々野浦は、今春一番の寒気団のおかげで平野部で雪がちらつくという天候で船止めの後のチャンスとなった。波高は2メートルのち1.5メートルと絶好の釣り日和。不安材料は潮周りが長潮というだけでもう好釣果はもらったようなもの。このところ安定して釣れている瀬々野浦だけに期待は高まるばかり。今回の目標を2桁釣りに置いた。

3月7日(月)長潮。満潮が午前6時頃で下げ潮を釣ることになりそうだ。午前1時半に自宅を出発。今回お世話になる永福丸が待つ阿久根港へと車を走らせた。平日だけに客は少ない。1,2,3・・・、10名か、こりゃ瀬々野浦の中でもいいところに乗れるのは間違いない。一昨年の10月以来の瀬々野浦。前回は、26度という水温にナポレオン岩で惨敗だった。今回は、寒グレ本格シーズン。瀬々野浦は私にどんな答えを用意してくれているのだろう。待ちに待った瀬々野浦だけに、2月に釣行して10枚釣った上野さんに状況を詳しく聞いてきた。彼の話によるとこうだった。釣る人10枚〜20枚という情報だが、そんなに入れ食いするというわけではない。タナは2ヒロが中心でやや浅め。食いが渋いので感度のいい固定仕掛けで釣るか、全遊動仕掛けにしたほうがいい。極力ハリスにガン玉が打たない方がいい。また、当たりが小さくウキの入りがゆっくりなのであわてずに消し込んでしまって見えなくなってからあわせるほうがいい。仕掛けを張るとクロはエサを離してしまうようだ。ハリスは2号くらいかな。自分も始めは感度のいい固定仕掛けで釣っていたが食いが悪いので、LeTs0号の全遊動に切り替えたら食いがよくなった。魚はいるが寒グロがみなそうであるように喰い渋っているのは確かのようだ。上野さんのアドバイスから今回の釣りも簡単ではないようだ。

午前4時過ぎ、永福丸は阿久根港を離れた。初めておじゃまする永福丸は思ったより広く横になって寝るスペースも十分で快適な船旅を約束してくれるようだ。私は、2段の上の方が空いていたので横になった。期待と不安で睡眠と目覚めのアウフヘーベン状態の中でいつの間にかエンジン音が緩やかになった。早くも着いたらしい。最初の客が赤崎のダンガイ鼻へ降りた。今日は瀬々野浦の中でも一番北のエリアからの渡礁のようだ。船は釣り客の渡礁準備のためにゆっくり進んでいる。2番目の渡礁の時に船のデッキへ出た。暗闇の中から切り立った断崖の島が忽然と現れた。名礁「大カブ瀬」である。船は地層の縞模様をまとった島の崖に着けた。一瞬目を疑ったが、1人の釣り師が45度はあろうかという斜面登っていった。こんなところで釣りができるんかいな。どうやら少し上の段まで登ると少し平らな釣り座があるようだ。上甑里の黒神のように落下の危険と隣り合わせのポイントのようだ。結局、この大カブ瀬には2人の釣り師が乗った。

感心していると、「kamataさんいますか。」と船長の声がした。えっ、我が輩にもこんな恐ろしく危険なところへ行けというのかなあ。船は大カブ瀬の沖側を回り込み大カブ瀬の隣でやや遠慮しながら立っているやはり切り立った島へと近づいた。荷物を船首付近へと出しながら、ポーターらしき人に瀬の名前を聞いた。「中ノ瀬戸といいます。」迷惑な顔一つせずに答えてくれる。ライトが当てられているところを見て大カブ瀬とは対照的に低くそしてまるで防波堤のように平らな磯だった。やったね、楽々渡礁完了。「この正面を釣ってください。」とポーターらしきお兄さんが教えてくれた。永福丸は更に隣の松島という磯にも2人を下ろして立髪方面へと去っていった。瀬々野浦は本当に美しいところだ。遊覧船で島巡りをしても充分に楽しめるだろう。ナポレオン岩を始めとする自然が作った造形作品を鑑賞することができる。冬の時期の季節風をまともに受ける瀬々野浦だからこそなしえた偉業だ。所々に切り立っている断崖の岩はよく見るとどれも優しい顔をしている。まるで、航海の安全を祈願する地蔵のようにも思えてくる。我々のご先祖様がアニミズムに走ったのも何だかわかるような気がする。思わず手を合わせたくなる奇岩に囲まれてしばらく間瞑想にふけっていた。

いかんいかん、また悪い癖が出た。今日は観光に来たのではない。クロとの知恵比べに来たんだった。大カブ瀬の上空数十メートルを悠々と飛んでいる鷲に見守られながら、早速撒き餌づくりに入った。今日は、できるだけ魚を浮かせなければと、オキアミ生6kgとアミ1.5kgを細かく刻んでマルキューのアミダッシュグレ1袋とグレα1袋をよく混ぜてまずは堅めに仕上げた。夜明けが仕掛けを作るのを手伝ってくれる。竿は離島バージョンの強豪2号アウトガイドにリールはプレイソ2500LB。道糸2.5号誘いに朝まずめ用にパワーストリーム2号を1.5ヒロとって直結した。ウキはトーナメント弾丸0号を親ウキに釣研のグレハリスウキG2をセット。ハリスウキのすぐしたにG4号のガン玉をつけまずは2ヒロ弱から探っていった。


中ノ瀬戸の釣り座 前方は立髪

仕掛けを作りながら撒き餌を少しずつ間断なく撒いていたので、すぐにウキに生命反応が現れた。ウキを押さえ込んだのは、南九州お馴染みの餌取りの代表選手、ハタンポくんだった。きみじゃないんだよと海へお帰り願い、第2投。今度は、赤いスズメダイ。餌取りだが、魚の活性は高いようで一安心。おっと、いきなり携帯電話の目覚ましアラームが鳴り出した。そうか今日は平日だった。苦笑いしながらアラームを止めて、海の中を覗くと愕然とした。本当に寒のグレシーズン?と疑いたくなるほどの大漁の餌取りが群れていた。赤いスズメダイにハタンポが撒きエサに、仕掛けを入れる音に反応して縦横無尽に走り回っている。瀬際や竿1本先には餌取りの大群がいて太刀打ちできない。クロがよればこいつらはおとなしくなるだろうと始めは気にせずに釣っていたが、どうもかわしきれないようだ。今は満潮潮止まりで動いていないが、潮が動けば活路が見つかると腰を据えて釣り続けた。

釣り座から下は切り立っているようだが、偏光グラスで見ると階段のように落ちていく形状だった。右にはワレがあり良さそうだが潮が入ってきていないのでポイントにはならないだろう。左には浅い根があり、潮が動かないときの根周り攻めのために要チェック。正面がポイントということだからきっと先に根があるのではと感じた。この中ノ瀬戸の両側は水道になっており、おそらく潮が通す時間帯になれば両側の潮がぶつかるところに潮目ができ好ポイントになるのではと餌取りと遊びながら作戦を立てていった。正面のポイントに仕掛けを入れるが、一向に潮が走らない。これじゃあらちあかんとできるだけ潮が走るところを探して仕掛けを入れていくことにした。

右の水道からの潮に乗せていくすると仕掛けはまっすぐ沖へとは走らず、真横左へと動き出した。そして、左の水道からの潮に引かれる潮となり沖へと進んでいた。その潮に乗せていくと丁度正面のところで当たりウキに続いて親ウキも少しずつしもり始めた。そして、親ウキが見えなくなるまで合わせるのを我慢していると、やつは走った。ギューンと竿にのった。と思ったらいきなりバラシ。ハリはずれだった。やはり食いが渋い。上野さんの言うとおりだ。バラシの後、また餌取りの活性が上がった。そして、さっきまで走っていた潮がまた動かなくなってしまった。釣り始めて2時間が経った。今だ釣果なし。甑の中でも絶好釣の瀬々野浦で早くも苦戦。気持ちばかりが焦る。潮位が下がってきて、浅い左側の水道の潮が止まってきた。すると、左の浅い根付近の水面に泡が出始めた。エサがたまっているはずと今度は潮が動くところではなくエサのたまりそうな場所へとねらいを変えた。すると、今までとは明らかに違うスピードで当たりウキと親ウキが海中に消えていった。間違いなく本命の当たりだ。すかさず合わせを入れる。本日2回目のギューンだ。やつは一直線に瀬際に突っ込んでくる。2号竿にものをいわせて浮かせる。


潮目で喰ったクロ

ばしゃばしゃと浮いてきたのは愛しのクロちゃんではないですか。1匹目だから大事に玉網で掬った。美しく均整のとれた見事なプロポーションの800gの地グロ。おなかの色からして、この辺に居着いているクロらしかった。とりあえずボーズ脱出。ほっと胸をなで下ろし大事にドンゴロスに入れた。よっしゃあ、やっと居場所を突き止めたぞ。同じ地点に仕掛けを入れた。予定通りウキに当たりがでた。しかし、あわせてもハリ掛かりしない。合わせる角度が悪いのか、はたまた仕掛けが一直線になっていないのか。再び同じ箇所に仕掛けを入れる。今度はさっきよりもはっきりと消し込んだ。合わせるとガンガンと竿先を叩いている。浮いてくるとぎらりと光った。

おいおい、やっぱりきみはいたか。足裏サイズのイスズミにガックリ!海にお帰り願った。イスズミの巣になったのではないだろうねえ。不安いっぱいの中、再び同じ場所に仕掛けを入れた。今度もウキに当たりがでた。000号のウキのようにゆっくりと親ウキのトーナメント弾丸0号が沈んでいく。今度は間違いないだろう。警戒心が人一倍強いこの時期のクロちゃんは、釣り師が急に合わせても対応できるようにあまくエサをくわえながら安全な場所までとゆっくり泳いでいるようだ。こちらも負けてはいない。クロちゃんに違和感を与えないように、仕掛けを張らないように注意して、余った道糸を撒きながら舌で乾いた唇をなめながら合わせのタイミングを計っていると、親ウキが見えなくなるかならないかの地点でいきなりスピードを上げて走り出した。道糸を巻きながら竿を立てると再び心地よい引きが強豪2号を襲った。

ギューンと一直線に突っ込むその引きはすぐにそれとわかった。今度のは太いぞ。かなりのトルクで左の根に突っ込んでいく。竿を寝かせて対応。やがて観念したのか水面から登場したのは、美しい灰青色の魚体だった。してやったり、40cmはありそうな良型だ。慎重に玉網で掬い手元まで引き寄せた。結構重たい。これで2枚目。思わずガッツポーズ。時計を見ると8時40分。不思議だ。さっきまであれだけ不安感にさいなまれていたのに魚が釣れると自信が生まれてくる。ところが、自然はそうやすやすと釣り師を喜ばせない。せっかくポイントを見つけたのに当たりがなくなった。潮が変わったらしく、左の根周りの魚が喰うスイッチはOFFになってしまったようだ。また、新しいポイントを開発しなくちゃ。

前方に視線を向けると、カモメが3羽やってきて浮かんでいる。このう、君たちがいるとお魚さんが警戒して浮いてこないじゃないか!うんでもこの情景どこかで見たことがあるぞ。うーん、あっ思い出した。昨年の中甑「弁慶1番」だ。あそこもここと同じように両サイドが水道となっており、沖でカモメがいたっけ。そして、それが両サイドの潮が合流する潮目であることに気づき、仕掛けを流して自分の記録魚である47cmの口太をゲットしたことを思い出した。潮目は、学術的に言うと、酸素を豊富に含んだ表層水(生き水)とプランクトンなどの栄養分を豊富に含んだ深層水(死に水)とが混ざり合う場所らしく、ここに当然のことながら魚が集まってくる。そこをダイレクトにねらうのは一つの作戦なのだ。かもめさんありがとう。君たちは釣りを邪魔しに来たのではなく、潮目を教えにきてくれたんだね。しかし、潮目はかなり遠い。30メートル以上の遠投を強いられる。ちょっとでも投げる距離が短いと餌盗りの餌食だ。えい、やあっと仕掛けを投げる。赤朱色のウキが遙か彼方に見える。5投くらいしたが、当たりがない。


カモメが潮目を教えてくれる

左の松島の釣り客に目をやるが、二人とも活性が低く、あまり釣れていないようだった。瀬変わりしたほうがいいのかなあ。こんな調子じゃあ2桁はとうてい無理だよね。視線を再び仕掛けの方面へと移すと、あれっウキが見えないどこ行ったんやろう。見えないと言うことは当たりってことね。合わせるとギューンと竿にのってきた。しかし、よそ見していた分相手に先手をとられてしまった。竿をできるだけ高い位置に持ってきて急いで巻いたが間に合わなかった。前方の潮目の手前に根があるようで、そこに仕掛けが触れたらしく、2号ハリスが悲鳴を上げてとんだ。カーッと頭に血が上った。おのれっ、頭に来たぞ。よしっ、瀬変わりはやめだ。ここで勝負してやる。さっきと同じ地点の潮目に仕掛けを入れて、午前9時半から10時半にかけて3枚のクロをゲットし、合計5枚となった。不思議なことに、自分が魚をかけている時、向こうの松島の釣り師も魚をかけている。また、向こうの釣り師が魚をかけたときこっちも釣れた。やはり潮だ。潮が魚が喰うスイッチをつけたり消したりしているようだ。そうこうしているうちに、永福丸がやってきた。状況を聞きにきたのと瀬変わりを

あーあ 瀬変わりすればよかったかなあ

行うためだ。時計を見ると午前10時40分をまわっていた。今のところ釣れたのは5枚。これから干潮に向けてどうなるのか全く予想がつかない。釣れなくなるかもしれないし、これから爆釣ということもあり得る。10名しかいない中でここに下ろしたということはここはA級ポイントということだし。実に微妙な状況だ。「瀬変わりしますかあ。」うーん、迷って決めきれない。もう一度、ポーターらしきおじさんが声をかける。「瀬変わりしますうっ。」ええいっ、やはり変えてみよう。手をあげて瀬変わりの意思を伝えたつもりだった。ところが、船はどうやらここでいいと判断したようで、隣の松島の客に向かっていった。松島の客はここでいいという選択らしい。

船は、立髪方面へと去っていった。あーあ、瀬変わりすればよかったかなあ。もう後悔しても遅い。後は、納竿までここで全力を尽くすしかない。ところが、あにはからんや永福丸が去っていった後、釣り師の希望的観測とは裏腹に魚の食いがぴたっとなくなってしまった。午前11時をまわったが状況に変化なし。餌盗りの活性は相変わらずで元気だ。11時代に釣れたのは、3枚のイスズミとタカベ1枚だけだった。気持ちは焦る。焦るとちょっとしたことで道糸が竿の穂先に絡み、あわてて修復していると今度はウキと糸が絡む。うまくいかないときはこんなものだ。

日は益々高くなり12時をまわった。何とかしなくちゃ。すると、再び左前方に潮目発見。すかさず仕掛けを入れた。すると意外にも久しぶりの当たりが来た。するどく合わせを入れる。ぎゅーんと乗った。今度はあまり引かない。33,4cmくらいか。慎重に竿の力で振りあげた。久しぶりだな。これでやっと6枚目。さっきの潮目は正面の20メートル先で右の潮が走っていた地点まで続くようになった。干潮の潮止まりらしい。これから潮の流れが変わることが予想された。潮が変わる時、結構魚が喰ってくるものだ。餌盗りも沖へと出ていかなくなった。チャンスだ。手前に間断なく撒いていたエサが沖でたまって潮目になっているようだ。とその時、再び潮目でウキがゆっくり消し込まれていった。合わせると今度も本命の引きらしい。数度の締め込みに耐えて浮いてきた魚は、まるまると太った甑サイズの口太。大事に玉網に入れてゲット。今日一番のサイズで42cm、1.4kgだった。口元にかかっていたはずの競技ヴィトム4号のハリがはずれていてひやりとさせられた。


結構引いた 乗っ込みグレ

やはりこの時期は、潮が走るところよりも潮の緩い潮目ができるような所にいるね。寒グロ攻略のセオリーの一つが見事に検証されたことになる。これで、7枚目。目標まであと3枚。時計は12時20分過ぎ。ところが、干潮を過ぎたらしく、潮が当たってくるようになった。遠投しても仕掛けがみるみるうちに手前に戻ってくる。これじゃあ、餌盗りのえじきじゃあ、と思いきやエサは盗られない。おやっ、餌盗りはどうしたんだろう。そう考えていると、手前に戻ってきた仕掛けがゆっくりしもっていった。おやっ、当たりかも。合わせるとギューン。クロを1枚追加し8枚目。時計は午後1時をすこしまわったところ。今がチャンスだ。しかし、おっつけ潮が速くなってきた。遠投した仕掛けが瀬際まで戻ってきたので、回収しようとリールを巻き始めるとギューン。クロがあまがみしていたらしい。難なく浮かせて、玉網をかける。これで9枚目、あと1枚で目標達成だ。午後2時回収だから、15分前にはやめなくちゃ。手前に潮がおっつけてくることから、仕掛けを遠投して手前に来たとき喰わせるというパターンを見つけた。時間がない。午後1時40分、もう最後の1投だ。うまいことにウキがゆっくりと消し込まれていった。最後のチャンスとあわせるとやはりぎゅーん。ところが相手が一枚上手。ウキが消し込むのを待ちすぎたのか手前の根に触れ、仕掛けがとんだ。がっくり。これは、納竿しなさいというサインと解し、磯の掃除をして、道具を片づけた。


ありがとう中ノ瀬戸

回収の時、みんなのクーラーを持った。どれも結構重かった。阿久根港に帰り、2桁釣った人が多く、赤崎のダンガイ鼻にのった釣り師は、「60枚まで数えていたけどね。」とおびただしい数のクロが詰め込まれているクーラーを見せてくれた。やはり、惨敗だったか。普通なら9枚釣れれば好釣なのだが、この時期の瀬々野浦を考えると惨敗に近い内容だった。しかし、潮目を釣る、ねらって釣るという醍醐味は充分に味わえたので、よしとしよう。何か瀬々野浦に宿題をたくさんおいてきたように感じた。いつまで、クロは釣れ続けるのだろう。もし、行けたらもう一度勝負させてくれないかな。そんなことを考えながら、阿久根の港を後にした。

今回の釣果(クロ 42cm〜34cm 9枚)


TOP BACK