3/21 最後にはあきらめろ 下甑瀬々野浦

3月4回目の釣行を迎えた。三寒四温のこの時期に時化に見舞われることなく磯にあがれるのは本当にラッキーだったと思う。久しぶりにuenoさんとの釣行だ。行き先は、寒グロ絶好調だった瀬々野浦、第2永福丸。uenoさんは2月12日以来の釣行。この日を指折り数えて待っていたらしい。モチベーションは最高だ。私は前日にチヌ釣りに行っており、モチベーションは最低だ。寒グロ絶好調だが、時はすでに春。産卵にはいっている春メジナという強敵が相手だ。クロは、産卵の時期になると極端に警戒心が強くなる。子孫を残すために生きている生物だから当然だ。いくら寒グロ絶好調とはいえ、この時期はかなりの食い渋りが予想される。しかし、前回の釣行で最後まで決して諦めない大切さを学んだ。今回もそのことを忘れずにいきたいと思う。

3月21日若潮。午前0時50分頃人吉を出発。国道3号線を南へ下り、永福丸が待つ阿久根港に到着した。30分前に到着したのにすでに16人もの釣り客がいた。荷物を運んでいる人あり、談笑している人あり、行動はそれぞれだがみんな思いは同じ、1匹の魚に向かっている。釣り師が吸っているタバコは岸壁にともるホタルのように揺れている。空を見上げると鮮やかな少しふくらんだ半月が優しく釣り師を見守っている。予報は快晴、べた凪、微風と釣り日和だが、サラシがある程度ないと苦戦するのではと若干不安もある。午前3時半、18名の釣り客を乗せた永福丸はゆっくりと港を離れた。100分ほどの船旅の後エンジン音が緩やかになってきた。最初の渡礁が始まった。べた凪だから北のエリアからと予想していた通り、前回の瀬々野浦と同じ、大カブ瀬から中瀬戸、松島、黒髪と釣り客を降ろしていく。更に船は進んだ。遠くにナポレオンが見えてきた。一昨年の5月に来ていい思いをしたエリアに来た。2人を下ろした後、その隣の磯に乗せられた。磯の名前は「カミアイ」狭い釣り座だ。足場も悪い。夜が明けるまでおとなしくしていた方が無難なようだ。


瀬々野浦の北エリア ナポレオンがやせて見える

朝が来た。明るくなってきたのでまず磯の全体像をつかむ作業に入った。釣り座の一番先端のところから下は浅い根がウサギの鼻のように沖に向かって走っていて、その根の右側と左側が深くなっている。その浅い根の際から時々顔を見せてくれるメジナを引っ張り出すということになりそうだ。次に撒き餌づくりに入った。オキアミ生2角を細かく砕き、パン粉1kg、V9を1袋、グレαを1袋を海水と混ぜ合わせ柔らかめに仕上げた。竿は強豪2号のアウトガイド、道糸2.5号にハリス2号の直結。ウキは食い渋りを予想して釣研トーナメント弾丸0号をスルスルにして三原水中−0号を1ヒロ半のところで固定した。仕掛けを作りながら少量ずつ間断なく撒き餌を続けた。鼻の先端の右側をuenoさん左側を私が入った。

午前6時半頃不安の第1投。エサは盗られない。5投ほどするとエサが盗られ始めた。偏光グラスで注意深く海の中を覗くといるはいるは餌取り軍団が。ハタンポ、スズメダイ、細長いのはタカベのようだった。餌取りがいると実はホッとするのだが、今日のえさとりは違う。中々撒きエサを口にしないようだ。餌取り動きが今一活発でない。いつも魚の状況は餌取りの動きで判断するのだが、今回は現時点で早くも苦戦が予想できていた。7時半頃になると、餌取りの動きが活発になってきた。エサが時折盗られるようになってきた。餌取りの動きが今一歩なのはメジナが寄っている可能性が高いのでは。潮は緩やかに当たってきているようで鼻の右側は反転して沖へ、左側の私の方もやはり反転して左へ払い出しているようだった。その反転流に乗せて1ヒロ半から2ヒロ、3ヒロとメジナが食うタナを見つけようと必死で探り続けた。

午前8時をまわった頃「うおっー。」と隣でいきなりuenoさんが魚とのやり取りを始めている。1.7号の竿をかなり絞り込んでいる。メジナかどうかわからないが大型であることは間違いない。様子を覗きに行こうと近づく間もなくバラシ。「太かったバイ。」竿を叩かなかったし、あまり深いタナに入れていないようだったのでメジナの可能性大である。これはチャンスかも。さっきより気合いを入れて釣り始めた。魚が喰いそうな仕掛けの馴染み方だし、丁度いい潮の走り方だし、魚の気配もある。反転流はやがて左からの潮に引かれる潮となっていた。その地点の海面に泡ができはじめた。潮目発見。そこに集中的に仕掛けを入れた。ところが、クッション水中の動きで魚がエサを喰っているのはわかったのだが、はっきりとウキに反応が出ない。首をかしげながら仕掛けを打ち返していると、「うおーっ」と再びuenoさんの雄叫びが。魚とのやり取りを始めていた。かなりのトルクだ。一度瀬際に突っ込んだ奴は左側へと向きを変え、私の足下へとつっこみ始めた。1.7号の竿が容赦なく曲がっている。左へのつっこみを何とか耐えきったuenoさん。奴は観念したのか瀬際にぬうっと姿を見せた。でかい!クロだ。私が玉網をかけてあげた。


カミアイの釣り座

あがってきた魚は、見事なデカ版の口太グロ。帰ってから検量したら1.8kgあったそうだ。uenoさん記録更新。おめでとう。uenoさんの話によるとウキが消し込んだのではなく、もぞもぞと小さなあたりがあり、もしかするととリールを巻き始めると喰ってきたそうだ。uenoさんに喰ってきたということは、時合いだ。チャンス到来!毛穴からアドレナリンを噴出させながら、潮目をねらい続けた。しかし、相変わらず魚の気配はあるもののウキが3月の初め頃みたいに消し込まない。わずかにウキを押さえて、はいおしまいだ。この状況どこかで経験したことがあるぞ。思い出した。

2002年のメジナ最悪シーズンでの上甑の里。野島で喰い渋ったグレをなすすべなく1匹あげたのみで引き上げたことを。また、同年2月に再び上甑里の獅子の口地磯3番でも同じくウキをほんのわずかに押さえ込む相手に打つ手なく惨敗したことを。ドングリウキでは一番信頼を寄せている仕掛けなのに食い込まないならこの仕掛けでいくらやり続けても仕方がない。私は自分の持っているウキの中で最も感度のいいアイテムをチョイスした。今釣り雑誌でも話題になっている遠矢グレである。


食い渋りの窮地を救った遠矢グレ

これはクロ釣りの最近の常識を打ち破りチヌ釣りで使うような棒ウキタイプとなっている。チヌ釣り師であるマルキューのインストラクターの遠矢国利さんが開発したものだ。潮のり、感度とも抜群で、餌取りのわずかな当たりさえも拾ってくれる。ヘラブナ釣りをヒントにウキの一目盛りを押さえ込む前当たりを本当たりと考え掛け合わせるのだ。今日はべた凪だし、風も弱いことから、棒ウキを使うのに適している。いよいよここで最終兵器登場ということだ。遠矢ウキ小00号を選択し、1ヒロのところにウキゴムをセットし、そこからつけエサだけの重さで全遊動でゆっくりと馴染ませていくのだ。ハリスにガン玉は打たない。

さあ仕切り直しだ。さっき狙っていたところへ仕掛けを流していった。注意深くウキの目盛りを見ていると、3投目にわずかにウキを押さえ込む当たりが出た。今だ!竿をするどくたてて合わせを入れた。ギューンと気持ちよく強豪2号が弧を描いている。一直線に瀬際に突っ込む引きは紛れもなくクロと確信した。ところがこの魚かなり引きが強く3度目のつっこみで先端の浅い根にハリスが当たった。やばい!竿を寝かせて魚を左側へ引き寄せた。ばしゃばしゃと水面に姿を現したのは、灰青色の愛くるしいクロちゃんだった。浮かせればこっちのもの。なんなく玉網をかけて魚を確認した。ハリスがやはり根に触れていたらしく、ざりざり傷ついていた。ばらすところだった。あぶないあぶない。700gのエメラルドグリーンの瞳を持つ恋人を見つめながらほっと胸をなで下ろした。

ハリスを新しいのに変えて仕掛けを入れた。今度も当たりを拾った。上がってきた魚はスズメダイ。うーん、スズメダイが共存しているということは、メジナの数があまり多くはないんだな。今のうちに釣っておかなくちゃ。またまた、潮と潮との合流地点を遠矢ウキで探っていると、ウキをトップがわずかに押さえ込まれる。瞬間合わせを入れると、2回目の本命ギューンだ。あがってきた魚はさっきより若干小ぶりの600gの口太ちゃん。これで2枚目。しかし、ここのクロは小さいのに引くなあ。競技ヴィトム4号が見事にクロの上あごを捉えていた。パターンをつかんだぞ。潮が変わらないうちに釣らなくちゃ。掛け合わせの妙を味わった私は更なる獲物を求めて仕掛けを入れ続けた。

その10分後再びウキを何者かがわずかに押さえ込んだ。合わせるとはやりギューンと気持ちよく竿を曲げてくれる。今度も間違いなくクロだ。2号竿にものをいわせて浮かせにかかった途端、2次方程式の放物線は一瞬のうちに1時方程式の直線へと変わった。久しぶりのバラシ!なんでえ。ハリがすっぽ抜けていた。地合到来であわてていたのか、ハリが良く結ばれていなかったようだ。ガックリ!食い渋りのわずかなチャンスをものにできなかった釣り師に当然のごとく試練が待ち受けていた。そのバラシを最後にメジナの魚信はまったく途絶えてしまった。「潮が変わったバイ。」と私の左隣の釣り座へとuenoさんはやってきたが、彼も1.8kgの魚以来何の音沙汰もないようで、早くも瀬変わりに強く心を動かされているようだった。午前9時半をまわったころ早くも永福丸が見回りにやってきた。「瀬変わりしますかあ。」今回は迷うことなく二つ返事で「はーい!」私らを含めて瀬変わりは9人。状況は芳しくないようだ。船は瀬々野浦港方面へと進んでいる。

一人目はナポレオンの先端部分に乗せた。続いて水道側に1人、反対側のヘタのウマ瀬に1人。更に船は黒瀬に2人、タテビラ瀬の裏に2人。最後に我々2人は鷹の巣のハナレに乗せられた。「反対側を釣ってください。」とアドバイスをもらった。ここは防波堤のように釣り座が高く平らで、所々にピトンの跡がある。石鯛師の戦いの足跡が見て取れる。時計を見ると午前10時過ぎ。ここで気分を新たに釣りを再開した。風が出てきた。上野さんはサラシが出ている南側の釣り座を、私は船長の言うとおりに北側の釣り座を選びトライ。ここは300度の方向海に面していて、釣り座は広いのだが、サラシもあまりなくクロがかくれるところが見あたらない。産卵を間近に控えているクロにとってここはあまり魅力ある場所とは思えない。撒き餌をすると餌取り魚が群がってきた。スズメダイ、イスズミ、タカベ、そして、やや細長いタカベに似た魚たちがいる。

しかし、あまりエサを積極的に追ってはいないようだ。潮はふらふらしてはっきりしない。はっきり言ってここは期待薄だ。uenoさんと私でかわるがわる「釣れんなあ」「釣れんですね」と言葉を掛け合う。陽が高くなり、ますますクロの望みは消えていった。釣れたのはタカベ3枚のみ。クロがいるとしてもこの状況では絶対に浅いタナにはいないなと感じた私は、仕掛けを釣研全遊動XD0号をスルスルにしてゆっくり深く探っていった。潮が沖へと走り出したので、先端に近い方へと釣り座を移し、竿1本半くらいでもぞもぞとした前当たりの後、ゆっくりとウキが消し込まれていった。本日初めての本命らしきウキの消し込みに慎重に合わせると竿にのってきた。ばしゃばしゃと浮いてきたのは、小ぶりのイサキくんだった。振りあげようとするとバラシ。ガックリ!しかし、イサキはおみやげには最高だ。潮も走り出したことだし、クロ釣りは諦めて、深いタナに入れてイサキを狙うことにした。

その数投後、同じようなウキの消し込みで合わせると、イサキが浮いてきた。振りあげるとuenoさんが気づいた。「イサキかよかなあ。」イサキがたいそうお気に入りのuenoさんはウキを3Bの重い仕掛けに変え沖へと流し始め3匹のイサキを釣っていく。2人ともいつの間にかクロ釣りを諦めイサキ釣り師に変貌していた。しかし、イサキの時合も短く潮も北向きに曲がるようになりあえなくジ・エンド。回収の船が来る30分前には納竿とした


さようなら 鷹の巣 沖向きのハナレが釣り座

今日はタテビラ瀬の南側で10枚というのが目立った釣果であとはボウズか2〜3枚の釣果に終わった。我々の腕も未熟だったが、潮の流れも芳しくなく、季節的にも口太の多くが産休に入ってしまったように感じた。産休に入った魚をノスタルジックにいつまでも追いかけてはいけない。世界には四季というものがあるんだから、その自然の摂理に従って釣りをしなければならない。つまりは、最後にはあきらめることの大切さを今日の釣行では学んだような気がする。ああ、4月からは新しい体制で仕事も始まる。しばらくは釣りに行けなくなるねとつぶやきながら下甑の雄大な縞模様の山々を眺めながらノスタルジックな思いをひきずり瀬々野浦を後にした。


uenoさんの釣果 1.8kgのクロとイサキ3枚


今回の釣果 クロ2枚 イサキ1枚 タカベ3枚


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