5/21 勝負所を見極めろ 硫黄島

釣りは潮流などの自然条件に大きく左右される。いやそれがほぼすべてと言っていいのではないか。ここ数年釣りに没頭していると鈍感な私でさえ潮流という条件がいかに大切であるかがわかってくる。どんなA級ポイントでも潮がいかなきゃただの磯場だ。この潮流という自然条件を利用して世の中が変わった時代がかつてあったそうだ。時は平安時代末期、源平の戦いが繰り広げられていた頃である。一ノ谷の合戦で敗れた平家は巻き返しを狙って得意の水軍戦で源氏を迎えうつことになった。舞台は瀬戸内海。以前からそこで勢力をふるっていた村上水軍。その影響もあって平家は水上戦では絶対の自信を持っていた。迎え撃つ源氏の指導者はご存じ義経。戦略家としてはまれに見る才能を見せていた彼はここでも実力を発揮する。まず、始めに彼は決戦の舞台となるであろう瀬戸内海の潮流を地元の漁師から聴いて徹底的に調べた。そして、次のような作戦をとったそうだ。瀬戸内海は関門海峡から流れてくる上げ潮と関西方面から来る下げ潮とがあり、その潮流を巧みに利用した。上げ潮にのってやってくる平家の水軍をあまり攻撃をせずに耐え、下げ潮になる時間を見計らって一気に攻撃にでるのだ。また、義経は当時としてはタブーとされていた船頭を狙う作戦を部下の隅々まで徹底させた。作戦通り、舵取りを失った平家は統率を失ってあっという間に屋島の地で決定的な敗戦をくらったのだ。平和になった今でも海に生きる男たちにとって潮流を読むことは生きていくために必要不可欠なことなのだ。諫早湾の干拓で潮流が変わるのは、またそのことで海の生き物がかなりの影響を受けるのは当たり前なのだが、机の上だけで仕事をする方々の考えはまったくわからないことだらけだ。

さて、昨年同様、4,5,6月は大変忙しい。今年は選挙がないだけ少しはましだが、相変わらず帰宅は午後10時〜12時。土日は動員に会議づくし。何とか4/29は釣りができたが、赤潮で惨敗。5月の大型連休は家族でエンジョイ。何とか釣りが出来る日はないものか考えに考えた。あった、5月21日の昼から翌日にかけては何とか体を空けることが出来た。uenoさんはPTA行事があるということで今回は不参加。日曜日は家族と一緒に過ごせるように、今回は夜釣りをすることにした。さて問題はいつものようにどの釣り場を選ぶかということだ。まずは去年のこの時期に大アジが良く釣れていた門川。イクイバエあたりでは今年も良く釣れているようだが、客が多くて大変らしい。川内沖の鴨の瀬のイサキ狙いも考えたが釣り方で随分釣果に差が出ると聞く。そこで、釣果が安定しているだけでなく、夜釣りの条件である足場が良くて釣りやすい釣り場に決めた。水島に渡してくれる第八喜代丸に電話した。「ここんところ時化で夜釣りはのせちょらんとよ。のれればクーラー満タン釣れるとやがね。」冬場は安定しているこの海域も春は東っ気の風で荒れ気味のようだ。また、海況が安定している瀬々野浦の永福丸は7月から夜釣りを始めるそうだ。

うーん、どうしよう。р終えて空を見上げるとある考えが頭に浮かんだ。もしかすると硫黄島はもう夜釣りをしているかも。実は6月の終わりに硫黄島へ夜釣りと考えていたのだが、かあちゃんの集団宿泊の引率でオジャンに。未だ夜釣りの時期には早いかもしれないが、5月の中旬には都井あたりでシブダイ第1号が上がったこともあり、もしかするとと黒潮丸に電話した。「実はね、21日からの夜釣りで出る予定があるよ。試し釣りだけどね。先週ね、夜釣りで5kgのアカジョウやらシブやら釣れたよ。」「釣れたのは鵜瀬ですか?」「いいや、うねりがあったから立神だよ。」相変わらずの船長の意気込みにすっかりやる気モードに変わる自分がいた。「撒き餌ののトロ箱一つとサンマを半分ね。」と一気に予約してしまった。今回は釣れなくても今年の夜釣りシーズンをうらなうことにしよう。さて、次にすることは天気予報に一喜一憂する日々を過ごすことだが、例年のこの時期には珍しく晴れマークが続いていた。五月雨はどこへ行ったやら。月曜日に雨が降った後、ずっと晴れの日が続いていた。シブダイなどの夏の夜釣りの対象魚は昼間に晴天が続いた後に釣れることが多い。条件は整ってきた。ただ心配は、21日の昼までは晴れマークだが、その後、夜から翌日の22日にかけては気圧の谷が九州を通り過ぎるということだった。

微妙な情勢に心配しながら前日の昼過ぎに確認の電話を入れた。「出ますよ。kamataさんは2時半までに来れるといいましたよね。」ドキッ。実は、21日の午前中は、国語のサークルの研究会で八代教育会館で12時まで学習会なのだ。午後2時半までには何としても枕崎港まで行かなければならない。思案の結果、サークルの学習会を申し訳ないが途中の11時過ぎまでに切り上げて枕崎へ向かうことにした。べつ急いだわけでもないが、午後2時過ぎに枕崎港に到着。「早かったなあ。」と船長から労いのことば。今日の客は何と私を含め15名。夜釣りには明らかに早い時期なのに、これだけの釣り師が集まってくるということは、やはり硫黄島ブランドというほかない。客は少ないだろうと予想していた私は少々拍子抜け。「でもまあ、釣りが出来るということで御の字にしよう。」そう考えながら、荷物を船に乗せ、船のキャビンにごろりと横になった。午後3時4分に黒潮丸は枕崎港を後にした。

予想通りの凪で思った通り揺れない船内で仕掛けについて作戦を練っていたらあっという間にエンジン音がゆるんでいよいよ瀬付けに入った。例によって、超A級ポイントの鵜瀬からだ。しかし、予想に反して、鵜瀬にはハナレに1人、鵜瀬本島に1人しか乗せなかった。最も実績の高い鵜瀬なのに2人しかのせないのは何でだろうと考えていると、「kamataさん準備して。」と声がかかった。ライフジャケットを装着し船外へ出ようとすると、船長が声を再びかけてきた。「kamataさん、平瀬と地磯のタジロの隣とどっちがいいですか。」泉船長は可能な限り客の要望に応えようとする懐の深い船長だ。「この前もタジロにのって良かったよね。タジロは先客がいてその横になら空いているからその地磯の方へ乗せてあげようか。」やはり、ここは船長の意見従うかと、こう返した。「ぼくはふかせなんですけど。」船長はちょっと驚いたようだった。「ブッコミじゃないの?」すると、まわりからアドバイスが相次いだ。「フカセなら、平瀬の方がいいんじゃないの?潮も通すから、潮にのせて流していけばいいから。」

2,3人のおっさんからこんなアドバイスをもらったら思わず考えてしまうではないですか。しかし、他の客が釣れまいが関係ないはずなのに、みんな何と暖かいお方だろう。自分のことのように心配してくれる。さすがに見えない糸で結ばれた釣り師たちの絆はとても深い。みんなに感謝しながら、船長に「平瀬に変えてもらってもいいですか?」快くうなずいてくれた船長。ありがたや。かくして、私は昨年に初めてワカナを釣らせてもらった平瀬に降り立つことになった。早やかに渡礁を済ませて船長のアドバイスに耳を傾けた。「大潮だから潮が速いからね。船のところに撒き餌をして。ちょっとでもこっち(左側の本流)にうてば、全部流れて行ってしまうからね。下げに変わったら、直接撒き餌をかぶせてもいいから。荷物は先の高いところに置いといてよ。6時に回収します。」わかったと右手を挙げて船長のアドバイスに応えた。磯場に降り立ったのはもうすぐ午後5時になろうとするころだった。相変わらず噴煙をあげる硫黄島が眼前に広がっている。「久しぶりだね。」と硫黄島に挨拶。左へ目を向けると新島に鵜瀬、そして遠くに竹島が見える。右に目を向けると遠くに黒島がぼんやりと見える。黒島をバックに黒潮丸が今正に平瀬の反対側の先端に2人の釣り師を乗せようとしていた。魚の宝庫でもあるがこのロケーションもすばらしい。釣りをしない人にとっては、ただの離島だろうが、釣り師にとっては、夢舞台なのだ。

さて、最初に行うのは、夜釣りに備えて磯の全体像をつかむ作業だ。奥の高いところに荷物を置いて、そこから磯全体を見回した。去年一度乗ったことがあるので、すぐに釣り座は船付けのところに決めた。今日は大潮の初日。満潮が午後6時頃。平瀬のあるこの一帯は潮通しがよく、シズミ瀬も複雑に点在しているため複雑な潮流となっている。今は午後5時前。平瀬の先端をかすめて川のような激流が流れていた。ほれぼれするような潮だ。しかし、潮の方向が悪い。平瀬のワンド方面へつっかけ気味に流れている。さあ、釣るぞ。夜釣りの仕掛けを作り終えた後、最近新調したがまかつのアテンダー2号のテストを行うため、この季節とても元気であろうイスズミ君に協力願うことにした。本当は今回のために、石鯛竿と両軸リールを新調するはずだった。でも、前回の手打のウスバ君のおかげで愛するプロデュース強豪を折られたため、石鯛竿がアテンダーに化けてしまったのだ。こっそり持ち込んだオキアミボイルを足下に撒き、第1投。激流にのせてみた。すると、仕掛けが馴染むか馴染まないかの時いきなり竿引きで当たりがきた。竿を小刻みに叩きながら足下に突っ込む引きは紛れもないイス君だった。

水中からギラリと存在感を見せた後、800グラムほどのイスがあっという間に浮いてきた。「お父さん、釣りは道具でするものではないよ。」とうちのかあちゃんから言われていたが、でも、使ってみてわかるこの使い良さ。イスズミをあっという間に浮かせるこの竿のパワーはすごい。3連続で同サイズのイス君を釣りあげた後、今度はハリスにガン玉をたして、ウキごと沈めてもう少し深いタナを探ろうとした。またもや竿引きの当たり。今度のは太いぞ。数度の締め込みを竿の弾力と4号ハリスにものをいわせて浮かせると、今度も1.5kgのイスだった。竿先を下に向けてオートリリース潮の緩いところでも結果は同じ。いつの間にか釣り座付近はイスまみれになってしまった。ロッドのテストも飽きたので、夜釣りの準備をすることにした。イワシやキビナゴの冷凍のトロ箱が今回の撒き餌だ。半分は細かく刻んでいく。そして、つけエサは同じく冷凍サンマ。そのまま焼いて食べたくなるほど鮮度が良さそうだ。ぶつ切りにしてエサの下ごしらえ準備完了。竿は夜釣りバージョンダイワのブレイゾン遠投5号、道糸10号にハリス10号。ウキは激流に備えて3号の電気浮き。ハリはマダイバリ11号。ウキ下は3ヒロから始めた。いよいよ、期待の第1投だ。緊張感が全身を駆けめぐる。白夜のようにどんよりとした夕闇に電気浮きの赤い光が灯った。

夜釣りではまずは日が落ちてから数時間が勝負。このチャンスタイムを逃してなるかと真剣モードで釣り始めた。3ヒロではエサが盗られないので、ウキ下を竿1本に設定。うまいことに潮が緩んできた。すると、エサが盗られ始めた。当たりはあるものの2枚潮で、また、おそらく魚が小さくてハリ掛かりには至らない。そうこうしているうちに下げ潮に変わり、本命潮とは反対に流れ出した。8時頃ようやく最初の訪問客が。イスである。40cmクラス。9時頃、イットウダイ科の小魚が釣れた以降、潮がほとんど動かずに何の当たりがないまま11時過ぎの干潮を迎えた。ウキを1号に変え、ウキ下も竿2本弱まで深くしていた。あーあ、やはりフカセでは惨敗かな。平瀬の向こう側の先端にいる2人は2、3枚は何か釣れている模様。

疲れたことだし、そろそろ休憩しようかなと弱気になっている自分がいた。これまでの経験から真夜中に釣れたことはほとんどなかったからだ。ところが、赤い閃光を見つめていると、わずかであるが潮に変化が起こった。上げ潮に変わったようで、ウキが夕まずめと同じ向きに流れている。しかも、今度はワンドに当たり気味ではなく、硫黄島本島との水道へと緩やかに流れ始めた。ルミコの動きからも底潮も良く動いているようだ。いよいよここが勝負所だな。

義経ではないが、このチャンスを逃がすものか。夜中という最も釣れない時間帯を迎え弱気になった心に鞭打って仕掛けを流していると、電気浮きが揺れる波紋を残して明らかにそれとわかる速度で消し込んでいった。するどく合わせを入れると、ぐーんと久しぶりに強い引きが待っていてくれた。2回ほど突っ込んでからやつは観念して浮いた。夜だから一体何が釣れたのか全くわからない。2kg弱くらいに感じたので、大丈夫と、振りあげた。ピチピチ跳ねてる魚にライトを当ててずっこけた。2kg近いデカバンイスだった。今度こそ本命だったと思ったのに。しかし、潮はいい感じで流れている。気を取り直して、ウキ下を30cm程深くしほぼ同じところを攻めた。2連続でもぞもぞと前当たりの後、ウキがさっきより早い速度で消し込まれていった。道糸が走り合わせると、さっきより引かないし、あっさり浮いてしまった。また、イスか。振りあげて魚を確認すると、予想だにしなかった魚が跳ねてた。本命のシブダイだったのだ。思わず暗闇の中、喜びを伝える相手もいないのに1人で「やったー」と叫んでしまった。黄金に輝く魚体はアマゾンの黄金色の魚ドラドに匹敵する妖艶な光を放っていた。900gの美しい魚体をカメラに納め、時計を見ると夜中の12時過ぎ。やっとで訪れたチャンス逃すものか。それから、1時間の間に、800gと1kgのシブダイを釣り上げ合計3枚となったところで、潮がまた止まってしまった。2回ほど大きなバラシをやらかしちゃったけどね。魚からの反応がなくなると今度は、天からの洗礼を受けた。いつの間にか降り出した雨が、横なぐりとなり、時折突風を伴った南風が激しく吹き付けてきたのだ。それに伴って波が満潮間近となって釣り座がだんだん洗われるようになってきた。やばい、上の方に避難したが、これでは今までの釣り座では釣りが困難と判断。おみやげはできたことだし、もう十分。早々と竿をたたみ、5時半ごろ黒潮丸に迎えに来てもらうことにした。

港へ帰って今日の釣りを振り返ることにした。というのも、平瀬を選んだことが正しかったのかを検証しなければならないからだ。枕崎港へ到着し、まず、小柄なおっさんがいきなりクーラーをあけた。驚いた。周りの釣り師もぞくぞくと集まってきた。初めて見る光景だった。デカクーラーに何と最大で5kgはあろうかというタバメが5匹ほど御用となっていたからだ。更に、3kg超のクロホシフエダイに、2キロクラスのシブダイが3枚。「こいつが喰ったときは竿が立たんやったよ。」と、5kgのタバメを指さしておっさんは高笑い。いったいどこでこんな釣果が出たんだ。タイミング良く黒潮丸泉船長が口を挟んだ。「kamataさんやっぱりブッコミが一番だよ。」「これはどこで釣れたんですか。」「タジロ。」えっ、私が選ばなかった瀬の隣だった。「フカセだとでかいのが来たらとれんでしょ。見てよ。みんなワイヤーハリスだよ。」確かに、これだけ頑丈一点張りの仕掛けなら取れるはずだ。他の釣り師もみんなブッコミなので釣果に差はあったものの魚の型はどれも良かった。と同時に自分のクーラーをあけられるのがこわくなってきた。「kamataさんどうやった。」予想通り泉船長が私のクーラーを開けた。やばい。イグロクーラーに入るには申し訳ないサイズの3枚のシブを見て、「おみやげにはなったわな。」と評価を下した。フカセなのに釣れているのが意外だったらしい。釣り師の猛釣果を目の当たりにして、瀬の選択ではなく、仕掛けの選択のミスであるということがわかった。次の釣行では本格的にブッコミをやるぞと心に誓い、釣り人のロマンを叶える基地枕崎港を後にしたのだった。


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