8/22 高水温時の釣りとは 硫黄島

「あっ、kamataさん?あのね、明日はやめときますわ。予報ではね、1.5メートル(波高)いうとるんですがね。今、枕崎ではかなり時化とるんですよ。台風も近づいとるしね。残念ですがまたお願いしますわ。」やっぱり。溜息をつきながら携帯の電源を切った。黒潮丸泉船長の言葉で私とuenoさんはいよいよ追い込まれてしまった。2005年のシブねらいの夜釣りシーズンに入り、8/2の時化によって渡礁場所が限られなすすべもなく惨敗を食らった前回のリベンジにと夏期休業中の最後の休みに命運をかけたのだが。20日(土)の朝刊で発見した台風11号は信じられない高い位置で発生していた。翌21日には台湾と同じ緯度にくるという予報だった。今までの経験からして、台風がこの緯度にくれば大抵の沖磯には渡れない。ましてや、離島の夜釣りという条件からして、今回の硫黄島釣行の欠航は当然ともいえる決定だった。「秋目の興神丸は明日の8時に電話してくれ、やけん明日の朝まで待つしかないよ。」uenoさんはまだ希望をもっているようだった。というのも8月中旬に息子さんと秋目の夜釣りでかご釣りでのイサキの2桁釣りといううらやましい釣果をたたき出していることがその理由だろう。しかし、私はどこかさめていて湾内の筏釣りに切り替えようとしていた。

朝がきた。uenoさんからの連絡を待っていると、携帯がなった。何と黒潮丸からだ。「あっ、kamataさん?昨日は中止て言ったんですけど、今日でれるようになりました。今、海はべた凪なんですわ。台風も速度が遅くてね、夜釣りも大丈夫です。もしかしてほかのところに行く予定があるならしかたないけど、もしなかったらどうですか。後の3人もね、これから連絡してみますわ。最近油代が高いんでね、5人そろわないと出れないんですよ。」一度断られたら二度目はないと思っていたのに、何と表現したらいいのだろう。敗者復活のような気持ちでuenoさんへ連絡。でもよく考えてみると泉船長はとても親切だね。「22日に予約お願いします。」その日の予約は我々だけでふつうの船長なら「予約がないのででれませんわ。」となるはずだが、「わかりました。何とか出られるようにいろんなとこ電話かけて集めてみますわ。」こんな船長はまずいない。魚が釣れるだけではない、船長の人間性も硫黄島の人気を支えている重要なファクターではないだろうか。「今日は少ないから3時45分までに来てくださいな。」午前9時ごろ泉船長から連絡が入り崖っぷちのところで硫黄島行きが確定した。

午前11時半に人吉を出発。行きの車中でいつものように釣り談義に花が咲いた。uenoさんは最近かご釣りにこっていて、今回もかご釣りでいくという。ふつうかご釣りといえば遠投だが、uenoさんのかご釣りはちょっと変わっている。何と瀬際や竿1本先をねらうという。ふつうでは考えられないことだが、彼の話によるとこうである。前回の秋目の夜釣り釣行の時に、中々釣れないでると、いきなり19歳の息子さんの方が立て続けにイサキを釣りだしたというのだ。息子さんよりはベテランのはずの自分が釣れないのはなぜかと考えていると。息子さんは釣りの初心者だからこそ遠投することができずに仕掛けが近くにしか行かない。でもそのことが幸いして偶然にもそこが結果的にイサキの好ポイントだったというのだ。これは、かご釣り=遠投という釣り師の常識を覆す重要な出来事だった。uenoさんは息子さんの投げているポイントに仕掛けを入れるといきなり釣れだしたそうだ。また、誤って瀬際に落とした仕掛けがこの時期には本人も船長もびっくりの52cmの尾長をひきだしたそうだ。そのいいイメージが忘れられないuenoさんは今回もかご釣りでトライするそうだ。私は、オーソドックスにぶっ込みでの挑戦だ。何とか大きいお魚さんと出会いたいものだ。しかし、小泉首相の衆議院解散のおかげでこの8月22日を逃したら投票日の9月11日まで釣りに行けないところだったので、今回は釣りに行けるだけでもありがたいと考えることにしよう。

9月11日の選挙は今後の日本の方向を決める上で大変重要な選挙となる。郵政民営化の是非を問うというが日本の抱える課題はほかにもたくさんある。今日本は明らかにアメリカ型の弱肉強食の競争社会を目指して進んでいる。自己責任、民間でできることは民間で、人生いろいろなど総理の発言からもそのことが伺える。戦後長い間、日本は自民党政権の中で補助金など、所得の平等分配を行ってきた。その結果、首都圏にいようが地方に住もうがそれなりの生活が営まれるようになった。全国の小さな町にも郵便局、鉄道、電報電話局などがあり地域の住民は安心してそれらの公共サービスを受けることができた。それが、国鉄の民営化に始まり、NTTとできるたびに赤字路線廃止、小さな事業所は引き上げとなり、その結果、確実に地方の過疎化は加速した。700兆円にも及ぶ国の借金などがあり仕方がないとの見方もあるが、イラクには今だに巨額の税金を使って自衛隊を派遣してる現実を考えると、税金の運用の仕方にも問題ありそうだ。そこにメスを入れるのではなく、地方の弱者に痛みをというのが郵政民営化の本質ではないか。確かに経済が発展しなければ国の発展もないのもわかるが、そのやり方がどうなのかを考えなければならない。ユーロを中心とした経済を立ち上げ弱肉強食の競争社会から共存社会へと転換を果たしたヨーロッパの成功も日本は大いに参考にすべきではないか。郵政民営化を果たし、国民が安心して貯めておいた貯蓄を市場経済の中にはき出させ、そのお金を使ってもし失敗したら公的資金を使って救うという従来の手法が繰り返されることになるのは歴史に学べば容易に想像がつく。競争原理ですべての物事を片付けようとすれば、地方の零細企業はこれからどんどんつぶれていくだろう。船長の心意気で成り立っている渡船業界もそのあおりを受けるのはごめんだ。釣りというすばらしい世界を維持するためにも選挙にも取り組まなければならないし、釣りも楽しみたい。


さあ 行こう!夢舞台へ

そんな話をしながら、あっという間に枕崎港に1時間以上も前に到着。釣り具店に立ち寄り小物を買い、スーパーで餌にイカを購入。やがて、泉船長登場。「イカは買った?水温が高いからね。餌取りが多くて釣りにならんかもしれないから、これ使って。お金はいらないから。」船長が差し出してくれたのは、パック詰めの鰹の腹側だった。これを使わなければならないとは、今回はかなり厳しい釣りになりそうだ。

「サンマもね、私の親指の幅くらいに切って使って、餌取りが多いから頭の固いところを使うといいよ。」船長の親切なアドバイスを聞きながら、荷物を積み込み午後3時40分過ぎにいざ出発。前回は港を出るといきなりがっぱんがっぱん揺れ始めたが、今回はまったく大丈夫のようだ。時折船内から海をのぞくと、トビウオが縦横無尽に海面を滑っている。夏ならではの風景を楽しみながら、進行方向へ目を向けると、竹島が見えてきた。もうすぐだ。

今日は大潮。硫黄島沖磯周辺は激流が走ることが予想されるので、地磯に乗せてくれるという。凪ぎのためいつもより早く80分で硫黄島に到着。まず、鵜瀬の前で船を止めた。船長と3人組の二人とが話している。内容は船長が地磯を進めているのだが、客は釣り人憧れの鵜瀬でどうしても釣りがしたいということだった。打ち合わせ終了。船は鵜瀬に瀬付けを始めた。次に、船はいつものように西向きに舵を取り、進んだ。鵜瀬は硫黄島の北東側にあるのだが、船は北西側の地磯に近づいた。もう一人の人が断崖の壁のようなところに乗った。船長の言動からしてここが一番のおすすめポイントのようだった。「手前全部がポイント。何日か前は20枚釣れたよ。5キロくらいのアカジョウがいるからね。」今度は我々の番だ。「kamataさん、タジロが希望だったよね。でもあそこは全体的に小さいでしょう。おすすめのポイントがあるけど、最近、17枚つれたところだけど、そっちの方がいいと思うけど。」海のことを一番よくわかっているのは船長だ。「よろしくお願いします。」で商談成立。「釣れなかったらごめんなさいな。」そう言い残して船はエンジン全開。更に西向きに走り北西側に位置する地磯に瀬付けを始めた。


夏限定 大潮時A級ポイント 北のタナ

瀬の名は「北のタナ」。シブの魚影が濃く、大潮時には実績が高いとのこと。渡礁を完了すると、いつものように船長のアドバイスに注目。「そことそこに瀬が見えるでしょう。そして、そこに海溝が走っているからね。はじめはあたりがないかもしれないけど粘ってください。迎えは6時半ね。」満潮が午後9時半でまずは上げ潮を釣ることになる。ここは、上げ下げともに実績があるそうで、我々が希望していた「タジロ」は下げのポイントで、丁度下げの時間帯が魚の活性が落ちる夜中の時間になるため、船長が釣果を心配しての判断だったようだ。「北のタナ」は2段構造になっており、下の段は3メートル以上の干満の差のある大潮ということで被るため、上の段からの釣りとなる。

渡礁を済ませてすぐに異臭に気づかされた。臭いの先に目をやるとタイドプールにエイの死骸が強烈なアンモニア臭を放っていた。心ない釣り師の仕業にがっかりしながら、まずはその片付けから始めた。釣り座のすぐしたには海溝が走っており、ここがぶっ込みのポイントになりそうだ。水深は26、7メートルくらいか。今回の仕掛けは、石鯛竿に両軸リール、25号の中通しおもりで瀬ズレワイヤー37番、ワイヤーハリスを1mとり石鯛ハリを準備した。仕掛けを作っていると、突然上野さんの声が聞こえた。「でたああ」上野さんに近づいてみると、7、8キロはありそうなウミガメが悠々と泳いでいるのが見えた。今日は君たちと遊んでいる暇はないんだよと語りかけ、仕掛け作りに専念した。

まずは、餌のサンマをカットすることからはじめた。船長に言われたとおり斜めに3cm幅くらいにカット。今ならチルド状態なので切りやすい。ついでにスーパーで買ったイカも切った。さあ、準備OKと思ったら日はすでに沈んでしまって、夜の帳が降りようとしていた。始めは釣りができればいいやと思っていたが、せっかく来たんだから、何としても結果を出さなくては。8時頃まであたりがなかったが、9時前になるとあたりが出始めた。、uenoさんがかごでいきなり小さめのシブをゲット。竿2本先にある沈み瀬の周辺をねらっての釣果だった。いいなあ、uenoさん。こちらはいきなりのトラブルで補修中。その隙に、またuenoさんが今度は珍しいコロダイをゲット。ふつうの人はあまり釣らないような珍し魚を釣ることから「珍魚ヒットマン」と呼ばれてるuenoさんらしい釣果だった。

どうしよう、こちらはあたりはあるものの食い込みには至らず、40オーバーのオジサンと小キダカ(ウツボ)にしか会えないでいる。だんだん焦りが体を支配し始め、焦れば焦るほどトラブルにつながり、釣り具に当たり散らしてしまうほどいらだってしまった。午後9時半の満潮を迎えるものの潮は止まることなく流れ続けている。uenoさん再び足裏サイズのシブをゲット。集中力を働かせて竿先を見つめていると、今までにない竿先のつっこみに思わずあわせを入れた。ぐーんと石鯛竿にのってきた。始めは引いたが割とあっさり浮いてきたお魚さんをぶりあげ、ライトを当てると、よかったよかった、やっとで本命のシブに会えた。700gほどのまぶしい恋人をうっとりながめてクーラーに入れた。おもりは25号。この潮なら40号くらいのがいるのかも。でも、中々おもりをチェンジする気持ちになれなかった。ここら辺を改善すればもっと釣果があがっていたのかもしれない。

時合到来と感じた私は、更なる獲物を求めて仕掛けを打ち返した。満潮を迎えると潮が今度は左側へと動き始めた。すると、魚がアタックし始めた。クロシブの子を2連続で釣ると、uenoさんも小ぶりのシブで応戦。お互いに足裏サイズのシブを交互に釣りながら10時過ぎに本日最大の800gのシブをあげてシブをお互いに6枚ずつ釣ったところであたりが止まった。それと同時に潮も止まり、私の竿を絞り込むのはウツボとマツカサのみとなった。ところで、ウツボは本当にやっかいな相手だ。竿先をいつまでもたたいていると思いきやあわせてみるとウツボである確率が高い。やつは針掛かりするとあばれとぐろを巻きワイヤーハリスを絡ませてしまう。こいつを掛けたら早くつり上げないと仕掛けがだめになってしまうのだ。uenoさんもかつてぶっ込みをやっていたが、度重なるキダカの猛攻にぶっ込み釣りを断念させられるほど苦しめられたらしい。

下げの時間帯にはいるとシブの魚信は途絶え、餌取りの猛攻が始まった。サンマの身は5秒ともたない。サンマの頭も食いちぎられてぼろぼろに。イカも試したが、これも跡形もなくなるほど食われていた。餌取り対策の最強の餌、鰹の腹側も食われて皮だけが残った。uenoさんもマツカサとイスズミの猛攻でこれは干潮の午前3時過ぎになっても変わらなかった。干潮間際に釣ったuenoさんの交通事故的なシブ1枚と私のオジサン1枚を最後に離島の夢舞台は終わりを告げた。


闘いを終えて

午前5時半に闘いを終えて磯の掃除にかかった。来たときよりも美しく。これがモットー。掃除をしながら改めて今回の釣りを振り返った。水温が30度から31度あり、異常な高水温が続いていたそうだ。だから、今回の釣りの最大のポイントは餌取り対策をいかにやるかということだった。その対策は万全とはいえなかった。と言うより経験不足だろう。あまった餌を海へ流すと魚がよってくる。いるいるソウシハギ、イスズミ、そして、ウミガメも健在だ。また、マムシのような風貌の海へビくんのあいさつも受けた。まるで、お魚さんのラジオ体操のように楽しそうに群れている。


回収で〜す 黒潮丸参上!

6時半になり、黒潮丸が迎えに来た。「kamataさん釣れましたか?」uenoさんがすかさず「小さいのが7枚と6枚で13枚!」と答えた。「水温が高いからね。型が小さいんだよ。まあおみやげにはなったでしょう。」我々より一つ前に乗った人は、ダメのサインを出して乗ってきた。しかし、クーラーをみると、キロオーバーのシブが3枚、青シブが1枚、バラフエの小型が3枚と今日の釣り頭だった。アカジョウらしき大型のバラシが2回あったそうだ。餌は、夕方の時間帯に釣っておいたイスズミの切り身だったそうだ。そうかあ、やはり高水温時の釣りができた釣り人にはそれなりの釣果がついてくるんだ。鵜瀬の二人は、二人でシブ1枚、メアジが2枚だったそうだ。イスズミの猛攻になすすべなく終わったとのこと。高水温時と大潮の激流という条件ではどうすればいいのかを一つ学ぶことができたのだった。


uenoさんの釣果(シブ7枚 コロダイ1枚)


私の釣果(シブ4枚 クロシブ2枚 オジサン2枚)

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