9/23 君を忘れない 長島海峡

私は今回の釣行は決して忘れないだろう。いや、忘れてはいけない。

前回の真鯛ねらいの船釣りで見事肩すかしを食わされた私は、引き続き真鯛ねらいでいくことに決めた。自分は何となくだが、釣る魚の対象として、次の6つの魚をねらっているようだ。クロ(口太)、尾長(ワカナ)、チヌ、イサキ、シブダイとあと一つ。私は磯釣り師として、これらの対象魚をいかに釣るかというテーマで釣行しているのだが、今シーズン未だ釣ることができないあと一つの魚が真鯛である。2003年、2004年と何とか6つの対象魚をゲットできた。そして、2005年シーズンもあと真鯛だけというところまできた。ここまできたら、何とか目標をクリアしたいものだ。

 それから、もう一つ2005年シーズンの宿題が残されている。それは、苦手としているかご釣りの修行をすることだ。uenoさんはすでにかご釣りで成果を上げてるのだが、自分は未だまともな魚を釣ったことがない。ウキフカセ釣りで磯デビューを果たし、離島のぶっ込み釣りまで何とかできるようになった今、磯釣り師として成長していくためには、他にもいろんな釣りはあるが、かご釣りをマスターしなければならない。

かご釣りと言えば、思い浮かぶのは鹿児島県長島周辺だ。黒ノ瀬戸と長島という2つの海峡をもつこの海域は潮通しがよく、1年を通じて様々な釣りを楽しむことができる。宮崎県や大分県では圧倒的にウキフカセ釣りによるクロ釣りに人気があるが、この辺はどちらかと言えばベテランのかご釣り師が多い印象を受ける。また、クロだけでなく真鯛の実績も高いのが長島周辺の特徴だ。更に、もちろんチヌ、イサキ、バリ、青物、ミズイカ、デカ版の石鯛などもお目見えして、釣り人たちを喜ばせている。また、この辺で取れるアジは「ながしま海峡アジ」といって、流れの速い潮で育ったため、身が締まり大変美味とのこと。何で今までこんないいところに釣りに来なかったんだろう。釣りナビに夜釣りで真鯛が釣れているとの情報をキャッチし、いてもたってもいられず、茅屋港から長島海峡周辺へ案内してくれる渡船「しらなみ」に電話を入れた。


初めての長島海峡

9月19日頃に発生した台風17号はようやく元気を取り戻した偏西風が日本列島から追い出してくれた。また、時を同じく発生していた台風18号は台湾南岸をかすめて去っていった。しかし、台風の影響は避けられず、離島を含め、水島などの沖磯群では船止めとなっているであろう。ところが、この長島海峡では、外海から八代海などの内海への玄関口となっているため、思いの外台風の影響は少ない。また、低気圧が原因となる南からのうねりにも強い。阿久根では船止めでも長島海峡は出ているなんてことがあるそうだ。

9月23日(金)秋分の日。午後16時半頃干潮の中潮。この日は、組合の会議が熊本市で12時半まで予定されているので、そこから直接九州自動車道から南九州自動車道を経由して、国道3号線を下るというコースをとった。翌24日は、ぜんそくの発作の予防をかねて息子を病院へ連れて行き、25日に控えた息子の運動会のテント立てに参加しなければならないスケジュールなので、釣りをするためには23日からの夜釣りしかない。母ちゃんもわりとあっさりと釣行の許可をくれたので、甘えさせてもらうことにした。


マダイの宝庫 赤島に渡礁

スーパーアオキでオキアミボイルを購入。道に迷いながらも午後3時40分に茅屋港に到着。すでに夜釣り第1便は出ていった模様。しばらくして、午後4時20分ごろしらなみ登場。「荷物をそっちに乗せて」とぶっきらぼうな船長に促され、いよいよ船に乗り込んだ。「鯛ねらいですね。」5分後、茅屋港を出港。天草側の港で一人の常連さんを乗せたしらなみはその名のごとく、勢いよく海原を快調に滑っていった。「釣れてますか」「あまり大きいのはおらんがね。3キロまでな。」「タナはどれくらいですか。」「竿2本くらい。食いが立ってくると1本くらいでもいい。」「尾長もでるそうですね。」「少しまじるな。」「尾長のタナはどれくらいですかね。」「真鯛とおなじ」

何とか情報を集めようと船長に接触を求めはするものの、中々詳しく教えてくれない。船はどうやら長島海峡のほぼ中央に位置する小さな島に向かっているようだ。釣り雑誌で見たことのある「赤島」だ。最初に北側の部分に常連さんが渡礁。荷物運びを手伝うと、「がんばってな」とねぎらいの言葉が返ってきた。ここは、誰もが複雑な潮流とわかるほど潮がよれている。根がかなりきつそうだ。ベテラン向きの場所のようだ。今度は自分の番。船長に「長島海峡は初めてなのでよろしくお願いします。」とアピールしていたがどこに乗せられるのだろう。船は少し南へ走りスピードを緩めた。長島との水道側だ。でこぼこした場所だが比較的安全そうな磯なので一安心。いつものように渡礁後の船長のアドバイスはと振り返るも、船長は指で方向を示すだけ。「何時に回収ですか。」と聞いても答えずにしらなみは去っていった。

えらく物静かな船長だね。荷物を安全なところに運ぶと磯の全体像をつかむ作業に。左側は根がきつそうだ。船長が指さしたように真ん中からやや右前方へと仕掛けを投げることにするか。早速仕掛け作り。ダイワブレイゾン遠投5号に道糸10号、ウキはロケット型の12号に、10号の天秤つきの反転かご。ハリス8号を取り付け、マダイバリ10号を結んだ。続いて、せっかく夕まずめがあるのだからと、フカセ仕掛けも準備。がま磯アテンダー2号に道糸2号、ハリス2.5号、Lets0号にJクッションG2のコンビの全遊動仕掛け。手慣れた作業なのであっという間に完成。しかし、このとき、私は重大なミスを犯していたのだ。いや正確に言うと気づいていなかったのだ。いや、換言すると、長島海峡の魚を甘く見ていたのだ。だから、忘れてはならないのだ。

撒き餌はボイル、付け餌に抱卵ボイルと真鯛用特大ボイルを用意。キリン淡麗生で気合いを入れた後、午後5時30分にまずはフカセ釣りで第1投。潮は干潮潮止まりの余韻を残して緩やかに本命と目される外海側に流れていった。第1等をチェックすると早くも餌が取られている。魚の活性を感じながら、今度は仕掛けを張り気味にして流していると、ウキを押さえ込むあたりが。合わせると本日の第1の訪問者、さんきゅう「ベラ」まっちゃが飛んできた。今度は少し沖めをねらって第2投。再びあたりが。第2の訪問者は、小さなカラカブくん。海へお帰り願って、第3投。今度ははっきりとしたまともな魚っぽい消し込みで、期待とともに鋭く合わせた。明らかに餌取りでないトルクが竿にかかった。まずまずの引きだ。浮いてきた魚をみると細長くて茶色の魚信だった。「イサキかな?」と一気にぶりあげると、口がつんととがった魚が訪問してくれた。アミフエフキだ。牛深周辺でよく釣れるというこの魚は、長島でもおなじみのようだ。

だんだんよくなる状況に釣り人の期待は益々高まっていく。第4投。あれっ、潮が変わっている。本命ではない左側の八代海側に流れようとしていた。ゆっくり沖へと流れていくLeTs0号の朱赤のウキが一瞬にして赤い弾丸と化し、海中へ消えていった。ウキの消し込みを見届ける前に道糸が勢いよく出て行った。竿をひったくるようなあたりに反射的にベールを返し竿をたてて応戦。かなりの突進で竿がのされそうになる。しばらくすると、やつは観念したか浮き始めた。きらきらとピンク色の魚体が見えた。「やった。真鯛だ。真鯛だ。」引きの割には30cm超と小振りの真鯛をぶりあげ、記念撮影をした後、大事にクーラーに入れた。しかし、ここであの間違いに気づいていれば、こんなに悔やむことはなかったのに。なぜ、ここで気づかなかったのだろうか。


今シーズン初真鯛 美しいね

真鯛が釣れていい気分でフカセ釣りを再開。ガラカブ、メバル、ハタと釣れたが、その後、潮は激流となって本格的に流れ始めた。長島海峡の中央部に位置するためか、本流が流れる釣り場のようだ。仕方がないので、流れの緩い瀬際や根回りをねらうが、本命の真鯛は姿を見せることなく、イスズミの乱舞で夕まずめの釣りを終えることとした。

さあ、いよいよかご釣り修行だ。まずは、20m先に投げて様子を見ることにした。タナは竿2本に設定。潮はほとんど動いていない。しばらくしてから仕掛けを回収しようとすると、いきなりの根掛かり。やっとで回収。ハリスが切れていた。おかしいな。タナぼけしているわけでもないのに。2投目も同じ所に仕掛けを入れるがあ再び根掛かり。今度はかごを失ってしまった。入れたポイントでは、根掛かった感じはないのに、根掛かるということは、回収の途中で引っかかってしまうようだ。今度は、30mほど遠投する。大丈夫だろうと、回収しようとすると、再び根掛かり。更に、ウキとかごをロスト。

おいおい、どうすりゃいいのさ。この状況から、どうやら10m先に隠れ根があって回収の時にそこにどうしても引っかかってしまうようだ。遠投して、回収の時極力速くリールを巻き、隠れ根に引っかからないようにするしか打つ手はないようだ。幸い潮が満ちてきたので、根掛かりは少なくなったが、その代わり午後も11時を過ぎると潮が速くなり激流と化してしまった。仕掛けを投げてもあっという間に流れていってしまう。いつかは緩くなるだろうと待っていたが、潮は止まることなく流れ続け、やっとで緩くなったのは、午前5時半をまわっていた。かご釣り修行は不完全燃焼に。

気持ちを切り替え、朝まずめのフカセ釣りの準備に入った。この時にも気づくチャンスは合ったはず。この後自分に降りかかる不幸に知るよしもない私。まだ暗い中、汗をぬぐう仕草の時にめがねを落としながらも暗闇の中で奇跡的に磯際からめがねを回収したことで今日はラッキーと、まだ自分の不手際に気づかない私でした。

朝がきた。竿は2号、道糸2号、ハリス2.5号で勝負。潮がやっと緩んで昨日の夕まずめの状態に近くなった。真鯛が釣れたポイントへ仕掛けを投入。ベラが2連続、ガラカブが釣れて午前6時になった。今まで小さいサイズしか釣れていないのですっかり油断していた午前6時10分頃、いきなり竿をひったくるあたりに遭遇。なんだこいつは。とても2号竿で対応できる相手じゃないぞ。そう考えているうちにバラシ。道糸からいってしまった。ずんだれていた私の心に、闘争心が蘇った。

よしっ、必ずとってやる。仕掛けを作り直し再チャレンジ。ここが一番の気づくチャンスだったのに。またも気づかずに釣り始める始末。おそらく賢い読者の皆さんはお気づきのことと思います。さっきの訳のわからぬ魚の食った地点に仕掛けを入れた。6時半を回ったころ、ウキがもぞもぞと前あたりの後一気に海中に消えた。再び強烈なあたりが釣り師を襲った。さっきと同じ魚らしい。最初の突っ込みを糸を出して応戦。何とか初めの引きを交わした。ブダイなどのげてもの系か。でもそれにしちゃしつこい。何度もつっこんでくる。

ハリスは2.5号だから慎重にやらなければ。ウキが見えてきた。すると魚も見えてきた。茶色の魚体だ。もしかしてタバメかも。なかなかしぶとい。やつはこんどは瀬際に突っ込み始めた。しかし、瀬際には瀬ズレされそうな張り出し瀬もない。もらった。やつはすでに弱気になっている。最後の抵抗の首振りを余裕のレバー操作で交わしたあとはぬーっと彼は私の前に姿を現した。でかいっ!60cmは優に超えるコロダイがグロッギー状態で浮いてきた。

やったね、記録更新。魚拓だ、と思うと、大きな口を開けたコロダイと目があった。その目は絶望感をたたえていた。自分の人生がこういう形で終わるなんて想像していなかったはず。彼の命はもうすでに自分の手のひらにあるように思えた。ところがだ、あれっ、ない。あるはずの玉網がない。っていうか、玉網をセットするのを忘れてしまった。万事休す。ウキフカセ釣りをしていたときは、釣りの準備の一番初めに行う当たり前のことであるにもかかわらず、こともあろうかこの大事なときに玉網のセットをわすれていたのだ。

おいっ、どうする。今から戻って玉網をセットすることはできない。仕方がないので、ハリスを引っ張り少しずつ引きずりあげるしかなかった。可能性は0に等しいのに。釣り師は途端に窮地に追い込まれてしまった。なすすべもなく、ただ命の終わるのを待つだけのコロダイは、この釣り師の苦境を見抜いたのか、瞳の輝きを取り戻していた。そして、もう一度悲しみをたたえた哀れな釣り師に向けて視線を送ると、こんな力が残っていたのかと思うような首振りの動作を2,3度行うと、今まで信じられないほどの耐久力で、3kgはあろうかというコロダイをギブアップさせていたパワーストリーム2.5号も限界がきたのか、あっさりと切れてしまった。コロダイは反転すると自由のみになったのを確認するように暗い海の底へと消えていくのだった。せっかく会えたというのに、バラシ。それも玉網をセットし忘れるという今まで一度もなかったミスで。再び玉網をセットするが、時すでに遅し。デカ番の気配はなくなり、午前7時までには納竿とした。


朝陽とともに激流は治まる

昼釣りの客といれかわり、回収の船に乗った。赤島のハナレでは青物ねらいの方が、ぶりの子を結構釣られていたようだ。自分の所は激流だったが。他の場所はいい潮だったそうだ。せっかくのいい潮の時間帯、午前3時頃、いるかが通ったとか、釣り師の会話は弾んでいた。しかし、自分は悔しさでいっぱいだ。自然条件で釣れないのは仕方がないが、人為的ミスで釣果を逃すというのは、なっとくいかない。今後こんなことは絶対に繰り返さないためにも、

コロダイくん僕は君をわすれない。


アテンダー 名誉の負傷

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