12/29 絶対釣れる?〜釣り納め〜 硫黄島

幸運な釣り納めに
まあ何ということでしょう。快適ビフォーアフターでおなじみの語り手が驚いてみせるようにわざとらしくおどけてみせる。ついに実現したのだ。離島への1泊2日の釣り納めが。12月を襲った大寒波の後やってきたのは穏やかな釣り日和。25日の釣行後、やや海が荒れたのは3日間だけで、釣行予定の29日、30日は、波高1.5m〜2m、降水確率0〜20%で最高の条件。「今度は、(天気が)よかごたるなあ。」とuenoさんの口元も緩んでいる。「今度はクロを釣るよ。絶対釣れるから。」前回の青物釣りを終えて、反省会をしているとき、黒潮丸の船長からいきなりの釣果予告を受けていたので、行き先は当然惨敗の気配の全くない硫黄島に決定。前日の28日、教育会館の大掃除を終えて四役会の最中に黒潮丸の船長からわざわざ私の携帯に出航するという連絡が入ったのだ。

そう言えば、私のこれまでの釣り納めの結果は散々だった。2003年、手打の中のオサン瀬に乗れたものの、悪天候のため途中回収で貧果。2004年は、瀬々野浦の2日釣りを計画したものの30日はとんでもない北西風が吹くと言うことで、風裏となる佐多の2日釣りに切り替えたが、魚の気配なく屈辱のボウズを喰らうことに。2002年は、枕崎の長瀬で餌盗りの猛攻でこぶりの尾長を釣るのが精一杯。年末の釣り納めで一度も満足できる釣りができていないのだ。

しかし、今年は期待できる。なぜかというと、皮肉にも12月の観測史上一番の寒波のおかげだった。荒れまくった天候のために釣りができない日が続いた。その間に、海水温が急激にクロの適水温に下がったのだ。釣り人の餌もほとんど入っていない時期が続いた中で、久しぶりの出船だった25日の黒潮丸の釣果は、尾長の来襲。口太が3人で90枚の爆釣。秋目では、瀬際にクロがわき、一人30枚以上。瀬々野浦では、一人10枚〜50枚の激釣となった。12月は寒グロのはしりでよく釣れる時期なのだが、それが時化で釣りができなかったので、魚の釣れ方がそれまでの遅れを取り戻すようにすごい釣れ方になっている。だから、船長の「絶対釣れる」の言葉もあながちはったりではないということなのだ。でも、我々の本当のねらいは、クロはクロでも口太ではない。尾長ちゃんなのだ。

今回のねらいは?
鹿児島の釣り人は、毎年真冬のこの時期に、産卵のために黒潮にのって浅場にのっこんでくるデカ版のクロメジナのことを「ワカナ」と呼んでいる。南九州の離島では、夜釣りで2kgを超える大型の尾長が驚くほど浅いタナで釣れる。このワカナを求めて、たくさんの磯釣り師が離島の夢ステージに立つのだ。ワカナが釣れる離島はたくさんある。宇治群島、草垣群島、黒島、竹島、そして、昨年一番早い時期に釣れ始めた硫黄島などである。

特に、硫黄島の鵜瀬は草垣群島の2番半瀬と並んでワカナ必釣ポイントとして名高い。乗れば必ず釣れると言われるほどだ。「鵜瀬は尾長の産卵場所でね。たくさん撒き餌をして足止めにして釣るんだよ」と船長が鵜瀬をこう解説してくれたっけ。今年は早くも25日に、鵜瀬で第1便のデカ版尾長が釣れている。これは、ほかの離島と比べて最も早いのではないだろうか。鵜瀬への憧れは募るばかりだ。船長鵜瀬にのせてくれないかなあ。

12月29日上り中潮2日目、満潮が6時15分と17時18分で干潮が11時44分。明けて30日は大潮で満潮は7時02分、干潮は12時32分。闇夜ということもあって尾長釣りにも好都合だ。午後11時に人吉を出発。午前2時過ぎには枕崎港に到着した。到着してびっくり。今日は客が多い。ざっと数えても30人近い人間がいるようだ。丑三つ時といえば、みんな寝静まった頃だが、ここは別世界だ。忙しく戦闘服に着替える男、クーラーに氷を入れている男、タバコを吸って興奮を静めてる男、にぎやかに談笑している男。これら活気に満ちた男たちの行動は様々だがみな目的は一つの魚に向かっている。2時50分過ぎに黒潮丸の船長登場。エンジンがつけられた。男たちの動きがにわかに速くなる。


クーラーに氷を入れて いざ出陣!

荷物を積んでキャビン内に入った。すでにたくさんの釣り人が横になっている。すると、船長が登場。「今日はお客さんが多いから寝れないよ。体をくっつけてください。」と事細かに指示してくれる。それにしても多いなあ。たばこくさいおじさんたちと肩寄せ合ってこれから硫黄島まで90分の道程だ。

客が多いのか出船するまでに時間が掛かっている。やっとで電気が消され、港を離れた時にはもう午前3時15分をまわっていた。予定で行くと、到着予定時刻は、午前4時半だから、それから渡礁して尾長となると時間が限られてくる。尾長を釣る時間があるのだろうか。そんな心配をしながらまるで真っ暗な満員電車という非日常的な体制でひたすら到着を待っていると、やっとでエンジン音が緩やかになってきた。

すると、私の対面にいたひとりの若者がいきなりキャビンを飛び出そうとしていた。出口は、これから渡礁に向かう釣り人がゆっくりと磯靴を履いているところだった。「おいおい、出口をあけろ!」荒々しい声で誰かが叫んでいる。その声にひるんだか出口に通り抜けるわずかな隙間が生まれた。そこへ若者はすべりこんだ。そして、その若者は静かに胃の内容物を海へと放っていた。わかるわかる。磯釣りを始めた頃は、船酔いとの闘いが待っていたっけ。これも磯釣り師として一人前になるための試練だ。頑張れ若者よ。その様子をひとりのおじさんが心配そうに見守っている。親子でのふれあいをこの硫黄島での磯釣りに託そうということらしい。

親子で共通の趣味を持つというのは、とてもすばらしいことではないか。いつかは、自分にもこんな日がくればいいなあ。釣りを始めたのももとはと言えば、子どものために始めたのだ。わが子に親として様々なことを伝えたい。そのためには、釣りが一番ということを、椎名誠の「岳物語」がそう語りかけてきたからだ。船酔いに苦しむ若者は、船の最後部のところにへたり込んでる。他の客はそれをめいわくそうに感じてはいないようだ。みんな若かりし頃の自分と重ねているのかもしれない。自然を愛する釣り人は、自分には厳しいが人には優しいものだ。

いよいよ釣り開始
さて、鵜瀬からの渡礁だ。さあ、我々の名前が呼ばれるのか。どきどきの瞬間だ。試験の合格発表を待ち続ける心境と同じだ。しかし、その期待もむなしく呼ばれなかった。「鵜瀬にはのられんごたるなあ」鵜瀬の大ファンの上野さんも残念そうに呟いている。しばらく走って、2回目の渡礁だ。平瀬だ。ここも大型の尾長の期待は高く、凪の日しか乗れない1級ポイントである。「○○さん、瀬際をずっと流して、クロは裏だよ。」もう平瀬のアドバイスは覚えてしまったくらい何度も聞く言葉だ。

どうやら、第2希望だった平瀬にも乗れなかったようだ。「おれたちは、2日釣りだから、1日釣りの客優先かもしれんなあ。」uenoさんが溜息混じりにこんな言葉を漏らす。いやいや硫黄島のフィールドはすばらしい。他にもいいポイントはたくさんあるはず。2日釣りの自分には、時間があるためこんな余裕が生まれる。

船は再び全速力で走り続けた。これまでの経験から、次は石鯛や青物の1級ポイントとして名高い浅瀬への渡礁なんだが。7分ほど船は走って、目的地へ着いたらしく、エンジン音が緩やかになった。少し広くなったキャビン内から外を見ると船のライトはまぎれもなく浅瀬を照らしていた。一体誰が呼ばれるのだろうと興味深く状況を見ていると、船長の声が聞こえた。

「kamataさ〜ん 次ですよ」えっ、私たち?ここはいつも石鯛師が乗るはずだが。船長に言われるまま道具を船首近くに運んだ。我々の前に2名の底物師が渡礁した。そして船は反転し浅瀬の隣の小さく足場が悪そうな瀬に向かっている。「kamataさん、浅瀬のハナレは乗ったことある?」いいえのサインを送ると。「ここは足場が悪いから、クーラーを置いてドンゴロスをもって行きなさいな。」えっ、ドンゴロスは磯バッグの中だし、クーラーには付け餌も入っているので、入れ替えなくちゃ。とまどっている我々をみて「もういいから、乗って」と声が掛かった。ごめんね。船長準備が悪くて。

船が磯につけた。速やかに渡礁。しかし、ここは船長の言うとおり足場が悪いね。荷物を置くところがないよ。苦労しながら何とか渡礁を完了。船長のアドバイスに注目した。「こっち向いてねそこのところ(左手前)が尾長のポイント。昼になったら裏でクロをねらって。潮が引けば向こうへ(裏のクロのポイント)渡れるから。あそこに灯台が見えるでしょう。あの灯台の方向にクロのポイントがあるからそこで釣って。足場が悪いから気をつけて」こう言って黒潮丸は去っていった。餌を忘れるハプニングもあったが連絡すると快く対応してくれた。やはり、船長も自然を愛する人らしい。


足場が悪い 浅瀬のハナレ

まずライトを当てて磯の全体像をつかむ作業に入った。まるで御所浦のウサギ鼻のように脚立に乗っているような感覚だ。道具を置く平らな場所さえもない。船を着けたところの反対側は溝が走っていてそこに竿ケースを立てた。上の段も同じように狭いがそこに磯バッグを置くしかない。船長がドンゴロスというのもわかる気がする。尾長のポイントはその溝が走ってるところでうまい具合にワレを形成している。潮の動きによってはここに撒き餌がたまるようだ。

さて、我々は仕掛け作りに入った。もうすでに5時を回っている。早くしないと尾長を釣る時間が終わってしまうよ。竿はダイワブレイゾン遠投5号に道糸10号ハリスはワイヤー37番に石鯛バリ。掛けたら絶対とるという仕掛けにした。餌は、オキアミ生1角とアミ1角を混ぜ合わせてワレ付近に間断なく撒き続けた。釣研の電気ウキ1号をセット。タナは2ヒロで釣り始めた。闇夜に赤い電気ウキは鮮明過ぎるほど存在感がある。その光の揺らぎが起こるたびに、尾長の当たりで赤い光が海中へと消えていく幻想に苛まれる。uenoさんも仕掛け作りを終え、この美しくも悲しきナイトゲームに参加を始めるのだった。しかし、その期待とは裏腹に当たってくるのは足裏サイズのマツカサのみ。尾長の気配なくあっという間に夜は明け、昼釣りへの切り替えを余儀なくされるのだった。


浅瀬のハナレ裏 クロ必釣ポイント 

朝になって明るくなると磯の状況がよくわかってきた。昼釣りのポイントへ渡るには一番高いところからすとんと墜ちている溝を跳び越えるなどして渡らなければならないようだ。裏の左側が低くなって渡りやすくなっているものの低いところに降りるまでが大変そう。冬の磯海苔が生えていて滑りやすくなっているスロープを降りて行かなくてはならないのだ。しかも、まだ潮は満潮から下げに変わったばかりで渡れそうにない。向こうの磯をみるとワンドになったところに程よいサラシができていてクロがいそうないい雰囲気だ。早く行きたいが、ここは安全第一。まずは仕掛けを作って餌を撒いて魚を寄せることにしよう。

竿は、アテンダー2号が入院中のため、スーパーサブであるダイワマークドライ2号ー53の起用だ。監督としては、この闘いでどんな選手を起用するか迷うところだ。潮の流れ、タナ、サラシ、風等様々な条件を読んでその条件に合った選手を投入しなければならない。でも、釣りのいいところはスポーツの試合とは違って、選手は何度でも交代が可能というところだ。道糸4号、ハリス4号の離島バージョン。ウキはとりあえずグレックスkama2B、サラシに負けないようにおもりは軽めのBのガン玉1個、タナ1ヒロ半に設定した。

仕掛けはできたので、溝の手前から撒き餌を少しずつ間断なく遠投で撒き続けた。餌を撒いてしばらくすると水面にちゃぷちゃぷとナブラが出始めた。撒き餌シャクを持つ手が震えてくる。浮きグレがもしくはイスズミが沸いているのかはここからはわからないが、魚の活性は高いのは間違いない。早く釣りを始めたい。でも我慢我慢。撒き餌をできるだけ長い時間続けて魚をしっかり寄せてから釣ると数が出るという釣り雑誌の情報を信じて撒き餌を続けた。

uenoさんも仕掛けを完成させたので、2人で協力して竿やバッカンを運んだりして何とか釣り座にたどり着いた。しばらくすると、船長から携帯に連絡がきた。「kamataさん、潮が引いたら裏に渡れるからね。昼の12時20分頃迎えにきますわ。kamataさん、鵜瀬に乗ったことある?」「はい、1回だけ」「午後からは、鵜瀬にのせてあげるよ。尾長が必ず釣れるから。」うれしい連絡だ。あこがれていた鵜瀬に乗れるようだ。ばんざい。

浅瀬のハナレは下げのポイントでした
午前7時半を過ぎ、ワンドの中央付近を釣り座とし、uenoさんは我慢できずに釣りを始めた。さあのナブラの正体は一体何なのだろう。uenoさんがきっと答えを出してくれるに違いない。uenoさんの左側にバッカンを置いて餌を撒きながらuenoさんの釣りに注目した。

仕掛けを第1投してまもなく、3Bのウキがサラシの切れ目から勢いよく消し込まれた。いきなりの当たり。さあ魚は?しかし、水面をわったのは期待はずれの魚だった。竿先をがんがんたたいている。やっぱり世の中いや自然はそう簡単にはうまくいかないね。私も隣で仕掛けを投入するがやはりuenoさんと同じしっぽの黒いギラギラした魚体が釣れた。おいおいあのナブラはやっぱりイスだったのか?

潮は緩やかにワンドをかすめて左へと流れている。ここがもし下げのポイントならこれからがチャンス。その後、第2,3投とするがウキをある程度まではもっていくのだが、餌だけが取られる状態になった。魚が学習したのか警戒心が出てきたのかもしれない。お互いにイスズミを4,5匹釣ったところで、私はタナを更に浅くして1ヒロにした。ウキに直接餌をかぶせないようにして流していると、浮きが斜め横に走った。ドスンと竿に重量感が襲った。竿先を叩いている。だが、今度の引きはちょっと重いぞ手前につっこむ魚を2号竿の強さにものをいわせてため浮かせて一気にぬきあげた。ピチピチはねている魚は思いがけない青物30cm後半のカスミアジだった。おっ、uenoさんがこの魚に反応、タナを聞いてきたので1ヒロと伝えた。更に、同じパターンで釣れてきた魚は本命の30cm強のクロだったのだ。よっしゃあ、早くもボウズ脱出。


早くも本命 エメラルドグリーンの瞳を持つ恋人

uenoさんは仕掛けを変えている最中なのでこの釣果に気づいてはいないようだった。今日のパターンはこうかな?イスズミが相当な数いるらしいので、餌を撒いてそこにイスズミを集めて、そのまわりにいるであろう本命魚をかけるという作戦をとることにした。

ところが、しばらくするとその作戦は間違いであることをuenoさんが証明することになる。1ヒロにタナを浅くしたuenoさんはいつの間にか魚とのやりとりを始めている。浮いてきた魚は、紛れもない良型のクロだった。どうやら、朝まずめはイスズミの活性が高かったが、やがて他の魚の活性も上がりイスズミ以外にもクロや青物魚がちょっとした状況の違いで釣れるようになった。サラシが発生するタイミングを見計らって仕掛けを投入し、同サイズのクロとカスミアジを1枚ずつ追加したところで本命魚からの反応が途切れた。潮はいつの間にか右へと動いていた。潮の動きの変化により、今までのポイントではイスズミだらけとなったことでここに見切りをつけ、釣り座をuenoさんの潮下にあたる場所へと移動した。

ここはサラシはあまりないが潮切れがよく、沈み瀬もあり魚がいそうな雰囲気が感じられる。さて、仕切り直しの第1投。からまん棒の動きから潮の動きもいい感じ。撒き餌を1杯かぶせて当たりをまつと早くもウキが消し込んだ。やりとりの最中にぎらりと光った。あちゃーイスかと思いきや上がってきた魚はカスミアジだった。カスミアジは美味しいからキープ。

引き続き第2投。今度は一気の消し込みではなく、ゆっくりとウキがしもり始める。ウキが見えなくなるまで我慢して合わせるとやっとで鈎掛かり。一気に足下につっこむが2号竿と4号ハリスにものをいわせて浮かせると良型のクロが水面をわった。竿を信じて振りあげると40cm級のクロがドスッと磯の上に現れた。やったね。こんな良型が硫黄島で釣れるとは思っていなかったので、うれしさがこみ上げてくる。

偏光グラスで海の中を覗くといるわいるわ足下に良型のクロが青物とともにせわしく活発に活動している様子が見える。中には50cmクラスの魚も見える。「上野さん、こっちにでかいのがいますよ。」とuenoさんにもこの情報を知らせる。uenoさんは偏光グラスをしていなかったのでこの魚の状況に気づいていなかったようだ。

uenoさんはワンドに見切りをつけ50cmクラスがうようよいるこの場所で釣り始めた。そして、はやくも魚とのやりとりを始めているではありませんか。水面をわったのは私の魚よりも更に型のいいクロだった。これは、玉網入れかとやりとりを見ていると、ボキッと鈍い音がした。なんとこれまで何度となく強烈な魚とのやりとりで強みを発揮し、uenoさんの寵愛を受けてきた、ダイコー強豪2号が音を立てて真ん中から折れていたのだった。がっくりのuenoさん。何とか42cmはありそうな良型のクロをランディングし、ドンゴロスに入れ、竿を取り替え仕掛けを始めから作り直さなければならなかった。

時計を見ると、すでに9時半を回っていた。潮切れのいい時間帯ということもあり一番のチャンスタイムに仕掛け作りとはuenoさんにとって無念であったに違いない。さあ、uenoさんのためにも見えていた大きな魚を釣らなくては。チャンスタイムの予想どおりこの後時合いが訪れる。間にカスミアジ1匹を挟んで4枚連続でクロを浮かせた。最後のクロは42cmはありそうな良型でこれだけは玉網を入れた。


40を軽く超えるクロが待っていてくれた

釣り始めのポイントであるサラシ場は、どうも小さいサイズしかいないようだが、ここはシモリ根や足下のオーバーハングに良型のクロが潜んでいて、餌につられて時折出てきては餌を拾っているようだった。船長はワンドのサラシ場を勧めたが結果としてこちらの方がよかったように思う。さあ、uenoさんも仕掛けを作り直して釣り再会。uenoさんも再会して早くもクロを掛けた。これも良型のクロだ。

ここからuenoさんの追い上げの入れ食いが続く。5連続でクロを掛け私の釣果を抜き去った。私の方は、青物だけが鈎がかりするようになった。当たりは頻繁にあるのだが、掛けられなかったり、バラシたりと成果を十分にあげることができなくなってしまった。極めつけは、この朝一番の魚の疾走を止め浮かせた50cm近いシマアジを玉網をかければいものの、調子に乗って振りあげようとし、見事にバラシしてしまったのだ。寿司ネタを逃したショックは大きい。uenoさんももったいないと声を掛ける。uenoさんが釣り座に復活して以降、釣ったのはカスミアジ2枚という寂しい結果で浅瀬での釣りを終えることになった。

uenoさんクロ9枚にカスミアジ2枚、私はクロ6枚にカスミアジ5枚という結果だった。後悔することも多く魚の活性のわりに数は上がらなかったものの、魚のサイズには十分に満足できた。特に青物では、同じ青物のポイントであるタジロ瀬より型がいいことがわかったのも収穫だった。磯の後片付けを終え、12時過ぎに予定よりかなり早く黒潮丸は瀬替わりにやってきた。荷物をのせ無事に船に乗り込むと船長と他の釣り客が同時に釣果を聞いてきた。

「kamataさんどうでしたか?」「2人で15枚」とuenoさんが報告。「ここは下げ潮の1級ポイントでクロがよく釣れるんですよ」えびのからやってきたというFさんがこの釣果が当然といった顔つきで教えてくれた。我々はどうやらクロ釣りのかなりの有望ポイントに乗せられていたらしい。昼釣りの時間帯はすっぽりその本命潮である下げ潮だったからだ。そう言えば、下げ潮が流れてからはイスズミの魚影がガクンと減ったなあと思い起こすのだった。


瀬替わりで〜す 右に見えるのが浅瀬

尾長はいつでも釣れるさ
今日は客が多いので何でも早めに船は動くようだった。浅瀬の回収の後、船は硫黄島本島へと進みタジロ瀬へと回収に向かった。タジロでは、やはりえびのからの釣り師Uさんが乗っていた。船長が声を掛ける。「どうでしたか?」「まあまあ」そのUさんのクーラーを覗くと、30cmオーバーのシマアジが数釣れていた。「始めは、イスズミばかりで心配したけど、後から釣れだしたよ。」と安堵の表情だった。「タジロはね。この人たちが(私たちのことらしい)今月ずっときてくれてね。キビナゴのトロ箱を持って行って、いい型のシマアジを釣ってたんだよ。」と船長が説明する。

船は、反転し今度は西磯めがけて走り出した。一日釣りの客を回収し、同時に2日釣りの客を渡礁させるためだ。硫黄島本島の西側はクロ・尾長の好ポイントが続く。ニジメ瀬、中ノ瀬、立神などの好ポイントの客を次々に回収していく。2日釣りの客にはクロのポイントをきめ細やかにアドバイスを送っていた。総じてクロのポイントはサラシのできるところだったようだ。

回収のたびに釣果を聞いていくが、2枚とか4枚とかであまり爆釣とはいかなかったようだ。この西側も尾長がよく釣れるところだ。まだ、そのシーズンは早かったようだ。西側の回収を終えると今度はまた方向を180度変え、タジロ周辺まで戻ってきた。そして、Fさんに「どうする?鵜瀬にのるかい」と聞く船長。Fさんはこのタジロで夜釣りをする予定らしい。鵜瀬に乗れると言うことは、尾長釣りにはかなりのアドバンテージになるはずだ。一緒に乗ることになる我々も了承済みだ。

ところが、そのFさんは、「やっぱり、タジロにのせて。尾長はいつでも釣れるから」と言って、結局タジロに渡礁した。言ってみたいなその台詞。「尾長はいつでも釣れる」この釣り師はかなりのベテランらしい。その釣り師は、船の中で私が尾長ねらいに来ていることを伝えると、こうアドバイスしてくれた。

「尾長はね、ウキ釣りよりもおもりだけで釣るズボ釣りの方が断然釣れるよ。」「えっ、それはどんな仕掛けですか。」私が驚いて聞き返すと、もう少し詳しく教えてくれた。「サビキと同じだよ。ハリス12号くらいで枝スを取り付けて3本バリにするんだよ。おもりは状況に合わせて、20号とか25号とか使うんだよ。この人たちの釣りを見ているといいよ。」この人たちとは同じえびの市から来られたUさんやKさんのことで、我々と一緒に鵜瀬に渡礁する予定らしい。Uさんはタジロでまずまずの釣果をあげられたそうだが、Kさんは新島で惨敗。瀬替わりしたヤクロでも釣果なしだったそうだ。Kさんの釣りを心配した船長が我々と一緒に鵜瀬にのせて何とか釣らせようという配慮だったそうだ。我々も快く承知し、4人で鵜瀬に乗ることになった。


絶対 尾長が釣れる?鵜瀬に瀬替わり

いよいよ尾長ちゃんとの勝負
さて、船は鵜瀬の近くまでやってきた。一日釣りの客と入れ替わるためだ。一日釣りの客は3人。入れ替わりを済ませる時に情報を集めると、何と今日の2時間弱の夜釣りで3人で2〜3kgの尾長が7,8匹釣れたとの情報を得た。さすがに鵜瀬の実力だ。船長のアドバイスが始まる。「4人で並んで釣って、上げ潮が流れてくるからいっぱい撒き餌をして尾長を寄せて釣ってよ。絶対釣れるから。」そう言い残して黒潮丸は一日釣りの客を乗せて枕崎港へと帰って行った。

時刻は午後1時半を回った頃だった。我々4人は荷物を高いところにあげて休憩に入った。すると、すかさずえびの市のKさんが「○○です。宜しくお願いします。」と挨拶に来られた。恐縮した私はあわてて自己紹介を返した。この行動から今日の夜釣りはきっと楽しいものになるに違いないという安心感を得た。磯の上でも人が集まれば社会ができる。その社会で楽しくすごそうと思えば当然相手への配慮、自分さえよければいいと言う考えは捨てなければならない。尾長の仕掛けを学ぼうと思っていたが、その前に釣りを楽しくするための心得を教わったのだった。

挨拶をかわせば、目的は同じ魚釣りに魅せられた者同士、うち解け合うのにそう時間はかからなかった。4人は昼釣りと夜釣りの仕掛けを作りながら、色々と尾長釣りの話をした。そして、話の方向をその奇妙な尾長仕掛けに持っていった。「この仕掛けは、えびの市のNさんが考えたんですよ。我々のその連れです。尾長はですね、瀬際でしか釣れないですから、この仕掛けが一番なんですよ。ウキ釣りをする人から見たら、邪道ですけどね。」と謙虚に話をしてくれた。

玉網をかけると魚が暴れて散ってしまうので、振りあげられるように石鯛竿を用意するそうだ。一応ウキ釣りの仕掛けも準備しておくとのこと。我々は、ウキ釣り仕掛けを始めから準備していたのだが、その話を聞いてはだまっちゃおれない。石鯛竿に10号の道糸を巻いたデカリールをセット、ワイヤーハリスを3号のおもりサルカンでつなげて急造のズボ釣り仕掛けをつくった。このときに、ウキ釣り仕掛けも作っておくべきだった。備えあれば憂いなしのことわざは釣りの世界にぴったりとあてはまるのだ。今考えると残念でならない。


尾長のポイン

一応昼釣りの仕掛けを作ったが、昼のクロ釣りのポイントは裏のワンドだが、見るからに期待薄だ。サラシもないし、第一ここは下げ潮のポイントのはず。uenoさんはあきらめきれずできるだけ先端に出てサラシのあるところで釣り始めるが、イスズミの猛攻が待っていた。尾長のポイントでは、Uさんがフカセ釣りを始めていたが、釣れてくるのは、やはりイスズミやバリだった。私はまったく昼釣りをする気になれなかった。釣れないだろうということだけでなく、撒き餌を午前中に使いすぎて足りなくなるかもしれないからだ。撒き餌の切れ目は縁の切れ目。大事な尾長の時合いの時に残しておかなければならないのだ。

同じく釣りをせずに休んでいるKさんに話しかけた。「夕方から夜にかけては尾長は出ますかね。」すると、「う〜ん、何とも言えないけど、ここは上げ潮のポイントなんですよ。だから、上げ潮になる時間帯、夜中の1時くらいから尾長のチャンスがくるんです。それまでは、休みながら適当にやろうと思っています。」とKさん。「私は去年の1月にここに乗ったんですけど、そのときはその先端の突き出ているところに潮があたってきてそこから左右に分かれる潮だったんですよ。」と去年の話をすると、潮の話もしてくれた。

「その潮の時もありますが、一番いいのは左から斜めに当たってくる時がいいんですよ。去年もここで67cmの尾長がでましたよ。一番よくなのは鵜瀬の真ん中にあたってくる潮ですね。」こんな話をしているとあっという間に夕方を迎えていた。4人ともに夜釣りに備えて休んで体力を温存していた。その休んでいるときに、Kさんは我々に何とあったかいコーヒーをごちそうしてくれた。3人で釣るところを入れてくれたお礼ということらしい。だんだん風が強くなり寒くなってきたなかで、心はぽかぽかしてくるのであった。そして、「どこで釣られますか。」と釣り座まで先に選択させてくれるという。2人はここのベテラン。ここでむやみに断っては失礼とありがたくお言葉に甘えさせてもらうことにした。一番右からuenoさん、私、Kさん、Uさんと4人で並ぶことにした。


磯の上での楽しみ

腹へったあ。腹が減っては魚釣りはできぬ。我々は、磯の上で暖かいカップ麺をすすりながら夜の帳が降りるのを待つことにした。磯の上で食べるラーメンの味は格別だ。そう言えば、ここまで食事らしい食事をとっていないことに気づいた。事を成し遂げるには休憩も必要。釣り以外の楽しみを持つことも1泊2日釣りを楽しくするもう一つの方法だと思うのだった。


あったまるなあ

さて、夜になった。uenoさんは早速釣り始めている。でも後の3人はまだ竿を出さないでいた。下げ潮は喰わないの定説を信じ、勝負は夜中の2時頃からとまだ体を休めることにした。Uさん、Kさんも同じ理由のようだ。ところが、このuenoさんの定石を打ち破る釣りが見事にはまるのだった。

いきなり第1投で尾長の40オーバーを掛けたのだった。えっ、もう釣れたの?あわてる私。しばらくすると、電気ウキの一気の消し込みによしっと気合い声をあげてやりとりをしている。あの当たりはイスズミだろうと様子をうかがっていると、振りあげられた魚は何とやはり45cmクラスの尾長だったのだ。このuenoさんのいきなりの釣果にえびの市の2人も動き始めた。私もこりゃ本当に時合いだ、とウキ釣りの仕掛けを新しく作り出すハメになった。もうズボ釣りの仕掛けはやめだ。石鯛竿に道糸10号を巻いたスピニングリールをセットした電気ウキを準備した。

その準備している間に、uenoさんは尾長の50cmクラスを玉網入れで失敗するバラシを演じ、時合いを確定的なものにした。KさんやUさんもイスズミに混じって、40cm〜40cm後半の尾長やクロをぽつぽつあげている。自分は暗くて仕掛け作りはうまくいかない。やっとで釣り始めるがもう時すでに遅し、イスズミのみの釣果に終わった。

uenoさんは好調でその後も30cm後半のシブダイとクロシブをつり上げて当たりがなくなる午後9時半まで釣りを頑張った。なぜ下げ潮なのに釣れたかというと、下げ潮だったが、潮は上げ潮と同じように船付けの先端部分にあたって来る潮が走ったことが釣れた原因だと考えた。さあ、くよくよしてもしかたがない。疲れたことだし、飯喰って仮眠することにするか。


潮下の釣り座をゲット 好調な上野さん

用意していたキムチ鍋セットの準備をし、できたての鍋をほおばった。2人で「うまい」を連発。アウトドアのすばらしさを十二分に満喫することで、うまくいかなかった夜釣りのショックから立ち直ることに努めた。夜中を過ぎた頃から上げ潮が走ると再び時合いが来るはず。そのときに頑張ればいいさ。あったかい鍋を食べ終わると猛烈な睡魔が襲ってきた。風はだんだん強くなり、体感温度はみるみるうちに下がってきた。早速、風を避けられる場所でシュラフに入って仮眠をとることにした。天然のプラネタリウムを見ながら、波の音を子守歌に気がつけば、深い眠りについていたのだった。

どれくらい時間がたっただろう。uenoさんに起こされて目が覚めた。「もう時間バイ」時計を見るとすでに午前1時半を回っていた。こりゃいかん。えびの市の2人はすでに釣り始めていた。撒き餌を効かせて、例によって、磯際を回遊する尾長の性質を利用して、瀬際へ仕掛けを離さないように注意してウキ釣りを始めた。餌盗りがいるようで、餌が持たない。むき身にしてみたりしたがあまり効果がなかった。

潮は予想どおり、先端のコブにあたって、右と左に分かれて流れている。左へ流れる潮では、Uさんが断然有利で、また、40cm台だが尾長を1匹釣った。これを見ていたKさんは、潮下であるUさんの隣に移って釣り始めた。これではどうしても撒き餌が流れていく潮下が有利になるのは仕方がない。でも私のほうでは打つ手なく、瀬際ぎりぎりに仕掛けを落としuenoさんの足下に流していった。すると、午前2時過ぎ、明らかにマツカサとは違うスピードでウキがゆらゆらと消し込まれていった。マツカサの当たりでない証拠に沈みはじめたウキはどんどん深場へと突き進んでいる。まちがいない当たりだ。唇をなめながら鋭く合わせるとずんと石鯛竿に今までにない重量感が襲った。そいつは、3度突っ込みを見せたが、石鯛竿の力にははるかにおよばなかった。ばしゃばしゃはねてる魚を抜きあげた。ドサッと魚は磯の上にぶりあげられた。何だろう。ピチピチはねてる魚にライトを当てると、うれしいかなそこには50cmクラスの尾長がはねていた。やったぜ、本命ゲット。マダイ鈎12号がのどの奥に掛かっていた。10号ハリスだから大丈夫だったものの飲まれていたのでハリスはざらざらと傷ついていた。あぶないあぶない。石鯛竿で早く勝負をかけていてよかった。


51cm 2.05kg スリムなワカナ(尾長)


50cm近い白子出しのサバの歓迎も受けた

その後、時間帯でどんどんチャンスが膨らむかと思われたが、潮が沖に出て行くようになったり、ふらふらしたりしながら尾長の当たりは遠のき、50cm近いサバの来襲を受けた。ウキに当たりが出たと思うと、いきなり横はしりを始める。これは全部サバの当たりだったようだ。となりのKさん、Uさんは、次々にサバをかけてゆく。やはり、ウキ釣りよりもこの釣りの方が当たりが格段に多い。午前6時頃になると、サバの猛攻の後はムロアジの来襲が待っていた。我々のウキ釣り仕掛けには全く反応せず、となりのズボ釣り仕掛けには次々に掛かってきた。あの2人は青物をかなりの数あげているようだった。

夜が明けた。ウキが見えるようになったので、私は2号竿の昼釣りの仕掛け(とばしウキにBの棒カヤウキの1ヒロ固定)に変えて釣り始めた。すると、ムロアジを3匹ゲット。となりで、Kさんがイカをつけたサビキでのアカジョウねらいを始められてので、私は裏のワンドのクロのポイントを攻めることにした。ところが、この釣り座は、ムロアジ1匹釣れた後は、どこを釣ってもイスズミだらけになってしまった。私は、餌もなくなったので納竿とした。uenoさんはあきらめきれずにワンドでの釣りを続けていたが、釣れてくるのはイスズミだけとなり10時半頃には竿をしまった。


イスズミと戯れる上野さん

絶対釣れるは現実に
午前11時前に黒潮丸は回収にやってきた。いつもより早い回収だが、これ以上釣っても状況は変わらないと4人で相談の上釣りをやめることにした。尾長は4人全員安打。隣の石鯛ポイントでは、2日間で2人で14枚とものすごい釣果をたたき出していた。我々4人の撒き餌がたくさん流れていったのだろう。実は、その2人の方は枕崎の釣り師で、仕掛けはウキ釣りではなかった。でも、えびのの方のサビキではなく、中通しおもりをつけた宙釣りだったそうだ。そうかあ、わかったぞ。尾長の好釣果の秘密はどうやらこの特別な仕掛けにあったらしい。秘密を知ったからにはそれを試してみたくなるのが人間というもの。早くも次回の尾長釣りでは、このしかけを試してみようと心に誓い、硫黄島を後にした。そして、やっぱり船長の一言「絶対尾長が釣れる」は現実のものとなったのでした。


uenoさんの釣果


本日の釣果
尾長1匹 サバ1匹 ムロアジ4匹 カスミアジ5匹 クロ6匹

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