1/28 天気が悪かったとしておこう 硫黄島

中々釣りに行けない
12月の観測史を塗り替える記録を打ち立てた冬将軍の到来後、1月は比較的穏やかな天候が続いていた。おきまりの高水温で冬磯の開幕が遅れるのではと心配していたが、12月の2度の寒波でクロの食いが一気に立ってきた。1月に入ると南九州、甑、離島とクロが各地で釣れ始めた。ネットや釣りナビから発信される連日の好釣果を溜息混じりに見つめる日々が続いた。いいなあ、平日にいける人たちは。今は寒グロ釣りシーズンまっただ中。今行かなくていつ行くのだ。それはわかっているが、平日は当然いけないのはもちろんのこと、土日も予定が入りどうしても釣りに行けない。この日はいけるかもと思っていた1月22日も、組合の動員でつぶれた。

その動員とは、九州の某地で行われた米軍基地の整理・縮小を求める集会である。魚釣りとは何の関係もない集会だが、納税者としてはぜひ参加しなくてはならないという思いを強くした。60年安保成立と同時にできた日米地位協定により、米軍基地の治外法権が認められた。いわゆる「思いやり予算」で電気・水道ただなどの特権待遇措置がその一例だ。その中でも、特に問題なことがある。その協定のおかげで、度重なる米兵の犯罪に被害者となった日本人は泣き寝入りをさせられることになったことだ。また、ヘリが大学に落ちたときも米軍が突然やってきて封鎖し、日本の警察は排除される。これが主権国家であるはずの日本の偽らざる姿である。隣の韓国、ドイツやイタリアは主権国家の立場からきちんと改定をやっている。日本だけが、半世紀のこの間一度もこの協定の改定を求めていない。もうひとつ問題だと思うのは、米軍基地の整理・縮小を求める沖縄県民の声を、「痛み」を分かち合うと称して実弾砲撃訓練が全国5カ所で分散・実施されることである。この実弾訓練は、地域住民の人権保障、及び環境保全をないがしろにするという点で大いに問題だ。更に、そのために巨額の税金が投入されていることはあまり報道されない。行財政改革を断行し、小さな政府をめざそうというのに、この「思いやり」だけは正に聖域なき改革の「聖域」のようである。この税金の無駄遣いは我々国民の生活に巡り巡って跳ね返ってくる。つまりは、決して安くない釣りの費用を捻出するのが大変困難な時代へと突入するということなのだ。最近は油代も高くなったし、渡船業界も大変なのでは。だから、釣りに関係ないようだが実は私にとっては大いに関係のある集会だったのだ。


本格シーズンなのに 今日も動員 だれか代わりに行ってくれえ

今年初めての離島釣行
さて、そんなじれったい1月だったが、何とか28日、29日に休みを確保。uenoさんと今年初めての離島の尾長釣りにと硫黄島への1泊2日釣りを計画した。今回のねらいはずばりデカ尾長である。わざわざ硫黄島に行くのは、60を越える尾長に出会えるかもしれないからであり、クロだけをねらうならむしろ甑の方がいい。年末から、硫黄島では、出船できれば型や数にはムラはあるものの2〜3kgの尾長がほぼコンスタントに出ていた。1月24日には、船中40匹の尾長が釣れたらしい。いつも心配な天気はこのところサラリーマン釣り師に味方してくれていた。土日に出船できる海の状況をポセイドンは用意してくれている。今回も天気は良さそうだ。

しかし、この時期は天気以外に心配しなければならないことがある。それは、インフルエンザである。彼らは性懲りもなく今年も猛威をふるっている。隣の学校では、30人も40人も子どもたちが学校を休んでいるらしい。我が家でも秋に予防注射をしたにもかかわらずうちのかみさんはインフルエンザでダウン。A型だった。かみさんの勤めてる学校ではインフルエンザが大流行だという。いくら釣りバカとはいえ、家族が病気なのに出かけるわけにはいかないよね。うちの母ちゃんは月曜日にダウンしたものの何とか水曜日には復活し、ほっとしたのもつかの間、今度は私の体に異変が起こっていた。のどの痛みに咳が止まらなくなっていた。これはやばい。インフルかも。すべての釣りに行く条件をクリアしながらも風邪でダウンなんて悔やんでも悔やみきれない。その危険な状態を1時間おきにうがい、1日に4回もイソジンでうがいするという万全の体制で何とかこの苦境をのがれ、前日の27日を迎えた。「出ますよ。餌は4つ(2日でオキアミ4角 赤アミ4角)でよかったよね。尾長が釣れてるよ。2時15分に来れる?」で商談成立だ。


出船準備万端 枕崎港

1月28日(土)大潮初日。先週まではかなり気温も下がっていたが、このところ高気圧に覆われ比較的穏やかな天候が続いていた。水温17度。波も1.5〜1mの予報で1泊2日釣りは全く問題がない。午後10時半にueno宅集合。家の前に車を止めるとuenoさん登場。瀬泊まり用の薪を車に積み込みだした。今回は寝袋やバーナーなどのアウトドアグッズも用意。「尾長ば釣りたかなあ。」とuenoさんの声もうわずり気味だ。

あっという間に荷物を積み込んで人吉を出発。車は闇夜の九州自動車道を南へ下った。車中では、今回の尾長ねらいのタックルをどうするか論議し合った。ウキ釣りよりズボ釣りの方がいいのではないだろうか。ハリスは12号以上か、いやワイヤーを使うべきではないか。鈎はマダイ鈎にしようか、新発売の夜尾長にしようか。ズボ釣りはいいがおもりはどれくらいにするのか。でも一応ウキ釣りも準備した方がいいなど、あーでもない、こーでもないとたわいのない話をしていると、あっという間に指宿スカイラインの川辺ICで国道へ。24時間営業のAZで餌や食料などを調達。uenoさんはヘッドライトが暗いとそこで5000円もするライトを購入。今回の釣りにもかなりの力の入れようである。

買い物に1時間近くを費やしたため、枕崎港には午前2時に到着。お魚センター横の広大な駐車場には、かなりの数の車が止まっている。草垣群島や黒島に遠征した組のようだ。やはり本格シーズンを迎え離島のロマンに魅せられた男たちが群れをなしてここに集結しているようだ。黒潮丸の客も我々の到着の後次々にやってきては荷物を船の船首付近へと運んでいる。いつもより早い集合時間なのもわかる気がする。硫黄島をめざす釣り人はすでに20人を越えているようだった。にぎやかになった港にいつもの軽トラックが到着した。船長登場である。ガンガゼの配給と氷の支給を始めるのを合図に釣り人の動きが活発になってくる。「泊まりの人から荷物を積んでください。」の声に促され荷物を船に運んだ。「荷物を始めに積ませるということは、のらるっとは最後のほうかもしれんなあ。」とuenoさんは心配しながらキャビン内へと進んだ。「まだ寝ないでくださいね。できるだけ奥に詰めてください。」船長が指示を与える。寝られないのではと心配していたが、何とか詰めて寝ることができホッ。

さあどこに渡礁か
仕事の疲れからか出航前からぐっすりと眠ってしまったらしく、気づいたときにはすでに硫黄島周辺まできていた。エンジン音が緩やかになった。男たちの動きが静から動へと転じる。「○○さん、準備して」船長の声がした。外の様子を伺うとでこぼこした岩が連なってる磯がライトアップされていた。今日は平瀬からの渡礁のようだ。平瀬は尾長のポイントとして実績が高い。「今日は大潮で潮が速いからね。流れに撒き餌を入れると全部流れてしまうからね。足下に撒き餌して釣って。」こんなマイクの声が聞こえる。この一帯は激流が流れることを予想しての的確なアドバイス。しばらく進んで今度は鵜瀬に2組が渡礁。まだ我々は呼ばれない。また、船は暗黒の海を滑っていく。今度は新島への渡礁のようだ。「尾長がそこで結構釣れているからね。潮に流していけば喰ってくるよ。」何。これまでの状況からよく釣れているのは圧倒的に鵜瀬と思っていたのだが、ダークホースの新島でも尾長が喰いだしたようだ。新島に4人ほど乗せて船は長い時間走り続けた。予定ならこのあとは硫黄島南東部のハナレ瀬である「浅瀬」だ。しかし、ここでも我々は呼ばれなかった。

浅瀬の渡礁を終えると、船長が私を呼んだ。「カマタさん、タジロはどうですか。この前シマアジが30枚釣れたよ。」えっ、意外な船長の言葉に戸惑ってしまった。ぼくたち尾長釣りにきたんですけど、と言いかけてやめた。「どうします。」と上野さんと顔を見合わせた。「タジロは尾長の釣るっとだろか。」「わからんですね。シマアジ釣りをしてつぎの瀬代わりからクロと尾長釣りをしなさいと言うことですかね。」と、さて判断が難しい。せっかく船長が我々の釣りの趣向を覚えていてくれて勧めてくれているのにそこはいやですとは言えないし。困っているとuenoさんが「尾長は釣れるとですかね。」と船長にダイレクトに尋ねた。「西側の地磯に乗せてあげようか。」と言い残して、船長はまた操縦を始めた。釣るにはクロ釣りがだんぜん面白いのだが、おみやげの値打ちからいうとシマアジも大変捨てがたい。タジロにも乗りたいし、初めての西磯にも行ってみたい。贅沢な悩みだ。意識はアシュラ男爵状態で空っぽの頭の中を駆けめぐっている。


いよいよ尾長との今年の初勝負に

しばらく走ると再びエンジン音が緩やかになってきた。船長がライトを当てた先は、どんぐりウキの形をした巨大な巌だった。確かこの磯は立神というのではないかしら。立神岩、蓑掛岩、烏帽子岩。これらは全国どこへ行ってもお馴染みの名前だ。人は古代から自然物に魂が宿ると信じ、アニミズムが生まれた。文明誕生からほとんど姿を変えていないだろうこの一帯では、やはり今の私と同じように、ある1人の古代人がこの眼前の巨大な立神岩に圧倒され神と敬ったに違いないと容易に想像される。最新技術を駆使した高速船黒潮丸に乗船しながら、古代人と対話できる状況に我が身があるとは、何とロマンをかき立てられることであろう。波高1.5mからくり出される波しぶきが時折船や磯を洗っている。そのライトアップされた美しい白波の根底には、深い深い緑色の色水がどっしり腰をすえている。波はそうでもないが、この一帯の海底の複雑な形状からか、潮のよれがあちこちにでき船を激しく揺らしているようだ。現実と非現実とのあわいに成り立つ西磯の世界をたっぷり味わいながら、自分たちの渡礁の順番を待った。

まずは、我々と同じお泊まり客の4人組からの渡礁である。立神の右横の「中の瀬」への渡礁である。中の瀬も尾長とクロのA級ポイントである。船首を慎重に磯につける。つけた途端にスクリューが高速回転になり、黒潮丸は中の瀬とがっぷり四つになる。そのわずかな時間に4名の男たちが岩の上に乗り、荷物をバケツリレーであっという間に運んでしまう。いつもの動作だが、外の目で見ていると美を感じる。釣りという業で結ばれた男たちの共同作業の躍動美は、理屈抜きですばらしいと思うのだった。このときがおそらくどの釣り人も平等に幸せを感じることができる瞬間だろう。(回収の時は、たいてい「おいおいやっぱりだめだったよ」なんだが)船は四人を渡礁させてしまうと今度は右に舵を取り始めた。それと同時に、船長の甲高い声が飛ぶ。「鎌田さん、準備して」船は硫黄島本島の地磯に向かっていた。硫黄島本島の切り立った崖下にバルコニーのようにせり出している瀬に船はつけた。さっきの四人組とは違いぎこちない渡礁作業で渡礁を完了。船長のアドバイスに耳をすました。「ここも尾長が釣れるからね。いっぱい撒き餌して、瀬際を潮に乗せて流してください。」そう言い残すと黒潮丸は暗黒の海原に消えていった。

二番瀬で尾長と勝負
この地磯は、後で聞いたが二番瀬という名前だそうだ。二番瀬だろうが何だろうが西磯は全く初めてで不安だらけだ。とにかく撒き餌を準備し、仕掛け作りに入った。時計はすでに午前5時を回っている。残されている時間は後1時間半。仕掛けを作ったとしても尾長釣りができる時間は正味1時間。迷っている暇はない。竿は、ダイワの石鯛竿幻覇王にシーライン石鯛の両軸リールに20号の道糸。石鯛用の瀬ズレワイヤー37番に中通しおもり20号をチョイス。ハリスにはワイヤーを1ヒロとって、石鯛鈎を取り付けた。竿受けを打ち込み準備OK。今回は潮が速いことが予想されるので、ウキ釣りではなく、おもりを浮かせたズボ釣りを行うことにした。第1投。潮は磯と平行に沖に向かって右に流れている。予想どおり速い潮だ。おもり20号はしっかり潮をとらえて仕掛けを落ち着かせているはずだ。第1投からケミ蛍を取り付けた竿先が小刻みに叩かれている。餌盗りの当たりだろう。仕掛けを回収してみると、案の定、足裏サイズのアカマツカサがご用となっていた。付け餌をつけ直して、第2投。撒き餌が効いてきたのか、餌盗りの猛攻がここから始まった。タナを変えたり、餌を変えたりしながら尾長の来襲を待ち続けるが、一向に気配なし。付け餌が持たない状況であっという間に1時間が経過。午前も6時を回ると夜明けの兆候が現れ始め、紫色の空が遠くに見え始めていた。餌も盗られなくなった状況の中で、「ここでは尾長は出ないみたいですね。」とuenoさんに話しかけたとき、突然uenoさんが雄叫びを発した。「うおつつつつ」カンパチ竿を手持ちにし、まるで南方宙釣りのようなスタイルで当たりを待っていたuenoさんにものすごい当たりが来たようだ。上野さんは、私と同じく20号のおもりを浮かせながらのズボ釣りを続けていたのだった。そいつは釣り人が中々手強いと感じたのか、今度は瀬際ずたいに横に走り始めた。右横には根があるらしい。「uenoさん竿を立てて」のされようとする上野さんに思わず声援を送るが、uenoさんは竿を立てられず、海に引き釣り込まれようとしている。何とかそれだけは勘弁と精一杯耐えている。


怪力魚の攻勢に竿を立てることができず落胆の上野さん 二番瀬にて

やつは全くスピードを緩めることなく、更に磯際に突っ込んだ。その突っ込みをきっかけにカンパチ竿は放物線の状態から解放されることになった。痛恨のバラシ。uenoさんが仕掛けを回収してびっくり。ハリを折られていたのだ。これで、最後のチャンスは断たれた。もし尾長なら3kg以上のクラスだろう。きっと、このバラシで魚は散ってしまっただろう。残念。尾長をあきらめて昼用の仕掛け作りに入ろうとしたときだった。ジーッという音がしたかと思うと、私の石鯛竿が海中に突っ込んでいるではありませんか。あわてて釣り座に戻り、合わせを入れる。かなりの引きだ。これは、尾長かも。わくわくしながらやりとりをしていると、そいつは途中から急に戦闘をやめてしまったかのようにあっさり浮き始めたのだった。「一体何だ、こいつは」3kgオーバーには間違いないが、水面を割った魚はがっくりのアオブダイだったのだ。彼は水面に浮くと同時に大量の脱糞をやらかした。おいおい、君を捕まえるつもりはないんだよ。かなり竿を絞り込んだので本命と思ったのだが残念。このアオブダイを終了の合図に夜釣りをやめることにした。

朝焼けだ。口太だ。急いで昼釣用の仕掛け作りに入る。ダイワマークドライ2号ー53に道糸5号にハリス5号。ウキは鵜澤ドングリ2Bに潮受けゴムを装着。撒き餌をしても魚が見えないため1ヒロ半からの半遊動から始めた。潮は相変わらず右へと流れている。地磯だが大潮のせいかいい流れだ。ただ心配なのはサラシがほとんどないこと。2投、3投と繰り返すが、魚がいないのか、付け餌は付いたまんま。首をかしげながらuenoさんに、「魚がいないですね。」と声を掛ける。まわりの釣り人をチェックすると、中の瀬の釣り人が何回か竿を曲げたようだった。こちらは餌盗りを含めた魚からの反応が全くなく焦りが支配し始めていた。午前8時過ぎ、釣り座を左のワンドに切り替えサラシに撒き餌を入れ、そのはけだしをポイントにと作戦を切り替えるが魚がいない。やっとで喰わせたかと思うとそいつは南国系のベラくんだった。「uenoさん、瀬代わりしたいですね。シマアジの方が良くないですか。やっぱり船長の言うポイントに行っとったほうが良かったかもしれませんね。」「瀬代わりでくっとな」「わかりません。でも、電話してみる価値はあると思いますよ。」uenoさんもこの場所では不安だということで、失礼を承知で電話してみることにした。「もうすぐそっちに行くからまっとって」と瀬代わりOKだそうだ。ありがたや。すぐさま、道具を片付けて瀬代わりの準備を行った。時計を見ると午前9時過ぎ。あまり待つことなく黒潮丸はやってきた。てきぱきと乗船し、船長にお礼を言う。「尾長は釣れなかった。」船長が尋ねると、「でかいバラシがありました。」とuenoさんが答えた。「ここは結構クロが釣れるんだけどね。」苦笑いしながらごまかした。船は全速力で南へと下り、永良部崎を過ぎ、硫黄島港を越え、硫黄岳を正面に見ることができる位置まで走ってきた。だんだんなつかしい硫黄の臭いがたちこめてくる。昨年の12月のシマアジ釣り以来だ。今年は夏の夜釣りまで来ないと思っていたのに。北西のち北東の風の予報のため南側は思った通りべた凪ぎだった。


硫黄島が誇る西磯群(中の瀬 立神)

タジロに瀬代わり
「シマアジたくさん釣ったら、10枚くらいちょうだいよ」と船長のげきが飛ぶ中、わがまま釣り師2人は、無事タジロに渡礁。「12時半に迎えに来るから」と黒潮丸は去っていき、タジロのちょっと先に停泊している。さあ、時間はすでに9時半。急がないと。これから仕掛け作りだ。ねらいはずばりシマアジ。50cmクラスが当たってきてもとれるように、竿はダイワマークドライ3号遠投に、ウキはグレックス3Bの2ヒロから始めた。沖に向いて右側がuenoさん。左が私となった。前回上野さんは左の釣り座で惨敗を喰らっており、上野さんにとってねらい通りの釣り座をゲットということになる。餌を入れつつ釣り開始。海の色は前回のタジロよりかなり白く濁っている。今までの経験からすると、濁っているときはタナが浅かったが。しかし、ここも魚からの反応はまったくない。シマアジの入れ食いをイメージしてきたのに。付け餌がそのままついて返ってくる。おまけに潮は完全にあたり潮で遠投してもどんどん瀬際に寄ってくる。シマアジはどう考えても沖から回遊してくる魚なので、この潮でははっきり言って撒き餌でおびき出すことはできそうもない。困った。時刻は午前10時半。まったく反応なし。いつの間にか、タナも3ヒロ、竿1本とだんだん深くしていった。10匹くらいちょうだい、どころの話ではない。ボウズの危険が迫っているのだ。いらいらがつのってきた午前10時半過ぎ、uenoさんがタジロ瀬初の魚とのやりとりを始めていた。やつはかなりのトルクで瀬際に突っ込んできた。「これはクロかも。イスの引きじゃあなかばい。」良かったね上野さんと言いかけて、上野さんが浮かせた魚を見て、固まってしまった。イスだったのだ。がっくりのuenoさん。瀬代わりしてからずっとあたり潮で、やっとで潮が変わりそうという矢先だったのに。しかし、よく考えたら、タジロでのシマアジ釣りでは不思議と必ずシマアジが釣れる前にイスズミの活性があがるんだった。これは、撒き餌が効いてきた証拠で、もしかするとシマアジの当たりがもうすぐ出てくるのではないだろうか。

その予想通り、uenoさんがイスズミを釣り上げて5分後に、私のウキに本命らしき当たりが出た。潮が左へと動き出した途端に喰ってきた。ウキはゆっくりと夜空の人工衛星のような遠慮がちなスピードで消し込まれていった。ウキが見えなくなるまで我慢して待っていると、やつは一気に走った。同時に道糸が走り、魚との糸電話が開通。竿先に当たりがはっきりと現れた。きたっ。合わせをれると心地よいトルクで突っ込んでくる。竿先を叩いて


けっきょくタジロに瀬代わり

はいるが、イスのそれではない。黄色のしっぽが見えてきた。間違いない。浮いたシマアジを気持ちよく引き抜いた。シマアジは飛行物体となり、uenoさんの頭上を越え、硫黄島の溶岩の膚をバックにUFOと化し、やがて、月面のようなタジロの瀬上に着陸した。35cmほどのシマアジだった。「おっ、釣れたな」とuenoさんが気づいた。「uenoさん2ヒロですよ」深いタナをねらっているようだったuenoさんに情報を提供した。よしっ、遅ればせながら時合いだ。これから時間まで何とか楽しまなくっちゃ。潮がうまいことに左へと動き出したようだ。左には沈み瀬があり泡が出始めた。餌がたまっているようだ。シマアジはこういう餌のたまるところにいる。uenoさんもシマアジをゲット。ようやく2人ともボウズ脱出。午前11時を過ぎると1投ごとにシマアジの当たりが出始めた。タナもだんだん浅くなり、1ヒロまでになっていった。しかし、ガラスの唇をもつシマアジは掛けたとしても中々取り込めない。鈎はグレ鈎9号を基本とするが、どうしてもばらしてしまう。いくら魚が多い硫黄島だといってもこれだけばらせばお魚さんが散ってしまうよね。結局20回以上掛けたにもかかわらず取れたのは7枚という何とも情けない結果となってしまったのだ。uenoさんも4枚だったそうだ。こりゃさっきの場所の方が良かったかなあ。そんな不謹慎なことを考えながら回収に来た黒潮丸に乗り込んだ。


シマアジとの別れ

最大のチャンスの夜釣りはどこで
我々が一番初めの回収で西磯へと向かっている。ここで船長と協議に入った。船長は意外な話題から切り出した。「波の予報は1mといっとるんだけど、北東の風が吹き出してね。時化まではいかないけれど釣りづらいかもしれないね。」何でこんな話から始めるのかよくわからなかった。「尾長が新島で結構釣れているからそこに乗せるからね。今日鵜瀬は2匹だけど、新島は7枚でたからね。潮の大きいときは新島が釣れるよ。鵜瀬は潮が速くて釣りにくいよ。鵜瀬にあがった人にもね、新島を勧めたんだけど、前の時、尾長が釣れなかったからどうしても鵜瀬がいいというから乗せてあげたけどね。」「新島の船付けで釣れたんですか」とすかさずuenoさんが聞いてくる。uenoさんは新島が好きではない。新島でいい思いをしたことがないし、新島にはロッククライミングをしながら行かなければならないポイントもあり、それがいやといつも言っていた。船付けならあまり運動しなくてもいいということなのだろう。「船付けのところで並んで釣るんだよ。風が北東だから斜め前から吹いてくる。夜釣りの時は今日の天気なら波をかぶると思うけど、逃げられる場所がいっぱいあるからね。鵜瀬ならまともに正面吹きだから釣りにならないかもしれないよ。」船長の話を要約すると、新島で尾長をねらえということらしい。ここは船長を信じて頑張るしかない。

船は西磯の客を次々に回収して反転し、浅瀬に向かった。そして、硫黄島の東側を進んでいった。東側を進んでいくと予想以上に風が吹いている。西磯回収の時にはなかったうねりが硫黄島本島を洗っていた。大丈夫かなと心配になってきた。船は新島に近づいていく。昼釣り客との入れ替わりだ。無事に渡礁を済ませた。後1人福岡市からこられたYさんと3人でのお泊まりだ。荷物を奥の安全なところへと運んで夜釣りのポイントを確認した。風が強いね。まともに正面吹きだ。その影響で船付けの場所はどこもサラシで真っ白だ。昼釣りのクロにはうってつけだが、尾長ねらいにはこまったものだ。こううねりとサラシが強いんじゃウキ釣りはほとんど不可能だね。船付けの一番高いところにもこれから満潮の午後七時を迎えるにあたって波しぶきが洗うことは容易に想像できた。

時計を見ると、午後2時半になっていた。福岡からのYさんに挨拶を済ませた後、せっかく来たのだから口太釣りを楽しもうと、気合いを入れて、竿と玉網とバッカンをもって歩くことを決意した。「上野さん、向こう(高場)へ行きます。」uenoさんは夜釣りの仕掛け作りに余念がない。そして、「おら、こっち(船付け)ですっばい」この新島は、硫黄島の中でも口太の魚影の濃いところである。ポイントは大きく3つあり、「船付け」、岩場を西に向かって歩くと、「ワレ」、そして一番遠いポイントが「高場」である。船長によると一番釣れるのはやはり一番遠い「高場」とのこと。その言葉を信じ高場へ行くことを決意したのだ。巨大なゴロタ石が無造作に積んであるようなところを歩くというより、岩と岩の間を飛び移ったり、渡ったりするのだ。40を過ぎた私の体には結構きつい運動だ。しかし、魚に逢いたいという気持ちを押さえることはできない。慎重に進むこと15分。意外と早く現場にたどり着いた。まわりには誰もいない。この釣り座をひとりじめである。大きく深呼吸をした。空気がうまい。こんな経験をしてみたかったのだ。たった1人で魚との真剣勝負が。仕掛けを作りながら、餌を撒いた。魚がちらちら見え隠れする。ここは水深が浅く、船を着けられない。底が見えている。おそらく竿1本もないだろう。釣り座から左手にワレがあって、そこに撒き餌を打ち込み魚を寄せてサラシ場で魚を掛ける。作戦は昨年のここでの釣りの時にいっしょに来られていた常連の方から教えてもらったのだ。その方の話ではここは下げ潮のポイントらしい。今は上げ潮の時間帯。本命ではないもののそこは硫黄島。魚から何らかの反応が出るはずと仕掛けを作り終えると、早速口太釣りを始めた。しかし、残念なことは、昨年入れ食いだった潮とは逆で手前に当たってきてワレにできたサラシとぶつかり右へと流れていった。潮が変わらないと苦しいなあとウキを見つけていると、釣研棒タイプのあたりウキBが勢いよく消し込まれ竿引きのあたりとなった。第1投から魚のお出迎えだ。上がってきた魚はイスズミ。気にせずに第2投、今度も勢いよく竿引きのあたり。上がってきたのは木っ端尾長だった。海へお帰り願い。釣りを続けた。せっかくの高場なのに潮がワレにまで効いていないようで、サラシの瀬際ではあたりが拾えない。仕方がないので、サラシのはけだし付近にある沈み瀬に着いている魚をねらっていくことにした。すると鋭いウキの消し込みに鋭く合わせ、4号ハリスにものを言わせて懸命に巻き上げる。少しでも浮かせるのが遅れると、根に入られてしまうからだ。コンコンと竿を叩いている。浮いてきた魚は、本命の口太だった。抜きあげるのは無理そうなので、玉網ですくう。38cmクラスのまずまずの型だ。相変わらず引くなあ。厳しい環境で暮らしているせいか、ここの魚はやはり引きがすばらしい。


新島の元気な溶岩グロ

その後、足裏サイズを1枚取り込んで、あたりが拾えなくなった。潮が速くなったのだ。潮が右手前に当たってきているのだが、ウキの消し込む方向は逆で反対の根まわりの方へ魚は逃げようとする。そこがきっと魚の住みかなのだろう。これが、潮が逆ならいいのに。魚の喰ってくる方向へと仕掛けを流せるし、ワレのサラシにも潮が効いて魚がたくさん寄ると思うのだが。残念ながら潮は変わることなく、36cmの口太を再び取り込んで午後4時半となり、竿をしまうことにした。

船付けの方が良かったみたい
船付けに戻ると、uenoさんが魚との格闘中だった。どうせイスズミだろうと見守っていると、あがってきた魚は良型の口太だった。40は楽に超えるサイズ。uenoさんの釣り座は船付けの一番奥の場所で。波穏やかな日はクロポイントになりそうもないようなところだ。しかし、今日はこのサラシ。さっきよりまた大きくなってきたようだ。足下が丁度ワレていてそこに撒き餌を打ち込みそのサラシに仕掛けを入れて流していくとサラシの切れ目で竿引きのあたりがあるという。「これで2枚目ばい。」味をしめたuenoさんは5時半まで釣り続けた。そして、この日最大となる45cmの口太グレをゲットしたのだった。「ここのクロは型がよかなあ」さっきまでは新島はいやだといっていたのに。やはり、釣りは釣れてこそ釣りだね。


uenoさん発見のクロの秘密ポイント

夜になった。夜釣りだと意気込んではみるが、状況は悪くなるばかり。風とともにうねりは益々強くなり釣り座となる場所はすべて波をかぶるようだった。しかたがないので、我々は、食事タイムとすることにした。バーナーを持ち込んで寄せ鍋をつくりちょっとした宴会が始まった。あったまるなあ。満潮が午後8時くらいとのことなので、夜中までは釣りにならないだろう。我々2人は寝袋に入って体を休ませることにした。

いつの間にか眠ってしまったらしい。カチカチカチという金属音で目が覚めた。時計をみると午前1時過ぎ。カチカチとやっていたのはuenoさんだった。いち早く起きあがって釣り座をゲット夜釣りを始めていた。私も負けまいと上野さんの横に釣り座を決めウキ釣りは不可能と、石鯛竿によるズボ釣りを行うことにした。uenoさんにそれらしきあたりが1回あったが、両軸リールになれていなかったため、魚に先手をとらればらしてしまったそうだ。私も最干潮からの上げ潮で2回のあたりがあったが、2匹とも40越えのおじさんだった。がっくり、上げ潮でどんどん潮が上がってくる。うねりで波を被るようになり、ついにはすべての釣り座が波に洗われるようになった。上げ潮が尾長のチャンスと船長が言っていたが、午前4時頃夜釣りを断念。遠くでエンジン音が聞こえてきた。黒潮丸が一日釣りの客を乗せてやってきたようだった。一番のチャンスタイムに釣りができなかったのは、悔やみきれない。しかし、相手は自然だ。仕方がない。


長い夜が終わり 待望の朝陽

釣りをしない夜は本当に長い。風をよけられる場所で休んでいるとようやく夜が明けた。満潮なので船付けの場所はすべて波に洗われていた。ここでは釣り不可能。焦る必要なしと、カップ麺の朝食をとり、午前8時頃から口太釣りを始めることにした。上野さんは昨日のワレで。そして、いきなり魚を掛けいる。玉網ですくった魚は見事な型の口太だ。今日もこの場所は好調のようだ。uenoさんにあやかろうと私も隣で釣らしてもらうことにした。丁度そのとき黒潮丸が瀬代わりにやってきた。でも、我々はここが釣れそうなので「ここでいいでーす」と断ってしまった。これが後で後悔することになろうとは。船が去った後は、自分に当たってくるのはブダイ2連発、イスズミ3連発。やーめた。やっぱり、初志貫徹だ。高場へ行こう。


船付けポイントは波をかぶり 潮が進入 釣り不可能

再び道具をもって、道なき道を歩き、再び高場へ。この時間帯は、下げ潮だから本命潮となるはず。わくわくしながら釣り始めるが、何と潮は昨日と同じあたり潮だった。更に悪いことに突風が吹き始め軽い仕掛けが中々入らないようになってきた。魚もすれてきたのか、ウキを少しは持っていくもののハリ掛かりにはいたらない。最後はハリスウキだけで流すがそれでも喰わない。足裏サイズを3枚取り込んだだけで11時40分を迎えていた。そろそろやめようと思っていると、何と黒潮丸が近づいているではありませんか。「おわりー」マイクでこんな声が聞こえてきた。船長の指示は絶対だ。そそくさと竿をたたんで回収の準備をすることにした。


東よりの強風で時化模様 本当に波予報1m?


高場のポイント
 もっと釣れるはずなんだけど

船付けは干潮間際にもかかわらず、みんな波を被っての回収となった。危険な回収だったが被害は撒き餌シャク1本と少なかった。「クロは釣れましたか」あまり釣れなかったことを知らせると、「朝回収してあげようとおもったのに。昨日瀬代わりした二番瀬は今日入れ食いだったよ。」良くある話だ。昔権利物のパチンコ台で5000円くらいつぎ込んで小当たりばっかりだったので、隣に台を変わったとき、そのすぐ後、私がさっきまで座っていた台で口ひげのおじさんが500円で大当たりを引き、その後33連チャンをしたのを臥薪嘗胆の思いで見続けたことを思い出した。瀬代わりしたらだめで、今度は瀬代わりを断ったらやはりだめで、そう言えば船長も口ひげしてたっけ。ああ、やっぱり船長の勧めるポイントに行くのが一番と再認識させられた今回の釣行。釣れなかったのは、腕のせいではなく、天気が悪かったとしておきましょう。


今回の釣果 惨敗

クロ6枚(28〜38cm) シマアジ7枚


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