3/11 時合いは1時間 宇治群島

「釣りにいくばい。宇治が釣れとるごたっけん。連絡しとって。」もう1ヶ月半も釣りに行けなかったuenoさんがギラギラした目で話しかけてきた。「すぐに予約しとかんば。乗れんかもしれんけんなあ。」がってんだあ。2週間前だったがすぐに宇治群島に誘ってくれる第八恵比寿丸に電話した。おばちゃんの張りのある声で契約成立。今回のねらいは尾長に産卵前の乗っ込み口太ちゃんだ。年末は、硫黄島で何とか尾長に会えたものの、年が明けると天候に翻弄され会えずじまい。このまま尾長ちゃんに会えないで冬が終わってしまうのか。

宇治群島は、甑島手打、津口鼻の南西53キロの海上にあり、磯釣り師垂涎の地として名高い。家島と向島の2つの島からなる無人島で、メジナ、大型の尾長、石鯛、アラのポイントが目白押し。その驚くべき魚影の濃さは昭和30年ごろ、フロンティア精神に満ちあふれた漁師たちに入植を試みさせた。しかし、船舶機械の技術がまだ高くないこの時代に、いくら最高の魚影を誇るとはいえ、捕った魚を市場まで運ぶことはかなりの負担だったそうだ。度重なる台風により漁船の破損、定置網の流失などのそのリスクの大きさから宇治群島開発事業は、4年半で断念。今は唯一避難港だけが人間の入植した名残を残している。私も一昨年の6月に、上野さんと共に釣りにおじゃまするが、シブやバラフエと握手しただけで、クロには会えずじまい。オヤビッチャとイスズミの饗宴をなすすべなく宇治群島に別れを告げたことがほろ苦い思い出として今でも記憶に残っている。いつかはリベンジを果たしたいと思っていただけに、この宇治群島行きは何か特別な感情の高まりを覚えるのだった。

春の気候は、とても気まぐれだ。冬の間強い勢力を誇っていた寒冷なシベリア気団が徐々に勢力を弱め、気圧の谷が次々に通過する。気圧の谷では当然低気圧が発生することが多く、特に日本海上で成長する低気圧は要注意で、太平洋側に高気圧があると南から日本海上の低気圧に向かって猛烈な風が吹いてくる。これが、いわゆる春一番。春一番は、その言葉の持つイメージとは裏腹に、海を愛する人間の間では、もっとも恐ろしい自然現象である。春一番という言葉の由来は、もともと日本海西部地方の漁師たちに伝わる「春一」からきているそうだ。春の初めに吹く突風により、多くの漁師が海難事故に遭い命を落としたという事実から、最も恐るべき風と言う意味の「春一番」が誕生した。今年は、まだ春一番は吹いていないが、予断は許さない。天気予報が最も当たらないこの時期。週間天気予報で安心してはいけない。晴れマークが突如として嵐に変わることも珍しくない。これで何度釣行を計画して涙をのんだことか。よって、この3月が私にとっては鬼門の月と言えるほど釣果に見放されている時期なのだ。ああポセイドンよこの貧しき釣り人に幸運を与え給え。祈るような気持ちで週間天気予報と気象庁発表の波予報に釘付けの日々を送った。

春を待ち望むのは何も産卵前のクロをねらう磯釣り師だけではない。地域の労働者も春を待っている。今年の春闘のスローガンは「みんなのはたらき みんなに分配 幸せの底上げを」だ。このところの企業業績は、ばらつきはあるものの全体としては増収増益傾向にある。しかし、労働者の生活実態は所得の伸び悩みや定率減税の廃止、社会保険料負担の増加等により、依然として生活防衛型の厳しい家計状況は改善されていない。


サラリーマンに春は来るのか

労働時間は長くなったのに、賃金の改善が見られない実態も明らかになっている。また、企業の利益の上昇と労働者の賃金カーブが乖離現象を見せている。労働運動を知らない人からこのように言われたことがある。「まだ、そんなこと(労使交渉)やっているの。県は(給料を払う)お金がないのに。」でもね。状況が厳しいからこそ、労働組合の存在が必要ではないですか。その社会的責任を果たすべく、今日も釣行への出発時間ぎりぎりまで春闘の集会へと足を運ぶのであった。

釣行予定の3月11日(土)は、2日前の雨模様とはうってかわり快晴、波1m〜1.5mと申し分ない条件。潮回りも上り中潮初日でまずまず。「出ます。11時出航です。」の恵比寿丸のおばちゃんの声で2年ぶりの宇治群島行きが決定した。ニシムタで餌を買い、荷物を積み込んで午後8時10分ごろ人吉を出発。人吉盆地から大口へ抜ける九七トンネルを通り、鹿児島県出水市、阿久根市を経由して国道3号線を南下し川内港を目指した。

行きの車の中ではいつものように釣り談義に花が咲いた。
「夜の尾長釣りはウキ釣りがいいですかね。それとも宙釣りがいいですかね。」
「わからんなあ。」
「昼のクロ釣りの仕掛けはどうしますか。」
「うーん、釣り場に行ってみらんばわからんなあ。」
「潮流に流して釣るんですかね。それとも、草垣や硫黄島のように、瀬際やサラシを釣るんですかねえ。」
「わからんなあ。」
「離島の釣りでイスズミが多いときは、撒き餌ワークでイスズミを沖へと誘い出し、瀬際でクロを釣ると釣り雑誌に書いてたけど、宇治ではそんな釣り方でいいんですかね。」
「わからんなあ」
片方が疑問点をぶつけても、2人とも宇治群島は1回しか言ったことがないため、相方はわからんと答えるしかない。どうですかね、わからん、の繰り返しにまるで禅問答のような会話になってしまっていた。

「もし、船が宇治群島行きの途中で鷹島や津倉瀬に寄るならどうします。」私はこんな質問をuenoさんにぶつけてみた。2年前に宇治へ行ったとき、確かこの恵比寿丸は始め鷹島に行く予定を、他の渡船がすでにそこに向かっているという情報をキャッチすると、今度は津倉瀬へと行き上物客を降ろし、その後に宇治群島へと行ったことを思い出したのだ。もしそうなった場合はあらかじめ心の準備をしておかないと判断を誤ってしまうと感じたからだ。そして、上野さんが宇治群島に対していったいどれくらいの思い入れがあるのかを試したかったのだ。「津倉瀬は釣るっとな。」「上物には実績が高いみたいですよ。去年も良く釣れていたそうです。」「釣れるならべつに宇治でなくてもよかばい。もし、津倉に立ち寄るならそこへ行こい。」uenoさんは、釣れるところ優先でどうしても宇治へということではないようだ。


宇治群島の夢舞台へ 川内港

そうこうしているうちに、車は川内港へと到着した。時計を見ると午後10時15分。11時出航予定だから、10時半到着予定なら十分間に合うなと、恵比寿丸が停泊している地点まで車を進めてびっくり。何とすでにおびただしい数の車に、25人ほどの釣り人が今正に出航の準備をしているではありませんか。我々はあわてて戦闘服に着替え、荷物を船に運んだ。恵比寿丸のキャビン内は広々としている。船の前の部分の地下には9人くらいが寝ることができる。船後方部分は2段ベッドになっていて、14,5人は寝ることができるスペースがあるようだ。我々がキャビン内に入ったときはすでに満員状態。乗船名簿に名前を書いて、しばらくすると船はエンジンを回転させ港を離れた。釣り師のはやる気持ちは、船を予定よりも20分も早い午後10時40分に出航させたのだった。

船は快適な運行で、夜の東シナ海を対馬暖流に逆らって心地よく滑っている。やはり今日は凪ぎだ。さあこれから3時間の船旅だ。睡眠をとって釣りに備えようと横になるが、中々眠れない。ライトが消され室内は真っ暗なのだが、エンジン音が大きな音と振動を届けてくれるので中々眠るのが難しい。睡眠不足はこれからの釣行にかなりの不安材料だ。何とか眠らなくちゃと考えれば考えるほど頭はさえわたるのだった。まわりの釣り客も誰も寝息を立てているものはいないようだ。市場にならべられているマグロのような情けない格好で40から60才くらいまでのおっさんやとっつあんたちが少年のような心で宇治群島への到着を待ちわびながら寝ている。まるで船の外の世界とは違った時間の流れをもつ異次元世界のようなキャビン内、高濃度の二酸化炭素とタバコ臭、そして、焼酎の臭いがたちこめる空気の中でひたすら耐えていると、エンジン音がやっとで緩やかになってきた。

キャビン内の灯りがともった。ごそごそ起き出して時計を見ると、午前1時20分。凪ぎのため3時間かかる道程が、20分短縮されたようだ。「○★?△□@・・・」船長がマイクで釣り師に指示を与えているようだ。耳をすませているとどうやら宇治群島の最北部に位置する「ガランのハナレ」についたらしい。さて誰が呼ばれるのだろう。しかし、不思議なことに船長が名前を呼んだ形跡がない。5人ほどの集団が宇治群島の中では尾長、口太のAクラスのポイントに渡礁した。うーむ、この船の渡礁のシステムは一帯どうなっているのだろう。

磯釣りで、渡船を利用するとき、その地方で独特のやり方があることに気づかされる。そのパターンをいくつか紹介してみたい。

@じゃんけん
○北浦方式
各船の代表者がじゃんけんして勝った船から一番行きたい釣り場を選択できる。後はフリーで早い者勝ち

○野間池方式・福丸
船の中でじゃんけんをして、瀬上がりの場所を決定

○水島方式・夫婦丸・喜代丸
瀬の上でじゃんけんし釣り座を決定

A客の希望優先
ある程度船長が案内するが、そのときに客の希望を聞いてくれる
他に中甑鹿島・誠芳丸、長島海峡・しらなみ、第二むつ丸、みなみ風観光、硫黄島・黒潮丸

B船長の指示
これが一番多いと思う。常連か予約順かは知らないが船長が釣り場を完全に指示してくれるシステム
草垣群島・第八美和丸、佐多・りさ丸、上甑里・蝶栄丸、手打・Fナポレオン隼、内之浦・由佳丸、枕崎・荒磯F、瀬々野浦・永福丸など

C瀬上がり後の競争または話し合い
これは大変珍しい。瀬上がりした後は、釣り座を早い者勝ちで決めるという原始的なシステム。黒ノ瀬戸・巨富丸などがこのパターンだ。


次々に戦士たちが降り立っていく 宇治島の新岬周辺の磯にて

さて、この恵比寿丸は一体どのジャンルに入るのだろう。我々は、この船のシステムが最も多いBのパターンだと思い、名前を呼ばれるのを待つことにした。ガランのハナレの後、船はガランの水道というポイントに瀬付け。しかし、名前を呼ばれたふうでもない釣り人が2人ほど瀬上がりした。一体どうなってんだ。釣り人たちはそれぞれ勝手に荷物を船首付近へと運び渡礁の準備をしている。誰がそれを指示しているのだろう。わからない。そのうち船はしばらく走ると、今度は宇治島から少し離れたところでエンジンを緩めた。ライトアップされたところに視線をうつすと、ぽつんと2つの巌が仲良く浮かんでいる瀬を確認。宇治群島の名礁「双子瀬」だ。船長が「今日は底物はおらんようなあ。」とマイクで独り言を。ここは石鯛、クロの1級ポイントとして名高い。しかし、誰も船首付近へと出ようとするものはいない。「だれかいませんか。」船長がマイクで渡礁を促しているようだ。この時点で我々はやっとこの船の渡礁システムが理解できた。どうやら、船長が瀬に近づいたら瀬上がりしたい釣り師が競争で荷物を前に運んでいくという今までにないパターンだったようだ。「uenoさんどうします。」すかさずueno師匠に伺いを立てるが、何せuenoさんもまだこの状況を把握できずにいるため言葉に窮しているようだ。となりのオッさんは、「前の時、いやなイメージがあるもんなあ。」と躊躇している。少しの沈黙の後、釣り師の心理戦の結果やっとで2人の釣り師がしびれを切らし渡礁準備を始めた。あらら、先を越されてしまったようだ。すると、「ここで2人はもったいないよ。1人の人いっしょにのって。」と船長が指示している。しかたなく1人で来られた方がそこに渡礁されめでたく双子瀬の瀬上がりは完了。有名な瀬なのに何でみんな敬遠するのかよくわからなかった。「uenoさん、こりゃ早い者勝ちのようですよ。荷物を出しましょうか。」あせる我々は、何の目的もなく磯バッグなどを船の荷物入れから外に出した。後ろを振り返ると、まだ何人かの釣り師たちが控えている。なるほど、これが駆け引きってやつかな。

船は、宇治島の南側に位置する新岬周辺の磯につけた。ここは、3人組の釣り師が迷うことなく渡礁を名乗り出た。ここは好調の磯なのか。さて、どこに渡礁すればいいのだろう。不安だらけだ。船は再び北の方角へと進んでいるようだった。右手に灯りが見える。この無人島に灯台以外の灯りがあるということは、どうやら前回当たりすらないという惨敗を喰らった避難港付近にきたようだ。船はよりによってその避難港前の磯でエンジンを緩めた。ここはどうやら2人の釣り師が立候補するようだ。よかった。ここには乗りたくなかった。ほっと胸をなで下ろした。「高い方と低い方のどっちがいい?」船長が声をかける。えっ、避難港前の磯は2カ所あるのかい。しばらく考えている2人にしびれをきらした船長は、「低い方の方がよかぞ。」と進めている。しかし、そのあまんじゃく釣り師は、「高い方で」と船長の指示とは反対の決断を下した。渡礁完了。今度は、となりの低い方の避難港前にライトを当てている。今度はだれも名乗りでない。「そこの2人のかたどうですか。」船長がしびれを切らし、声をかける。どうやら我々のことらしい。「ここはよかところですか。」とuenoさんが他のおっさんに尋ねている。「潮が行けばここもいいところですよ。」と答えてくれた。後ろの方で「今の宇治はどこでも釣れるもんなあ。」の声。これも駆け引きか。この四面楚歌の状況では仕方がない。uenoさんと意を決して、このイメージが最悪の避難港前の磯に渡礁することにした。


結局一度乗ったことのある避難港前へ渡礁

瀬上がりすると、磯の真ん中に浅いタイドプールがあり、そこに50を越えるサンノジの死骸が放置されていた。のっけから不本意な磯に乗ることになった我々の思いを代弁したような情景だった。しかたがない。ここは気持ちをきりかえてベストを尽くすしかない。自分に言い聞かせながら、夜釣りの仕掛けを作り始めた。釣りができそうな場所が2カ所。船付けか、高い方の磯との水道側か、迷うところだ。「潮の速かなあ」潮流の状況を把握していたuenoさんが呟いた。満潮が午前6時過ぎ。今は午前2時前だ。これからの上げ潮で尾長をねらい、満潮の後の下げ潮の昼釣りでクロをねらうことになる。この潮の速さでは、ウキ釣りでは厳しい。そこで、おもり20号を使った宙釣り仕掛けを石鯛竿と両軸リールにセット。ハリスは、3本の枝スをつけた12号ハリスのサビキ仕掛け。撒き餌は夜釣り分としてオキアミ1角とアミ半角にパン粉1kgを混ぜて完成。ピトンを打ち込み置き竿で尾長をねらうことにした。

仕掛けを入れて驚いた。川のように流れる潮流に20号のおもりが浮き気味になっている。「こりゃ、ウキ釣りじゃあ話になりませんよね。」「そうなあ。」とuenoさん。ところが、水道の反対側の高い避難港前の釣り師は、この潮流にもめげずにウキ釣りを始めているではありませんか。みるみるうちに流される電気ウキ。これでは釣りにならんのではないでしょうか。と、よけいな心配をしていると私の愛竿ダイワ幻覇王の穂先が前当たりを知らせた。すると竿先をぐぐっともっていった。合わせるといきなりのバラシ。何で?仕掛けをチャックすると、一番上の枝スがぶち切れている。あっそうかしまった。久しぶりだったのか、両軸リールをフリーにしておくのを忘れていたようだ。尾長ではなさそうだったが、バラシはバラシだ。くやしい。ところが視線を前方に移すと何とあの激流の中でのウキ釣りで魚を掛けているではないか。あがってきた魚は、何だろう。暗くて確認できない。

魚が何であれ釣れたことには違いない。釣れた光景を見てしまったら私はウキ釣りを始めた。あんなに潮流に流して釣れるんかいな。とにかくやってみることにした。すると、すでに赤い電気ウキが潮上から流れてきた。uenoさんだ。向こうがウキ釣りで釣れたのを見てすぐにウキ釣りに切り替えたようだった。しかし、私は断念した。仕掛けがあっという間に流されてしまう。右の鼻の先端をかすめて取り込みができないような場所へと流れていく。これでは勝負にならない。再び宙釣りに変えた。その直後、ぶるぶるとした前当たりから竿先が海中へと引き込まれ、フリーにしていた道糸がジーという効果音とともに出て行く。とっさにフリーをOFFにし、合わせを入れた。よっしゃあ、尾長かもとやりとりを始めるが、こちらの気合いとは反対に魚からの反応が今一歩。あっさりと浮いてきたのは、45cm位のゴマサバだった。がっくり。もしかして、向こうで釣れたのはこれかも。今季の宇治群島はサバがとても多いと聞いていたので間違いない。その後向こうでも4,5回当たりがあったようで、おそらく全部サバのようだった。結局夜尾長にトライした2人だったが、夜が明けるまでに釣れたのはこの1本だけだった。


やさしい春の光に包まれた避難港

夜が明けた。家島が白々となってきた。夜が明けると同時にuenoさんは早速昼釣りを始めていた。気が早いなあ。私は夜尾長があきらめきれなかったが、uenoさんは早々とあきらめ夜の間に昼釣りの仕掛けを準備していたのだった。私は、そんなにあわてなくてもと、夜釣りの仕掛けを片付けていた。実は、今回の夜釣りの結果で、昼釣りもあまり期待していなかったのだ。夜釣りでの魚の活性はほとんどなくえさも盗られることがほとんどなかったからだ。また、上げ潮の間は、本命潮と思われる沖へと流れていたということは、おそらく下げ潮になる昼釣りでは、前回餌盗りさえ口を使わなかった、港方面に流れる潮に変わるのではと期待が持てなかったのだ。

しばらくは夜釣りのポイントで釣っていたuenoさんだったが、その釣り座に見切りをつけ、船付け左側のところから釣り始めた。私は夜釣りの片付けを終えて、昼釣りのための撒き餌を作り始めた。オキアミ1角、アミ1角、パン粉1kg、集魚材はV9で柔らかめに仕上げた。餌を作っていると、「よしっ」とuenoさんの声がした。場所を変わって2投目で早くも魚とのやりとりをしているではありませんか。「クロばい、クロ」とuenoさん歓喜の声。「えっ、もうですか。」しかし、10秒後に痛恨のバラシ。「鎌田さん、魚がたくさんおる気配のすっばい。」ええっ。そんなこと言われちゃあ焦るではないですか。いまやっとで、仕掛け作りに入ったというのに。「タナはどれくらいですか。」「わからん」とuenoさん。なるほど、全遊動だな。

竿は久しぶりの復帰、がま磯アテンダー2号ー53。道糸2.5号にハリスは2.5号。ウキは上野さんをまねしてキザクラのLets0号Sサイズにパラソル水中の組み合わせにすることにした。道糸をやっとでガイドに通したところで、uenoさんの「よしっ」の声に殺気を感じて、視線をuenoさんに向けると、uenoさんは魚とのやりとりの真っ最中。玉網が入り、取り込んだのは600g程のきれいな口太だった。結構手前で喰わせているようだ。どうらや、期待が持てないという発言を撤回します。朝まずめからいきなりの時合い到来のようだった。


避難港前でクロ入れ喰い いい潮だ

さあ早くしないと時合いが終わってしまう。ウキを通す手が震えている。おいおいしっかりしろよ。自分自身を鼓舞してる自分がいた。ヨリモドシにハリスを通したところで、uenoさん3連続ヒット。あららら・・・と食いが浅かったのかハリはずれ。uenoさんも久しぶりの時合いに焦っているのかな。こちらも焦っているこんな時に限っていつも使っているハリケースが見あたらない。仕方がないので、チヌバリ1号をむすんで仕掛けが完成だ。初めはガン玉は打たないことにした。釣り座はuenoさんの場所の右手前の船付けのところに決めた。本流がuenoさんの釣り座の左から右へと行っているようで、私のところからはその本流に引かれる潮を釣る格好になる。さあ、期待の第1投。行ってこいキザクラLets0号。竿1本先に仕掛けを入れてハリス分だけ手前に引き戻し、撒き餌を2杯ウキの周辺にかぶせて様子を見ることにした。仕掛けが馴染むと黄色のパラソル水中がゆっくりと潮をとらえながらしもっていく。仕掛けが馴染むとすぐにパラソルは不自然な動きで一気に海中へと突っ込んでいった。当然のようにウキへの反応がダイレクトに表れ、同時に道糸が走った。ビシッと鋭く合わせると、心地よい引きが竿全体に襲ってきた。数度の締め込みを余裕の竿さばきでかわし浮かせたのは、600g程の口太。一気に抜いて第1号さんごきげんよう。白子をふいていた元気なお魚さんだった。

時計を見ると、まだ午前6時50分。この時間帯で、さっきのような釣れ方ならかなり期待できるはず。今のうちに釣らなくちゃ。さっきと同じ場所に仕掛けを入れる。この第2投でも、仕掛けが馴染むか馴染まないかのところでスパンとウキが消し込まれた。さっきのビデオテープの再現のように600gの口太が浮いてきた。2号竿のトルクで一気に抜きあげ第2号。一体海の中はどうなっているのだろう。グラスモードの偏光グラスで除くと、おびただしい数のクロが餌を我れ先に拾っているのが見えるではないか。心臓の鼓動がバクバク云いだしている。今のうちだ今のうち。心の中でそう唱えながらさっき良型のクロが見えていた場所へ第3投。今度もウキがもぞもぞしたかと思うと、一気に道糸が走った。今度のはちょっと太いぞ。しかし、やはり余裕の竿さばきで、浮かせたのは35,6cmの尾長ちゃん。慎重に玉網をかけ、これで3枚目。三打数三安打。いくらでも釣れる気がする。

ところが、このチャンスにとんでもないミスが。焦って魚をドンゴロスに入れているとき、リールがフリーになったまま逆回転してしまったため、道糸が絡まりほどけなくなってしまった。あちゃー、この大事なときに何やってんの。仕方がないので道糸を切って初めから仕掛けを作り直した。10分ほどタイムロス。その間にuenoさん2枚目をゲット。仕掛けを完成させ、気をとり直して第4投。今度もじわりとウキが消し込まれていく。合わせるがハリには乗らなかった。なんでえ。もう学習してきたかな。今度はポイントを少し遠投気味にした。それが大当たり。一気に道糸が走り、魚を手前に寄せて玉網をかけた。これで4枚目。魚釣りに夢中で気づかなかったが、恵比寿丸が見回りにきていた。そのとき丁度、uenoさんと私がダブルヒット。2人とも35cmクラスの口太をゲットした。これを見ていた恵比寿丸は、「12時半の回収まで来なくていいですね。立神だけが釣れとらんなあ。」とマイクで指示と独り言を残して去っていった。

6枚目は、ウキを持ってはいくが、中々魚が走り出すには至らない状況の中で、ハリを短グレ5号に変えたところで喰ってきた。30cm強の振りあげサイズ。そして、3回ほど連続でクロの当たりと思われる反応に合わせきれない対策として短グレを7号に変えるとまた食いが良くなり、7枚目、8枚目と連続で喰わせた。しかし、釣っていて不思議なことがあるもんだ。これだけクロを釣っているにもかかわらず、イスズミは私もuenoさんも1匹も釣っていないのだ。こんなことは初めてである。一体イスズミは何処にいるのだろう。

「鎌田さんすごいなあ。」とuenoさんが声をかけてくれる。uenoさんの釣り座からは、合わせの角度が不適切なのか当たりがあっても中々喰わせ切れない。今のところuenoさんは3枚にとどまっていた。その上野さんがついに久しぶりのヒット。やったねuenoさん。こちらは入れ食いで余裕の見物をしていると、「何かおかしかよ。」とuenoさん。竿先を小刻みに叩いている。


よっしゃあ 喰わせたぞ 絶好釣!

そして、浮いてきた魚を見てずっこけた。「どっひゃあ イスズミだあ」ついにこの避難港前初登場のイスズミくんだった。いやな予感がしだした。今午前7時45分ごろ。もしかするとこれからこのポイントはつぶれてしまうのではないだろうなあ。いやな予感は残念ながら的中する。「どっひゃあ イス!」私もuenoさんと同じく逢いたくない外道魚がヒット。それからというもの、ポイントはイスまみれになってしまった。その後、午前8時までに10匹のイスズミを釣る中で何とか2枚のクロを釣ってからというもの、どんな釣り方をしてもイスズミばかりがハリ掛かりするようになったのでありんす。午前9時頃、1匹の足裏サイズの尾長を釣りったが、その魚の色は白くまるでイスズミの乱舞に恐れおのろいているように見えた。そのリリース魚を最後に私はもう二度とクロに逢うことはできなくなってしまったのだった。


どっひゃあ イスだあ

uenoさんは、それでも9時までに何とか3枚ほど追加した。釣っても釣っても釣ってもイスばかりなり。どうやらこれが私たちの本当の姿なのかも。結果的に時合いは1時間だったようだ。午前も10時を過ぎるとイスズミさえも口を使わなくなってしまった。陽が高くなると、海の中の情景がはっきりと観察できるようになった。とんでもない数のイスズミと40cmクラスのサンノジが乱舞しているではありませんか。しっぽの白い恋人たちは一体何処にいったのでしょうか。潮は最後まで沖へと流れていたので、結果的に本命潮が片潮になってくれて魚の活性がすこぶる上がったのであるが、クロの活性が良かったのは朝まずめだけで、後はイスズミオンリーとなってしまった。きっと、ここは夕まずめになると再びクロちゃんは姿を見せるに違いない。釣れないと眠気が襲ってきた。そう言えば一睡もしていなかったっけ。

12時前には道具を片付けて船を待った。多くの魚が白子をふいていたので、乗っ込み最盛期のようだ。このまま3月いっぱいまでは釣れるかもしれないね。今日は時合いは1時間と短かったが、その1時間は夢のような1時間だった。デカ尾長には逢えなかったけど、入れ食い世界を堪能できただけでも幸せだったのかも。明日から天気が下降線でまた寒くなるそうだ。釣りができたことをポセイドンに感謝しながら、春の陽気の宇治群島を後にしたのだった。


本日の釣果 30〜38cm10枚


uenoさんの釣果 30〜40cm6枚


本日の料理

やすの採点
尾長と口太の刺身★★★
ゴマサバの塩焼き★★
クロのあんかけ★★★★★

刺身は脂のりが今一歩。サバは塩鯖がやっぱり一番だね。クロのあんかけは絶品でした。

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