悲しい大人
                        立松和平
表現者は子どもの感覚を忘れたらだめだと思っている。しかし、人は悲しいかな育っていってしまう。育つにつれ、地面は遠くなり、高く大きかった空はどんどん狭くなってしまうのだ。地面から遠ざかれば、炎天下を自分の影を抱くようにして歩いている蟻のことや、土をわって下からふくらみだしてくる草の芽のことなどを忘れてしまう。悲しい大人が、多感な子どもにむかって語るどんな言葉があるのだろうといつも考えている。私は子どもにもどりたい。(立松和平作 「山のいのち」より)

6/24 これが入れ喰いだ 伊予灘

釣りに行けないなあ。こんなに釣りに行けない時期も珍しい。土日のたびに釣りを阻止する行事が組まれている。村民球技大会、組合の行事、PTAの行事、そして、6月の第1土日は絶好の釣り日和だったが、なんとそんな日に限って室内での行事が入っていたのだった。人吉球磨教職員バレーボール大会だ。これは、学校ごとの対抗戦になるために、そうやすやすと参加しませんとは言えず、前回の村民球技大会のソフトボールで痛めた脇腹を案じながら試合に参加するしかなかった。でも義理と人情は大切だ。しかたがない。

義理と人情。それは日本の美徳。これがなくなった日には地域コミニュティーは崩壊し、日本のよき伝統はなくなってしまうのではないかと懸念する。信頼関係をベースに成り立っていた一昔前のコミュニティーは、様々な課題はあったものの、かなり住みよい世界だったように思う。法律でがんじがらめにされた今の世界とどちらが住みよかっただろうか。人と人との信頼関係がなくなれば、法律の裁きに頼るしかないではないか。「昔は、学校の帰りがけによう人の家の柿とか盗って帰ったもんだ。」なんて昔話をよく耳にする。同じ40代のおっさん同士の会話である。もちろん盗みはよくないことだが、昔は1つや2つくらいは許されるといった地域コミュニティーが存在した。自分のものと他人のものとの区別がない部分もあった。醤油が切れれば遠慮なく隣へ借りに行き、自分の田んぼの田植えが終われば、他人の田植えを手伝うのは当たり前の世界だった。みんな地域で助け合って生きてきた。日本人はいつのころからか、このあたたかい世界を忘れ、仕事中心のライフスタイルに変わってしまった。「運動会の日は、生産量ががた落ちで実際困っとっとですよ。(働き盛りの年代の従業員が小学校の運動会で日曜日に仕事を休むことを責任者が嘆いている意味)」「平日の授業参観は参加できません。日曜日以外は休みのとれんとです。」ついには、正月からデパートの初売りが始まる時代になってしまった。更に、アメリカのほうで問題となっているのが、「ホワイトカラーイグゼンプション」だ。1日8時間労働というのは、もともとはブルーカラーの労働者にあてはまるもので、事務系であるホワイトカラーは1日8時間以上の労働をさせることは何ら問題ではないという考え方である。これを今日本の政治家たちが注目しているという。我々日本人は、こんなに仕事中心のライフスタイルでいいのだろうか。


またも釣行を阻止する行事が












そんな仕事オンリーの生活の中でも、義理と人情の遊びが存在する。ご存じ、釣りである。6月にはいって目の回る忙しさだが、やっぱり釣りに行こう。あたたかい人とふれあうために。そして、人間から食べられる存在にもかかわらず人間に優しい魚族に逢うために。

6月24日(土)に休みを何とか確保。25日も休めるようならuenoさんと硫黄島での夜釣りと考えていたが、残念。ここは気持ちをきりかえて、1日釣りに変更だ。夜釣りがだめならいつもの私なら梅雨グロねらいで、甑あたりへ行くところだが、5月に船釣りで思うような釣果をあげられなかった記憶が蘇る。いてもたってもいられず、アジの当たり年と毎回好釣果をネット上で紹介してくれる関アジ釣りの「べっぷ丸」のHPを覗いた。しかし、さすがに人気のべっぷ丸だ。すでに、24日は当然のごとく予約で満員。困ったなあ、と釣行先を決められず6日前を迎えた。何気なくべっぷ丸のHPを開くとなんとキャンセル情報に24日2名とあるではありませんか。すぐさま船長に予約のр。何とか滑り込みセーフ。かくして、人生2度目の関アジ釣りが実現することになったのでありました。


キャンセル待ち やっとで乗れたべっぷ丸

そこで問題は、やっぱり天気。梅雨前線が九州北部に停滞し、北部九州では金曜日からかなりの雨が降ったらしい。天気予報は当然雨ではたして船が出るか心配だったが、23日の午後7時過ぎに船長からрェ入った。「予定通り出航します。午前4時集合です。」やったぜ、関アジ釣りに行けるぞ。船釣りは磯釣りに比べて道具が極端に少ない。衣類とクーラーだけを車に乗せて、午後8時50分頃、夜の人吉を出発した。九州自動車道を北上し、熊本ICで国道57号線へ。阿蘇を越えて大分県竹田市に入る。そこから更に西へ進むと大分市へのバイパスに入ることができる。高速道路をずっと進むのが一番早いが、莫大な高速料金を払わねばならない。また、やまなみハイウエイから九重町、そして、水分峠の先の湯布院ICから高速道路というルートもあるが、山道は中々険しい。やはり、このルートが一番良さそうである。

午前0時50分頃別府市に到着。国道10号線を進み、右手に大砲ラーメンが見えたら右折し、楠港へ.。港は薄暗い灯りで静寂そのものだった。私の車のエンジン音だけが響いている。静かな港にはふさわしくないと、車のエンジンを止め、かねてからねらいをつけていた無料宿泊所に泊まることにした。港は静寂そのものだったが、宿泊所の中は騒々しかった。おっさんたちのイビキの大合唱に出迎えられることになる。何とかねる場所を見つけた私は、イビキの大合唱にもめげず、毛布にくるまった。こんなスチューエイションには慣れている。4時間のドライブで疲れもあることだし、早く寝なくちゃ。ところがだ、慣れているはずのイビキ攻撃だったが、不幸にもその中で気になるイビキを見つけてしまったのだ。それは、イビキが終わったかと思うと、いつまで経っても息をしないおじさんがいたのだ。おいおい、もしかしてこれって無呼吸症候群ではないだろうか。だいじょうぶだろうなあ。1分ぐらい息をしていないよ。と、心配していると、やっとで「ふんがふんが」と苦しそうなイビキを始める。だじょうぶかなあ、このおじさん。そんなことを考えると眠れなくなってしまった。ついには、ほとんど寝ることなく、集合時間の4時前を迎えるのでありました。


戦闘態勢に入るとっつぁんたち

4時前になると、おっさんたちがごそごそと起き出す。いよいよ出船準備だ。早くも全員揃っていたようで、船の中は活気に満ちていた。乗船名簿に記入し、キャビン内へ入った。今のところ雨は大丈夫のようだ。予定通り午前4時半に第3べっぷ丸は、うっすらと夜が明け始めた別府楠港を離れた。船は全速力でべた凪の別府湾を滑っていく。白い朝に包まれた船首先ににうっすらと水平線が見える。さあこれから1時間ほどの船旅だ。ポイントにつくまで体を休めていると、あっという間に1時間が経過した。しかし、一向に船は止まることなく走り続けている。前方に陸が見えてきた。おそらく四国愛媛県の佐田岬であろう。かなり四国よりを走ってるようだ。ところが、まだまだ船は走り続けている。佐田岬を後方に置き去りにし、まだ走っている。まわりに遊漁船らしきものはまったく見えない。ていうか、霧が立ちこめてきた。一体何処まで走り続けるのであろうか。1時間45分が経過。ようやく船のエンジンがスローになった。一体ここは何処なんだ。おそらく愛媛県沖だとは思うのだが、視界は百メートルを切り何も見えん。

船長が魚探で好反応を探している。みんなはあわただしく釣りの準備を始めている。餌は赤アミ。私もすぐに釣りに入りたいが、乗務員のおにいさんが仕掛けをまだ貸してくれないので待つしかない。ぼーっとみんなの準備を見てると、となりのおっさんが声を掛けてきてくれた。「仕掛けがないの?乗務員を呼んだら。」見るとなんと今朝の無呼吸症候群のおじさんではないですか。かなりのベテランのようで、見てすぐにそれと分かるように手際よく準備を進めている。「はい、ありがとうございます。」軽く会釈をし、声を掛けてくれたことに感謝の意を表した。これから結構な時間釣りをするんだもの、お隣さんとは特に仲良くしとかなくっちゃ。義理と人情だ。

ゆっくり航行していた船はやがて止まった。決戦のフィールドは決まった。乗務員さんがアンカーを入れた。船長がマイクで指示を出す。「いい反応があります。餌をとにかくたくさん撒いて魚を寄せてください。では始めてください。」これを合図にみな一斉に仕掛けを落とした。「まず、仕掛けが底についたら、5,6メートルほど巻き上げて3回ほどシャクってください。シャクったらもう一度仕掛けを落として底ぎりぎりでアタリを待ってください。」


さあ勝負だ 船尾の釣り座をゲット

この船長の指示を聞いている時にようやく乗務員さんがきてくれて仕掛けを渡してくれた。120号の底かごにハリス5号の白スキンサビキ仕掛け。準備は至って簡単。スナップサルカンに掛けるだけだ。はいできあがり、とまわりを見ると、左隣にいるおじさんが早くも魚を掛けたようだ。電動リールで巻き上げている最中に竿先が時折アジの生命反応を伝えていた。はいっ、最初の訪問者中型サイズの関アジ参上。いいなあ、ほどなくまわりの人にも次々に当たり出した。これは、いきなりの時合到来だ。今の内だ、とはやる気持ちを抑えて仕掛けを落とした。時計を見ると午前6時半。船長に言われたとおり、底に落として巻き上げてシャクって落とすを繰り返した。すると、今日のやさしい魚族はどの釣り人にも幸せな時間を約束したように私の竿にも明らかな生命反応が表れた。ククッツと竿先を叩いている。追い食いをさせるためにしばらく魚からの反応を楽しんだあと、巻き取りに入った。上がってきたのは、やはり中型サイズのアジ。すぐに生け簀に入れ手返しの速さが勝負と再び仕掛けを落とした。


いきなりの入れ喰いモードで弁当食べる暇なし

右隣の無呼吸症候群のおじさんも順調に釣果を伸ばしている。「魚の群れが離れないようにどんどん餌を撒いてください。今日は大潮ですが、潮止まりまでは今のところ潮も速くならないので釣りやすいです。シャクりを2回ほど続けたら餌はもうありませんから、餌を詰めてまた落としてください。魚をくるわさないかんから。」とにかく餌を撒けという指令だ。2投目もシャクって仕掛けを落とすと同時に食い付いた。このことからも今はかなりの高活性とうことが伺える。2匹目もさっきよりは少し型のいい中型サイズ。生け簀に入れて第3投。この高活性いつ終わるかわからない。このチャンス逃してなるものか。3投目でやはり中型をゲット。前回は3匹釣ったこのあたりですぐに食いが止まったが、今日は大丈夫そうだ。4投目こんどは、更に竿を絞り込んだ。巻き上げると案の定、ダブルでヒットしていた。徐々にお魚さんもサイズアップ。底潮の関係なのかヒットしないこともあったが、順調に釣果を伸ばしていった。

忙しくて弁当を食べる暇がないといううれしい悲鳴。ちょっと全体的に食いが落ちた時間帯を見計らっておにぎりをほおばり、また仕掛けを落とした。「数を伸ばすならどれだけ手返しを速くするかですよ。魚を浮かせたらかかっている位置を見てください。地獄に掛かっていれば絶対にばれませんから、網で掬うより振りあげた方が速いですよ。網で掬うとハリが網に絡んだりして帰って時間かかりますよ。」なるほどそれもそうだ。早速実践に移す。さあ浮かせたぞ、振りあげ。あれっ、お魚さんは暴れて再び海の中へ。やっぱり安全策で行こう。

右の無呼吸症候群の方は順調に釣っておられた。「餌をシャクってたくさん撒いて」と仲間に指示を出している。どうやら、何人かのおじさんグループの中のリーダー的存在のようだ。やはり釣り方があるのだろう。ダブルが当たり前の爆釣になってきた。見ていてまねようと思うが中々うまくはいかない。しかし、こんな下手な私でも午前8時前になると私の個人生け簀の中はすでに20匹近いアジで満たされてきた。午前8時半ごろ潮が止まってきて食いがやっとで落ちてきた。この時点で釣果予想は、おそらく釣る人20匹〜30匹くらいだろうか。どこの釣り座もまんべんなく釣れていたようだ。初めての入れ食い体験だった。2時間くらい釣っていたのに現実と非現実との淡いに成り立つ世界の一瞬の出来事のようだった。

潮止まりからいよいよ潮が再び動き出した。予想通りの激流が流れ始めた。すると、船のあちこちで「すみませーん」という声が聞こえ始めた。お祭り騒ぎである。これだけ潮が速いと仕掛けが絡むのはしかたがない。無呼吸のおじさんの仕掛けに何回も絡ませて迷惑を掛けてしまった。電動リールのカウンターも朝まずめは、57,8メートルくらいだったタナが、下手すると60後半を指すようになっていった。本当の勝負は実はこれからだったのだ。隣の無呼吸のおじさんは順調に釣果を伸ばしているが、私は一向に魚を捕らえきれない。時間が経つにつれ腕の差を見せつけることになった。一体何が違うというのだ。

午前10時半、餌がなくなったのを合図にその無呼吸の方は、竿を置いた。乗務員の若者が、魚を締めだした。ここの遊漁船のすばらしいところは、釣った魚をすべて神経締めしてくれるところにある。そのため、より鮮度のいい状態で魚を持ち帰り、関アジの良さを保ったまま味わうことができるのだ。今回の釣行では、乗務員さんの作業は大変だろう。そのおじさんの釣果は、60匹近かった。うらやましいなあと見ていると、「糸出してください」と声を掛けてきてくれた。どうやら釣り方をレクチャーしてくれるらしい。その義理と人情をありがたく受け取ることにした。「潮が速いときは、フリーにし糸を出しておかないと、餌と仕掛けが合わないよ。」なるほどそういうことだったのか。糸をたるませても大丈夫なんだ。底潮が速いと、いつもの釣り方では撒き餌と仕掛けの同調ができなくなる。フリーにしてたるませることで撒き餌と仕掛けとの同調する時間をできるだけ長くするというものだった。なるほどと教えられたままやってみると、見事にアジからの反応があった。しかも、40を超える特大サイズ。潮が速くなると魚もサイズアップした。無呼吸のおじさんありがとう。

その後、私も餌がなくなったので、午前11時過ぎに納竿とした。釣り座をきれいに洗い元通りにしたあと満足感いっぱいで飲み物を手にした。「ここの船頭は腕がいいよな」なんて会話が聞こえてくる。みんな今回の釣果に大満足のようだ。かなり早めだったが、みんな納得の納竿だった。釣りという義理と人情の世界を改めて見直すことになった今回の釣行。その爆発的な釣果は帰りの2時間をこえる船旅を快適なものにしてくれた。いつのまにか霧は晴れ、この時期の天気予報は当てにならないことを証明するようなさわやかな初夏の空が広がっていた。


ありがとう 豊の国の海よ


本日の釣果 30〜40cmが28匹

べっぷ丸HP釣果情報より
完全復活!アジさん上機嫌!
ポイントに到着するとすぐに入れ喰い状態に突入!一度も喰い止まることもなく順調に釣れ続き、まだまだ食いがたっていましたが撒餌切れとなり納竿することになりました。
中型〜特大 30〜50匹

※おとといは1〜5匹でした。ラッキー。
でも、やはり私が最低ラインでしたか。


関アジづくし いただきます

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