9/25 ただいま船釣り修行中 別府湾一帯

毎日の通勤途中で、田んぼのあぜ道に立つ可憐な花が挨拶してくれるようになった。緑色のあぜ道に鮮やかに栄える赤い花、彼岸花だ。秋の到来を告げてくれるこの花を見ていると無性にピンク色の魚に逢いたくなるのだ。その魚はマダイ。秋の到来頃から食いが活発になり体に沢山の栄養分を蓄えて冬に備える魚だ。中国で生まれた暦である「二十四節気」では、昼夜の長さがほぼ等しくなる23日頃を「秋分」と呼んでいる。この日を境にして寒さがましてくるとされる。また、雑節では、秋分の日とその前後3日の7日間を秋彼岸という。これにあやかり昔から風流な人々はこの時期に食いが活発になるマダイを彼岸鯛と呼んだ。

この時期、真鯛に逢うためには、筏や船釣りでねらうのがいい。ところが、9月に入って計画だけは立てるが、ことごとく変わりやすい天候によりキャンセルを余儀なくされた。もともとこの時期は、天気がぐずつき長雨になることが多い。春から夏へと移り変わるときには、梅雨という雨期があるのと同様に夏から秋にかけても長雨があるのも当然といえば当然。この長雨を「秋霖(しゅうりん)」または「秋雨」と言う。それにわをかけて台風が発生しやすい時期だ。9月16日からの3連休は台風13号により見事にふられた。行ってしまってほっとするもつかの間台風14号が発生。釣行予定としている9月25日(月)に釣行できるか微妙な情勢だ。

25日は平日、サラリーマンである自分がなぜ釣行できるかといえば、24日(日)は勤務先の小学校の運動会があり、翌日が代休になるからだ。土日しか釣行できない自分にとってこの平日釣行は夢のまた夢なのだ。ところで、運動会といえば、それぞれいろんな思い出があると思う。一般の人は、自分が子どもの頃と、子どもや孫などが学校に通う時しか経験できないと思うが、自分は仕事がら毎年いろんな運動会に携わったり、話しを聞いたりしてきた。総じて思うことだが、残念ながら運動会が時代とともにだんだんつまらないものになってきてはいないかと思う今日この頃。例えば、昔は必ずどこでもあったであろう、飴喰い競争やパン喰い競争は食品衛生の観点から廃止に。人権の観点から複雑な家庭環境の児童に配慮して親子競技などが廃止の方向に。学校五日制の余波により限られた運動会の練習時間は、技巧走などの準備に時間がかかるものを次々に廃止に追い込んだ。もちろん我々が子どもの頃に学校の敷地内でどうどうと売られていたかき氷などの出店は学校敷地内から追い出された。つまり、運動会が時代とともに地域の祭りということから学校体育の発表の場と変化していっているのではないかと思う。

この流れは止められないだろうが、何か物足りない気がするのは自分だけだろうか。物足りない気がするのは、昔の運動会の方がはるかに面白かったと思うからだ。こんな話しを聞いたことがある。山間部のある小学校で伝説の技巧走があったという。軽トラックを乗り回すその先生を仮にO先生としておこう。O先生の技巧走は、その学校の地域住民から絶大な人気を誇っていた。さぞかし準備が大変だろうと思いきや、準備はマイク1本以外は何もいらない。子どもたちはただ一定の距離を走り、O先生のことばを待つだけである。そして、速くたどり着いた子どもに向かってO先生は次のようにマイクで叫ぶのだった。「焼き鳥こうてけえ(買ってこい)」その言葉を聞いた子どもは一目さんにテント席に走り親からお金をもらい、当時は出店が許されていた焼き鳥の出店に走って焼き鳥を買ってゴールを許される。次の児童には、「○○のばあさんばつれてけえ(連れてこい)」その命を受けた子どもたちはその○○に住んでいるばあさんを必死で探す。O先生のハチャメチャな指示に地域住民は大爆笑。もちろん、あんなめちゃくちゃなことさせてということを言うものはいなかったという。もし、今こんな技巧走があったら学校への抗議で直ぐに廃止に追い込まれるに違いない。

運動会を終えて1人でこんなことを考えながら学校職員との反省会(宴会)に参加し、例によってノンアルコールでこれを乗り切った。「ボウズにならんごつな」と校長のゲキを受けて今回の釣行先に向かって午後10時ごろ人吉を出発した。今回おせわになるのは、大分県別府楠港から快適な船釣りをサポートしてくれる遊漁船「べっぷ丸」だ。対象魚はカワハギ。マダイをねらうつもりがこうなったのには訳がある。


静かに出航を待つべっぷ丸

まずは、この時期に夜釣りという選択肢が考えられるが、時間的に無理な情勢。昼釣りしかできないが、磯釣りでは、木っ端メジナと遊ぶことになりマダイには逢うことができないであろう。やはり、船釣りしかない。そして、同時にお魚天国甑へのルートがまず浮かんだ。「25日は予約が入ってないんですう。火曜日(26日)じゃあだめですかあ。」電話の向こうで釣好のおばちゃんが残念そうに話しかけてくる。最近昼釣りが開幕した釣好では、いきなりの絶好調で、マダイ、チダイ、イサキ、アジ、レンコ、コゼンなどが入れ食いとのこと。残念無念!次に電話したのは、マダイ釣りなら久しぶりの天草龍ヶ岳のだいわ観光さんだ。ところが、何と筏は予約でいっぱいとのこと。HPをチェックすると、一日で500〜600枚釣れているそうだ。ははあ、台風13号で養殖鯛が脱走したようだな。これも残念。

早くも追い込まれてしまった。何処に行こうか。失意の内にべっぷ丸のHPを覗いていると、相変わらずの人気で土日の予約はいっぱい。特に、9月から開幕したばかりのカワハギ釣りは、11月いっぱいまで土日はほとんどすべて予約でいっぱい。本命の関アジ関サバを越えてのこの人気ぶりはいったいどういうことだろう。25日も空きは残り4名となっていた。

カワハギ釣りとはいったいどんな釣りなんだろう。磯釣り師にとっては、カワハギはあくまでも本命ではなく外道である。それにも関わらずこの人気は何なのだ。今まで味わったことがない新しい世界を見たくて、つい出来心でマダイ釣りをあきらめて、カワハギ釣りのべっぷ丸へと予約を入れてしまった。「いいですよ。5時に来てください。5時半出航です。」で契約成立だ。

心配だった海況も大型の台風14号が思いの外東側のルートを通ってくれたおかげで、豊後の海はうねりを伴うが1.5mのち1mと問題ないようだ。午後10時に自宅を出発。4時間かけて午前2時前に別府楠港へ到着した。5時に集合だからまだ時間はあるな。徹夜はたまらんと車の中で2時間ほど仮眠を取ることにした。

どれほど時間が経っただろうか。まだ夜明けを迎えていないようだが車の外はなぜか騒々しい。車の窓から街の方へ目をやると煙がもうもうと上がっているではありませんか。だれだ、こんな時間にあんな場所でたき火なんかしているやつは。んなわけないだろ。寝ぼけていたみたいでどうみてもその煙は尋常ではなかった。おまけにウーウーウーとサイレンが鳴り続けている。信じられないことだが、本物の火事のようだ。災害に遭ってる人がいるのにこれから釣りに出かけるのは大変心苦しいが、どうにもならない。被害が最小限にとどまることを祈るのみである。久しぶりの別府なのに火事の歓迎を受けるとは。寝不足だった体は完全に覚醒モードになってしまった。


カワハギのポイントは佐賀関の沖?

今日の客は平日にも関わらず8名。乗船名簿に名前を記入し、キャビン内に入り情報収集に入った。船釣りとしては当然だが、この釣り師の平均年齢は磯釣りに比べて高いことが特徴。今回もベテランの技を見せてもらえる絶好の機会と感じた。釣り人たちの会話を聞くのはとても大切だ。特に、私は船釣りの経験が浅く、ここは初めての場所でもあるし、少しでも情報を仕入れて釣果につながればと思っている。しかし、今回の釣り師はみな総じて無口な人が多かった。しゃべっていてもそれは世間話であったり、釣りのことでなかったりと有効な情報を仕入れることができなかった。不安な気持ちとともに第3べっぷ丸は午前5時半に楠港を離れた。

港を出てから船はうねりで結構揺れた。一体何処へ行くのだろう。カワハギはどちらかといえば人間の生活圏に近いところにもいる魚だから、それほどポイントは遠くないはずと予想していると、出航から約1時間後の佐賀関の半島周り付近でエンジンがスローになった。どうやらここがポイントらしい。釣り人の活性は一気に高まった。みな自分の釣り座へ行き、仕掛け作り等の準備に余念がない。私は例によって船釣りの道具を持たないため竿・リールの貸し出しをお願いしていた。本日の乗務員は、N船長と第2べっぷ丸の船長のM船長の2人。私は、M船長の指導を受けることになった。

「これをつけてください。」早速渡されたのが、カワハギ仕掛けとダイワの快適船シンカー30号の錘。すでに備え付けられている小型両軸リールとカワハギ専用ロッドからPEラインを引き出して仕掛けをワンタッチで取り付けた。空を見上げると雲は僅かで、この日は晴天になるということが誰でも予想できるような絶好の釣り日和だ。周りにもカワハギねらいかどうか分からないが遊漁船が沢山来ていた。

「それでは、始めてください。」の合図でみんな一斉に釣り始めた。「えさの付け方ですが、小さいのを選んでしっぽをとってこのように普通にハリにつけてください。」私はその時まだM船長の指導を受けていた。これがえさなんだ。カワハギの餌はあさりということを聞いたことがある。また、芦北の堤防でカワハギ釣りをしてた落とし込み師の餌は磯カニを使っていたっけ。大分でのカワハギ釣りは一体どんな餌なんだろうと興味津々だったが、どこかで見たことのあるしろものだった。天草で「海エビ」という名で釣具店で売られている生きエビだったのだ。


期待の朝まずめ 

「餌をつけましたね。では仕掛けを落としてください。」で仕掛けが絡まないように慎重に落とした。仕掛けを落としている最中に、「錘が底をついたら少し巻き取って糸ふけを取って、少しシャクって誘いをかけてから当たりを待ってください。」こうM船長が説明しているときに錘が底に到達したようだ。「当たりのとり方が難しいんですよ」こうM船長がレクチャーしているときに、いきなりコンコンと何者かがカワハギロッドの穂先を絞り込んでいる。「あれ、もうあたってしまいましたね。」とM船長。いきなり向こう合わせで何かが喰ってきた模様。慎重にやりとりをしながら浮かせると、良型のカワハギがぬうっと現れた。28cmのグッドサイズ。やったね。

「カワハギは生け簀に生かしていても同じだから、釣れたら各自で締めてください。」の言葉通り、締めを入れ魚をクーラーに入れた。第1投で釣れるなんて何と幸先がいいのだろう。その後、M船長がいろいろとカワハギのあたりのとり方を説明してくれたのだが、いきなり釣れたことで舞い上がってしまい、詳しいレクチャーの内容を忘れてしまったのだった。この調子ならいくらでも釣れるさ。そんなことを考えながら、第2投、第3投と入れ食いの様相。仕掛けを落とすと勝手にお魚さんが喰ってくれるのだ。こんな楽な釣りはないね。しかも、釣れてくる魚は、磯釣りの外道ではとうていお目にかかれない良型。3投目に釣れた魚は、32cmのデカバン。「うおー、でかいのが釣れましたね。」とM船長も声をかけてくれた。しかしここのカワハギはでかいね。こんなに大きいカワハギは見たことがなかった。改めて大分恐るべしと思うのだった


いきなり良型のオンパレード

それぞれ3〜5匹釣れたところで、カワハギの当たりが小休止。すると、「では、仕掛けをあげてください」の声で早速最初の場所移動。場所を変えては、魚のいい反応が出て、当たりがなくなるとまた場所移動の繰り返しのようだ。カワハギも朝まずめのうちは、向こう合わせでかかってくれたが、だんだん餌盗り名人の本領発揮で餌だけが盗られる時間帯が多くなってきた。となりのおじさんは、それでも次々に魚をかけ、午前8時ごろの時点で、私の倍以上の15.6枚釣っておられたようだ。いったいどうしたらいいのだろう。当たりのとり方が分からない。「シャクって誘いをかけてくださいよ。もし、隣の人が釣れたら自分の仕掛けをチェックしてください。餌をとられていることが多いですよ。」N船長の細やかなアドバイスが続く。

しかし、どうしても魚をかけきれない。だんだん苛立ちが体を支配し始めた。そのうち細かなあたりは更に遠のき、当たりを感じるまもなく餌が盗られるということになった。まわりは順調に釣果をのばしているというのに。餌の丁度いい大きさのものがなくなってきた。頭をとってしっぽのほうだけを使っていたら、N船長が「大きい餌は頭の方を使うといいですよ。」なるほどそうか。エビの頭を使うと久しぶりに2匹ほどゲット。


えさは海エビ


次々にポイントを変えていく


またまた移動


ホウボウが慰めてくれた

昼前の満潮の時刻になると、潮が止まりエソやフグが当たり出した。カワハギの当たりも止まった。下げ潮が走り出すと再びカワハギの食いが活発になり、外道のマダイ混じりで釣れだした。でも私はどうしても魚をかけきれない。N船長が声をかけてきた。「どうですか」ぼちぼちです、と言うと、「向こうはクーラーに入りきれんくらい釣ってますよ。」だって。いろいろと工夫するもののどうもカワハギくんを釣りきれない。餌盗りである小鯛、フグがじゃまをしてくれる。時折強い当たりがあり、やりとりの途中でハリはずれが3回ほど。たぶんマダイやチダイだろう。34cm程の1匹だけをキープした。

楽しい時間はあっという間に過ぎゆくものだ。午後2時頃、「これを最後に納竿にしたいと思います。」のN船長の声で釣りを終えた。今回の釣果は数型ともに自分としては満足なのだが、周りを見れば不本意な釣りと言わざるを得ない。何がこうも違うのだろう。M船長が声をかけてくれた。「どうですか。楽しめましたか」いろいろ気を遣っていただいた感謝の気持ちを表すと同時にロッドの話しになった。「自分の竿がほしくなったでしょう」「ですねえ」惨敗した自分にさりげなく次回の釣行へのモチベーションを高めてくれた。1時間ほどで楠港へ帰還。釣り人はみな大満足の笑顔だった。よく釣る人で40枚。私は一番貧果の15枚。サイズも30オーバーがよく釣れていた。大分のカワハギ釣り恐るべし。なぜこれほど人気があるのかよく分かった。そして、カワハギ釣りの奥深さもその人気を支える重要なファクターであることも。N船長に氷を入れてもらいながら、「11月になれば肝も大きくなってもっと面白くなりますよ。是非また来てください。」「ですねえ。でも土日はすべて予約でいっぱいですよね。」と返すと、「平日にきてくださいな」だって。

カワハギ釣りの面白さと難しさを同時に体験できた今回の釣行。またいつかカワハギ釣りに挑戦することを心に決め、平日の空いた別府市内の車道を走りながら、4時間以上のドライブに睡眠打破を一気のみして気合いを入れ直すのだった。


本日の釣果 20cm〜32cmが15匹


いい香りが 鯛飯炊けました


本日の料理

鯛の炊き込みご飯
カワハギの造り
カワハギの肝あえ
カワハギの煮付け

TOP        BACK