10/9 価値ある1尾 蒲江 西野浦

「10月は中途半端やもんなあ」とuenoさんがためいきをつく。私も同感だ。クロ釣り師としての10月は、まだまだ水温が高く、冬場はA級ポイントの場所でもこの時期に乗れば、イスズミの猛攻を食らうことは目に見えている。どうしてもクロを釣りたいなら九州も北の方に行くか、内湾で木っ端メジナと本格シーズンに備えての練習をするしかない。また、チヌなら筏や堤防で小型の数釣りをねらうことになる。どちらも離島行きに比べるとどうしてもテンションが下がり気味になるのだ。

ところが、この時期だからこそいいという釣りがあることに気がついた。それは、青物である。それまでどこにいたのかは定かではないが、多種多様な青物が九州の各地で釣り場をにぎわわせてくれる。河口付近では、小さいサイズのメッキなどのヒラアジ系統のお魚さんが汽水域の豊富なえさを求めて活発に活動。サゴシ、ネイゴ、ヤズ、ヒラス、鯖、鯵、そして、カツオまでが、人間の生活圏に近い、内湾や堤防にもやってくる。また、その中には、3kg以上の大物もいる。10月の天草龍ヶ岳の筏で強烈なあたりの後、横方向に疾走する正体不明の魚に遭遇。同じく10月の天草御所浦のノサバ1番でジグに突進、その後クロ釣りの仕掛けを秒殺にした魚。この魚は芦北の沿岸にも回遊することを発見した。やはり秋だったと思う。平国の釣り筏「天龍」でのんびりとチヌ釣りをしていたとき、筏のブイ付近で悠然と泳ぐ九州新幹線「つばめ」の頭に似た形の魚を発見。何とか釣ろうとオキアミなどを与えてみるが当然見向きもしないのだった。

この魚は、ブリの幼魚ハマチである。この魚を釣るには例えば黒ノ瀬戸海峡、長島海峡などで生き餌を使った泳がせ釣りや、九州沿岸のジギング船に乗るのが一般的だ。しかし、どうも初心者にはお手軽感がない釣りなのでブリに出会いたいもののどうしてもやってみようという気持ちが起こらなかったのだった。

ある時、Web上をうろうろしていると、気になるHPを見つけた。大分県蒲江町にある西の浦釣りセンターのHPである。平成17年の秋の釣果写真を見ていると、思わず生唾を飲み込んでしまった。3kg〜5kgのブリがそれこそ入れ食いのように何本も釣れているのだから驚きだ。どうやら沖にいた群れが9月になると毎年のように蒲江の海域に回遊してくるらしい。しかも、ここでは、鯖や鰯のミンチを使ったえさ釣りとのこと。船長がいろいろと世話してくれて、初心者や女性でも釣れるんだそうだ。


お世話になった民宿「磯吉」さん

これは行くしかないね。いつものようにこの話を10倍くらいにふくらまして師匠uenoさんに伝えると、遠い釣り場には行きたがらないuenoさんもやる気モード全開へ。人気の釣りのようで混雑が予想されるため、状況を確認することもなく9月中から1年中でもっとも天候が安定しているであろう10月9日の体育の日に予約を入れた。通常は4人1組が定員の釣りらしいが、2人でも快く予約に応じてくれた。ありがたいことに、竿や仕掛けやえさはすべて準備してくれるそうだ。こちらが用意するものは、ハリス10号、鈎は12号クラスでいいとのこと。ますますお手軽感を感じるね。ブリの夢を見つつ仕事に励み、ひたすら時が過ぎゆくのをまった。

毎日のように西の浦釣りセンターのHPをのぞくが、どうやら今年はあまり好調ではないことがわかった。9月10日あたりから群れがやってきたそうで、そのはしりの時期には結構釣れたようだが、それ以降は爆釣とまではいかないようだ。9月中旬くらいからポツリポツリだが、しかし堅調な釣果が続いていた。「別に爆釣せんでもよかばい。1匹でも釣れればなあ。」とuenoさんも釣りセンターのHPに一喜一憂の日々を送っているようだ。

そこで問題はいつものように天気。9月は土日の度に天候が悪化かもしくは台風の影響を受けるという最悪のパターンだ。10月に入り、台風15号が発生。心配したが、日本列島に接近とまではいかなかった。ほっとするのもつかの間、今度は台風16号、17号が発生。おいおい、やめてよ、と頭抱えたが、これも西日本に悪影響をもたらすには至らなかった。前日の8日の天気予報では、9日は晴れ。台風が温帯低気圧に変わり、季節外れの西高東低の気圧配置になり、強い西風が吹くことが予想されたが、西野浦は完全な風裏で波高1.5m〜1mと問題なし。やった、ついにあこがれのブリ釣りに行けるぞ。まだ経験したことのない未知の世界への期待は最高潮に達するのであった。

船長に連絡を取り、船が出ることを確認。いよいよ出発の時だ。蒲江町までは、人吉から4時間半かかるだろうと予想していたため、無理のない計画が大事と、前日から蒲江に入り、民宿で1泊してから9日の釣行を迎えることにした。これまで蒲江町の手前の北浦町にはクロ釣りで行ったことはあったが、それから先は二人とも未知の世界だった。いつの間にか、町村合併かなんとかで、蒲江町は佐伯市に、北浦町は延岡市に吸収されていた。さて今回のルートだが、いつもは九州自動車道を南へ下り、宮崎自動車道から宮崎の高鍋町に出て国道10号線を北上するところを、九州自動車道を北上し、松橋ICから高千穂を越えて延岡に入るというルートに変えてみた。このルートが早いと確か北浦あゆ丸の船長が言っていたような気がしたからだ。さて、実際に走ってみてこのルートが早いことを実感できた。なんと3時間と少しで人吉から延岡市に着いてしまったのだった。「もうこれからはこっちから行くばい」uenoさんも納得のルートだったようだ。

「氷はどがんするとだろか」uenoさんが心配していたので、「蒲江に釣具店がなかったらおおごつやけん、今のうちに買っておきましょうか。」我々は用心のために延岡の堀田釣り具に立ち寄った。ここは、北浦にきたときに必ずえさと氷を買うところだ。uenoさんがハリスを探している。実は船長が、「ハリスは8号のシーガーエースで」とさっきの電話でアイテムを連絡してくれたからだ。9月の予約時にはハリス10号と言っていたはずなのに。もしかして喰い渋っているのではあるまいな。「おら10号ハリスしかもってきとらんけん、買っとかんば」この日のために勝負ハリスグランドマックス10号を買っていたuenoさんにとっては肩すかしを食らった格好になった。ところが、さすがクロ釣り本場の釣具店。8号ハリスなんてものはあるはずがなかった。私も念のために8号ハリスを買ってはいたが、シーガー8号だ。エースではない。不安感を覚えながら氷大を2個買って、蒲江に向かっていざ出陣だ。


磯吉さんの手料理 どれも美味

リアス式海岸を右手に見ながら山あり谷ありの道を快調に進み、「蒲江まで1時間と少しです」の堀田釣り具のおじさんの言うとおり、午後6時前に蒲江町マリンカルチャーセンターに到着。もう陽も暮れようとしていた。今回お世話になる民宿は元猿地区の磯吉さんだ。西野浦まで10分でいけるところから選んだ。玄関から入ると、おばちゃんとおじちゃんに迎えられた。とても初対面とは思えないほど話が弾んだ。我々が釣り客とわかるといろいろと釣り談義をしかけてくる。「どこに釣りにいくの?」とおじさん。西野浦でブリ釣りと答えると、「この辺はこれからブリ釣りがおもしろくなるんだよ。烏賊の生き餌で釣るんだよ。1月頃になると10kgのブリが釣れるよ。」この民宿のおじさんによれば、冬の時期には、とれたての小型の烏賊を漁師さんから直接買い付けて磯に渡礁し、ブリを釣るそうだ。秋のこの時期は、冷凍えさで十分だが、寒くなると生き餌でしか釣ることが難しくなるそうだ。「この近くはアオリイカもよく釣れるよ。道具を見せてあげようか」見ると、のべ竿に餌木がつけられている。このおじさんも相当好きらしい。さらにいろんな情報を集めようと、「このあたりは釣り客も多いでしょう。」と水を向けると、「イサキなんかもよく釣れるよ。このあたりは麦の実るころに釣れるイサキのことを麦ハンサゴと言うんですよ。」なるほど、ここは5月の時期もいいらしい。蒲江町は噂通りの釣りのメッカだった。民宿のおじさんの豊かな話題と同じように海の恵みも豊かなようだ。「伊勢エビもよく捕れるからね。このあたりは6月からとってるんだよ。あんまりとりすぎると少なくなるからやめてほしんだけどね。」熊本では確か9月から伊勢エビ漁が解禁になるはずだが。大分県恐るべしと改めて認識させられるのだった。

15分ほど話し込んで、部屋に入る。広々とした部屋だ。風呂に入った後、待ちに待った料理。どれも新鮮な魚を使った手の込んだ料理でどれもおいしかった。ハマチの造り、たこの酢の物、カワハギの唐揚げ、ハマチの煮付け、サザエの壺焼き、そして、絶品だったのが太刀魚の南蛮漬けだ。調子に乗った我々は、伊勢エビの味噌汁が食いたいとわがままを言うと、ちゃんと応えてくれるやさしい女将さん。大満足で寝床についた。明日は午前5時に西野浦に集合だから、朝4時起きだ。いつもなら、大分に行くには、夜中に出なくてはならないことを思えば、4時起きなんてたいしたことない。そう思えば、急にねむたくなりいつの間にか眠ってしまったようだ。かなりいびきをかいてしまったようで、uenoさんは寝られなかったとのこと。ごめんなさい。


さあ ついにたどり着いたぞ あこがれの釣りセンターに

気がつくと、目覚ましがわりの携帯のアラームが4時をさしていた。さあ出発だ。勢いよく顔を洗って気合いをいれ、おじさんからおにぎり弁当を受け取ると、いざ西野浦目指して車を走らせた。短いトンネルを抜けてしばらく行くと西野浦行きの標識がありそこを右折する。左手に海が見えている。かなり下に降りてきたところで西の浦釣りセンターの看板を見つけた。鋭角交差点を左に曲がると後1.7kmとあった。えっ、これから1.7kmもあるの?目的地まで中々着かないね。車1台通れるような細い沿岸道路を通ると小学校らしき建物が。まだ先らしい。だんだん人家がなくなり寂しくなる。そして、ついにたどり着いた。「西の浦釣りセンター」という看板に。海にせり出した建物を過ぎると駐車場があり、半島周りの瀬渡しとしては大型の部類に入る栄福丸も確認した。車を止めてあたりを確認。先客がいるようだ。道具をおろそうと準備をしていると、船長が暗闇の中から登場。「ああ、鎌田さん?」「はいっ、そうです。よろしくお願いします。」初めて船長との対面を緊張しながら軽く挨拶をすませると船長は、「えさを作るからこっちにきて」と我々を誘った。4人の先客も一緒だった。

いったい何が始まるのだろう。興味津々だ。船長はいきなり冷凍庫らしいところから、直方体の冷凍魚の固まりを持ってきた。よく見るとその魚は中型サイズの鯖と鰯のようだった。どうやら、これからえさを準備するらしい。船長は冷凍魚の固まりを機械にかけた。その固まりは耕運機のようなカッターでこなごなになっていった。あれほど堅いドライアイスのような固まりがあっという間にミンチ状態になるのを見るのはなんとも豪快である。機械でコマセができあがると、今度はそれを船まで運んだ。かなり重いので二人がかりでないと無理だ。何とか船まで運ぶと、次は道具類やクーラーを船まで運んだ。常連客はチャーターらしく、ほかの船に。我々はいつの間にかやってきたほかの2人組と一緒に船長の操る栄福丸に乗り込むことになった。乗船名簿に名前を書くと、船長が「作戦会議をするから集まって」とみんなを集合させた。


まずはコマセづくりから
「今日の最初のポイントのタナは7ヒロ。浮き止めから天秤までが2ヒロだから、ハリスは5ヒロとって。8号だよ。上げ潮のポイントはそこで、満潮から下げに変わったら移動します。そこのタナは17ヒロ。マダイも当たってくる。昨日は、マダイの10kgが出たよ。」この話を聞いていると武者震いがしてきた。今まで経験した釣りとはスケールがあまりにも違いすぎる。これだけ、正確にタナをいうということは、タナ取りが釣果を上げるポイントらしい。ウキを見てびっくり。500mlのペットボトルが逆さになって赤色に塗られ見事なウキに変身しているではないですか。竿はおそらく80号くらいの長めの船竿だ。リールは6000番以上。何もかもスケールが大きい。今期は4kg平均のものが釣れているというからこの太しかけも当然といえば当然だ。

午前6時になったうっすらと夜が明ける。筏に4,5人の釣り人が桟橋から渡ろうとしている。ここの筏は、デカ版のマダイ、チヌ、カワハギ、鯵、サンバソウなどが釣れるというから驚きだ。岸からほんの50mほどいったところなのに。西野浦の魚影の濃さを証明する光景だった。船のエンジンがつけられた。ゆっくりと港を離れる栄福丸。沖の空が紫色からオレンジ色に変わっていく。冷たい風がほほをなで、それがだんだんやさしい風に変わったような気がした。船は全く揺れない。朝方はうねりを伴うと思ったが、予想に反してべた凪だった。下り中潮初日。昨日は、ブリが5本釣れ鯛が6kgと10kgの2匹。一昨日が、ブリが6本で鯛が6kgと8kgが2匹だったそうだ。少ない当たりを確実にものにしなければならないシビアな釣りになりそうである。

朝焼けの光の中に立つ影は ブリ釣り師

船は、無数に点在している生け簀ブイを抜け、西野浦の湾口に躍り出た。一番沖に位置するブイの沖側でエンジンがスローに変わった。どうやらここがポイントらしい。沖から回り込むようにして船は停泊。アンカーを入れた。潮は、うまい具合にブリの生け簀を斜めにかすめて流れている。左隣のチャーター船が潮の動きから考えると一番いい位置にあるようだ。民宿でつくってもらったおにぎり弁当を食べていると、「仕掛けをつくりなさいな」と船長。いかんいかん、のんびりしすぎた。朝まずめが一番のチャンスだったっけ。ウキを取り付け、ハリス8号を5ヒロ取り、ヒラマサ12号の鈎を結んだ。この釣りは独特で、船長のレクチャーをしっかり聴かないと失敗するようだ。

まず付けえさ(冷凍鯖切り身)を鈎に縫い差しにする。やわらかい身の方から刺し、皮の部分から鈎先を出し、再び皮の部分に刺して止める。付けえさをつけたら、それを投入し、その間に船長手製の巾着袋にコマセを入れ、親指ほどの穴をあけた状態でウキとともに投入する。浮き止めでウキが止まったら、軽くしゃくって潮に流していく。時々船長がコマセを撒いてくれる。船長がせわしく動いている。オーラを放っている。どうやらこの時間は本当にチャンスタイムのようだ。これは頑張らなくっちゃ。

釣りを初めて15分ほどたつと、いきなりわーという歓声が起こった。隣のチャーター船だ。いきなりブリが釣れたらしい。早くも2匹、3匹と入れ食いの様相だ。「向こうは釣れているよ。こっちでもつれるはず」と船長がいらだっている。向こうは釣れるのにこっちは何で釣れないの?4人の仕掛けにはまったく音沙汰がなかった。いったいどういう時にブリは喰ってくるのだろう。

潮が速くなった。流していてもすぐに生け簀のブイにたどり着いてしまい、そのまま流してしまったままだとひっかかってしまう。止めては流し止めては流しとしていると、やがて潮の流れが変わった。緩やかにそして、生け簀方向へと変わった。何かが変わると思っていた午前7時頃、手前で釣っていた2人組のおじさんの1人が魚をかけたようだ。結構長いやりとりの後、浮いてきた魚は3kg前後のブリだった。俄然やる気になる我々。「あまり流さなくてもいいよ」船長がそうアドバイスしたときだった。「うおー」と私の潮上にいたuenoさんがいつの間にか魚とのやりとりを始めていた。堅いはずの船竿が容赦なく「つ」の字に曲がっている。慎重にやりとりをするuenoさん。この異変に気づいた船長もuenoさんのサポートに入った。「ほら、そこで巻かんかい」と船長のゲキが飛ぶ。魚はいつもいつもひっぱているとは限らない。魚が力を抜いたときがチャンスなのだ。中々浮いてこない。3分ほどしてやっとでペットボトルウキが見えてきた。いよいよフィニッシュだ。青灰色の細長い魚体がぬうっと水面を割った。緊張の瞬間だ。船長が見事に一発で玉網入れを決めた。してやったりの表情のuenoさん。満面の笑みをたたえながら4kgクラスのブリを眺めていた。すぐに殺しを入れる船長。さすがプロ。その動きに無駄はない。

その船長が今度は私に向かってアドバイス。「船の下にいるよ。仕掛けをあげてえさをつけ直して。」鈎を見ると船長は「これじゃあだめだ。」と言って、アジ鈎11号くらいのものをつけてくれた。ブリを釣っているのに、ヒラマサ鈎よりもアジ鈎のほうがいいなんて。船長の指示は絶対だ。手早くえさをつけ、コマセを詰めて仕掛けを投入。トローっとしたいい感じの速度でウキが流れていく。あまり遠くまで流さないでという船長の指示を守って仕掛けを操っていると、ふわっとした道糸の動きの後、ウキが消し込む前に道糸が走った。ククッと竿を絞り込んでいる。これは引くなあ。かなりの大物であると瞬時に理解できた。磯釣りでやるように竿を立て魚の動きが止まったときに余った糸を急いで巻き取るということをやっていたら、「こら、そんなに速く巻いたら切れるじゃあないか」と大目玉。ごめんなさい。船長のアドバイス取りに強引なやりとりをやめ少しずつ魚との距離を詰めるやり方でやりとりを行った。


私にも待望の1尾が

しかし、予想通り引くなあ。80号ほどの竿なのであまり感じないが、これがもしクロ釣りのタックルなら一瞬のうちに仕掛けをとばされているだろう。しぶとい魚だ。何度も船底へとつっこみを見せてくれる。そのたびに慎重に竿をさばく。やりとりは3分くらい続いただろうが、もう10分くらいやっているように感じる。ウキがやっとで見えてきた。慎重に浮かせると、予想通りのサイズのブリが静かに浮上した。船長がまた一発で玉網をかけてくれた。やったね。4kgクラスだ。坊主脱出にほっと胸をなで下ろす。再び船長が間髪入れずに魚を締めにかかった。船の中に横たわる魚を見て自分が釣ったという感覚が全くないまま呆然とその場に立ちつくしていた。2ヶ月間恋いこがれた魚がこんなにもあっさりと釣れてしまうと拍子抜けしてしまうよね。

よしっ。uenoさんが再び魚をかけたようだ。時合い到来か。ところが、幸せなときは一瞬で、竿はいきなり天を仰いでいた。uenoさん痛恨のバラシ。ハリハズレのようだ。「まだ、魚がいるよ。はい、仕掛けを流して」船長がこの中では最も高いテンションで釣りをしているようだった。このただならぬ船長のWiLLはかなりのチャンスタイムであることを示していた。「あっ、鎌田さん、今魚が当たってきたね。食い込みきれんかったな」と船長。私は当たりかどうかさっぱりわからなかった。チャンスタイムだったはずだが、おじさんが始めに釣ってから15分ほどたったところだが、また沈黙の時間が流れ出した。スケールが大きい釣りだものそんな簡単に釣れないし、頻繁に当たりがあるはずはない。そう思って、仕掛けを打ち返していたが、むなしく波間を漂うウキを見つめるだけの時間帯が続いた。


下げ潮のポイントへ移動

さっきまでは活性が高かったもう一つのチャーター船の方も当たりが止まってしまった。どうやら午前8時半の満潮潮止まりを迎えたようだった。潮がまったく止まってしまった。潮が止まると「HPは見たことある?」と船長の世間話が始まった。HPを立ち上げるときの苦労話、HPの制作を依頼した人物とのトラブル。この商売を軌道に乗せるまでの苦労など、初対面の我々によくもまあこんなに話してくれるなあと感心するくらいだった。パソコンもかなり勉強されたとのこと。魚からの反応がなく退屈な時間になるはずが、楽しい時間に変わった。

「移動する?」チャーター船の船長が、予定通り下げ潮のポイントへの移動を始めようとしていた。「もう少ししてから動く」とこちらの船長は答えた。「まだこの時間帯は喰う時間なんですよ」船長の長年のカンに頼るしかない。ところが、午後9時半まで粘るが釣れる雰囲気が感じられない。「仕掛けをあげてください。移動します」下げ潮が走る前に、本命ポイントに移動するようである。

移動の途中で、船の中で一緒になった2人組の方と話した。「去年きたときは、入れ食いだったんだけどね」その言葉には大分なまりが入っていた。その方の話では、去年この時期にきて入れ食いを体験。今回もそれを期待していたのだが、当たりもほとんどない状況に驚いているという。そのうち船長も加わり、「朝が一番のチャンスだったな」とつぶやいた。そうだったのか、と少々落胆の表情を見せると、「昨日は10kgの鯛が次のポイントで釣れたんだよ」と我々のモチベーションをさりげなく高めてくれた。とにかく次のポイントにかけよう。


喰い渋る お魚さん かもめが笑ってる
5分ほど北向きへ走るとさっきと同じような養殖生け簀の点在するポイントに到着。ここにはほかの遊漁船もあり、ボート釣りやブラックバスを釣るためのボートで釣りをしている人もいた。また、養殖の仕事をされている船もあり、養殖ぶりにえさを与えていた。「タナは浅くなっているんじゃないかな。15ヒロでいこうか」と船長が指示を与え、いよいよ釣り再開だ。潮はうまい具合に生け簀方向へと流れている。いいぞと期待をもって仕掛けを流すと、uenoさんがまたブリらしき当たりをとらえた。すごいな絶好調と話しかけようとしたその瞬間、再び痛恨のバラシ。ハリス切れだった。「鎌田さんのハリスは、いつ買ったな」私のハリスを使っていたuenoさんはハリスに問題ありと考えたようだ。船長に見てもらったが問題はないとのこと。いったいなぜ切れたのだろう。未だに謎である。

ここでも当たりがなく、退屈な時間が流れた。いつの間にか2人組の方と話をしていた。「何匹か釣れましたか。」と1人の人に尋ねると、「まだ釣れません」ごめんなさい。聞かなきゃよかったね。我々4人の中でこの方だけ釣れていなかったのだった。気まずい雰囲気が漂った。

昼を過ぎた。いっこうに竿が曲がる気配がない。マダイが喰うかもとタナを深くしたり、「13ヒロにして」という船長のアドバイスであわててタナを浅くしてもだめだった。やっぱり、朝が唯一のチャンスだったのかな。ぼーっとして集中力も切れかかったところで、さっきのチャーター船が近づいてきた。この船の釣果は、朝方にブリ6本、このポイントで2本あげたそうだ。我々よりも遙かにいい釣果だ。ベテランぞろいなのだろう。でも、なぜ、我々の船に近づいてくるのだろう。どうやら、アンカーを巻く機械が故障したらしく、こちらの機械で引き上げてもらうために来たらしい。

ところが気まぐれな自然は、思いもよらぬ事態をもたらした。その作業中に、さっきのボウズのおじさんが魚をかけたのだった。「船長!船長!」異変に気づいた人が、船長を呼んでいる。「まだ、あわてんでもいいが」その通りだ。そのボウズおじさんは、魚とのやりとりができる隣のチャーター船に乗り移り、その最後部で勝負を始めた。「いいぞ、がんばれ!」釣り客みんなが応援している。自分たちも釣りを忘れてその勝負の行方を見守ることにした。

やっとで浮いてきた。船長がタイミングよく玉網をかける。釣れたのはやはり4kgクラスの見事なブリ。みんな自分が釣れたことのように喜んでいる。これで我々の船も何とか全員安打。「おいっ、この魚の口にほかに2つハリがついてるぞ」どうやら、この魚は釣られる前に誰かが2回喰わせた魚のようだ。「もしかするとuenoさんがさっき喰わせた魚かもしれませんね」と私。「じゃんなあ(そうだなあ)」とuenoさん。

これでやっと全員安打 満面の笑み

「じゃあ、戻ろうか」船長か船を走らせた。2人組の方が用事があって2時であがられるそうだ。ところが、船は港に戻るのではなく、沖へと走り出していた。沖に大きく見える島へと進んでいるようだ。たぶん、磯釣りの瀬変わりをしてから港へ戻るんだと理解した。大きなこの島は、後で調べたが、「沖黒島」というそうだ。10月のこの時期でもクロは釣れるんだろうか。状況を調べるためにポーターの役をかってでることにした。4,5人の釣り師を乗せ、地よりの磯に瀬変わりさせた。その中には、HP上でお気に入りに登録している「豊磯」さんもおられた。「だめだったよ」「キタマクラしかいなかったよ」とこのポイントでは惨敗だったようだ。このポイントは、北の方にかの有名な「横島」を臨む位置にあるので、やはり本格シーズンにはかなり魚影の濃いポイントになりそうである。


クロ釣りのA級磯 沖黒島

船はやがて反転し、港へ戻った。一応休憩ということらしい。ところが、船長が「どうします。干潮が2時くらいだから、このまま出ても厳しいと思うけど」確かに船長の言うとおりだ。「これでやめにしませんか」と船長が気の毒そうに切り出した。でも、潮回りから考えれば船長の判断は正しい。陸に上がった釣り師は一気に戦闘モードからリラックスモードへと変わろうとしていた。「uenoさん、やめましょうか」「じゃんなあ」我々は快く終了を宣言した。1匹釣れたことだし、始めての釣りだからまあ今度はよしとしよう。

手を洗いながら、よくよく考えると、今日の釣りは朝まずめが唯一のチャンスといっていいほど厳しい釣りだったことになる。そう考えると今日の1匹は正に価値ある1匹ではなかったか。1匹とボウズでは、魚のサイズからしても雲泥の差だ。アジなどの船釣りの数釣りのおもしろさにはない初めての刺激にとまどいながらも、来年にリベンジを誓いながら西野浦をあとにするのであった。


師匠 uenoさんの釣果 3打数1安打


本日の釣果 1打数1安打 3.7kg

初めてのブリ料理

ブリの造り
ブリしゃぶ
ブリカマ焼き

どれも絶品

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