10/28 お久しぶりね 一辺島

「あらあ、かまちゃん、お久しぶり」久しぶりに15年来の行きつけの人吉市某飲み屋さんにおじゃますると、いつもとかわらないママの声。7月以来だから本当に久しぶりだ。釣りを始めて以来、この店に来ることが少なくなったが、いつ来ても心が落ち着くものだ。焼き肉とカクテルが一押しというこの店を初めて訪れた客は異口同音になんというミスマッチだろうかと驚く。しかし、「九州味の百選」に選ばれた焼き肉に東京の某ホテルOで修行をしたというマスターのカクテルの技術は巨匠の域に達している。500種類以上のカクテルの酒の種類と分量を覚えているというから驚きだ。とても70歳とは思えないシェイクに思わず拍手を送りたくなる。

人吉球磨地方では、お祝い事や感謝の意を表す贈り物として焼酎を送るのが一般的である。10月中旬、私の職場にマスターから焼酎が届けられた。毎年、私の勤めている学校の運動会の時期に必ず焼酎を届けてくれるのだ。やばい。これは行かなくっちゃ。そこで、あわてて1週間後、店を訪ねたのだった。「試作品を作ったんですよ」その新作のカクテルの名は、「イナバウワー」。確かに何かがイナバウワーしているではありませんか。そのイナバウワーの正体は、企業秘密だそうだ。(ヒントは野菜)70歳になっても飽くなき探求心、想像力には脱帽だ。私もいくつになっても少年のような心を持ち続けたいと思うのだった。


カクテル イナバウアー

さて、飽くなき探求心、想像力を磨きに、釣りに行こうと画策していたが、10月は9日に行けた以外は、釣りができる自由な時間がとれなかった。10月はもう無理かなとあきらめかけたその時、幸運がやってきた。日曜日、N町で全日本選抜剣道大会が行われる。その開会式で、私に国歌斉唱をやれという話がやってきたのだった。サッカーの国際Aマッチなどの開会式のセレモニーで歌うあれである。何で私に?と思ったが、拘束時間は朝だけなのでまあいいかと安請け合いすると、何と校長が私を気の毒がって土曜日の県P大会参加を免除してくれるという。やってきました幸運が。PTAの皆さんには申し訳ないが、剣道大会よありがとう!こうして、消えかかっていた探求心、想像力の火が再び点火することになるのであった。


ありがとう 剣道大会

10月28日(土)、小潮。私は必死の形相で家族を拝み倒し許可をもらった。同じく、uenoさんも奥さんを何とか説得し、かくして釣りバカ二人はぎりぎりのところで、しかし、いつものように釣行にこぎ着けるのであった。問題は、決戦の舞台をどこにするかということだ。今年は、昨年と違い、海の季節が早く進行している気がする。甑島では良型は少ないものの、クロが釣れだしている。離島の宇治群島、黒島でもクロの釣果が聞こえてきた。(っていうか、この時期に離島でよく上物の釣りをするよなあ)ちょっとクロ釣りには時期的に早い気もするが、甑あたりに行ってみるか。TOMMYさんのHPを覗くと手打西磯の釣行記が紹介されていた。クロ釣り師なら誰もが憧れる「早崎」に上礁されたとのこと。いいなあ、手打西磯は11月1日から禁漁期間に入るので、行くなら今がぎりぎり、チャンスだ。この思いを師匠uenoさんに伝えるが、反応は今一。「釣るっとな。おら、一辺に行こうと思っとるばってん。」えっ、一辺島。しばらくの間考える力を失ってしまった。

一辺島は、錦江湾最奥に位置する独立礁である。島というほどの広さはなく、烏帽子岩のような形状をいる。西に辺田小島、南を弁天島に守られるように囲まれている。岩の性質からして古い岩盤からできているようで、斜めに地層が走っている。長い間の風雨により現在のような複雑でこぼこした形状になっている。一見何の変哲もない磯だが、釣り雑誌に何度も登場した知る人ぞ知る磯だ。60オーバーのチヌが釣れる巨チヌランドとしてあまりにも有名。釣れるチヌはほとんど40オーバー。我々も巨チヌに逢いに2002年にやってきたが、私は惨敗続き。9月に2回、10月、11月、12月にそれぞれ1回ずつ計5回訪問した。手のひらサイズのクロが湧き20枚〜40枚(足裏が4,5枚混じる)釣れるし、良型のバリや時折小型のカツオも当たってくる。しかし、どうしてもチヌの当たりは拾えなかった。一方、uenoさんは、9月に55cm、11月に50cmをゲット。私は当然玉網係に。だから、一辺島は私にとっては最も行きたくない場所。uenoさんにとっては、最も行きたい思いでの場所なのだ。


4年ぶりの一辺島で勝負だ


「甑は釣れんかったら、腹んたつばってん。一辺なら(渡船料が)安かけん腹のたたんたい。」と今回のuenoさんはかなりしぶとい。今まで何回となくuenoさんから一辺行きを誘われてもやんわりと断ってきたが、今回はしかたがないかも。しぶしぶ了承すると、uenoさんは早速渡船に電話。「4時に来てくれげな。4時なら隼人の釣具屋も開いていないから、ニシムタでえさば買っとかんば」ルンルン気分で帰っていった。

一辺島が苦手というのは釣果だけでなく、ほかの要因もある。この釣り場はチヌ釣り場としては水深が足下から深く、磯周りで竿2本、ちょっと先に行けば、3本、遠投すれば更に4本以上とかなりの深さだ。底の形状も当然凹凸が激しく、底をとるのが難しい。また、磯場周辺はオーバーハングになっているところが多く、魚を底近くで掛けても取り込むのが難しい。また、平らなところが全くない釣り座で、やりとりにも神経を使う。南向きの釣り座は、左下の鼻に向かって滑り台のように落ち込んでいて、ここで道具を落としたり、仕掛けを失ったり、更には竿を折ったりと今まで散々な経験が思い出されてくるのだった。

しょうがないなあ。今度の釣りは、一か八かの博打釣りになりそうだ。ビッグママ(年無しチヌ)かボウズかという釣りだ。しかも限りなくボウズになる確率が高い。ギャンブル好きのuenoさんならではの選択だ。私はできればおみやげがゲットできるところがいいんだけどなあ。10月だから、例年ならバリ(アイゴ)の活性が高いだろうからハサミは必需品だ。烏賊もいるかもしれないから、餌木も、そして、木っ端メジナに遊んでもらうためにクロ釣りの仕掛けも当然準備。ボウズはほとんど確定的だが、釣りに行かなければ確率は0パーセントだ。一辺島だが、確率は0ではないはず。自分にそう言い聞かせて、気持ちを奮い立たせていった。



午前2時40分uenoさん宅集合。コンビニで食料や飲料水を買い込み、午前3時人吉を出発。九州自動車道を南下し、加治木JCから左へ曲がり、隼人東ICに着いたのが午前3時55分。今までの釣行に比べると本当に近く感じる。ICを出てまっすぐ走るとすぐに隼人港に突き当たる。高速道路のインターチェンジから車で30秒とは全国でもまれに見る近さの遊漁船基地ではなかろうか。お世話になるのは、勇丸さん。初めてここを訪れるとき、場所がわからないと言うと、船頭さんは何と高速の出口まで自転車で迎えに来てくれた。

約束の時間ちょうど4時に隼人港に着き、車を所定の位置に止めた。潮が最干潮のためか車の位置からは船がどこにあるのかわからない。岸壁近くに来てようやく懐かしい勇丸と船頭さんを見つけた。「おう、uenoさん久しぶりだね」早速顔を上げて声を掛けてくれる。船頭さんは、いつもuenoさんと声をかけてくる。魚を釣った釣り人の名前は覚えてくれるが、私の名前は一向に覚えてもらえない。まともな魚を釣っていないからしょうがないが。いつもは、5時頃出港するのだが、一辺島にはほかの船も渡船する。それで、できるだけ早く出て場所を押さえなければならないので、4時に出港になることを話してくれた。

荷物を勇丸に積もうとするときに、船頭さんの「荷物はこっちにつんでな。その船は修理しとるから」という声。となりの船をみて驚いた。勇丸はお世辞にも大きな船とはいえない昔ながらのポンポン船である。かつて、2003年の2月に一辺島へ乗せていただいた時に、南からの春一番のような嵐がやってきたことがあった。穏やかな湾奥の釣り場にもかかわらず甑島顔負けのサラシができ、これは尋常じゃないと回収をお願した。ところが勇丸は一辺島から見えてはいるのだが、強烈な風と波に一向に近づくことができない。しばらく風と波が収まるのを待って回収してもらったことがあった。隣の船は、その船よりも更に小さいっていうかボートだ。これに後から来た若者と一緒に4人で乗っていけるのかなと首をかしげたくなる。荷物を乗せて4人乗ればもう満員。足の踏み場もなくなる。更に、「おい、あんたら懐中電灯は持って来とらんな」と船頭さん。ボートには当然ライトは常備されているはずもなく、明かりがないため、瀬付けが危険というのだ。うーん、さすがに懐中電灯は持ってこないよな。そうしているうちに船頭さんがどこからか懐中電灯を持ってきて事なきを得る。ホッと一安心。

ところが今度は、エンジンがトラブっているのか、中々かからない。若者の常連さんが必死でエンジンを掛けようと奮闘している。お手伝いしなければならないと思うのだが、知識も技術もない中で手伝ってもじゃまになるだけと見守ることにした。船頭さんももう少しだがんばれと若者にゲキをとばしている。5分くらいたっただろうか、やっとでエンジンがかかった。万歳!一番喜んでいるのは船頭さんのようだった。そして、「ロープを外してな。」上機嫌になった船頭さんは、我々にこう話しかけて、いよいよ無事出港となった。

船は、いやボートは暗闇の隼人港を人間が速歩きをするスピードでゆっくりと港内を航行している。高速道路の橋脚をこえてしばらく進むと急に視界が広がった。錦江湾である。ゆっくりの航行のためか、我々はごく自然に釣り談義を始めた。「最近釣れてますか」という問いに、「この前ねえ、○○さんが40センチの(チヌ)を1匹あげましたよ。今は、鯛子が釣れますよ。塩焼きにしたらおいしいから持って帰りなさいな。」と船頭さん。チヌ釣りに来たはずのuenoさんがこんな質問をぶつける。「クロはどうですか」すると、「ここは2キロとか3キロとかいますよ。」と若者も会話に加わってきた。この話に喜ぶuenoさん。懐疑的に首をかしげる私。

この後、一辺島のすぐ近くに最近オープンしたばかりの釣り筏の話題となり、その筏でよく釣れる魚はアジゴであるということがわかったところで、そろそろ船いやボートは一辺島に近づいた。船頭さんが懐中電灯で照らした先を見ると、眼前に懐かしい巌が出現した。お久しぶりです。4年ぶりのせいか、苦手な磯場にも関わらず懐かしさがこみ上げてくる。ボートには当然ホースヘッドは着いているはずもなく、ひっかき棒のようなもので磯の端につかまり船を引き寄せる。その間に荷物を上げ、一辺島に渡礁した。「帰りは何時?」もう1人の若者はベテラン向きの南の釣り座に行くようだ。その若者が2時ということなので、我々も2時でお願いした。

相変わらずごつごつした磯場だ。現在の時間は、午前4時40分くらい。高速船なら5分とかからないところだが、20分くらいのゆっくりとした暗闇のクルージングを楽しむことができた。夜明けはまだまだ。我々はゆっくり休むことにした。uenoさんの職場の人間関係の話を一方的に聞いていると、うっすらと夜が明け始めた。「さあ、餌ばつくろうか」とuenoさんがぞこぞこと活動を始める。私も撒き餌作りから始めた。

オキアミ生1角にマルキューのムギパワー、チヌパワー、オカラダンゴを配合。水深があるため重めのものを選んだつもり。そして、遠投できるように水を少なめにして粘り気を出すために手で丹念に混ぜた。付け餌はオキアミ生、餌取り対策として半ボイルとダンゴを準備した。竿は、メガドライM2 1.5ー53。釣研BMウキ1.5号の半誘導仕掛け。道糸2号にハリス2号(後から1.75号に)をチョイス。タナは竿2本から始めることに。uenoさんは巨チヌを意識してかBBX1.75号。道糸ハリスは私と同じで、ウキは0.5号の棒ウキだ。釣り座は、釣り筏側にuenoさん。水道側に私は入った。潮は小潮にしてはスムーズに隼人港向きに流れている。満潮が、10時ごろだから、朝まずめは上げ潮ということになる。


やっぱり今日もうんこ座りのuenoさん

いい感じで流れている水道側竿2本先に第1投。巻き餌を手前に撒くとおびただしい数のキンギョ(ネンブツダイ)が群れていた。でもこいつは足が速くないからかわせる。いつもならキンギョのすぐ下にコッパグロが見えるのだが、今日は全く確認できない。餌取りが多いことを想定して、特にコッパグロを意識して、1.5号のウキで一気に仕掛けを沈める作戦だったのだが。釣り初めて数投後、餌取りが鈎掛かりするようになった。トラギスやサンキューベラマッチャである。ベラがいるということは、仕掛けが底まで届いているということと、まだチヌが寄りついていないことのようだ。

よっしょあ、uenoさんが午前7時過ぎ、魚とのやりとりを始めた。大物か?かなり竿を絞り込んでいる。ところがよっしゃあの声はやがて悲鳴に変わった。地球を釣ったようだ。底潮が手前に当たってきているらしい。あーあしょうがないなあと思いきや、今度は自分が根掛かり。おいおい、やめてくれよ。BMウキは死守したが、水中ウキは還らぬものとなってしまった。

のっけからこんなことやっているようじゃあ先が思いやられるね。案の定、午前8時になっても、午前9時になってもチヌからの反応はなく、そのうち潮も止まって餌取りの当たりさえも拾えなくなってしまった。朝まずめは、巨チヌを釣った経験を事細かく再現してくれたり、ポイントをいろいろ解説してくれたuenoさんだが、だんだん無口になってきた。そして、釣れない時の得意のうんこ座りが始まったのだった。(ちなみにまだ薄暗い6時頃、本当のうんこ座りをしてきたそうだが)更には、向こうの筏はアジゴが釣れよるごたるなあ、とつぶやくなど集中力も切れかかっているようだ。

潮も止まったし、メシ喰おうかとuenoさん。釣りは時々休んで気持ちを切りかえることも大切だ。9時半を過ぎ、コンビニおにぎりを食べながら、作戦を考え直すことにした。底には餌取りが多くてダンゴでさえも餌がもたない状況。チヌが寄れば餌取りは消えると思うが、それよりも全誘導でゆっくり沈めていきながら浮いている魚も喰わせられるようにすればどうだろう。この餌取りなら大丈夫のようだし。全層をねらうならば、バリなどのおみやげもゲットできるかも。そこで、仕掛けを棒ウキから、キザクラのLets0号の全誘導仕掛けに変更。新たな気分で釣り再開だ。ところが、潮は一向に走る気配がなく、むなしく漂うだけのLets。気がつくと仕掛けがまた、見えない根に引っかかり、Letsを失ってしまった。がっくり。これでは、遠投できるウキでないとだめですわ。

今度は、同じ全層ウキでも遠投できる自重を持つキザクラクジラ0号に変えた。JクッションJ4を付け少しでも潮の動くところを探しながら20m以上先に遠投して釣ることにした。10時半ごろ携帯が鳴った。うちの母ちゃんからだ。「釣れた?」「釣れてない。餃子の土産買ってくるよ」と答える私。あきらめムードで新しいポイントを開拓していたが、これまでのポイントと違い付け餌がそのまま帰ってきた。回収の時の感触で大体竿2本くらいは入っていったはずだから、何かが違うぞ。同じところに集中的に撒き餌をして魚の反応を待った。

下げ潮の時間帯になっても潮は弁天島の方には行かない。今日は片潮のようだ。潮まで我々に味方しないのかと思っていた午前11時過ぎ、潮が隼人方面にいい感じで流れ出した。すると、キザクラクジラ0号が勢いよく水中に消え、しばらくして道糸が走った。竿を立てるとぎゅーんと乗ってきた。しかし、軽い。浮いてきた魚は、船頭さんの言うとおり、手のひらサイズの小鯛だった。本命ではないもののおみやげができてほっとする私。uenoさんも「おっ釣れたばいな」と声を掛ける。さっきと同じ所を攻めると、再びクジラ0号が勢いよく消え、当たりが竿先を襲った。今度も小鯛のようだ。振りあげるとサイズアップ。


小鯛が湧いておりましたとさ
続いて同じポイントを攻める。このパターンで連続4匹ゲット。4匹目は30cmクラスもきた。小さいサイズだが魚からの反応があるのはうれしいものだ。どうやら、20〜30m先で小鯛が湧いているようだ。タナはおそらく竿2本ほどではないだろうか。水深は20mはあるはずだから、魚が浮いてきているようだ。その証拠に、磯際では、ネンブツダイ、イワシゴ、50cmクラスのボラの群れ、ゴンズイの群れ、クロなども見えるようになった。これから入れ食いになればおもしろいと思ったが、潮が止まったり、手前に当たってきたりと変化するため、魚が喰うスイッチが入ったり消えたりするようだ。


やっと喰わせたと思えばこれ
uenoさんも全誘導仕掛けで頑張っていたが、鯛の訪問はなく、手のひらサイズのクロを2枚釣るのが精一杯。私も合計7枚小鯛を釣ったところで、午後1時45分に竿をしまうことにした。裏の釣り座にいた若者もチヌは釣れず、小鯛と遊んだという。「チヌはいなかったのでしょうかねえ」3人で首をかしげながら一辺島を後にした。お久しぶりだね。でも、相変わらずこの島は私に厳しい試練を与えるようだ。まだまだ、修行が足りないことを確認しながら船いやボートからカメラのシャッターを切るのだった。

「やっぱり釣りは気持ちよかなあ、鎌田さん。甑でボウズになるより腹がたたんやろ。この次は、甑に行こうか」と気を遣うuenoさん。そんなこと言われても納得するはずないやないの。でも、最近の船釣りばかりで鈍っていたフカセ釣りの感覚がよみがえってきたのは事実。また、いつの日かリベンジするぞ。4年後になるかもしれないがな、とこの時点ですでに次への釣行が始まるのでありました。


さようなら 一辺島


勇丸さんお世話になりました 隼人港


本日の釣果 小鯛7匹


釣れなくても安心? 餃子専門の某有名店

生餃子で売ってくれるこの店は、いつ来ても客足が途絶えることがない。。30分いないに冷蔵庫に入れなければならないらしい。

本日の料理

マダイの塩焼き★★★★
マダイのお造り★★★★
マダイのトマトソースかけ★★★

しかし ぎょうざには負けた

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