11/12 宇宙に一番近い釣り場 内之浦

ガシャ、ガシャ、ガシャ〜ン。久しぶりにいやな音を車の中で聞いた。それは、磯の上で竿が折れるのと同じくらいいやな音だ。これから内之浦への釣行に向かおうというときだった。時刻は午前2時20分ごろ。場所は、uenoさんの家の私道。車一台がやっとで通れる幅。寝ぼけていたんだろう。左側方の確認が曖昧だった。ハンドルをきるのが早すぎた。左側方の車のドアの下の部分が削れてしまった。「3万円バイ」とuenoさんの一言に完全に覚睡モードになる私。

そういえば、教員になる前の年、同じように車の側方で電信柱をこすってしまったことがあった。左側のドアが見事にへこんでいた。車はスカイライン。さすがに先輩からただで譲ってもらっただけに、マフラーも折れていて、エンジンをかけるとブルン、ブルンとけたたましい音がした。採用が決まって、着任校へその車でいくと、当然注目された。へこんだ車に乗って、けたたましいエンジン音を響かせて新任教師がやってきたのだから。当時の教頭がかなり私のことを警戒していたっけ。そんなことを思い出させてくれたガシャーンだった。この時期出費はできるだけ抑えなければならないのに。母ちゃんには黙っておこう。

出費を抑えなければならない理由の一つは、11月の3連休は、大阪での研修に行かなければならなかったことだ。内容は、憲法と教育基本法の学習。


今回も大阪で研修 誰か代わりに行ってくれえ
安部政権のもと、教育再生会議で教育問題についての論議が行われている。この論議如何では、バウチャー制度などアメリカやイギリスの教育をモデルにした教育制度が日本でも導入されるかもしれない。昨年は、PTAなどが中心となった署名で、義務教育費国庫負担制度を何とか維持し、日本中どこにいても一定レベルの教育が受けられるという教育基本法の精神は守られたのだった。しかし、バウチャー制度が導入されれば、学校に市場原理が入り、保護者が、学校教育を受ける利用券を持ち、行きたい学校を選ぶことになる。学校は、ものを作ったり、商品を売るところではない。子どもを教育する場であるはず。教育基本法を変えて、学校に競争原理を持ち込み、今いじめ問題などで混乱している教育を立て直そうということらしい。

しかし、今のこの状況でこの制度を導入するならば、おそらく地域でのつながりがますます希薄になり、自分の子どもさえよけりゃいいといった保護者がますます増えていくのではないかと懸念する。競争原理をいち早く導入しているイギリスでは、公立学校を全国の統一テストでランク付けし、予算の配分や教職員の給与に反映させるそうだ。成績の低い学校では、生徒は集まらないし、当然予算は削られる。そのため、生徒の成績を上げるために、集中力が増す薬を飲ませるところまでエスカレートしているそうだ。

大阪の研修は、その教育基本法や憲法についての学習会だったのだ。「教育の憲法と言われる教育基本法には、権利ばかりで義務はないではないか。家庭教育や公共の精神を明記すべきだ。」改正論者はこのように言っているそうだ。ところが、研修会の講師であるK先生は、東大名誉教授で日本の憲法学の第一人者。そのK先生が、その問題点を次のように述べられた。「通常、法令は集団生活を行うために、個人の権利を制限するもの。ところが、憲法はその逆で、個人の権利を国家や行政から守るものである。だから、憲法や教育基本法が権利ばかりで義務はないというのは当たり前で、そのような批判は憲法に対する基本的な理解がなされていないことからおきるものである。」

その先生は、いじめで命を自ら絶つ子どもたちへも言及された。「我々は、宇宙船地球号に乗っているという認識を持たねばならないだろう。1000億から2000億ある系の中の一つと言われる銀河系の、更に2000億ある系の中の太陽系で、たまたま太陽からちょうど良い距離にある星「地球」に我々はいる。だから、私たちがここにいることはある意味で奇跡ではないか。これを理解しないから命の尊さがわからないのではないか。」そして、「人間は、地球の壮大なエコシステムに守られている。我々は生かされているという哲学を今こそ持たねばならないのではないか」とこれから未来に向けての世界観についても話をされた。地球という壮大なエコシステムを体感するには、釣りが一番。九州に帰ったら、釣りに行くぞ。11月は12日が何とか空いている。uenoさんも大丈夫だそうだ。

10月から11月にかけては、毎年、近場のクロねらいか、落ちチヌねらいで釣行しているが、今年は、甑島などで早くもクロが釣れだしたという話を耳にしたので、ちょっと時期が早い気もするが、uenoさんの希望もあって中甑鹿島へ行く予定を立てていた。ところが、週末に突然冬型の気圧配置になると、波高3mのシケ。「信じられな〜い。」とハムの監督のようにうなだれる私。誠芳丸の船長に念のため連絡を取るが、「だめでしょう?」「だめですね」我々にこれ以上の会話はいらない。しかし、あきらめてはいけない。南九州は、南風はアウトだが、北風ならできるところがあるかもしれない。「野間池とか秋目とかはだめバイ」「uenoさん、湾内ならいいかもしれませんよ」こんな会話をしているとき、ふとある記憶がよみがえった。硫黄島へ行く予定を立てていて3mの予報で離島行きを断念したとき、内之浦だけは凪だったことを

「内之浦なら出るかもしれませんよ。連絡してみましょうか」早速uenoさんが由佳丸の船長に連絡。「出るげな。凪だって。5時出港バイ。」「信じられな〜い。」とハムの監督のように胸をはる私。まだ水温が高く、餌盗りが多いため、25〜30cmが釣る人2〜3匹という状況らしい。はっきり言って釣れていない状況だが、サラリーマン釣り師、土日も中々休みが取れない我々に選択の余地はない。早速、餌をニシムタで購入し、出発となったのであった。


内之浦港 お世話になります由佳丸さん

出発時にショックな出来事はあったが、釣りに行けるという喜びがそれをかき消した。コンビニで食料や飲料水を買って人吉ICを出発。九州自動車道から宮崎自動車道へ入り、都城ICで降りて国道を南下し、志布志に着いたのが午前3時半ごろ。そこから海岸線の道路を通って午前4時半頃内之浦港へ到着。港へ着くと、すでに釣り客が出船準備を始めていた。底物師と上物師が半々くらいか。我々は船長に挨拶をすませた。「水温が24度くらいでいい感じだけど、餌盗りが多くてね。」と正直に船長が状況を説明してくれた。荷物を乗せ船の後部に腰を下ろした。

釣り客は、全部で13名。全員そろったところで予定通り午前5時頃に出発となったのであった。入り組んだ港を出ると船は、速度を上げた。まだ夜が明けていない海原を船は気持ちよく滑っている。右手はずっと断崖が続いているようだ。2.5mの予報で海況を心配したが、波はあまりないようだ。やや沖に行くとうねりが出始めた。2mくらいか。これから大丈夫だろう。15分ほど走り、大隅半島の付け根の部分からコーナーを回って地回りの磯の前でエンジンがスローになった。最初の渡礁が始まった。最初に1人の底物師が軽装備で渡礁をすませた。足場の悪いところのようだ。1人が精一杯の場所だろう。

11月12日(日)、潮回りは小潮初日。満潮はおそらく午前11時頃だろう。内之浦は言わずと知れたデカ版石鯛の有名ポイント。底物では、何度も釣り雑誌で紹介されているが、上物はどうかよくわからない。底物のポイントが多いと言うことは、手前からドン深のところが多いということだ。釣り座も平らなところはあまりなく、どちらかと言えば駆け上がりの地形が多い。うねりで適度なサラシも至る所で確認できたので、これは期待できるかも。

ここはどこ? どなたかBBSで教えて

次々に磯釣り師が渡礁していく。いつ呼ばれるかとやきもきしていると、いつの間にか夜が明け始めていた。釣りを初めて気づいたことだが、海での朝の情景が何と美しいことか。夜が明けて朝になるこのわずかな時間が、私の心を透明にしてくれる。この後、私に一体どんなことが待っているのだろう。どんな魚が私と遊んでくれるのだろう。そんなことを考えていると、「uenoさん、次です」いよいよだな。船首付近に荷物を移動させ、渡礁の瞬間を待った。地よりの大きな岩場が見えてきた。船長がライトを当てている。ここが決戦の場のようだ。前方には、ロケットの打ち上げ台が見えた。どうやらここは宇宙に一番近い釣り場のようだ。
船が磯に着けた。素早く渡礁。荷物を高い場所に置いて、船長のアドバイスを待った。「そこの前を釣って」こう言い放って、由佳丸は去っていった。沖に向かって左手に大きな磯があり、その間のワンドを釣れということらしい。ここもご多分に漏れずごつごつした磯だ。当然のことながら平らなところは全くない。それに本命釣り座はどう考えても1人しかできそうにないではないか。
まだ薄暗いため、まずは餌作りから始めた。オキアミ生1角にパン粉2kg、V91袋を混ぜて半日分とした。着け餌はオキアミ生に餌盗り対策として半ボイルを用意した。今回の竿は、メガドライM2 1.5−53。道糸2号にハリスは1.75号。魚のタナを探る意味でもLets0号の全層仕掛けとした。ハリはがまかつの層グレ5号。餌盗りが多いということは、もしかすると朝まずめだけは唯一のチャンスで、あとは餌盗り天国ということもありうる。集中して釣りを


uenoさんの釣り座 ここが本命らしい 潮が動かず苦戦

開始した。第1投は瀬際に仕掛けを落ち着かせゆっくり探っていった。餌盗りの状態はどうだろう。しばらくして仕掛けをチェックすると餌がとられている。餌盗りが寝ぼけているうちがチャンス。すぐ餌をつけ第2投。潮は結構動いている。右へといい感じで。Jクッションの入りもまずまずだ。仕掛けを張り気味にしながら流していると、蛍光赤朱色のLetsがすうっとした前当たりの後、一気に紫紺の海中に消えた。竿を立てるとギューンと乗った。しかし、軽い。浮かせて振りあげると手のひらクラスの尾長が跳ねていた。魚の活性は高いようだ。第3投、これも同じように高速のウキの消し込み。振りあげるとわずかにサイズアップ。やはり尾長くんだ。
子尾長2匹の後、オヤビッチャー手のひらのクローオヤビッチャー手のひらの尾長ー足裏尾長と連続して釣った後、潮が当たり気味になり、動きが止まると同時に魚からの反応も途絶えた。潮があたってきて竿1本くらいのところに潮目ができている。そこをねらうが餌が持たない状況に。偏光グラスで覗くといるわいるわ。ものすごい数の餌取りがひしめいている。仕掛けの着水と同時に3秒と餌が持たない状況に。半ボイルに変えてみるもののやはり状況は同じ。全層でゆっくり沈めるのではだめだと、2Bの半誘導にして2ヒロから探るが、これもだめ。餌が持たない。
ならば遠投と餌を手前に撒くだけで、ウキ周辺には撒き餌をかぶせないようにして、遠投をすると何かが竿をひったくった。よしっと気合いを入れ直すが、なんか変な引きだ。案の定あがってきたのは、ダツだった。ダツは食べられるそうだが、容姿が苦手ですぐに海へお帰り願った。


私の釣り座 この時点では凪だが おい潮動けよ

その後、当たりすらない状態が続き、磯を休ませては、釣ろうとするが、でたあオヤビッチャ。また、30分ほど休んで釣り再開。またでたあ、オヤビッチャ。ここはオヤビッチャの巣だ。生暖かい海水で手を洗って、遅い朝食タイムとした。水温が高いようだ。時計を見ると午前9時を過ぎている。潮は動かず右に行ったり左に行ったりしている。その証拠に、さっき磯に道糸を引っかけて、失ってしまったLetsが全く遠くへ流れていかない。
ため息をつきながら今度は、深ダナをねらう作戦に切りかえた。トリプルセンサー5Bに切りかえた。速く餌盗りの層を突破するためだ。瀬際は餌盗りだらけなので、遠投するが、何とまたダツが喰ってきた。おいおい勘弁してくれよ。竿1本のタナでダツはないでしょう。ダツを釣って早く仕掛けを回収しようとすると、このダツは大暴れして仕掛けを打ち切ってしまった。ああ良かったオートリリースだなとふと磯際に目をやると、あちゃー、さっきの衝撃で道糸が磯に引っかかっているではありませんか。何とか道糸を切るが、その結果トリプルセンサーを失うことに。
これで、車のドア30000円、Lets1080円、トリプルセンサー1580円、それに水くみバケツも突然の一発波にさらわれ980円。この時点で合計33640円の損害だ。やはり、生来の不器用さがここでも仇となってしまった。仕掛けを再び2Bの鵜澤ドングリの半誘導に変え、もう深いタナはねらわずに2ヒロ前後のタナを探り続けた。しかし、音沙汰無し。そうこうしているうちに、満潮の午前11時を迎えた。

やっとで 喰いました 喰いました♪


バラシたあ くやしい


再び喰わせたuenoさん えらい引くなあ

下げ潮になると、潮は相変わらず動かないし、うねりが強くなってきた。それとともに今までの釣り座が洗われるようになった。カケアガリ状の地形のため時々一発波をかぶり危ない状況に。それとともに磯際にはサラシが出始めた。サラシの境目をねらうが当たりなし。サラシはできているもののそれは沖へと払い出すことはなかった。uenoさんの釣り座でもサラシが出て、ポツポツと手のひらサイズのクロが出始めた。午後2時頃になってようやく潮が動き出し、手のひらから足裏の尾長を5匹追加して合計10匹で釣りを終えた。すべてリリース。uenoさんも手のひらから30cmのクロ、尾長を7匹。残念!でも釣りができて良かった。
3時半に船は迎えにきた。今日は上物、底物ともに目立った釣果はなく、唯一夜釣りの客が、60オーバーのコロダイと40前後の石垣を釣ったのが竿頭。「水温は24度なんだが、餌取りが多くてね」と船長も今日の状況の厳しさを認めていた。「7cmのクロを釣りましたよ」「秋グロは引きますね。てっきりキロサイズと思ったら、こんなんですよ(両手で20cmくらいの幅をつくりながら)」とこんな会話が釣り師から聞こえてきた。情けない話だが、自分だけでなく他の人も釣れなかったら妙に納得する私。ああこれだから一向に上達しないんだね。でもいいや。これだけ釣りを楽しめたんだもの。
いよいよ、北風が吹き始めた南九州で、次なる釣行を夢見ながら、人吉に向かって車を走らせるのだった。


本日のレギュラーサイズ


ありがとう ○○磯 だれかBBSで教えてくれえ

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