12/16 入れ喰いの後で 硫黄島

「携帯が何回もなってましたよ」勤務時間中に携帯が私を呼んでいたのを同僚が教えてくれた。もしかすると。携帯の着信履歴を見るとやっぱり。黒潮丸からだった。「あっ、あのね。何回も電話したんだけどね。青物釣りだったよね。4時を過ぎたからキビナゴは注文できなかったよ。オキアミでいい?いつもの2人分ね。一日釣りでいい?日曜はだめだがら。3時集合です」一気にまくし立てる船長。相変わらずテンション高いなあと言いつついつの間にか小さくガッツポーズをしていた。

11月から12月にかけて、土日=時化という図式で辛酸をなめつづけた釣り師たち、今度こそはと天気予報のお姉さんを見つめつづけて水曜日。今週の週末は雨、そしてこの冬一番の寒気の流れ込みで雨または雪の予報。木曜日、がっくり肩をおとしておそるおそる見た携帯の天気予報では、土曜日曇りのち一時雨、波は種子島屋久島地方1.5のち2m。日曜日は、もちろん話にならないが。えっ、あきらめかけていたのに、土曜日に希望の光が見えてきた。一体どっちなんだ。時化のカードか、凪のカードか。師走の忙しさの中やきもきしながら過ごしている時電話がなったのであった。

12月16日、若潮。硫黄島の潮は、満潮が4時33分、干潮が9時58分。渡礁から下げ潮での夜釣りが始まり、昼釣りは、前半戦が下げで後半戦が上げという状況。行き先がもしタジロならば、自分の中では、満潮時周辺での実績が高いので、この潮回りは不安材料だ。また、下げのポイントであるタジロでは朝マズ目からの4時間が勝負ということになる。これも好条件とは言えない。しかし、サラリーマン釣り師である自分に選択の余地はない。早速、uenoさんに連絡した。「3時集合だから12時出発でいいですよね。」「おら、この前流されたで、釣り道具ばいろいろ買わんといけんけん、もうちと早よ出ろい。」電話口の向こうでアドレナリンが駆け巡っているのがわかるくらいuenoさんは、上気していた。前回の釣り道具一式流された釣りのリベンジにと相当な意気込みのようである。


やっとで出航 黒潮丸

午後11時半、人吉ICを出発。九州自動車道を南へ下り、指宿スカイラインに入って、川辺ICから国道に出て枕崎へといういつものコース。途中で川辺にある24時間営業のスーパーAZで買い物をする。uenoさんはここで、玉網、ハリ結び器、ヘッドライト、ハリ、ハリスなど釣りに必要なアイテムを購入。「仕掛けの入った道具箱は助かったばってん、水が進入してだめになったとの多かったバイ。コーティングされとらん鍼はすぐさびるとなあ。」前回の北浦の釣りでuenoさんはかなりの学習をしたようである。買い物が終わったuenoさんを乗せて、一路枕崎港へ。

午前2時40分枕崎港到着。あれっ、車が少ないぞ。我々を含めて4台しかとまってないではないか。隣の釣り師が話しかけてきた。「遠方からの団体さんがキャンセルしたそうですよ。今日は8人。」この寒グロのはしりの時期の土曜日にこれほど釣り師が少ないのは経験がない。これはタジロに乗れそうだ。やがて、いつもの軽トラックで船長が登場。挨拶を済ませると、「おっ、久しぶり」と声をかけてくれた。エンジンがつけられいよいよ出船準備だ。餌をチェックすると、餌の入った袋が6つある。あれっ、今日は上物が多いぞ。我々と同じターゲットの釣り師がいるのではないだろうねえ。


さあ無事に渡礁完了

午前3時過ぎ、黒潮丸は静寂を守った枕崎港を出発。仕事の疲れからぐっすり眠ってしまって、気づいたらエンジン音がスローになっていた。船長がキャビン内に顔を出して隣に寝ていた上物師に声をかけている。この人どこかで見たことがあるぞ。2005年の2月27日の硫黄島の新島で50オーバーの尾長を2枚と良型ぞろいのクロを爆釣させ、クーラーに入りきれず餌バケツにおかわりしていたという謎の釣り師だった。「平瀬でいい?尾長の仕掛けは持ってきた?瀬際を流して尾長をねらって、12月1日の洞窟で尾長が出たからもう来とるかもしれんから。昼は同じ場所でクロがくるから」と船長はアドバイス。この謎の釣り師は暗闇のごつごつした男性的な巌に猿のような身軽さで渡礁していった。

さあ、お次は今までのパターンなら鵜瀬だが。船はエンジン全開で走ること5分。あれっ、鵜瀬には乗せないのかなあと思ってキャビンの外で暗黒の海を見つめていると硫黄のにおいが立ちこめだした。もしかして・・・。船長から呼ばれた。「もう一組シマアジ釣りをしたい人がいるんだよ。どっちがいい?左側がいいよね。もう一組の人は、右側がいいと言うからそうするけど、もし釣れないときは、左側で4人で釣ることになりますけど了解してくれますか。」もちつもたれつの相関関係で結ばれている釣り師たち、そのような申し出を断るはずはないよね。

船は、タジロに船首を着けた。速やかに渡礁。時計を見ると5時前。これは急がなくっちゃ。右側にピトンを打ち込みブッコミの準備を。uenoさんは、かご釣りの仕掛けの準備だ。例によって極太カンパチ竿に大型リールの登場。私は、石鯛竿に両軸リール。瀬ズレワイヤー37番で20号の中通しおもり仕掛け。餌は、スーパーで買ったイカ、サンマ、キビナゴ。夏の夜釣りと同じ要領でキビナゴ2パックほどマキエをして仕掛けを投入。まったく餌を盗られない時間帯が続いたが、6時を過ぎた頃からようやく当たりが出始めた。そして、2回ほどジーと道糸が走ったが食いが浅く合わせてもかけきれなかった。残念。uenoさんも2打数2安打イスズミで夜釣りを終えた。


さて 本日のタジロのご機嫌は?

uenoさんは、早々と夜釣りをあきらめ暗いうちから昼釣りの仕掛け作りを始めていた。午前7時前、マキエをしないうちから第1投。今回の釣りに並々ならぬ気持ちで臨んでいるようだ。私は今までの実績から魚がよるまで時間がかかると想定しゆっくり焦らず仕掛けをつくる。竿はデカ盤の青物に備えダイワマークドライ遠投3号、道糸、ハリスともに5号。ウキはグレックスKAMA3Bの半遊動仕掛け。バラシが多くなるシマアジ釣りで欠かせないチヌ鈎5号をチョイス。ふつうのグレバリやマダイバリ、ヒラマサバリよりも優れている点は、飲ませて唇ではなくのどにかけることに重宝するとのこと。

仕掛けをつくりながらuenoさんに視線を落とすと、uenoさんは早くも魚とのやりとりをしている。2号竿が容赦なくつの字に曲がっている。どうせイスだろうと思いきや、上がってきた魚は意外な魚であった。40cmクラスの良型ムロアジ。夏の夜釣りではタジロでも釣れることがあるが、このシマアジ釣りに時期には初めての訪問客である。この時期は、平瀬や鵜瀬あたりで朝まず目限定で見られる魚である。本命ではないものの、早くもおみやげができ安堵の表情のuenoさん。海を観察すると、下げ潮が動いている。手前におっつけてはいるものの、サラシ付近にぶつかって沖へと払い出している。これは釣れる潮だ。いきなりのチャンスタイムだ。そう直感した私は焦りながら何とか仕掛けを完成。マキエもそこそこに釣りを始めるのだった。


タジロではこの時期めったにお目にかかれないムロアジをゲット
第1投。仕掛けを竿1本先に投入。これはいい潮だ。仕掛けがスムーズになじんでいく。当たりらしきウキの動きが合わせたが、竿にのらず、仕掛けを回収。餌はない。2,3回やってみたが結果は同じ。これはタナが合っていないな。すると隣でムロアジが釣れたタナをuenoさんが教えてくれた。「浅かバイ、1ヒロ半。」なにいっ、1ヒロ半?去年は竿1本くらいだったのに。2年前に入れ食いしたタナと同じやん。早速タナを1ヒロ半に設定。仕掛け投入。赤アミ主体のマキエを1パイかぶせ、道糸を張っては緩め張っては緩めしているとウキが緑白色の海中奥に突き刺さるように消えた。道糸が走る竿引きのアタリ。竿をややたたくがこれはイスズミの引きではない。浮いてくると愛らしい黄色いしっぽが見えた。早くも本命登場。振りあげると朝のどんよりとした曇をバックにシマアジが空に舞った。30cmを少し越えたミニサイズ。よっしゃあ、ボウズ脱出。時合いだ。

今がチャンスと第2投。これも同じようなパターンで2連続。いきなりの入れ食いが始まった。イスも何匹か混じったが、ムロアジ混じりで8匹ほどゲット。いくらでも釣れる気がする。8時を過ぎる頃から、竿引きのアタリはなくなってしまった。魚がスレてきたらしい。今度は誘いを入れて喰わせた。しばらくすると道糸を張ると魚が着け餌を離すようになったり居食いするようになったので、ウキがゆっくりと消し込むのを張らずに待ち続け喰わせるパターンで午前9時半までに私が16枚、uenoさんが11枚釣った。下げ潮の内にできるだけ釣っておかなくっちゃ。

休憩? タジロ(低場)の釣り師も苦戦

しばらくすると、黒潮丸が見回りにやってきた。まず、隣の低場へ「釣れましたか。何っ、クロが釣れたの?どれくらい。竿もっていかれた?」聞いていて楽しい会話だ。やがて、こちらにもやってきた。どう、釣れた?」釣れたのは間違いないが型が今一歩のためどう表現していいかわからないでいると。「釣れてないの?」いいや、ちがいまっせ。手で丸を描いたりお辞儀したりするとわかってくれたようで、「1時15分に回収にきますわ」と言い残して船長は去っていった。

潮が止まったので遅い朝食タイムとした。「今日は型の良くなかな」uenoさんが呟く。私も同感だ。下げ潮の前半線は確かに入れ食いで釣れて面白かったが、例年より型が小さい。寿司ネタには今一歩足りない。後半戦の上げ潮で数は十分だから良型をねらうことにした。午前10時前干潮だ。潮止まりの時間が長い。中々潮が動かない。動いたと思えば本命ではない沖に向かって右へと動き始めた。でも、潮が動けば魚は喰ってくるはず。更なる良型シマアジをねらって釣り続けた。


うお〜〜〜 釣っても釣っても〜お♪

後半戦は、予想通り良型の魚の饗宴となった。ただ予定と違うのは、魚がシマアジではなく、イスズミに変わったということだけだった。釣っても釣ってもイスズミばかり。ウミガメ混じりで15,6匹。型はすべて40オーバー。さすがにこれだけ釣れば、魚を掛けた瞬間それとわかる。黒いしっぽが見えた途端にやる気がなくなるのだ。そして適当にさばいて心の中でばれてくれないかなあと糸を緩めたりする。玉網をかけるのが面倒なのだ。差別はいけないと思うが、私はどうしてもイスズミが好きになれない。尾長みたいに何度もつっこんでくれる。ここが近場の磯ならそのイスのファイトを楽しむのも悪くはないが、ここは離島。時間がもったいないのだ。はっきり言って君と遊んでいる暇はないんだよ。


釣れてくるのはイスズミばかりなり♪

また、更に貴重な時間を奪うものがいる。ウミガメさんである。彼は、オキアミだろうが、キビナゴだろうが何でも口にする。そして、ふわっとしたアタリからぐーっと絞り込む。おっ、これがでかいとはじめは歓喜するが、青物特有の走りはないし、イス特有のそこへの突っ込みもないので、しばらくするとそれとわかってしまう。そのうちバシャンバシャンと浮いてくるのだ。そうなると頼むからばれてくれえと願うしかない。10kgはあろうかというデカ盤もいるからやっかいだ。とにかく竿や仕掛けの無事を祈るばかりである。この日も2回亀をかけ、2回とも仕掛けを失ってしまったのだった。


ありがとう タジロ

そうこうしているうちに回収の時間が近づいてきた。潮が一向に走る気配が無く12時45分に納竿することにした。さあ、後片付けと準備を始めてまもなく黒潮丸がやってきた。時間に正確な黒潮丸には珍しい早めの回収である。荷物を乗せ船に乗り込むと、「そのクーラーの重さならあんまり釣れんやったみたいだな」と船長のツッコミ。「型が小さかったです」と私。船は今度は隣のタジロ(低場)を回収に。その釣り人は手を顔の前で横に振り不本意な釣りだったことを表現した。「赤く濁っていたもん」とその釣り人が船長に話しかける。船長が各人のクーラーを覗いて、「ムロがくるなんておかしいなあ。もうシマアジの季節じゃなくてクロの季節が来たんだよ。平瀬で3kg近い尾長が来たよ。クロがかなり釣れていたからね。鎌田さん今度はシマアジ釣りじゃあなくて、クロ釣りがいいよ」とたたみかける。隣のタジロでは、ベテラン釣り師の連れの長髪の若者が竿がたたずに竿を持っていかれたとのこと。「この人は、この前、ここでアラを釣ってな。味しめてやってみたけどなあ」と再び船長のツッコミ。前の8名の客なので回収にも余裕があるのだろう。船上でちょっとした釣り談義となった。やがて船は浅瀬に向かい、底物師を回収。そしてしばらく走った後、平瀬の釣り人を回収し枕崎へと戻った。九州の南海上は今にも雨が降ってきそうな気配。雨雲の接近で硫黄島にもその余波が出始めたため、早めの回収となったそうだ。


本日の竿頭 平瀬(高場) 尾長56cm クロ40枚 すげ〜

午前3時前、枕崎港に到着。平瀬の謎の釣り人に注目が集まった。その釣り人はいきなりやってきてクーラー満杯の中身をひっくり返し、ドンゴロスの中身もひっくり返した。お〜と釣り人から羨望のまなざしがその魚に向けられた。船長がすかさずメジャーをあてる。平瀬で上がった魚は3kgには足りないものの56cmの立派なワカナ。夜釣りの電気ウキによるウキフカセ釣り、ハリス10号での釣果だそうだ。「水温が下がって、もう尾長がきとるようだな。渡りのクロも入ってきてる。もうこれからはクロ釣りだよ」と船長。その平瀬(低場)では、ワンドになった夜尾長のポイントがあり、同じ場所で昼はクロ釣りのポイントになるそうだ。

「鵜瀬に乗ってればもっと釣れたよ。シマアジ釣りしたいと言うからタジロに乗せてあげたけど。29日は泊まりだったよね。今度はクロ釣りをするから、キビナゴを用意したいときは、昼頃に連絡して。」と船長にモチベーションを高められ、氷を入れてもらった。まさかあの鵜瀬が空いていたとは。シマアジ釣りをしたいという自分の思いと海の季節は見事にずれていたということになる。船長によれば尾長はこのハシリの時期が最も面白いらしい。船長と硫黄島のポイントについてしばらくの間レクチャーを受けてから道具を片付け帰路についた。帰りはほとんど一睡もせずに自動車を運転しているにもかかわらず目はさえわたっていた。頭の中では、暗闇の磯で尾長と対峙している自分の姿が、あるいは、乱舞する灰茶緑色のワカナの姿が浮かんでは消えなかったからだ。


かまちゃんの釣果
シマアジ ムロアジ 16枚 型は今一でした


本日の料理

シマアジ、ムロアジのお造り
シマアジ、ムロアジのりゅうきゅう
シマアジの塩焼き


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