1/13 離島は遠きにありておもふもの 甑島 鹿島

「面白かったバイ。尾長の湧いてなあ。ばってん、ぶっちんぶっちん切られたバイ。そんで48cmの尾長が釣れたバイ。今度は鹿島へ行こう。」電話口の向こうからuenoさんがかなり興奮しているのがよくわかった。uenoさんは、私より一足早く初釣りを済ませていた。1月4日のことである。私は諸事情で無念の自宅待機であった。いいなあ、uenoさんは。初釣りで、甑島の鹿島へ行き、48cmの尾長を筆頭に良型のクロを6枚ゲットしたとのこと。「甑のクロはうまかなあ。脂がのって甘くて、最高!」どうやら、次回の私との釣行で硫黄島に行きたがる私に対して牽制球を投げているようだった。uenoさんは硫黄島であまりいい思いをしたことがないのか、今回の釣りでは何としても甑の鹿島に行きたいということがありありだった。ここまで師匠に言われては、しかたがない。先輩を立てる意味でも2007年の初釣りは、師匠の意に従うことにした。

2007年の初釣りは中々実現しなかった。4日、5日と行くチャンスはあったのだが、都合で行けなかった。その後は時化で予定していた8日(月)成人の日も今年一番の寒波の名残で3mの波でジ・エンド。今までは、9日までは初釣りにこぎ着けていたのに今年は、13日以降になりそうだ。12月は天気に翻弄され続けたが、今年も同じ目にあいそうな予感がする。しかし、ぼくらは自然に遊ばせてもらっている身。自然のサイクルに従おう。

「尾長ばっかし9回はバラシたバイ。(ハリス)2.5号でしよったばってん、とんでもなかったバイ。道糸ハリスは最低でも4号バイ。ハリも尾長ねらいなら8号ばもっていかんば。」どうやら、uenoさんは尾長にぞっこん惚れ込んでしまったようだ。uenoさんが初釣りでのったところは、鹿島西磯の灯台下と呼ばれるポイントだ。チームGックスの方3人と一緒に乗せてもらったそうだ。3人の方は完全な尾長ねらい。灯台下の船着け、ワンドで竿を出された。それに対しuenoさんは、高場の沖向きに釣り座を構えた。その場所で朝8時頃から強烈なアタリに見舞われ、なすすべなくぶち切られたそうだ。とんでもない大物のやつ(尾長)がいるらしい。それも大群が。何回バラしてもそいつは食いついてきたそうだ。取れた魚は48cmのと30cmオーバーの尾長。さすがに11時頃になると食いが落ちてしまったが、それでも40オーバーの口太を4枚追加して満足の初釣りを終えたそうである。「ハリスの太さは関係なかバイ。4号でもクロは喰ってくるもんなあ。」uenoさんは、甑島でのクロ釣りには細ハリスは必要ないと力説する。必然的に今回の初釣りの目標は、尾長ねらいもしくはデカバンの口太ねらいに決まったようだ。

今年の鹿島は絶好調。携帯サイトTuriNaviでも連日最高ランクの◎を続けている。数ももちろんのこと、型がいいのも特徴。年末から50オ−バーの尾長が上がっており、ついにはネンガ瀬で60オーバーの尾長が上がった。鹿島に限らず甑島全体でクロの喰いが活発。寒グロシーズンのまっただ中ということも手伝ってか、渡船の予約も難しくなってきた。13日から14日にかけて鹿島での2日釣りを予定していたが、誠芳丸は13日は空いているが、14日は釣り大会が入っているのでだめとのこと。今シーズン絶好調の甑島里へ誘ってくれる蝶栄丸は、14日はもう空いていないという連絡が。これはやばいのではないか。そこで、敢えて甑島の中で今シーズン一番話題になってない甑島最南端の釣り場、手打はどうかとFナポレオン隼に連絡した。「いいですよ。クロ釣りですか。」で契約成立だ。今年の初釣りは、1日目鹿島、そして、一度串木野港に戻って再び甑島の手打という変則的な計画になったのだった。


相変わらずとても親切な誠芳丸
1月13日(土)は長潮。甑島の潮は満潮午前3時18分、干潮が8時31分。数字を入れ替えただけという妙な潮回り。不思議な気持ちで釣り道具の準備に入った。天気は、13日は一日曇り。降水確率30パーセント。波の高さ2mという予報だった。ただ心配なのは、前日の金曜日から等圧線の間隔が急に狭くなってきたということ。心配していると、uenoさんから連絡が入った。「あのね、2時半集合げな。でもね、西風が強くて西磯には行かれんだろうて。それでもいいですかっていいやったけん、よかですよって言っとった。よかな。」現在絶好調なネンガ瀬、灯台下などは西磯なだけに少々残念だが、東磯も魅力いっぱいの磯が控えている。数日前にuenoさんに感化されて購入した尾長専用バリは使う機会がないかも知れないね。

uenoさん宅集合は、午前0時30分。久しぶりの釣りに道具をそろえてああでもないこうでもないと考えていると、眠ることなく、というより興奮して眠れずにあっという間に時間になった。予定通り、午前0時35分ごろ人吉ICを出発した。行きの車の中では、当然、uenoさんの初釣りの状況を一方的に聞くことになった。尾長とのスリリングな勝負を熱く語るuenoさん。こちらは初釣りと言うこともあり、気持ちがどんどん高まっていく。そして、釣りに魅力について語り合った。

どの釣りにも言える魅力の一つには、我々人間は釣りをしながら海の中を直接見ることができないことにあるのではないかと考えた。我々は目の前に現れている現象だけにとらわれて世の中を一面的なものの見方でしか見えなくなっている。特に、最近は世の中があまりにも便利になりすぎて、生身の人間が考える余地がない。機械に頼り、過剰なまでのサービスがあたりまえと錯覚するようになってきた。効率やお金儲けが最優先され、時間がかかること、遠回りなことはどうかすると排除される。お金さえ払えばほしいものは手に入る。だからこそ、自分で見えない世界を豊かにイメージしながら、自分が身につけたあらゆる能力を駆使して世の中を意味づけていく。そんなことが無性にやってみたくなるのだ。見えない海の世界は?魚の生態は?外から見える海のあらゆる情報を手がかりに魚の居場所を突き止め、魚の口もとにつけ餌を届ける。喰わせたらどうやりとりして、どこで玉網をかけるか考える。これを考えるのがたまらなく楽しいのだ。

宮沢賢治に「やまなし」という作品がある。かにの兄弟の視角から川底の状況がイメージ豊かに語られている。クラムボンという生物を魚が食べ、そして、かににとって見えない世界からやってきたカワセミがその魚を食べる。その情景は、喰う喰われるという弱肉強食の修羅の世界であると同時に、そうすることで自然の摂理は保たれるという食物連鎖の矛盾をもはらんでいる。そのことに気づくだけでもこの作品は面白く読める。この「やまなし」は見えない世界を意味づけることの大切さを自分に教えてくれるのだ。見えない世界をどう意味づけるか。これは、どんな釣り師にも一様に与えられた課題のような気がする。そして、人間はその食物連鎖の環の外にいることを自覚し、それをこわすことなく、自然に遊ばせてもらっているということを同時に考えなければならない。

そう考えると、とても楽になるし、釣りが楽しくなる。釣果も気になるが、釣りの過程をもっと重視しなくっちゃと思う。こんなことを考えていると、おやおや、九州自動車道を過ぎてもうすぐ指宿スカイラインに入ろうとするところで、南九州自動車道との分岐点を過ぎてしまったことに気づいたのだった。二人とも釣り談義に夢中になり、分岐点を過ぎてしまったことに気づかなかったのだった。15分ほどのタイムロスか。串木野港への到着はぎりぎりだが何とか間に合う状況。良かった。

午前2時15分に串木野港へ到着。「おそくなって、すみませんでした」N船長に挨拶を済ませると、「久しぶりですね。」と声をかけてくれる。本当に久しぶりなのにちゃんと覚えていてくれた。強面だが心優しい船長の一声は本当にうれしいものである。我々が最後の客らしく、荷物を積んでくれて全員集合。午前2時40分ごろ、暗闇の串木野港を誠芳丸は出発した。今日も満員御礼。もうすでに寝る場所もなく、壁にもたれて夢舞台への到着を待つことにした。「これなら酔い止めの薬をのんどけば良かったバイ」とuenoさんが呟く。uenoさんが予想したとおり、海は時化気味だった。この風と波で誠芳丸は全速力の走りを制限されることになった。バンカンバッカン揺れている。サラシができクロ釣りには好都合という期待と釣りづらい状況になるのではという不安が交錯する。揺れる真っ暗な船内で釣り人の異様な熱気を肌で感じながら、ひたすら時が過ぎゆくのを待った。

1時間20分ほど経過して、思いの外早く船はエンジンをスローにした。早くも渡礁が始まるようだ。あわただしく渡礁準備に取りかかる釣り師たち。静から動に変わる瞬間だ。私も磯ブーツを履いてデッキに出た。風が時折強く吹いてくるが、それほどでもない。波も思ったよりも心配するほどのことでもないようである。最初の渡礁だ。低い磯が見えてきた。「ここはどこだろか。」uenoさんが呟く。どこかで見たことがあるぞ。よく見てみるとこれは一度のっていい思いをした弁慶ではありませんか。なつかしい。どうやら予想通り今回は鹿島の東磯での釣りになりそうである。弁慶に乗せると船は反転しちょっと走ると今度は低い磯に2人を乗せた。「北西だから大丈夫ですよ」とN船長。すると思いの外早く声がかかった。「鎌田さん次です。」しばらく走った後、再びエンジンをスローに。ライトを照らすと、眼前にごつごつした比較的大きな巌が突如として現れた。ホースヘッドをつけいよいよ渡礁だ。速やかに岩へ飛び移り、荷物を受け取る。そして、船長のアドバイスに聞き入る。「そこの船着けがいいですよ。瀬際を流して行くと沖の先端の方でクロが来ますよ。」荷物運びを手伝ってくれた常連の方も同じようにアドバイスしてくれた。本当に親切な船長である。我々は早速ヘッドライトを当てながら磯の全体像をつかむ作業に入った。2007年の初釣りで乗せられた磯は、東磯の中でも実績の高い「熊ヶ瀬」という磯にのることとなったのだった。

この熊ヶ瀬は弁慶と同じく斜めに走る地層が海深く突っ込んでいくという形状だ。船付けは、その一番高いところにあり、そこからだんだんかけ下がりのようになって鹿島港側の海へと続いている。かけ下がりの方は、風が正面吹きだが、サラシが多くあり、いかにもメジナが潜んでいる情景を示している。ところが、船長が勧めたポイントはサラシもなく、まるでチヌ釣り場のように穏やかだ。はっきり言ってクロがいる気配が感じられない。同じくuenoさんも釣り座の選定に悩んでいるようだった。「マキエばつくろい」この一言で、我々は撒き餌作りに入った。パン粉2kg、V91袋、そしてオキアミ半角を細かく砕き混ぜた。メジナを浮かせて釣りたいというマキエにした。



チヌ釣り場のごたるなあ 熊ヶ瀬船着け
仕掛けを作りながら、マキエを行った。竿は手返し重視でダイワマークドライ遠投3号。道糸3号にハリス2.5号をチョイス。ウキは、釣研の競VR0号の全遊動仕掛けでまずは魚の食うタナを見つける作戦だ。いつもなら夜明けの尾長ねらいで電気ウキでの太仕掛けフカセ釣りをやるのだが。uenoさんのたっての希望で釣りをせずにマキエをすることにした。マキエを初めて1時間が経過。水平線の彼方から白い朝がやってきた。時計を見ると7時前。「ウキの見えてきたバイな。もう釣ろい。」出た。相変わらずうちの師匠はせっかちなんだから。船着けに釣り座をとった師匠が我慢できずに第1投。uenoさんが釣り始めるなら、負けてなるものかと私も続く。uenoさんの釣り座の沖向きに構えた。

潮は動いていないようだ。もしくは手前に当たってくる。2ヒロから釣り始めるのだが、つけ餌がそのまま帰ってくる。かなりマキエをしたにも関わらず魚は全く見えない。30分経過するが、見えたのはハリセンボンの子どものみ。おいっ、鹿島の入れ食いは西磯だけかい、とぼやき節を始めると、ueno氏が動いた。「こんなチヌ釣り場のようなところじゃあ釣れる気がせん。」とさっきから気になっていた船着けの裏のかけ下がりのサラシ付近を攻めるようだ。「釣れたらお互い声をかけ合いましょう」とエールを送り自分は船着けで粘ることにした。

その後1時間が経過し、時計は午前8時。餌は全く盗られる気配がない。競VRは虚しく波間を漂うだけだった。一体どうなってるんだよとぼやいた時、ウキがとんでもないスピードで消し込み、道糸が走る前に竿がのされそうになった。なんだこいつは?体制を立て直す間もなく道糸が悲鳴を上げて飛んだ。この時間はわずか1秒。道糸からということは。そう、私の勝負ウキが持ち主からの指令に応答できず、ゆらゆらと自由の旅立ちを始めていた。カーッと全身をアドレナリンが駆け巡った。一体何者だ。名を名乗れ!当たったタナを竿1本半と想定し、今度は、競VR3Bでの半遊動で攻める。ハリスを3号に上げる。魚からの反応がなく、15分が経過。やっぱり交通事故だったかと、思ったその時、さっきとまったく同じアタリがマークドライ3号を襲った。ギューン、ブチッ。これも一瞬にして道糸から高切れだ。これで、ウキ2個目の損害。どうせ、フエフキあたりの底物系か、デカ番ブダイなどのゲテモノ系だろうが、一体何者かを知りたくて、釣研チヌドングリ2Bの小粒ウキで再度さっきのタナを直撃だ。すると、3投目ぐらいに3回目のアタリだ。くそっ、今度はその走りを止めてやる。しかし、相手のパワーが格段に上だった。再びバラシ。今度は道糸とハリスの結合部分だったのでウキはセーフ。3回目のバラシで目が覚めた。おいおい、一体自分は何を釣りに来たんだよ。ここでやっと冷静になることができた。タナを1本くらいに浅くすることにした。

「アタリあるね。」後ろでuenoさんが声をかけてくる。「バラしました。クロじゃなさそうだけど。そっちはどうですか。」「だめっ、全くおらん」uenoさんの釣っていたサラシ場は一見良さそうなのだが、潮が入ってきていない、または、沖への払い出しがないいわるゆ死にサラシかもしれない。uenoさんがまた元の釣り座に復帰した。いつの間にか、潮が手前に当たるものから瀬際に対して平行に流れ出した。潮が変わるときがチャンスかもと集中して釣り続ける。するとやっとで餌が盗られ始めた。何かが変わると思った午前8時30分頃、張っては流し張っては流しとしていた黄色のチヌドングリがゆらゆらとした前アタリの後ゆっくりと消し込み始めた。20cmほど消し込んだ後、ウキが一気にスピードを上げて走った。反射的に竿を立てると心地よい引きが左腕に伝わる。魚に先手をとらせないように竿を立て、一気に道糸を巻き上げる。あさりとそいつは水面を割った。「よっしゃあ、クロだ」思わず声を出してしまった。慎重に振りあげる。




2007年初釣果 口太38cm

2007年の記念すべき初釣りで釣れてくれたのは、38cmの口太だ。体色から居付きの魚のようだ。「おっ、釣れたバイな。」uenosさんが声をかけてくる。タナを竿1本弱と伝える。その後、タナが浅くなり2ヒロ半でもう1匹40弱を追加し、干潮の潮止まりらしく潮が動かなくなったので遅い朝食タイムとした。uenoさんは、自分の釣り座が潮上になることから、釣り座を船着けから先端の高場へ移動攻撃にでた。朝食後、午前9時釣り再開。ところが、魚がスレてきたのかウキに前アタリが出るのだが、消し込まなくなってしまった。明らかにウキの浮力が魚に違和感を与えているようだ。そこで、全遊動に切りかえることにした。まずは、キザクラのLetsに似た釣研XーN4−2ー4 0号にした。しかし、これでは仕掛けが入りすぎてすぐにタナを通過してしまう。そこで、00号のウキで全遊動とし、おもりを一切打たずに着け餌をできるだけ自然に落とし込む釣りに切りかえた。これが、見事に当たった。魚がチラチラ見え始めたので2ヒロに浅くし、走り始めた潮に乗せていく。すると、もぞもぞと実にゆっくりとウキが消し込み始める。慎重に道糸を張りながら相手が走るのを待っていると、やつは一気に走った。よっしゃあ、さっきより強い引きだ。しかし、こちらは3号の竿。勝負は一気についた。振りあげた魚は40オーバーの良型。「uenoさん、タナ浅いですよ。2ヒロ」



ようやく良型ゲット uenoさん

すると、uenoさんもついに魚の動きをとらえ、40オーバーを2連続。ホッと胸をなで下ろす。こちらも負けてなるものかと、4、5匹と連発。5匹目は本日の最大魚44cmだった。これから入れ食いにと思ったが、午前10時を過ぎるとまたアタリが止まった。潮が今度は瀬際と平行に流れてさらに磯の沖向きの先端を回り込むようになった。これでは、今の釣り座では、沖の方でかけたとしても角度的に取り込むのが難しくなる。そこで、uenoさんの隣で釣らせてもらうことにした。そこで沖を走る潮で2匹。先端を回り込む潮で1匹追加し、合計8匹で釣りを終えた。uenoさんは、5匹で納得の釣りを終えた。


本日の最大魚 44cm

午後1時過ぎに誠芳丸は回収にやってきた。夢中で釣りをしていたから気づかなかったが、この磯はなんと美しい形をしていたのだろうか。回収の船のエンジン音を聞いていると、急にこの熊ヶ瀬が愛おしく思えてきた。愛する人との別れが迫っている、そんな心境だ。いつまでもこの場所に立っていたいところだが、時は過ぎゆくもの。名残惜しいがまたの再会をと荷物を船着けにまとめた。回収の船に乗り込むと、しばらくの間、小さくなっていく熊ヶ瀬をじっと眺めていた。まるで、何億年前の自分の祖先たちにしばしの別れをつげるように。そして、あることに気づいたんだ。それは、そうだ、確かに海は私の故郷だったのだということを。


初釣果 36〜44cm8枚 平均キロサイズ


本日の料理

クロのお造り
クロのタタキサラダ風
クロのムニエル

美味でござるう♪ 息子yasuの評価

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