2/3 相性について考える 上甑里

世の中には、相性というものがある。人それぞれ個性があり、十人十色、みんなちがって みんないいだ。だから、周りの人間と影響し合って生きている人間なら、この人とはウマが合う、合わないというのがあるのが当たり前なのだ。また、その関係は連れあって変わるもの。はじめは興味がなかったことなのにだれだれの影響ではまってしまうなんてことはよくあることだ。人と人との相性があるなら、当然人とモノの相性もあるはず。学生時代麻雀していたとき、必ず「八萬(パーワン)」を手配に加える先輩がいた。こちらとしては、その先輩の手配がわかるわけだから大変有り難い趣向なのだが。不思議に思って何で「八萬」をいつも手配に加えるのか聞いてみた。すると、「これを持っていると上がれる気がする」というのだ。本当かなあ、統計でも取ったのかいとツッコミたくなったのだが、その後の話を聞いて妙に納得してしまったのが今となってはバカバカしい。「八萬」を見ていると好きだった女の子を思い出すというのだ。つまり、彼は、自分と「八萬」との関係を更に好きな女の子との関係へと発展させていたということになる。人とモノの関係があれば、関係と人との関係もまた成り立つということなのだ。

どうでもいいような話だが、人と人、モノとモノ、人とモノ、人と関係、関係と関係など、相関関係をずっと意味づけていくと、自分以外の人やモノ、関係について理解を示すことができる。相手の立場になって考えることができる。世の中を深く意味づけることができる。こういう問題は、昔から考えられてきたことで、「一期一会」「人間は社会的諸関係の総和である(マルクス)」などの言葉も生まれた。世の中の網の目のようにつながり合い、連れあって変わる相関関係を認識できるかどうかが、その人間の人としての容量を量ることができるのでは、と思うようになった。自分の存在は、自分を取り巻くすべての人やモノとの関係無しには存在しないということがわかれば、おのずと感謝の心が生まれてくる。相手の身になって考えることができる。

人と人、人とモノとの関係を自分で限定してしまうと、おかしなことになる。厚生労働大臣の「女性は産む機械」発言がそれだ。少子化傾向は収まるどころか加速している現状の原因を一方的に国民に責任転嫁した発言といってもいい。彼は、大臣としての人と国民としての人との関係を自ら断ち切ってしまっていたのだった。この発言は、これまでの児童手当新設等のバラマキ行政、この問題に根本からメスを入れないでしのいできた政策の氷山の一角でしかない。男女雇用均等法で女性が男性並みに働くことができるようになったのはいいが、それに伴った政策の1つである次世代育成支援が大変遅れているのだ。女性は自分の意志で子どもを産みたがらないのではなく、自分という人と社会構造という関係の中で断念せざるを得ないのだ。

仕事を続けながら子どもを育てていくことがいかに困難であるかを、政治家や経済界の偉い人たちがしっかりと認識していけば、少子化に歯止めがかかるだろう。子育て中の女性に配慮した職場の確立、育児時間、育児休業制度の充実、再チャレンジ可能な世の中づくり、膨張を続ける教育費の問題など社会構造の変革に関わる根本的なことに早急に取りかかってもらいたい。それなのに、議論されているのは、日本版イグゼンプションなどの更に人間を労働時間で縛り、経営者にとって都合のいい政策だ。経営者や政治家は、労働者を搾取することが、日本の少子化につながり、そのことは巡り巡って自分たちの経済成長の問題へと跳ね返ってくることに早く気づいてもらいたいの願うのだった。

そんな中、話は全く違うが、自分という人間と釣り場というモノとの相性について考えてみた。自分にとって最も相性の芳しくないのが、上甑里である。これまでの実績は、恥ずかしながらこうだ。

1回目1月 上甑里 野島? 35cmクロ1枚
2回目2月 上甑里 地磯3番 完全ボウズ
3回目8月 上甑里 キッサキ イスズミとオジサンのみ
4回目6月 上甑里 犬島 クロ3枚 ウスバハギ

最後の里での釣行は2003年の6月だった。これらの釣行でuenoさんとともに上甑里に対して苦手意識を作ってしまったのだった。また、2002年ぐらいは、上甑のクロの釣況が思わしくなく、何十人磯に上がったのにクロは2枚しか釣れなかったなど、そんなときに限ってマイナスの情報が飛んでくる。だから、これまで釣行先を決定するのに、二人とも里へ行こうという言葉が出なかったのだ。

最後の上甑里での釣行から4年近く経った、2007年2月3日、我々はついに追い込まれてしまった。uenoさんが予約していた、中甑鹿島への渡船「誠芳丸」より、「3日は、西磯へは行けそうにないですね。東磯はあまり釣れないのでおすすめできません」という内容の電話をいただき、鹿島への釣行を断念したからだ。uenoさんは、あきらめて2月12日に鹿島へ予約したという。しかし、2月にいつ行けるかめどが立っていない自分にとって、3日を逃すとこの後の釣行ができるのか大変不安になるのだった。そこで、今回は思い切って甑島の中で最も相性のよくない上甑里へ行く決心を固め、南九州最強の渡船「蝶栄丸」にエスコートしてもらうことにした。そして、あきらめていたuenoさんに電話し、やる気モードにさせ、2月2日を待った。

2日の7時前、蝶栄丸のI船長から電話が入った。「出ます。4時出港です。は〜い。」よっしゃあ。2月1日からの今年一番の寒波の到来で、週末釣行が危ぶまれたが、急速に好転し2.5mのち1mと最強船「蝶栄丸」にとっては造作もない海況との予報だ。早速、準備を始めた。里では、30から35cmクラスの渡りグロが入り、好調とのこと。尾長も出るかもしれないので、竿は強めの竿を準備。いつのまにか、こんな鼻歌を口ずさんでいる自分に苦笑した。

3つの下部に命令だ やあ
怪竿アテンダー空を行け
プレ磯は糸だすな
イスズミ変身クロになれ

40代の方にはわかっていただけたと思う


まずは撒き餌づくりから 一番楽しい時間

2月3日(土)、久しぶりの大潮釣行。上甑の潮汐は、満潮が8時25分、干潮が14時22分。31日に出航して以来で、その時は水温が18度だったという。1日、2日の寒波でどれくらい水温が下がったか不安だが、何度も言うようだが、サラリーマン釣り師である私に選択の余地はない。午前1時にueno宅に集合し、ニッサンセレナは快調に九州自動車道を南へ下った。車中では、大黒摩季の激しいビートのBGMでの釣り談義。大黒摩季?大グロ撒き餌?uenoさん、今回の釣りもかなりの力の入れようである。

我々のテンションの高さは、出航1時間前の午前3時前に到着させたのだった。もうすでに、離島に魅せられた磯師の車が並んでいる。ワゴン車、ステータスワゴン、軽トラック。乗ってきた車はそれぞれだが、みな心は1つ。1種類の魚に向いている。3時半過ぎ、ドーム球場のような明るさの照明を放ちながら南九州最強の渡船「蝶栄丸」登場。暗闇の静の世界が、一瞬にしてきらびやかな動の世界へと変わった。荷物を次々に乗せてキャビン内へと移り、乗船名簿に記入。本日の釣り客は、総勢19名とこの寒グロの時期としては少なめだった。

午前3時53分、蝶栄丸は釣り人の夢とロマンを乗せて、串木野港を離れた。2.5mの波だ。結構揺れた。しかし、甑に近づくにつれて波は収まっていった。離島としては、あっという間の船旅で、午前5時に上甑沖磯群に到着。暗闇の中から突如として鋭角的な巌が浮き出る。黒神からの渡礁が始まった。1人1人に事細かにポイントを説明するI船長。この人柄が釣り客を集めているのだな。船長も、人と人との関係を深く意味づけられる方のようだ。上甑沖磯群は、広大だ。渡礁に時間が掛かっている。ようやく後7,8人というところで、声が掛かった。

船長がライトを照らしてポイントを説明してくれる。釣り座は、巨大な沈み瀬の左側と船着けだ。船着け左の足下に見える沈みの壁でクロが当たってくるそうだ。「3ヒロから竿1本半をねらってください。型ねらいです。」と船長の息子であるポーターの一声でやる気モードに。素早く渡礁。荷物を高い所に置き、蝶栄丸に挨拶。船は次なる渡礁へと反転して去っていった。我々が乗せられた磯は近島の大穴といい、足場がよく何となくいい雰囲気。裏には巨大な巌である近島が北西風を遮ってくれる。沖向きに1人、里の町明かり向きに2人が乗ったもよう。時計を見ると午前5時45分。満天の星空だ。

我々は早速撒き餌作りに入った。オキアミ生半角を細かく砕き、集魚材1袋、パン粉2kgを混ぜて半日分とした。早速撒き餌開始。同時に船着けの釣り座をゲット。その中で、竿を準備。仕掛けを完成させた。uenoさんも仕掛け作りを終え、いろいろ釣り座を物色していたが、結局始めに船長がライトを照らした部分に決めたようだ。

釣り座を物色中のuenoさん おらこっちですっバイ

朝が来た。九州の川内方面から朝日が顔を出した。右手には、里の町がよく見える。人家に比較的近いこの場所でも良型のクロが喰ってくるというから、甑島という遊び場の懐の広さを感じる。uenoさんは撒き餌もそこそこに釣り始めたようだ。私も負けじにといいたいところだが、1時間以上撒き餌しているのに何にも見えない。海の色は限りなく透明に近いブルーだが、緑が入っているような気がする。水温が下がったかも。更に30分撒き餌を続けるが、魚1匹見えない。不安な気持ちで、午前7時40分、第1投。竿3本先に本流が走り、それに引かれる潮に乗せていく。うねりがあり、仕掛けの落ち着きを重視して3Bの半遊動で攻めた。3ヒロから始めるが、餌はそのまんま返ってくる。そして、冷たいつけ餌。


里の町が見える エボシ瀬

2投、3投と繰り返すが、反応無し。生命反応が感じられない。8時頃、蝶栄丸が見回りにやってきた。「どうですか。」ダメのサインを送る。「9時過ぎに見回り来ます」と去っていった。甑島特有の小さい小魚の群れは確認できるが、あとは、全く見えない。はやくもボウズの3文字が頭に浮かんでは消える。あきらめずに粘っていると、竿1本くらいのタナで餌が盗られるようになった。だれだ餌を盗っているのは。っていうか、クロしか考えられないじゃあないの。餌は盗られるのだが、ウキに変化が見られない。オキアミの頭だけ取ったり、身の一部分をわずかにかじったりと。

遅い昼食を取りながら、仕掛けを変更。0号の全遊動に。つけ餌を吸い込んだときの抵抗感をできるだけ抑え、自然に撒き餌と同調してつけ餌が落ちていく演出をする仕掛けにした。うねりは収まってきたものの、潮のよれができ、完全フカセでは、仕掛けが入らないため、ガン玉7号をハリから矢引のところに打ち、撒き餌を3杯先打ちし、仕掛けを投入して合わせ、更に追い撒き餌を2杯かぶせた。ところが、今回は仕掛けが馴染むと、ウキがゆっくりと沈み始めた。ガン玉が重すぎたかと思っていると、ウキの入り方に生命感を感じた。道糸を張りながら待つが、やがてウキは浮いてくる。つけ餌をチェック。やはり、クロがさわったようだ。


前半戦のの釣り座

全遊動に変え、ウキにアタリが出るようになったが、どうしても喰わせられない。前アタリを取ろうと早合わせをするが、素バリの連続。ならば、完全に見えなくなるまで消し込むまで待っていると浮いてくる。これが何度となく繰りかえされた。満潮を過ぎ、下げに変わると、潮が少しずつ引いてきた。今の船付けの釣り座は、あわせの角度が悪く、魚を食わせられない。潮が引いてできた右下の段の場所を釣り座とし、本流に引かれる潮にいい角度で合わせられるところに変わった。この釣り座の移動が意外な結果をもたらした。ウキが例によってゆっくり消し込む。道糸を張りながらすーっと誘いを入れてみると、道糸が一気に走った。不意を突かれた格好になったが、何とか体制を立て直し、2.5号のハリスを信じて強引に浮かせにかかる。やつは、左の沈み瀬付近に突っ込む。竿を左に倒して強引に巻き上げる。やつは最初の判断を誤った。今度は、右の沈み瀬へ突進。しかし、がま磯アテンダー2号の力が上回った。右に倒しながらリールをごりごり巻くと、魚はすでに右の沈み瀬の上に浮いていた。してやったり。ばしゃばしゃと浮いたのは、40越えの口太。慎重に玉網をかけた。やったぜ。喰い渋りの1尾は本当にうれしいものだ。ハリ、ONIGAKEの沈め探りグレが上唇の皮1枚に掛かっていた。



交通事故的釣果 42cm

「uenoさん、釣れましたよ。竿1本です。」師匠に正直に釣果を報告。「おれも1回アタリがあったとばってん。バラしたバイ」uenoさんは、喰い渋りの中2号にハリスを落とし、00号の全遊動沈め釣りで喰わせたが、後もう一息というところで、ハリスが根に触れてしまい、悔しいバラしを演じたとのこと。私はさらなる獲物を求め、釣りを再開するが、、餌をさわられもしなくなっていた。時計を見たら9時半。ちょうどいいタイミングで、蝶栄丸が見回りにやってきた。「どうですか」「だめ!1枚!」と人差し指をたててみせた。「今日はどこも1,2枚だよ。どうするかなあ。よし、変わってみよう。」船長は我々の迷いを吹き飛ばしてくれた。急いで道具を片付けて、船に飛び乗り、次なる戦場を目指した。


近島に見切りをつける ここで粘っていたら・・・

船の上で船長が笑顔で厳しい一言。「水温が下がったよ。16.8度。」やっぱり。「沖へ出てみよう」と蝶栄丸は北へ進路を向けた。船が目指した先は、犬島周辺だ。犬島の裏には低いハナレ瀬が点在している。うねりが収まり、潮が下げていくということで今まで乗ることができなかった磯に乗せてくれるらしい。最初のハナレ瀬に3人組を降ろす。次は我々だ。低く足場が悪いが適度なサラシもありいい雰囲気。「ここは何というところですか?」ポーターの息子さんは、「チャワン」と答えてくれた。「かどのサラシを釣るか、下げ潮に乗せて釣るかです。」とアドバイスしてくれた。


瀬変わりは犬島方面のハナレ瀬へ

狭い釣り座だ。足場が悪く、二人が精一杯。撒き餌を作り直し。釣り再開。サラシ場はいい雰囲気だが、魚は餌盗り1匹見えない。浅いため、この状況でタナが浅いことは考えられない。そこで、サラシもないドン深の場所を選択。潮に乗せて行く釣りをすることにした。ここでも、状況は同じ。魚の姿どころかアタリを拾えずに、何とか私が38cmの口太を追加し、uenoさんが33cmの口太を釣りボウズを脱出するのが精一杯。午後1時前15分になったので、片付けに入った。その時、1隻の漁船が近づいてきて我々に尋ねてきた。「釣れましたか」指を3本立てる私たち。「ああ、30匹ね」我々の傷口は広がった。


ボウズ脱出へ 真剣モードのuenoさん


さようなら チャワン

午後1時過ぎに船は迎えにきた。だめだったことを素直に報告。他の釣り人も一様に無口だった。釣れないと無口になるのは、今も昔も変わらない釣り師の姿だ。港に返って今日の釣りを振り返った。「やっぱり、里は相性悪かなあ」とuenoさん。31日までは良かったのについてない。相性悪いというのは、本当は釣る技術が足りないことはわかっている。でも、釣り人という人が一方的に悪いからHETAだから魚が釣れなかったという見方は真実だが、趣に欠ける。喰い渋りの魚が知らせてくれるわずかなアタリをモノにできない釣り師に問題がある。確かにそうだ。でも、それよりも、相性が悪いなあと他力本願と考えるのも中々面白いものだ。魚釣りは、技術だけでなく、水温、潮など自然のによって恵まれたり、恵まれなかったりする。それで十分ではないか。釣れなかったからこそ、また、次に釣りに行きたくなるもの。この結果を受け入れよう。そして、また、あの夢舞台に立つことを夢見て仕事に家庭生活に頑張ることにしよう。こう考えていると、1人の釣り人が近づいてこられた。「あの、かまちゃんですか。HP見てます。頑張ってください。」突然の声かけで戸惑ったが、喜んでくれているとわかると、言葉を返すことができた。「今日は厳しかったですねえ」「ですねえ」見えない糸でつながっている釣り師たち。Web上でもつながっているんだと実感できた瞬間だった。こんな見る人のことを全く考えない内容のHPはないのにねえ。へたな釣りはできないなと再び気持ちを奮い立たせて港を後にするのだった。


本日の釣果 42cm 38cm 2枚


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