3/10 黒島は今日は雨だった 黒島

では、まず一曲。

黒島は今日は雨だった
                                           磯山田洋とイグローファイブ
尾長1人に かけた釣り
釣れるの言葉を 信じたの
探し 探し求めて
仕掛け 瀬際落としたら
10号ハリスがぶち切られ
あああ あー 黒島は今日は雨だった
今シーズンまだ尾長に逢えないでいる私。2月の離島ベストシーズンは、釣行日と悪天候のモホロビチッチ不連続状態で離島行きは無理して出航した1回のみ。時すでに土の中の虫たちが活動を始める啓蟄3月6日を過ぎ、今回のチャンスは3月10日。場所は、当然硫黄島。「10日予約お願いします。尾長で」「1泊2日釣りじゃあないの」この日は、どうやら、1泊2日釣りの客が団体で予約しているようだ。「ヒラマサが出ているようですね」2月10日の釣行の時、永良部崎の洞窟に乗っていた釣り人が回収の時にヒラマサが回ってきた話がきになっていた。案の定、その後の釣行でヒラマサが3〜4本釣れたという。離島の上物では、クロよりも青物釣りがしたい自分は、青物釣りの魅力に勝てず、船長に打診してみた。「釣れてるよ。キビナゴの刺し餌持っていけばいいよ。オキアミでも釣れるけど。立神あたりに乗せてあげましょうか」とこちらの希望を叶えてくれた。よしっ、今回のねらいは、尾長&ヒラマサ釣りに決定!
例によって、天気予報とにらめっこの1週間を過ごし、8日の時点で、晴れのち雨、1mのち2.5m。尾長釣りは夜明けなので、これならもしかすると出航するかもしれない。淡い期待を持ちながら前日の昼、黒潮丸へ連絡を取ると、「鎌田さん、天気が悪いね。悪いけど中止にしたところですわ」がっくり。行けると思ったのに。10日は、前線を伴った低気圧が、日本海と、沖縄の南海上を進むので、丁度日本列島をサンドイッチする形になる。予報では、雨が降り始めるのは早くても午後3時頃という。南東の風も昼過ぎから吹くはずと思っていたのだが。
さあ、こうしちゃおれない。気持ちを切りかえ、出るところをさがそう。硫黄島が出ないならば、他の離島もだめかなあと、まずは鷹島へ行く第八恵比寿丸へ連絡を。「中止にしました。天気が悪いのでね」うーむ、やはり厳しいね。甑島はどうかと、瀬々野浦の永福丸へ。しかし、連絡が取れない。次は、ゲキ渋状態へ突入している中甑鹿島はどうかと、誠芳丸へ。「いっぱいです。途中回収になるかもしれないです。やめたほうがいいですよ」なるほど、お次は、南九州最強の蝶栄丸だ。「いっぱいでねえ」上甑里にも振られてしまった。最後の砦下甑手打はどうかとFナポレオン隼に電話。「いっぱいですう」例によって奥さんがすまなさそうにお断りを。ついに追い込まれてしまった。ここまで連絡して断れれば仕方がない。今回は釣りはあきらめて学年末の仕事に精を出そうか考えていると、もしかしてと、ダメ元で黒島へ誘ってくれる宝栄丸に連絡をとってみた。「でまーす。3時出航です」何と意外なことに硫黄島の隣の離島黒島は出るとのこと。一体どういうわけだろう。ことの顛末はどうれあれ出るのは間違いない。今回はおとなしくしていたほうがいいかもと半分は思ったのだが、一度ついた灯は中々消すことができない。こうして、今回の釣りは、尾長の期待が残る初めての離島黒島に決まったのだった。


本日唯一の枕崎離島便 宝栄丸さん お世話になります
午後11時半人吉を出発して、午前2時ごろ枕崎港へ到着。渡船の停泊場所は、黒潮丸よりもかなり指宿側だ。信号の手前を右に曲がると、ライトをつけた船がすでに待機していた。「お世話になります。」と船長に挨拶。荷物を船に積んで、ポーターの人と話をした。情報収集のためだ。「尾長釣れてますか。」「ボチボチですね。」「タナは深いんですか」「ですねえ。竿1本とか1本半とか言ってますから、でもこの前は2ヒロできたそうですけど。」「やっぱり硫黄島と同じように瀬際を釣るんですよね。」「はい、昼釣りも50cm以上離すとイスズミですからね。」「青物は回っていないんですか」「一時期ヒラマサが回ってたそうですが、地元の人に聞くともう群れは離れたそうですよ。」

こんな話をしながら乗船名簿に記入し、キャビン内の下の段に横になった。離島行の船はでかい。この宝栄丸も例外ではなく、広々として毛布も常備されている。草垣群島まで行くこともあるという。ただ、エンジンオイルのにおいがキャビン内に充満し、ちょっとつらかった。本日の釣り客は10名ほど。みな、尾長の夢を捨てきれない釣り師たちだ。そうこうしているうちに最後の客が到着し、午前3時前に船は枕崎港へ到着した。波高1mの予報通り、順調に進んでいる。これなら尾長釣りにうってつけの凪ぎであろう。快適な行きの船旅の中で、いつの間にか眠ってしまい、気がつくと早くもエンジンがスローに変わっていた。釣り師たちがあわただしく渡礁準備に入る。私もキャビンの外に出ることにした。




まず 堤防から

船の前方に大きな島影が見える。その島の斜面に明かりがポツポツと見える。硫黄島より人間の生活感が漂っている港である。すると、船は港にある防波堤に着けた。3人の上物師が堤防に上がった。これが有名なシマアジなどのおみやげ青物がよく釣れる黒島の堤防か。釣れるなら堤防でもいいが、折角来たんだから沖磯に上げてもらおう。船は反転し、行き先を考えている。「どっちから行く?」とポーターの方が船長に聞いている。「丸瀬の方へ行こう」と船長。船は再び全速力で走り出した。

船旅の途中でいきなりの訪問客が現れた。トビウオがいきなり船の中に入ってきたのだ。何かに追われたのだろうか。しっぽが切れている。血を出してバタバタと暴れている。トビウオは夏の夜釣りで硫黄島へ行くときに船の外からよく見ることができる魚である。この水温が一番低くなるであろう春の海で、トビウオが飛び込んでくるとは。何か不都合な出来事を暗示していなければいいが。


始めは マンジュウ瀬で 時化てきたら回収にくると宝栄丸

しばらく走ると、「鎌田さん、次です」と意外に早く声がかかった。船のライトに移る黒い磯影をみると、ここは、硫黄島の立神付近のように独立礁が集まっている場所のようだ。そのいくつかの磯の中で一番低く小さなハナレ瀬に船は着けた。「ここは何という場所ですか」ポーターの方に尋ねると、「マンジュウ瀬です」と答えてくれた。すばやく磯にのり、荷物を受け取る。そして、船長のアドバイスだ。「これから、上げ潮が当たってくるからね。後ろの右側のところがポイント。風が出てきたら遠慮なく連絡ください。回収に来るから。」と言い残して、去っていった。

まずは、磯の全体像をつかむ作業から。干潮が3時52分、満潮が9時52分。今は潮が引いているが、これから風が出て来るだろうから、船付けの低い部分は被るかも知れない。荷物をできるだけ高いところにおいて、早速撒き餌作りから始めた。オキアミ生1角、赤アミ1角にグレパワーV9を丹念に混ぜ合わせた。つけ餌は、チヌ用のオキアミ生。餌の準備ができると、タックルの準備だ。ダイワブレイゾン遠投5号に道糸10号、ハリス10号。ウキは、2号の電気ウキ。タナは2ヒロ半から始めることにした。



撒き餌タイム♪

船長から言われた釣り座に入ってみた。ここは船付けよりも1段高くなっており、足下から落ち込んでいるようである。早速、瀬際を中心に撒き餌を効かせた後、午前5時半ごろ第1投。瀬際に仕掛けを投入。後ろから上げ潮が走ってくるが、この釣り座は丁度潮のよどみになる部分で、撒き餌がたまりやすいようだ。20m先に沈み瀬があるようだが、後でそこもチェックする必要ありか。3投ほどするが、餌を盗られないので、3ヒロにして投入。すると、ウキに反応が初めて表れた。回収すると、アカマツカサがご用となっていた。魚の活性は一応あるようだと一安心。夜光虫が釣りを幻想的に彩り、そのわずかな明かりは、ますます大型尾長の期待を抱かせる。マツカサの連続ヒットの中、このマツカサが突然いなくなった時、そう、その時がチャンスなのだ。唇をなめながら、いつやってくるともわからない、尾長のアタリを待つべく、全神経を竿先に漲らせた。


尾長ねらいの釣り座 予報に反して雨が

アカマツカサの猛攻はとどまることを知らず。中々散ってくれない。釣ってはリリースを繰り返す。その美しい透明な瞳にいつしか話しかけていた。おいっ、君じゃあないんだよ。尾長ちゃんはどこにいるんだよ。頼むから尾長ちゃんを連れてきてくれよ。こう語りかけながら、リリース。アカマツカサは命からがら解放された喜びを爆発させながら暗闇の海へと帰っていった。時計を見ると、午前6時過ぎ。そろそろ夜が明けてしまう。何とかしなくちゃ。

尾長の当たってくる時間は、暗い夜の間よりも、夜が明け始めるころが一番可能性が高いと言われる。いよいよ、そのゴールデンタイム、黄金の時間を迎える。波間にゆらゆらと揺れる電気ウキがいつ海中へと突き刺さるのか爛々とする眼で見つめていると、底潮がわずかに動き始めた。おっと、道糸の修正をしようとした時、いきなりウキが消し込む前に道糸が走った。ドスン。竿全体に力が加わる。生命観ある強烈な引き。5号竿の強さを信じてためていると、すうっと軽くなった。いきなりのバラシ。この時間帯でのバラシは痛い。尾長だったら、群れを蹴散らすことになるからだ。仕掛けを回収してチェック。ハリハズレだ。気を取り直して、オキアミのできるだけでかいのを1匹がけにしてさっきアタリのあった周辺に仕掛けを投入。



夜釣りの番人 アカマツカサ

さすがに、あんな時間帯にバラシてちゃ釣れるわけないよね。2,3投と仕掛けを入れてみるが反応がない。でも、不思議とマツカサの気配もなくなってしまった。魚の活性が落ちたのか、それとも、まだやつは近くにいるのか。南東の空に目を向けると、朝焼けが始まっている。もうっこ5,6分間が勝負だろう。たっぷり撒き餌を効かせてさっきアタリがあった地点に仕掛けを入れた。ゆらゆら揺れながら漂う電気ウキ。仕掛けが馴染むとすぐにルミコが左手前の瀬際へと動いたその時、電気ウキが突然螺旋状の光の波紋を残しながら、海中へと消えた。反射的に竿を立て、こちらも戦闘態勢に入る。なかなかの引きだ。よっしゃあ、必ずとる!やつは強烈なトルクで瀬際に突っ込む。耐えていたが、痛恨のバラシ。がっくり。仕掛けを回収すると、ハリのチモトからのハリス切れだった。マツカサの度重なる猛攻で、ハリスが傷ついていたのかもしれない。思わず天を仰いだ。この時間帯での2連続バラシは致命的だ。一瞬だった魚との真剣勝負が終わると周りはすっかり夜が明けていて、予報に反して雨がぱらついていることに気づくのであった。


水温上昇で JAWS カムバック

悔しさいっぱいの夜釣りから、気持ちを切りかえ、昼用のタックルを準備する。がま磯アテンダー2号ー53に道糸5号、ハリス4号。南からの風が強くなりざわついた海況だったので、また、仕掛けをできるだけ瀬際にキープできるように、3Bの重めのウキでタナは2ヒロから始めた。、まずは、尾長の釣り座と同じ場所でトライだ。すぐにイスズミがかかった。1投ごとにイスズミのアタリが頻発した。タナをどんどん浅くした。最後は矢引に。しかし、クロの姿は確認できない。このまま釣っていればいつかはクロに逢えるさとタカをくくっていたが、一向にクロが釣れる気配がない。ほどよいサラシがあればいいのだが。

そうぶつぶつ言いながら釣りを続けて、いつものようにイスズミをかけると、信じられない出来事が起こった。突然海面が盛り上がり、そのかけたイスズミめがけて何者かが突進してきたのだ。ザッパーンと、ものすごい水しぶきを上げて、イスズミを追うが、私の姿を見てびっくりしたのか、反転して沈んでいった。そう、その正体は間違いなく鮫である。おいおい、勘弁してくれよ。ポーターのお兄さんは、水温が下がって鮫はいなくなりました、と言っていたのに。これじゃあ、クロが口を使うはずないよ。JAWSカムバックだ。水温が上昇したのかもしれない。この3月の時期に、まだ矢引でイスが喰ってくるんだから、きっと水温が上がったのではないだろうか。JAWSをみたら、さすがに戦意喪失だ。やってられないわ。ここは、サラシもなく、更に悪いことに長瀬側の水道が激流となってしまった。これでは、仕掛けを瀬際に落ち着かせることは困難と、釣り座の変更を余儀なくされるのであった。


上げ潮の激流が

鮫や激流を避けられる場所として、今度の釣り座は、黒島本島側の水道に決めた。ここはそこそこサラシもあり。餌を撒くと魚が浮いてきて餌を追っている。ここにはクロもいるんではなかろうか。ところが、その期待に反して挨拶に来てくれたのは、ウミガメだった。それも8匹くらいの団体さんだ。ウミガメが浮いているときに良かったためしがない。案の定、ここでもイスズミが猛威をふるっていた。さっきと違うのは、イスズミに、ソウシハギやダツなどが加わったことぐらいか。更に悪いことに仕掛けをずっと流していくと、再び悪夢が襲ってきた。2〜3mはありそうな鮫がイスズミにまたもや突進してきたのだ。これじゃあ、仕掛けをずっと流していくこともできないよ。

失意のうちに視線を本島側の水道の浅いところに目をやると、不思議なものを見た。灰青色のしっぽの白い魚の大群が、上げ潮に逆らうように泳いでくる。もう一度注意深く見てみた。間違いない、クロだ、クロ。信じられない。あれほどどこにいるのだろうとさがしていたのに、あんなに見つかりやすい場所にいたなんて。ところが、彼らのいる位置が悪すぎる。あんなところにいたんじゃ、角度的に喰わせるのは至難の業だ。仕掛けを入れてみるが、まったく見向きもしない。見える魚は釣れないの格言通りだ。


ウミガメの団体さん

遠投して、何とか喰わせようと、水中ウキをつけてトライするが一向に応えてくれない。初めて目の当たりにした湧きグロだったが、釣り人を落胆させる演出に過ぎなかったのだった。

風がだんだん強くなってきた。南からのうねりが入り、さっき渡礁した船付けは、波を被るようになってきた。雨も強くなってきていよいよ本格的に降りが始めるような状態だ。これ以上ここにいたら危険と判断。船を呼ぶことにした。連絡しようとしているときに、以心伝心のなせる技か、宝永丸が回収にやってきた。ほっと胸をなで下ろし船に飛び乗る。

「どうでした。」「だめでした。」「水温が急に上がってですね。19度ですよ」だから鮫が元気になったのか。納得だ。


本日の餌盗り ソウシハギ イスズミ ダツ

風が強くなるので、風裏に行きます。船長が事情を説明。納得して次なる磯を目指した。かなり揺れている。この時点で2.5mくらいに感じた。船は堤防につくと、そこの釣り人の状況を聞いている。堤防の客は瀬変わりはしないようだ。南東の風なので、今度は黒島の北エリアに進んでいる。私は、ウキノボウズというところに乗せられた。先端の根のあるところで釣れというアドバイス。ところが、そこは餌を撒くと、ものすごい餌とりが待っていた。その餌とりも通称ドラキュラと呼ばれる南の海特有の魚だ。このグロテスクな魚の入れ食いで完全に戦意喪失。


南東の風で立神も回収へ


瀬変わりはウキのボウズ

船着けに戻って釣り始めるがやはり同じ。餌とりが、ドラキュラにイスズミが加わるだけのつまらない展開。それより、雨と風は益々強くなるばかり。何でおれはここにいるのだろうと、釣りに来たことを後悔。冷たい雨に打たれながら回収の船がくるのを待ちわびる状態に。こんな時に限って中々来ないものだ。午後1時前にようやく回収。やれやれと、相変わらずガソリン臭いキャビン内で横になり、帰りの時化気味の3mほどのプチジェットコースターにひたすら我慢しながら枕崎へと帰った。見事な久々のボウズ。離島でのボウズってけっこうへこむね。枕崎港のお魚センターでおみやげを買っているときに看板に励まされるのであった。

「きばらん海! かまちゃん」


冷たい雨の枕崎港


お魚センターで激励を受ける

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