5/27 黒いより赤いを 硫黄島

ショックなニュースが飛び込んできた。ZARDのボーカルの坂井さんが病院で転落死。80年代から90年代にかけて人生の応援歌を歌い続けた。釣りに行く車中でモチベーションを高めるのに、あの透き通るような歌声が欠かせなかった。もう聞けないかと思うと残念でならない。ご冥福をお祈りしたいと思う。実は、ZARDと同じように、階段でつまずいて転落し、頭を強打し、35才の若さで亡くなった天才テノール歌手がいた。その名は、フリッツ・ヴンダーリッヒ。ドイツのヘルデンテノールとして一世を風靡したという。その高音の輝きは、CDで聴いても声を聴いた瞬間にそれとわかる歌声だ。ドイツオペラ、イタリアオペラ、ドイツリートとどんなジャンルも超一流。こんな歌手は、おそらくヴンダーリッヒ以後出てこないのではないか。仕事に疲れたとき、彼の歌声を聴けば、また、明日への活力がわいてくるのだ。
海の中にもZARDやヴンダーリッヒと同じようなすばらしい魚がいる。そのキーワードは「赤」。赤と言えば、心躍らせる人種がいる。赤三萬、赤五筒などを思い浮かべるのは雀士。赤丸チェックは、レコード会社。そして、赤い魚は離島の釣り師だ。以前こんなことがあった。9月の硫黄島の夜釣りで、uenoさんとシブ鯛をねらったときのことだ。いろんな魚が釣れたが、その中で目が大きな赤い奇妙な魚釣れた。私はキープしたが、uenoさんは気持ち悪いと言って捨ててしまった。枕崎港に寄港後、黒潮丸の船長にこのことを話すと、「おいっ、なんてことするんだよ。その魚はキンメ(標準和名はホウセキキントキ)といってみんなが釣りたがっている美味しい魚だよ。赤い魚はみなうまいんだよ。」とあきれ顔で返事が返ってきた。家に帰ってその魚の味を確かめてみると、なんともこれが美味。塩焼きにしたが、まるでエビを焼いたような味と香りがした。その後、船長の言葉「赤い魚はみなうまい」のことばが頭から離れなくなってしまったのだった。
今回のねらいでもある、離島限定の赤い魚と言えば、アカジョウである。4,5月から磯釣りでは、離島のブッコミ釣りで釣れるそうだ。早速、5月に入って硫黄島で、3〜5kgが釣れたそうだ。関ちゃんさんによると、アカジョウは刺身、鍋物、焼き物、煮付けと何でもこい。特に味噌汁は絶品とのこと。シブ鯛は、お目にかかるようになったが、その中で時折クーラーの中に彩りを与えてくれる赤い魚に対する憧れが日増しに強くなっていった。そこで、5月26、27日にうまいこと休みがとれた私とuenoさんは、硫黄島での1泊2日釣りを計画した。「いいよ。昼は遊びの釣りでもいいし、アカジョウも上がってるしね。キビナゴのトロ箱に餌をいろいろもっていってもいいよ。」いいポイントに乗せてもらおうと早めに黒潮丸の船長に予約を入れた。
ところがだ。硫黄島では異変が起こっていた。いつもなら水温がだんだん上昇するはずが、一日のうちで上げ潮と下げ潮の流れで水温がかなり変動するという。上げ潮の時間帯では、魚のあたりが頻繁にあるのに、下げ潮になった途端、餌もさわられない時間帯が訪れるという。我々が、予定していた釣行日の1週間前は、水温が真冬並みの18度で、石鯛が惨敗。やはり、下げ潮の冷水魂が魚の活性を奪ってしまったようだ。水温が下がったのでクロなどがポツポツ釣れたそうである。
さらに悪いことに、天気が不安定。この季節は、移動性高気圧のおかげで、天気の移り変わりが速いが、金曜日には低気圧の影響で波が高く、「南西からのうねりでね。かなり時化てるんですよ。だから、27日の日帰りに切りかえました。鎌田さん上物でしょう?上物なら4,5カ所くらいできるポイントがあるけどね。底物のポイントがないんですよ。日帰りでいいですか?」と船長も無念そう。しかたがない。ようやく取れた休みだが、自然に敬意を表し、1日釣りに切りかえるとしよう。
しかし、折角取れた休みだから、26日を無駄にしたくないと、uenoさんに相談してみた。「あんまり朝早くから行くと疲れるけん。昼からのんびりと釣ろい。」の返答。そこで、昼からのんびりと竿を出せそうな釣り場として、黒瀬戸を選択。瀬渡し船の巨富丸に連絡を取る。法事があるから何とかで午後2時からならできるそうだ。26日(土)長潮。スーパーアオキで餌を購入し、黒ノ浜港へ午後2時頃到着。久しぶりだ。5年ぶりの港。磯釣りを始めた頃、よくこの港からわくわくしながら釣りに出かけたものだ。久しぶりに船長に会い、あいさつを。荷物を積んで港を離れた。


懐かしの黒ノ浜港

クロはコッパばかりだと思ったので、スズキかイカねらいであることを伝えると、「スズキは朝20匹ばかり釣れたよ。でも昼からじゃあ、釣れないよ。」「餌はなんですか。」「アジゴの生き餌だよ」そうか。やはり、アジゴだろうとは思っていたが、朝まずめ限定だとは知らなかった。「イカはどうですか」と誘い水を向けると、「船付きがポイント。仕掛けはヤエンがいいよ。」えっ、ヤエンしかけは持ってきてない。普通のアジの生き餌でやろうという我々に船長は笑った。「それじゃあ、無理でしょうね。」まあ、しかたがない。もともとウオーミングアップみたいな釣りだからね。


久しぶりだね 平瀬

船は、平瀬に向かっていた。懐かしいワンド。乗っ込みチヌ、もちろんクロ、スズキや青物の魚影も濃く、イカでも実績が高い近場の名礁である。午後2時過ぎに久しぶりに渡礁。先客はフカセ釣り師3名。南西からのうねりで時々洗われるが釣りはできそう。朝方、スズキがアジゴの泳がせで2桁釣れたらしいが、午後は期待できないという。案の定、uenoさんがワンドで足裏から30cmのクロを2匹釣っただけで、ウオーミングアップの釣りは終わった。


さあ いよいよ本番

黒ノ瀬戸から車を走らせ、枕崎港へ着いたのが、午前0時半。静かな枕崎港。船長の粋な計らいでいつもより早い午前2時出港だ。午前1時頃からぞくぞくと離島のロマンに魅せられた戦士たちがワゴン車などに乗って登場。1時40分ごろ船長がいつもの軽トラックで登場。「ああ、鎌田さん先に荷物乗せて」ということは、我々は最後の方かな。どうやら7,8人のグループがいて、湯瀬に行くらしい。ということは、湯瀬に行った後、我々の番ということになりそうだ。
午前2時、黒潮丸は、いつものように枕崎港を離れた。思った通りに凪で、快適な船旅だ。ほどよい揺れの中、うとうととしていると、90分ほどたった時、エンジンがスローになった。湯瀬についたらしい。あわただしく、7,8人のサムライたちが渡礁していった。更に、走ること20分やっとで硫黄島に到着。真っ暗な闇の中に突如として巨大な巌が現れた。西磯大瀬からの渡礁だ。立神などの底物の一級ポイントに渡礁したあと、船長から呼ばれた。「シマアジ大きくなってるよ。タジロが空いてるけど」うっ、一瞬迷ったが、今回はあくまでもアカジョウねらい。ここは、自分たちの主張をすることにした。「アカジョウの釣れるところにお願いします」「一人ずつで釣る?」「いいえ一緒でお願いします」
底物師を西磯や永良部ア一帯の地磯に渡礁させた後、船は全速力で島の南東向きに走った。底物の名礁浅瀬だ。底物師にあいさつした後、船は島の北東側に向かっている。午前4時半を過ぎ、夜が明けようとしていた。おいおい、わずかながらの夜釣りを楽しもうとしたのに、これじゃあシブには逢えないじゃないの。船は見慣れた名礁に近づいている。やったぜ、鵜瀬だ。「鎌田さん」船長が渡礁を促している。荷物を船首付近へと運び、姿勢を低くして渡礁に備える。船は鵜瀬本島ではなくハナレにつけた。狭い磯にuenoさんと二人で渡礁。何とか狭い場所に荷物をのせ、餌を受け取り、船長のアドバイスを待った。「そこの船着けをねらって。クロは裏だよ」そう言い残すと、黒潮丸は隣の本島に一人の底物師を乗せ、平瀬方面へと走り去っていった。


クロは裏だよ
さあ、いよいよ魚との勝負だ。竿はダイワ幻覇王石鯛竿。道糸はナイロンの20号に瀬ズレワイヤー37番。ワイヤーハリスを1ヒロとり、おもりは25号の真空おもりの仕掛けに。キビナゴの撒き餌をぱらぱら撒き、まずはスーパーで買っておいたサンマをぶつ切りにして、ぶっ込んだ。すぐに、アタリがあり、竿先が小刻みに魚信を届けてくれる。仕掛けを回収すると、餌が盗られている。第2投、仕掛け投入。今度は、サンマの頭の部分だったのに、堅い部分を残して肉が取られていた。首をひねりながら、第3投。今度の餌は、持ってきている付け餌の中で最強のカツオの腹皮。これもさっきと同じように竿先を小刻みにゆらすものの本アタリにはほど遠い動きで、仕掛けを回収するとムツバリ20号には鰹の薄い皮だけがひらひらと風に漂うだけだった。


さあ 幻の魚アカジョウをねらって
おかしい。海に異変が起こっているのでは。すでに時間は5時過ぎ。すっかり夜が明けてしまった中で、満潮潮止まりから下げ潮が動く時間にもかかわらず、このエサトリはなんなのだろう。まるで水温が30度くらいの海の世界だ。先週までは、水温は冬場並みの18度。特に下げ潮の時間帯には冷水魂が入り、エサトリさえも口を使わない状況だったと聞いていたが。おそらく水温が急激に上がったのではないか。偏光グラスでのぞいてみるといるわいるわおびただしい数のイスズミが乱舞している。実際、初めてブッコミ仕掛けにイスズミがかかったのだった。エサトリの正体はイスズミの大群だったのだ。
uenoさんも状況は同じで、どうしようもないとぶつぶつ。早くもクロ用の仕掛けをつくり、赤アミとオキアミの撒き餌作りにはいっていった。裏でクロをねらうらしい。丁度その時、黒潮丸が見回りにやってきた。「どう?釣れてる?」ダメのサイン。「アカジョウはもう少し遠投したらいいよ」とアドバイスし、「ここが一番早い回収になるからね。12時半に来るよ」と去っていった。


釣れてくるのはやっかいな外道たち
裏でuenoさんがクロ釣りを始めるが、このエサトリの状況ではどう考えたって望み薄だった。早速、ギンユゴイが、イスズミがuenoさんを落胆させた。私も度重なるエサトリの猛攻に、しびれを切らし、クロ釣りをすることにした。竿は、ダイワマークドライ遠投3号。道糸5号にハリスは4号。ハリは、グレバリ8号。1ヒロ半から釣り始めた。裏の釣り座は、ワンドになっており、右側には巨大な巌がある。サラシのあまりないこの状況では、その巌の際のオーバーハングがあり、そこに潜んでいるであろうクロを引きずりだしたいところだ。
しかし、釣れてくるのはイスズミばかり。アカジョウの餌のために、1匹を絞めて、切り身にしたが、後は釣ってはリリースを産業ロボットのように繰り返すだけ。つまらない時間が過ぎていく。そのうち潮が引いてくると瀬際にサラシが出始めた。この水温では釣れないだろうなとあきらめモードだったが、とりあえず、硫黄島のクロ釣りの基本、サラシのできるタイミングを見計らってマキエをかぶせ、仕掛けを入れて、瀬際から50cm以上離さないようにしながらアタリを待つと、一気に鵜澤ドングリ3Bが消し込む。どうせまたイスだろうとやりとりをしてると浮いてきた魚は、意外にも灰青色の魚だった。よいしょっと振りあげると、34cmくらいの口太が飛んできた。


さすが鵜瀬のハナレ まだクロがいたよ
エメラルドグリーンの瞳は健在だ。おい、まだいたのかよ。もうすぐ6月になろうかというこの時期に。うれしくて思わずクーラーに入れてしまった。もうこの時点では、すでにアカジョウはなかった。もう1尾追加してイスズミのあたりのみになったので再び表で石鯛竿を握った。


この日大分では36度の酷暑だったが こちらは快適

もうすでに、午前8時をまわっていた。潮が切れだした。しかし、エサトリの状況は相変わらずで、たまにかかるのはウツボだけ。遠投するが、中通しおもり仕掛けは根掛かりしやすく、トラブルが続いたため、また、瀬際をねらった。遠投したところにはおそらく大きな隠れ根があるようだ。


裏のクロのポイント
状況の変化が見られないため、再び裏でクロ釣りとなった。ここで、ようやくuenoさんにもクロの釣果が。私もイスズミとゲテモノくんに翻弄されながらも何とか3枚追加し、おみやげを合計5枚確保。uenoさんも4枚釣り、何とかおかずをゲット。結局、アカジョウ、シブ鯛には逢えずにこの鵜瀬のハナレをを後にすることになった。無念の気持ちを胸に回収の船に乗り込んだ。再び来るときは、必ずシブとアカジョウに逢うぞと心に誓い、「黒いより赤いだよな」と呟きながら、初夏を迎えた硫黄島を後にするのだった。


やっとでボウズ脱出 ほっとするuenoさん

ゲテモノ君もあいさつに来てくれました 浮かせると尾長にそっくり

鵜瀬本島の底物師 がんばって♪


イスズミ10匹にクロ1匹の確率


ありがとう 鵜瀬


本日の釣果 本当にアカジョウねらいなの?

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