8/15 トラブル続きで爆睡夜釣り 内之浦

「秋目に予約するばってん、よかな」とuenoさんがアドレナリン放出状態が電話でも確認できるほどの声調子で話しかけてきた。「わかりました」と答えるしかない私。硫黄島へと考えていたが、師匠のことばは絶対だ。しかたがない。今回は離島釣行はあきらめよう。
今年の夏は予想通り九州では猛暑日が続いていた。それとともに台風銀座九州に2つの台風が上陸を果たした。ここまでは、例年通りの想定済みだが、今年はどういうわけだか、台風接近以外にも釣り師を悩ます問題があった。それは、うねりである。7月、そして8月になっても海況は一向に安定しないままだ。一時期は、日本列島の天気図に4つもの熱帯低気圧が現れる始末。南海上は常に熱帯低気圧がいる状態が続いた。また、今年の太平洋高気圧はあまんじゃくで、くじらとよばれる夏の高気圧区域の中に九州を入れてくれない日が多かった。こうして、熱帯低気圧と高気圧の周辺部の2つの要因によるうねりで、九州の磯釣り師は煮え湯を飲まされ続けたのであった。
そんな中、釣りの師匠uenoさんのフラストレーションはたまる一方。「おらっ、2本バリの仕掛けば作ったバイ。ばってん、中々行かれんなあ。」硫黄島の夜釣りに照準を合わせている自分に対して、早くも牽制球を投げるuenoさん。遠投かご釣りでの仕掛け作りだけが、心の支えだったようだ。uenoさんは、昨年、鹿児島県薩摩半島の秋目の夜釣りで、夕マズメの子シイラの入れ食い、イサキの数釣り、52cmの尾長と好釣果をたたき出している。今回も柳の下にということで早くから「秋目へ行こい」と何度も私に声を掛けていた。ということで、今回は先輩を立てることにしたのだった。


出発前は微妙な天候 内之浦港

8月8日を最後に、沖磯への渡礁が叶わない日が続いた。九州の南海上は4mの時化模様。14日になってようやく3mから2.5mに落ちる予報が出た。でも、2.5mの波で夜釣りは厳しい。そこで休みを延長して、15日の予報を待った。15日の予報は、薩摩地方2.5mのち2mだった。この予報にuenoさんが高校野球の監督のように動いた。「野間池とか秋目はうねりででらんごたっけん、内之浦を予約したバイ。どうせ硫黄島は出らんバイ。それに、硫黄島は水温が30度くらいになっとるだろけん釣れんバイ。」この変わり身の速さ。あれほど「秋目、秋目」と目の色変えて言っていたのに。「3時出航げなで、11時半集合な」あまり気が進まないが、これも義理と人情。内之浦のかご釣りに気持ちを切りかえることにした。
8月15日中潮。宮崎自動車道から都城につき、そこから南へ下り志布志から内之浦へと入る。「結構波があるごたんな」と海を左手に見ながらuenoさんがため息をつく。南からの強烈な風が志布志湾に風波の模様をつけている。南国情緒たっぷりの沿岸道路を内之浦方面へと進む途中、台風4号の爪痕がのこる箇所をいくつも見つけた。すれ違う車もあまりない寂しい路である。切り立った山の斜面にへばりつくようにたっている小学校。バス停。点在する民家。与謝蕪村の名句「さみだれや 大河を前に 家一軒」を思い出す。厳しい自然環境の中でもたくましく生きる人々の営みが見て取れる。辺境の地であれ、人口の少ない地であれ、等しく最低限度の生活を営む権利があるはず。どんなに小さな村でも小学校があれば、そこに子どもたちがいて学びがある。どんな国の状況があるにせよ、子どもたちの世界まで格差を持ち込んではならないと強く思うのであった。

午後3時半ごろ無事渡礁 由佳丸さんお世話になります

今回のねらいは、ずばりイサキ。できればシブダイもあがればいいかなというところである。大隅半島から薩摩半島に掛けて磯の夜釣りと言えば、イサキねらいの遠投かご釣りが最もポピュラーな釣りである。uenoさんが最近こっているのがこの釣りである。硫黄島でもこの釣りをしようとしたりするほど好きなのだ。一方、私はこの釣りが苦手である。あまり好きではない。タナ取りが難しく、何度もトラブルにさいなまれているからというのがその理由。しかし、いろんな釣りを経験するもの大切と気持ちを切りかえ、気持ちを奮い立たせるのだった。
船から潮色を観察すると川からであろうか濁っている。ソテツの自生地を右手に見ながら沖へ出るとうねりが待っていた。うねりが最高地点に達すると水平線がかくれてしまう。右手の地磯ではうねりがつくるサラシで真っ白。この内之浦の磯は花崗岩でできており、大変滑りやすく、注意が必要である。硫黄島や甑島などの溶岩質の磯場になれている自分としては、この花崗岩質の磯場が苦手だ。釣果よりも事故を起こさないようにと念じながら渡礁の時を待った。
「uenoさん」船長が呼ぶ。我々が一番はじめの渡礁のようだ。うねりで真っ白になった磯場へ果敢に由佳丸はアタックを始める。老練な舵取りで船は難なく目的地へ接岸。ぬれて滑りやすい磯に細心の注意を払って渡礁。荷物を受け取り、船長のアドバイスを待った。「そこ(船着け)を釣って。釣りにくかったら向こう(右の先端)もいいよ」こう言って由佳丸はつぎの渡礁に向かった

夕マズメはフカセ釣りでイサキねらい 沖に潮目発見

干潮間際のため、ぬれているこの場所は危険と荷物を上の段にあげた。早速、いつものように磯の全体像をつかむ作業に入った。うねりにより押し寄せる波が磯にあたってそこらへんすべてがサラシで真っ白。こんなところで夜釣りは厳しいね。ワンドにサラシができ、それが大きく広範囲に沖へ払い出している。上の段に上がると古いピトンの跡がある。ここがまず釣り座となるところ。更にワンドの反対側の先端も釣り座となりそうだが、岩の斜面を渡っていかなければならず危険。仕方がないので、はじめの上の段にブッコミ用のピトンを打ち込み、かご釣りの釣り座とした。
夕マズメには、竿がダイワマークドライ3号。道糸5号にハリス2号というアンバランス。夜釣りのタックルとして、竿がダイワブレイゾン遠投5号に道糸10号、ハリス6号で準備する。早く釣りがしたいが、はやる気持ちを抑えながら仕掛けをつくり、午後4時半にやっとで第1投にこぎ着けた。uenoさんはすでに釣り始めていて、時折、尾長の子、オヤビッチャが竿を曲げ楽しませてくれた。私も本当に久しぶりのフカセ釣りを楽しんだ。
ところが、その楽しさも最初だけで、とんでもないサラシのおかげでそれが悩みに変わったのはいうまでもない。0号の全遊動で攻めていたが中々仕掛けが入らない。G3のJクッションにG3のガン次郎をハリスの矢引のところにかみつけてようやく馴染みがよくなった。


熱帯低気圧および高気圧の周辺部によるうねりで洗濯機状態

「深かバイ」のuenoさんのことば通り、竿1本ちょっとのところで道糸が魚信をとらえる。最初のアタリは強かったが、後はあっさりと浮いてきた。予想通り尾長の手の平サイズを抜き上げる。手前はエサトリと遠投してイサキをねらうがどこに投げてもエサトリだらけ。巨大なサラシが撒き餌を広範囲に散らばらせエサトリの活性をあげる役目を果たしていた。沖に本流が左から右へと走っている。その支流がワンドにぶつかり、反転流になって左の浅い根にぶつかりそこから潮目が沖へと払い出している。今までの経験ならそこに仕掛けを入れれば魚からの応答があるはずなのだが。
本命の応答はなく、あっという間に日没を迎えた。満潮が午後8時頃で、まずは上げ潮が勝負とかご釣りの準備の後釣り始めた。タナは一応竿2本半として、オキアミボイルをステンかごに詰める。ハリス6号、チヌ針5号の2本バリ仕掛けを取り付け、発射準備完了。12号の発泡ウキに8号のおもりとともにえいっと発射!ビューというイメージで紫色の宵の空に淡いレモン色の光の軌跡を残しながら沖の潮目に無事に着水する。しばらくして仕掛けを引き上げる。反応はまだない。これを2,3回繰り返すと反応なしと見るやタナを少しずつ深くしていく。こうして魚の反応を探りながらタナを探り当てていくのだ。


夕マズメはこ長のみ

ところがこの方法が結果的に徒となってしまったのだ。本当は、明るい内から水深を測っておく必要があったのだ。常連でもないのにその作業を怠ったために当然の報いが待っていたのだ。「うわー、根掛かりだあ」といきなりのトラブル。
夕闇の内之浦の磯に私の悲痛な声がこだました。
道糸から高切れ。ガックリ。苦笑するuenoさん。ところがこれは今回の不幸の序章に過ぎなかったのだった。1つの根掛かりは更なる根掛かりを誘発してしまうというトラブルの連鎖がはじまった。しばらくすると、uenoさんの「うわー、でたあ、根掛かりだあ」という
悲惨な声が内之浦の夜にこだました。
さっきの私の仕掛けとuenoさんのそれとがからんでしまたようだ。私の仕掛けはしばらくするとなくなってしまったようだが、今度は、uenoさんの仕掛けが根に残ってしまったようでケミ蛍のわずかな明かりが見える。どうやらそのあたりに浅い根があるようだ。このことに気づきながらも二人とも代わる代わるに根掛かりに悩ませられるのであった。
魚の活性は相変わらずで、ウキをもっていったと思えば、すぐに浮いてくる。回収するときにイットウダイ科の魚や、ハタンポなどの夜釣りでおなじみのエサトリ選手たちがついていた。度重なる根掛かりに、ついにuenoさんが動いた。


やっとで釣れたと思ったら サイズが・・・

「おらっ、あっちですっバイ」とuenoさんはついに危険な方の釣り座への移動を敢行。私は、1段下に降りて根掛かりしないような角度で頑張ることにした。こうしている内にあっという間に午後11時を回っていた。ここまでで私がイサキ2枚。uenoさんがイサキ1枚、キンメ(ホウセキキントキ)を2枚という釣況。
ぱっとしないなかで、こんなこともあった。
4回目の仕掛けやり直しの後、かごを投げる。うまい具合に着水。いいポイントに入ったぞと道糸の糸ふけを取ろうとリールを巻いていくと何か軽いぞ!道糸を巻いているはずのスプールを触るとあるはずの道糸がないではありませんか。気づいたときには遅かった。道糸の最後尾が今正に竿先を離れようとしていたのだった。私の寵愛を受けていた仕掛けは、悠々と自由な旅立ちを始めたのだった。度重なる根掛かりで道糸がいつの間にか短くなっていたのに気づかなかったのだ。「なんでだよー」
私の悲痛な叫びが内之浦の夜にこだました。


あれっ、道糸がない!

こうもトラブルが続き、魚からの反応がないならば、睡魔が襲ってくるのも至極当然で、しばらく休むことにした。後ろを振り返ると、斜めに傾いた岩盤が見える。空を見上げると文字通りこぼれそうな満天の星。天然のプラネタリウムを味わう贅沢を楽しむことにした。竿ケースを枕代わりに星を眺めると不思議と心が落ち着き根掛かりしたことや魚が釣れないいらだちが消えていく。休憩と称していつの間にか眠ってしまった。眠っていたことに気づき、再び起き出してかごを投げる。そして、また、イットウダイ科の魚が釣れる。また、睡魔が襲ってくるの繰り返し。夕マズメにセットしていたブッコミも不発。結局、私はこの内之浦に来て、釣りよりも睡眠を取るという価値を選んでしまった。uenoさんは、私が爆睡している間に、イサキ2枚と600g程度のシブダイを1枚ゲット。夜明けを迎えるのであった。
朝6時回収だから、5時20分頃には片付けに入った。するとuenoさんが、「ない」「ない」を連発。「どうしたんですか」と聞くと、「おいの竿とリールば知らんな。」とuenoさん。uenoさんはどうやら昼釣りのフカセ用の1.7号の竿と、一番お気に入りのリールをどこかにおいたらしく、それが見つからないとのこと。「どけいったかなあ。波に持っていかれたかもしれん。かなりの損害バイ。」肩を落とすuenoさん。
uenoさんのため息が内之浦の朝にこだました


おい(おれ)の竿とリールはどけ(どこに)行ったあ

6時15分頃、由佳丸が回収にやっていた。花崗岩の滑りやすい斜めの岩からの決死の飛び降りで、回収成功。今回も無事だった。この日はどこもあまり釣れていなかったそうで、「釣る人10匹くらいやね」と船長。どうやら、この釣りは10枚釣りきれなかったら惨敗らしい。
船長のため息が、内之浦港にこだまするのであった。

ありがとう 寝心地よかったよ この場所だれかBBSで教えてください

この日、硫黄島は出ないだろうと、ふと携帯サイトturinaviを見ていると、何と黒潮丸は出たそうである。
釣況 ○期待
天候 晴れ
風強 やや強い
潮 中潮
波高 やや高い
水温28度
シブダイ 600〜1kg 釣る人10匹
スジアラ 7kg 1匹
カスミアジ 5kg 1匹
南よりの風が強く海上は時化模様と、ラフコンディションの中での竿出しとなった硫黄島。それでも風裏ポイントでは、やや小ぶりながら700〜800g主体のシブを1人5〜6匹の釣果。中には、1人で10匹釣り上げた人もいた。さらには、明るい時間帯に、7kgのスジアラや5kgのカスミアジなどの大型魚もヒット!バラハタ・アカジョウなどは小型だったが、天候さえ回復すれば夜釣りはまだまだ面白い。
こっちがよかったかなあ。

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