8/31 われ来たり 見たり 釣ったり! 草垣群島一帯

草垣群島 追い求めるうちにふいに夢は実現するものだ。

枕崎港から南西沖90kmの海上に浮かぶ孤高の島々。北から上ノ島、下ノ島、中ノ島、南ノ島など17の小さな島々からなる無人島群。標高100m級の断崖に囲まれ、黒潮が沖合に流れる垂涎の地。オオミズナギドリやカツオドリなどが乱舞し、国の鳥獣保護区に指定されている渡り鳥の楽園。鳥だけでなく、実は人間も。古くは縄文〜古墳時代の遺物もあり、旧日本軍も立ち寄ったという。現在では、上ノ島の標高131mの地点に立っている灯台が唯一人間との関わりを残している。しかし、この無人島群は、九州からあまりにも遠く、無人島なので当然交通機関もない。この島に行くためには、チャーターした高速船で行くしかない。それでも枕崎港から最低でも3時間はかかる。まるで人間の訪問を拒んでいるかのように。

ところが、そんな孤高の無人島群に憧れ、度々訪れようとする種族がいる。ご存じ釣り師である。彼らは、人間の生活圏とは隔絶された世界に住む純真無垢なお魚さんと遊んでみたい。あるいは、壮大な食物連鎖を内包したピラミッドの頂点に立つ巨大なお魚さんに逢いたい。また、地球規模での回遊をしながら、その中継地点として選んだ巨大回遊魚とコミュニケーションを取りたいと願う恐るべし種族である。現実とも非現実とも言えぬそれらがアウフヘーベンされた世界で巨大魚と出会うこと。それが、草垣を目指す釣り師が共通に追い求める夢なのだ。

かくいう私もその1人。私は、その思いを果たすべく2004年の3月に磯釣り師としてこの憧れの無人島群に初渡礁。ところが、「口太さんは産前休暇に入ったようです」の船長の言葉通り、食える魚は手の平サイズのカイワリのみという惨敗を喰らってしまったのだった。釣れないということが難しいこの場所で。いつかはリベンジを果たしたいと考えていたが、中々機会に恵まれなかった。いや、多額の渡船料をつぎ込んだにもかかわらず成果を得られなかったトラウマが災いして、挑戦する気持ちになれなかったのが正直なところだ。


いよいよ夢舞台へ出船 串木野港
ところが、その機会がやっとで現実味を帯びようとしていた。このところ離島の夜釣りの磯釣りでは芳しい釣果が聞かれなかった。ホームグラウンドの硫黄島はどうかというと平日は中々客が集まらないようだ。私の8月は平日より土日のほうが忙しいときがある。9月の新学期までカウントダウンが始まったこの時期に、離島でのエキサイティングな釣りをするためには、離島の船釣りしかない。しかも串木野港から出港する「釣好」は8月31日にうまいことに離島便がでるという。場所を釣好のおばちゃんに確認するとしかも「草垣に行きます」だって。この瞬間、自分の中で何かが音を立てて壊れていった。これは、この時期に草垣に行くしかない。こんな使命感にも似た思いを胸に気がついたら、おばちゃんに予約を入れてしまっていたのだ。家族の了承を待たずして。うちのかあちゃんに機会をうかがいながら釣りのことを話すと、翌日の息子のソフトボールの試合に間に合うならいいという返事だった。ヤッホー。こうして、人生2度目の草垣群島への挑戦は実現することになったのだ。

そこでいつも問題なのが天気。金曜日の釣行だから、これまでの経験からして火曜日に南太平洋上に熱帯低気圧が発生しなければ大丈夫と、日課となっている火曜日の朝刊のお天気欄をみて愕然となった。1000hPa前後の熱帯低気圧が発生しているではありませんか。またも不運に見舞われたかと自嘲的に天気図を見つめていると、発生した地点は、日本列島からかなり東に位置している。速度が遅ければ、もしかしたら行けるかも。

その予想通り、前日の30日に状況を聞いてみると、「凪です。出ます。手ぶらコースだから、クーラーだけ持ってきてください。5時集合です。」これで第2の関門である天候の条件もクリアし、かくして草垣群島への挑戦の夢が現実となったのだった。道具は特に必要ない。餌はオキアミだそうだから、尾長やホタねらいとなると思うが、シブダイやアカハタなどの南の海特有のお魚さんと出会いたいと磯釣り用に冷凍しておいた小型イカをもっていくことにした。じつはこれが勝負の分かれ目になったのだった。

午後2時45分ごろ人吉インターチェンジから九州自動車道を南へ下り、鹿児島付近で南九州自動車道に入って市来ICで一般道に出る。国道3号線を北上すること10分で釣好に到着。「どうぞどうぞ」おばちゃんが笑顔で迎えてくれる。「先週出ましてね。キハダがまわってきてるんですよ。見てください。」おばちゃんから見せられた写真に驚かされた。30kgクラスのキハダマグロが釣れていた。「すごいですねえ。」「今年は、マグロの当たり年でねえ。春はカンパチの当たり年だったですよ」うなりながら冷静になって考えてみた。こんな魚をねらうには、普通の仕掛けでは取れるはずがない。釣好の手ぶらコースは、ハリスは確か16号くらいだったはず。それで、「16号くらいのハリスでとれるんですか?」と聞くと、店のおじちゃんが「だめだめ、30号以上だよ」えっ、そんな仕掛けが釣具店に売っているはずもない。「お客さんは、尾長やホタねらいの五目釣りだから16号で十分ですよ。たくさん釣って、笑顔で帰ってきてください。」とおばちゃん。横にいたキハダねらいと思われる釣り師が「1番、2番(船の最後尾の釣り座)あたりがよかばってん、そこでバラされると魚が釣れなんごつなっとタイなあ」

うーん、どうやらマグロ釣りなんて夢のような話はやめて、当初の尾長、ホタ、シマアジねらいの五目釣りでいった方がよさそうである。かくして、あっという間に午後5時を過ぎ、餌を受け取ると、高速船ビッグ釣好が待つ南九州屈指の遊漁船基地串木野港へ車を走らせた。港では、すでにあわただしく出船準備が進んでる。船長や他の釣り客にあいさつした後くじを引く。ここビッグ釣好では、釣り座の決定はくじ引きで行われる。えいっと引くと、4という数字。「向こう(船の最後尾)から2番目です。」と船長。クーラーに氷を入れ荷物を積み込みキャビン内へと滑り込む。本日の客は11人。最高齢は72歳、最年少は私で44歳。たばこを吹かせながら興奮を静めている男。仕掛け作りに夢中になっている男。缶ビール片手に賑やかに談笑する男。磯釣り師に共通するいつもの出船風景が繰り広げられていた。

しばらくすると、最後の客が5時半に到着し、いよいよ出船。まだまだ残暑厳しい夏の日差しの中、明るい時間にもかかわらず静寂そのものの串木野港を後にした。これから3時間ほどの航程。対馬暖流に逆らいながら船は、台風のうねりもない凪の東シナ海を悠々と航海を始めた。キャビン内はまだクーラーが効いていないので、外に出て海の景色を眺めることにした。1時間が経過すると、左手に細長い半島がくっきりと見え始めた。磯釣り師の間では、誰もが知っている野間半島だ。今夜も誰かが夜釣りで底物魚と対峙するはず。右手を見れば、果てしない東シナ海の水平線が一本。その直線の上側に紫だちたる靄の層が続いている。水をたっぷり含んだ水彩絵の具を横一線に引いたような情景。その絵の具の層の上にくっきりと夕日が浮かんでいる。


夕日が沈む 東シナ海 行きの船の中で

日本人は、天人合一(てんじんごういつ)という独特の自然観を持っている。古くは万葉の頃から見られる「自然と一体になりたい」という自然観である。こんな夕日を見ているとつぎのような詩を思い出す。

ゆうひのてがみ
               のろさかん
ゆうびんやさんが
ゆうひを せおって
さかみちを のぼってくる
まるで きりがみのように
ゆうひを すこしずつちぎって
「ゆうびん」
ポストに ほうりこんでいく
ゆうびんやさんが かえったあと
いえいえのまどに
ぽっと ひがともる

ゆうびんやさんが配っているのはまぎれもなく手紙である。しかし、鮮やかな夕日を背景にやってくる郵便やさんを見ていると、配っている手紙のイメージと夕日のイメージが重なってくる。「ゆうひをちぎって」という表現もまったく違和感なく受け入れてしまう。そして、そのイメージの筋は、やがて「ぽっと ひがともる」からわかるように人間の暮らしに重なっていく。夕日という自然と灯りという人間のくらしが見事にアウフヘーベンされた詩とは言えまいか。我々釣り師の心境も場面は違うがこれと同じではあるまいか。釣り師の夢とロマンがやがて東シナ海の夕日にアウフヘーベンされていくという天人合一を目の当たりにしている瞬間だ。自然と一体になりたいというこの天人合一の思想に向かってまっしぐら、これが釣り師の偽らざる共通の夢とロマンではないだろうか。こんなことを考えながら思わずクーラーから缶ビールを取り出す。水平線に夕日という情景を酒の肴にさわやかな海風を体全体に受けながらビールを味わう。至福の時だ。ついでにコンビニ弁当の夕食をとる。

どれくらいたったろう。船は相変わらず高速で走り続けている。長い時間キャビン内に横たわっていたが、我慢しきれなくなりつい時計を見てしまった。時計をみるとファンタジーの世界から現実の世界へと引き戻されてしまう。時計を刻むこと午後8時35分。もう走り始めてから3時間を超えている。さすがに草垣だ。遠い。やがて、真っ暗な窓に一筋のエメラルド色の光線が走った。おっ、自然と体が起き上がる。その光は、もう一度時間をおいてこんどは違う角度から斜めに走る。その光線はまぎれもなく草垣群島上ノ島の灯台から放たれたものだ。ついにきたんだ。体からアドレナリンが吹き出てくるのがわかる。早くもキャビン外に出ている釣り師たちの会話のボルテージが上がる。エンジンの回転数を変化をまるで短距離のトラック競技でクラウチングスタートで待っているアスリートの心境で待つこと午後8時45分、ついに、ビッグ釣好がそのエンジンををスローにした。


ポイントまで3時間15分 仕掛け作りに気合いが入るベテラン釣り師たち

よしっ 来たり!

釣り師たちの動きが瞬時に躍動する。キャビンの外に出ると、わずかな月明かりの海に鬼ヶ島のように切り立った巌の連峰が見える。これが人生2度目の草垣群島との出会いだ。さあ勝負だと気合いを入れ、餌バケツに釣好が用意してくれた「赤アミ」「オキアミ」「キビナゴ」をパン粉で手でよくこねながら混ぜる。ほどよく解凍された餌はパン粉とよく絡みいい状態に仕上がる。撒き餌ができあがった頃、船長がやってきて仕掛けを用意してくれた。おもりは300号の半月天秤仕掛け。そこからハリスを3mとった3本バリしかけである。竿はおそらく80号か100号だろう。「ここはどこですか」船長に尋ねてみると、「ここは野球場の近くですよ。南ノ島の南西沖ですね。」と返答が。

全員準備が整ったところでいよいよ戦闘開始だ。午後9時過ぎ、11人の仕掛けが放たれる。釣り方はこうだ。おもりが底へ着いたら、仕掛けを8m〜10mほどあげてアタリを待つという至極簡単な釣りである。波の振幅にあわせて竿先が揺れている。1,2分待ってみるが反応がない。仕掛けをあげてみると餌が盗られている。エサトリがいるようだ。2投、3投と繰り返すも餌が盗られるばかりなり。やがて、エサトリは顔を見せてくれた。磯釣りでもおなじみのアカマツカサである。こいつは、磯釣りで浅いところにもいるが、この船釣りの60mほどのタナにもいる。海に帰ってもらう。仕掛けを入れてもマツカサの猛攻は収まらない。それが時々オジサンに変わることもあった。


さあ いよいよ離島の船釣り初体験

エサトリも本命を知らせてくれる役目を果たしてくれるから、大事にしなくちゃね、とリリースを繰り返す。時計を見ると丁度午後10時。突然、船長が大声で「仕掛けをあげて」と叫んだ。一糸乱れぬ反応で応える釣り師たち。私もあわてて電動リールのスイッチをONに。一体何が起こったというのだ。視線を右に向けると、赤い帽子を被ったおじさんが魚を掛けたらしく、みんなの視線が突き刺さっていた。いよいよ浮かせる段階になると、どこからともなく玉網かけ助っ人が現れ2,3回の格闘の末、ようやく大暴れする魚をすくい上げた。その魚はまるでミサイルのような形状をし、腹部からはロケットの翼が生え、鋭角的な尾翼をもっていた。見事な10kgクラスの魚体だった。釣り師たちが興奮気味に魚の名前を連呼する。「キハダだ!、キハダ!」餌は、イカらしい。

キハダマグロ 見たり!

釣ったおじさんに仲間らしき釣り師が声を掛ける。「よかったな」しかし、その声は、悔しさがにじみ出ていたように思う。この釣果で釣り師のボルテージは一気に高まっていった。この釣果は、あくまでも序章に過ぎなかった。ここから第一の時合いが始まるのであった。キハダマグロは群れで行動するため、一度誰かに当たると続けて当たることが多い。このことを知っている釣り師は、30cmほどの解凍イカを付け餌にキハダねらいに躍起になっていた。自分もキハダをできれば釣ってみたいが、自分の持ってきたイカは磯釣り用の小型(15cmくらい)で、明らかに魚に対するアピール力が弱い。しかし、あの釣果を見せられてはねらわない手はない。だめでもともととイカを付けて自分もキハダねらいでいくことにした。

キハダの習性通り、2本、3本とキハダが連続で釣れ始めた。キハダがあたり、竿先から大物とわかると船長が仕掛けをあげてと叫ぶ。忙しい釣りだ。キハダがネイゴやカンパチ混じりで6本ほど釣れ第1の時合いは終わった。釣った人はみな、あのでかいイカをつけての釣果だった。キハダ10kgクラスを釣った隣のおじさんに仕掛けを聞いてみた。「ハリスは40号。ハリは20号以上だよ。これくらいでないとキハダはとれないよ。」ハリス16号の私は黙るしかなかった。


午後10時前第1の時合い到来 キハダマグロ第1号 10kgクラス

キハダに混じって カンパチも来襲

午後10時から約1時間ほどの時合いで私が釣ったのは、寂しいことにオキアミでのシロダイのみであった。このシロダイは船長に聞くとかなり美味しいらしい。第1の時合い後、魚からの反応が途絶えはじめ、船も浅いところまで流されてきて、30mくらいの水深になっていた。すると今度は、磯釣り師ではおなじみの魚があがってきた。小刻みに竿先を叩くその正体は、なんとイスズミだったのだ。私の釣り座の後ろの1番の釣り師がイスズミを釣り上げて、「これはなんだろかい」するととなりの3番の釣り師が、「これはイスズミじゃろ。釣り上げるとな、うんこたれるんよ」スカイブルーのきれいな魚体をみてその釣り師は「おいしいとだろか」とクーラーに入れようとしていた。磯釣り師は、ほぼ100%その魚をリリースするが、ここは船。イスズミは珍しいのだろうか。

釣れない時間がずっと続き、すでに夜中の1時を過ぎていた。さっき、マグロ第1号を釣り上げた赤い帽子のおじさんは横になってお休み中。まったりとした時間が過ぎていく。「今日は、灯台の先の方には行かんのかな」と1人の釣り師のぼやきが始まった。第1の時合いでは1時間ほど黄金の時間があったものの、それから3時間が経過したが一向に魚からの反応が感じられない。魚はいると思うのだが、魚が食うスイッチがいつまでたっても入らない状態に業を煮やした船長は、移動を試みた。ゆっくりと反応を探りながらポイントを2,3回代えてみるもののあたりはなく、時は夜明けまで後2時間に迫った午前3時を回っていた。


私は五目釣りだから 第1号はシロダイのキロクラス うれしいおみやげ


釣れない 憎っくきイスズミが美しく思えるのは気のせい?

すると、再び事件は起こった。私の釣り座の反対側で大物がかかったらしい。仕掛けをあげてその勝負を固唾を呑んで見守った。どうやら魚を浮かせたらしい。「頭から入れろ!」とゲキが飛ぶ。船にあげられた魚をみて釣り師から自然と「おーっ」というため息混じりの歓声が起こった。キハダマグロ135cm、28kgの本日最大魚。何とムロアジの泳がせ釣りで仕留めたとのこと。いつの間にムロアジを釣っていたのだろう。確かに生き餌にかなうものはないと思うが、本当に実践するなんて。この釣り師はただ者ではない。それもそのはず、その釣り師はこれで3週連続キハダをねらいに来ているが、3回ともに30kgクラスをゲットしているそうである。

キハダが釣れたということは、そう、第2の時合いがやってきたということだ。再びどこそこにキハダがアタリ、また、カンパチの20kgクラスも当たってきた。しかし、今だ自分の仕掛けには音沙汰なし。餌や仕掛けがあまりにも違いすぎるためか。午前4時頃強烈なアタリが竿先を襲った。これは大物に間違いない。カンパチであってくれ。そう願いながら浮いてきた魚を確認して力が抜けた。80cmクラスのシャークである。隣の人に玉網を掛けてもらった。お礼を言ってサメを海へ帰す。オーストラリアでは最高の釣りのターゲットだが、ここは日本、草垣群島。がっくりとうなだれていると、「タナが深いんですよ。もっとあげて」と船長最後のアドバイス。これを最後に船長は仮眠に入ってしまった。

キハダ 釣ったり!

もうあきらめるしかないのか。でも、折角ここまできたのにシロダイ1匹で帰るわけにはいかない。なんとかしなくちゃ。時計を見ると午前4時40分。あと数十分で夜明けを迎える。付け餌のイカもあと5つしかない。最後の1,2投になるかもしれない。絡まないように慎重に仕掛けを入れてタナを少しあげてアタリを待った。すると、突然、バシッと竿先が突っ込みそのあと竿先は一直線になった。魚がかかって食い上がったらしい。リールを巻き上げにかかった。よし、ようやく訪れたチャンス逃してなるものか。ところがまたまた不運が釣り師を襲った。なんと後20mというところで、隣の釣り師とお祭りしてしまった。万事休すか。隣の人とお祭りをほどこうとするが激しく糸がらみしておりとうてい修復するには不可能に思えた。さらに悪いことに、後ろの3番の釣り師ともお祭りしていることが判明。オーマイガッ。泣きっ面に蜂。絶望的な笑みとともに、「私のラインを切りますわ」と切り出した。

隣の釣り師はやはり魚がかかっているらしく、すでに後数メートルに迫っていた。自分の方のラインを切って隣の釣り師が魚を浮かせる。やはりキハダだった。玉網をだれかがかけてこの釣り師は2匹目をゲット。「よかったですね。」と声をかけた。自分のアタリはやはり隣の魚だったのか。そうぼやきながら、切ったラインを握るとなんと生命反応があるではないですか。隣の釣り師も「魚が付いていますね」と応援してくれた。あと20mなら3番の釣り師には申し訳ないが、最後の望みの蜘蛛の糸を引き上げることにした。

まるで漁師が網を引き上げるように、肘をのばして右左交互に糸を抜きあげていく。昔、運動会で踊ったソーラン節の動きと同じだ。何度も言うがハリスは16号。40号ほどのハリスでもバラシが何度も行われていた。急な魚の突っ込みには糸をだして応戦した。磯釣りで経験したリールのレバーブレーキの要領を思い出しながら。焦らず慎重に。そして、ついに水面に群青色の影が見えた。隣の釣り師が、「キハダだ」慎重に浮かせる。黄色い顔、オレンジ色のヒレ、マグロ独特の魚体がぬうっと海面から姿を現した。我ながら驚くほど冷静だった。しかし、これが中々玉網に入らない。3番の人にやってもらったが、魚をうまくコントロールできない。見かねた2番の人が今度は玉網をかけてくれた。頭からやっとのことで入り、ようやく上がった。ありがとうございました。お祭り仲間2人にお礼を言ってしばらく放心状態となった。


第2の時合いをようやくものに 夜明け前の一発

今日の釣果の中ではやや小振りの8.1kgのキハダマグロだった。クーラーに入りきらず、ふたを開けたままにしていると、釣れたマグロを確認しにきた釣り師が、「これじゃあ魚が傷んでしまうよ」としっぽを折ってくれた。ありがとうございます。本当に釣れるとは思っていなかったのか、思考が停止してしまったようだ。実は私のこの釣果がビッグ釣好最後のキハダとなったのだった。

「仕掛けをあげてください。ホタのポイントに移動します。」午前5時半、夜明けを迎えて、ビッグ釣好は草垣群島に沿って北へ航海を始めた。上ノ島の北側で船は反応を探りながら停止。釣りが始まった。もうすっかり夜が明けた。しかし、魚からの反応は少なく、30cmクラスのアカハタ、カワハギの仲間がポツポツ上がるだけで、目立った釣果もなく午前7時15分に納竿とした。


朝まずめはおみやげ用のホタ釣りへ


ホタのポイント ところがホタ1匹も釣れず


メモリアルフィッシュ 8.1kg


今回の最大魚はキハダマグロ 135cm 28kgでした
3時間の航程を経て串木野港に到着。戦いを終えた釣り師たちが港に上がった。今日は、7kg〜28kgのキハダが10本あがり、11人中6人の釣り師に釣果があった。カンパチやネイゴも釣る人1〜3匹。だが、尾長は釣果なし、ホタは船中1匹。あとカイワリが釣る人1〜4匹というところ。五目釣りで最後までやっていたらとんでもない貧果に終わっていただろう。家の冷蔵庫からイカを持ち出してきて本当によかった。

家に帰って、マグロを解体してブロックに切り分け、用務員さんにあげたり、友だちに振る舞ったりした。身は淡いピンク色であっさりした味だ。カマ焼きが絶品だったらしい。友だちのお子さんが全部食べてしまったので私は食べていないから。でも、その中で最も絶品の味がしたのは、さばいている途中で料理人しか食すことができない「中落ち」だったのだ。

釣り人の夢とロマンをかなえてくれた今回の釣行。もちろん、五目ねらいの仕掛けにたまたまかかって釣れたなどという真実は、決して人に話したりはしないと心に誓うのだった。

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