9/17 チヌ釣りは棒ウキかドングリウキか 一辺島

9月は天候が変わりやすい。9月になった途端、日替わりで晴天、雨天という状況。また、この時期は台風にも注意しなければならない。昨年の2006年は、台風のために9月は一度しか釣行できなかった。今年の9月は2回の祝祭日が土日の重なり、3連休が2回あるという日程となった。これは、サラリーマン釣り師にとって余裕のある日程で釣りができるという好条件があるが、それは同時に、台風などに見舞われると3連休すべて討ち死にという恐ろしい結果もありうるということだ。

最初の3連休がやってきた。9月15日〜17日である。この日程に、大分蒲江の鰤釣りをuenoさんと行く予定を立てていた。南太平洋の海況もまずまず順調にきていた。ところがだ、信じられないことに水曜日にいきなり台湾の北部に熱帯低気圧が発生したと思えば、次の日には台風に成長し、九州に接近するという。ダメ元で蒲江の鰤釣りをサポートしてくれる西の浦釣りセンターに連絡するが、当然のごとく中止に。金曜日には、台風11号は中心気圧940hPa、最大風速50mにまで急成長していた。この天候に、全国の多くの離島釣り師が涙をのんだ。これで喜ぶのは、内湾や地磯をホームグラウンドとするアングラーか、サーフィン師ぐらいなものだ。

失意の後、3連休がやってきた。この3連休は、女房と子どもが東京に出かけていないということもあって、つまらないひとりぼっちの灰色の日々が続いた。いつものように釣具店にいってあれこれ釣り具を手にとってはため息をつく。ため息ついでに携帯で天気予報をのぞくと、台風11号は思いの外速度が速く、3連休の最終日である17日には東シナ海を抜けていくというものだった。もしかすると、内海なら竿が出せるかも。釣りバカなら離島はダメでも何とか釣りができるところを探して目的を達成するはず。この状況でありったけの頭で最も自分の釣りスタイルにあった釣りを考えた。すると、頭の中に「巨ヂヌランド一辺島」というキーワードが浮かんできたのだ。大きな魚を数釣りたいと誰もが願うと思うが、それを内海で実現させようとするならば、一辺島が最もお手軽ではないか。自分は釣ったことはないが、あそこなら50いや60オーバーがねらえる夢の釣り場としてふさわしい。気づいたら、勇丸に連絡していた。天候も降水確率50%と微妙だっただけに、でないといわれれば、素直にあきらめたのに、「でますよw。5時しゅうごうな」といつもの船頭さんの声だった。uenoさんにも連絡した。何とuenoさんも私と同じようなことを考えていたそうである。以心伝心とは正にこのことだ。かくして、二人の釣りバカはこうして一辺島の巨ヂヌねらいの釣行にこぎ着けるのであった。

チヌ釣りは釣りの中で特に奥が深いといわれる。チヌは人間の生活圏に住む身近な魚であり、そのことで当然自然と釣りのターゲットになっている。また、その人気ゆえ様々な釣りスタイルがあり、おそらく日本の釣り人口の中でメジナ釣りに匹敵するほどの数の釣り師がいるであろう。ヘチ釣り、落とし込み、紀州ダンゴ釣り、掛かり釣り、ダゴチン釣り、ミャク釣り、かご釣り、ブッコミ釣りなど、釣り方をあげるだけでもかなりの数である。最近ではルアーで釣るチニングという新しい釣りスタイルもある。チヌ釣りは今だ進化を続けているという恐るべし釣りなのだ。その中でも自分にとって一番面白いのは、ウキフカセ釣りだ。ウキが消し込むあの感じを見るのはたまらなく快感。夏の時期はどうしても様々な条件の中で他の釣りスタイルをすることになる。でも、私もuenoさんも上物師だから基本的にフカセ釣りが一番好きな釣りなのだ。

その時に、いつも迷うのが、棒ウキにするかドングリウキにするかということである。はじめは、棒ウキからチヌ釣りを始めたが、全層釣法を知ってから、ドングリウキでもチヌ釣りをするようになった。はたして、チヌ釣りには、棒ウキがいいのかドングリウキがいいのか。この答えは、状況によって変えていけばいいということなのだろうが、それを検証することも今回の釣りの目的だ。

なぜ、一辺島に通うことになったのかは、釣り雑誌を見てからだった。50オーバーを連発したことを伝えたその釣り仕掛けを見ると、その当時自分にとってそれはかなりの衝撃だった。チヌ釣り=棒ウキという常識で頭がいっぱいだったところに、その釣り雑誌に登場するしかけは、何とドングリウキだったのだ。しかも全層釣法。浅い水深ならわかるが、竿2本〜4本の水深があるこの一辺島でゆっくり沈める全層釣法がなぜ好釣果をもたらしたのかが不思議だった。その後実際に一辺島で惨敗を喰らった時、一辺島の常連さんで乗れば必ず釣るという名人が釣り方を教えてくれた。「道糸、ハリスは3号、ウキは2.5号の棒ウキ。ハリは伊勢尼11号。餌はオキアミボイルを使う。」とのことだった。エサトリが多いから一気に沈めないとエサトリの猛攻にあってしまい、チヌの口元に餌が届かないそうだ。やっぱり棒ウキのほうが有効なのかな。さあ、今回の一辺島では棒ウキなのかドングリウキが有効なのかこんこともぜひ検証できればいいかなあと思うのだった。


勇丸さん お世話になります

午前3時半に人吉ICを出発。九州自動車道を南へ下り、加治木JCから隼人東ICで降りる。釣具店で予約していた餌を受け取り、隼人港に着いたのが午前5時丁度。細い路をすぎた左側の駐車スペースが勇丸が停泊している場所である。懐かしい船勇丸を見つけると、そこに乗ってせわしそうに準備を進めている船頭さんがいた。「お世話になります」と声をかけるが、耳が遠いのか中々気づいてくれなかった。そこで、隣にいるuenoさんが、「uenoですけど」と声をかけると、何と船頭さんは一発で返事してくれたのだった。「お^−、uenoさんかい」ガクッ、相変わらず私の名前を覚えてくれないね。この船頭さんは、魚を釣った人の名前は覚えてくれるが、私みたいに魚を釣っていない釣り師の名前を一向に覚えてくれないという奇妙な癖をもっておられるようだ。

荷物を速やかに積み込んで、早速出港だ。勇丸は、ゆっくりと暗闇の隼人港をアンダンテのスピードで一辺島へと進んでいった。「今日はカッパをもってきましたか」どうやら今日の天候は微妙のようだ。「最近釣れてますか」と核心部分を聞いてみた。「うーん、あんまり出てなかったからね。釣れとらんよ。この前は、サバゴが多くてね。コッパを釣っていたよ。塩焼きにしたら美味しいから持って帰りなさいな。」はっきり言って釣れていないようだ。でも妙に安心する私。釣れてない場所に行くのは、結構いいもんだ。ほうら、やっぱり釣れなかったよ。いいわけには一番無難な材料だからだ。

東の空が白み始めた。薄暗い中で我々が目指す一辺島がぽつんと浮かんでいるのが見えた。最近釣れていないのもいろいろ理由があるだろうが、やはり一辺島周辺の環境の変化が関係しているような気がする。一辺島に通い始めた頃は、とても魚影の濃いところだった。一日中なにがしらのアタリがあり楽しめた。その後、辺田小島の水道に網が張られるようになった。それから魚の数が減ったように思う。また、最近すぐ近くに釣り筏ができ、それも何らかの影響があると思う。でも、それでも一辺島。何の変哲もない巌だが、その沈み瀬には60を越えるチヌが餌を拾っているような気がする。物言わぬ海だが、壮大な食物連鎖の見えない世界が眠っている豊饒の海と思えてくるから不思議だ。

5時半ごろ無事に渡礁。相変わらず足場の悪いところだ。まだ暗いので、安全のために夜が明けるまで待つことにした。しかし、uenoさんは、早速撒き餌作りに余念がない。今回の釣りにもかなりの入れ込みようである。撒き餌を見ると、チヌ集魚材とクロ用集魚材をブレンドし、更にパン粉を加えて堅めに仕上げていた。メインの餌は、オキアミ生半角にオキアミボイル半角である。「uenoさん、それクロ用ですよね」と突っ込むと、「クロ用の集魚材で50オーバーば釣ったけんなあ」とuenodさん。相変わらず強気である。付け餌には、定番のオキアミ生と抱卵ボイル、エサトリ対策としてダンゴ餌も準備していた。私のほうは、水深を考えて最も沈下速度の速いと思われる「日本海」に「チヌパワームギ」そして、オカラダンゴにオキアミ生とボイルを手で丹念に混ぜた。付け餌は、uenoさんと同じである。


エサトリ第1号 上層にも下層にもいて 数で勝負

さあ、そこでいよいよ仕掛け作りである。uenoさんはあれこれといろいろ迷っていたが、5Bの棒ウキを選択し、最近実績が高いと船頭さん推奨の筏側の釣り座を早くもゲットしていた。私は、最初は全遊動で様子を見ようと、キザクラクジラ2Bをセットした。ハリはチヌの3号、ハリスは50オーバーでも取れるようにと2号を取り付けた。そして、釣り座は辺田小島側の水道側に構えることにした。

午前6時過ぎ、いよいよ棒ウキVSドングリウキの対決が始まった。「おー、いい潮バイ」と早くもuenoさん好反応。いい感じで弁天島方面へと動いているとのこと。しかし、こちらの釣り座では、手前に当たってくる潮で開始早々苦戦が予想されていた。仕掛けを入れるが回収すると餌はなく、エサトリの活性がかなり高い状況だった。エサトリは、小鯛(チャリコ)。こいつは、どうも上層にも底近くにもいて数も多くかなりやっかいだ。餌がチヌの口元まで届かない。一方、uenoさんは、絶好調。ここではまずまずのサイズであるクロを次々に釣り上げていた。底近くにクロがいて食いついてくるそうだ。よく聞いてみると、5Bのウキでは、エサトリの猛攻を交わしきれないので、1.5号に変えた途端にクロが釣れだしたという。うーん、こちらは相変わらずエサトリ天国。やっぱり棒ウキがいいかなあ、と2号の棒ウキに仕掛けを変えることにした。この時点で、棒ウキに軍配が。


朝からテンション高いuenoさん


よっしゃあ マダイゲット

好調に竿を曲げるuenoさん、足裏クロを8枚ゲット。そして、ついには30cmオーバーのマダイもゲット。ご満悦で棒ウキの良さについて語り始める。こちらも棒ウキに変えるが本命のアタリさえない状況。どうも水道側は、本命がいないようだ。エサトリをかわせる場所がない。潮が変わってくれないかなと願いながらも午前9時を過ぎ、満潮近くになりアタリもなくなったので、おそい朝食タイムとした。そのうち、釣れない原因は仕掛けだけが原因ではないのではないかと思うようになり、再びドングリウキに戻すことにした。今度はもう少しガン玉を追加して、よりスムーズに仕掛けが落ちていくようにした。(J3のJクッション、ガン玉B、ハリスにG4、G5の段うち)すると、午前10時を過ぎると、潮が明らかに変わり始めた。隼人港向きへとわずかながら流れていくようになった。それとともにuenoさんのぼやきが始まった。「こらあたり潮バイ」仕掛けが手前に当たってきて釣りづらくなったそうだ。ということはこちらがチャンス?そう考えながら、仕掛けを隼人港方面へと流れる潮にのせて流していくと、いきなりウキが一気に海中に消えた。よっしゃあとあわせると本命らしき手応え。慎重にやりとりするも思いの外軽い魚信。上がってきた魚は、足裏サイズのクロだった。餌を盗っているのは、チャリコだけではなくクロであることが判明した。これはますますやっかい。底近くで喰っているこのエサトリをかわすのは至難の業だ。


エサトリ第2号 こいつは底にもいた

しかし、棒ウキに対抗心もあって、仕掛けは変えずに、エサトリの少ないところ、潮の生きているところを探りながら仕掛けを打ち返していくと、ウキが少ししもったように感じたので、少し道糸を貼りながら誘ってみると、竿先にアタリが伝わった。あわせを入れると、今日一番の手応え。いきなり手前に突っ込むこの魚は何だ。慎重に竿でためて浮かせにかかる。浮いてきた魚は意外な魚だった。ぎらりと銀色に光る魚。紛れもない本命チヌであった。ここでは珍しい35cmのメイタサイズ。「uenoさん、釣れましたよ」早速師匠に報告。師匠はびっくりしていたようだった。ほら、ドングリウキでも釣れるじゃん。時計を見ると、すでに午前11時を指していた。朝方は小雨がぱらついていたが、いつの間にかぎらぎらした太陽が照りつけていた。餌は、オキアミボイル。全遊動なのではっきりしたタナはわからないが、おそらく竿2本と少しくらいではなかったか。


やっとで釣れましたあ 粘ってよかった


一辺島には珍しい 35cmのメイタサイズ

その後再びエサトリの活性が高くなったところで、付け餌をダンゴ餌に変えると、今度ははっきりとしたウキの消し込みを確認した。あわせを入れると今度は軽い。浮いてきた魚は、本命のチヌ32cm。これも慎重に玉網で掬い手元に引き寄せる。uenoさんもこれには脱帽。「やっぱり全遊動がよかったバイな」とドングリウキの良さを認めてくれたようだ。満潮前後あれほど潮が動いてなかったのに、今はいい感じで動いている。まだまだ釣れる気がしたのだが、竿先の彼方むこうに小さな船が見えたので納竿とした。約束の時間の12時のまだ15分前のことだった。


釣れた仕掛け キザクラのクジラ2B



名残惜しや 一辺島


uenoさん クロ用の集魚材使うからだよ クロ8枚 マダイ1枚


チヌ用集魚材で 本命釣れてよかったなあ 35cm 32cm

釣りを終えて、棒ウキかドングリウキかではなく、どうもこの二人の釣果の差は、集魚材や潮の差のような気がしてきた。棒ウキでもドングリウキでも釣れるときは釣れる。その状況を釣り師がいち早く見つけ、その状況にあった仕掛けをどう見つけるかということが大切なんだと改めて感じさせられた。釣り師は、全体的な仕掛けに固執することなく、釣りの引き出しをできるだけたくさん持つことが重要ではないかと思うようになった。フカセ釣りのおもしろさを再確認させられた今回の釣行。心は早くも次回の釣りへと向かっているのであった。


今回の料理


チヌの造り
チヌのアクアパッツア

うちの母ちゃんも大満足でした


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