1/14 溶岩グロと対決だ 硫黄島


「カマタさん、時化です。2.5mと言うとるんでね。釣りができたとしてもね。いい場所には乗れないよ。明日にしますか?まあ、天気予報じゃだめな可能性が大きいけどね。一応明日(予約)入れときますわ。早い段階で連絡します。」このところ去年から続いている「硫黄島を予約すれば時化で中止」という連敗記録が9にのびた瞬間だった。12月の3連休がダメ、年末の3日間もダメ、1月2日もダメ、そして、満を持して挑戦した1月の3連休も12日雨、そして、曇りの予報が出てもしかするとと思われた13日も2.5mの波予報でついに連敗は9になってしまったのだった。おいらの日頃の行いが悪いのがいけないのかもしれないが、こう中止が続けば、さすがにへこんでしまう。14日の成人の日も降水確率50パーセントで10連敗は確実を思われた。

ところが、どういうわけか13日の朝天気予報を見てみると、(0時から6時まで)降水確率30パーセント、波高1.5mのち2.5mとなっているではありませんか。もしかして、自宅で静かにр待っていると、午前11時頃携帯がなった。「あっ、カマタさん、あのね。一応出ることにしました。でもね、予約が5人なんですよ。カマタさん初釣りまだでしょう。こっちも儲けはないけど出そうと思うんですよ。年末年始時化だったでしょう。ほとんど収入がなかったんですよ。だれかいっしょに行ける人はいませんかね。こちらも他の人にあたってみるんでね。」折角行けるようになったのに、人数が集まらないので中止というのは悔やんでも悔やみきれない。また、これだけ気を使ってもらっているのに応えなくちゃ申し訳ない。何とかしなくては。

しかし、頭に思い浮かぶ人物といえば、一人しかいなかった。すかさずuenoさんに連絡した。「uenoさん、14日空いてますか。硫黄島行きませんか。5人ですよ、5人。ポイント選び放題ですよ。」uenoさんは、たった今20日の瀬々野浦に予約したばかりだそうだ。だから、最初の反応は芳しいものではなかった。uenoさんは、硫黄島よりう甑島の方がお気に入りだ。それは、硫黄島であまりいい思いをしたことがないということと、硫黄島の魚は美味しくないとかわけのわからないことを考えているからだ。ところが、そのuenoさんでも以前から尾長の1級ポイントである平瀬や鵜瀬には惚れ込んでいる離島釣り師の一人である。だから、5人と言えばuenoさんの触手が動くのではないかと思ったのだ。「14日と20日と続けば、(奥さんの反応?)ヤバイからなあ。わかった。平瀬にのらるんなら硫黄島に行こか。」よっしゃあ、uenoさんはまんまと私の口車に乗せられた。この吉報を船長に伝えた。「わかりました。こちらも一人キャンセルが出てね。そのuenoさんを入れて5人ですよ。餌はいつものでいいですね。3時までに来てください。」ヤッホー、ついに連敗が9で止まった。結果として、uenoさんがうんと言わなければ、この釣りは成立しなかった。uenoさんは正にキーマンだったのだ。


2ヶ月ぶりの黒潮丸 お世話になります

13日午後11時半にueno宅集合。九州自動車道を南へ下り、指宿スカイラインに入る。ここから見る鹿児島市内の夜景は、すばらしい。14日は成人の日。いつもより、この夜景を見にたくさんの若者を乗せた車が止まっていた。それを横目で見ながら、「夜景も美しいけどね。おいらたちは、もっと美しい生き物に会いに行くんだよ。」と呟く。車の中では、釣り談義に花が咲いた。私もuenoさんも久しぶりの硫黄島行きに心躍っている。

途中、川辺町のAZという24時間営業のスーパーで買い物をし、午前2時半頃、枕崎港に到着。あれっ、いつもはこの時間なら離島のロマンに魅せられた釣り師の車がたくさん止まっているはずなのに。「やっぱり、5人やけん少なかなあ。」uenoさんが独り言。まだ1台しか止まっていない。人数が少ないというのはポイントが選び放題という妙なうれしさもあるが、でも何だか寂しい感じもする。憧れの離島「硫黄島」へ行くのにこの人数なんて。

午前3時前、その静寂をやぶって船長の軽トラックが登場。釣り師の動きがややせわしくなった。「お世話になります。」船長に挨拶。すると、見慣れたうれしい顔が見えた。関ちゃんだ。「かまちゃん、今日はタジロ?」「いいえ、尾長ねらいです。」「関ちゃん、今日は底物ですか?希望は、鵜瀬ですか?」「いいや、石鯛がいればどこでも」関ちゃんは仕事が忙しくて今回が初釣りだそうだ。こんなたわいのない会話をしながら、荷物を船に積み込む。今日はその後、一人増えて6人。こんなに荷物積みが楽なのは初めてだ。

ブルン、ブルン。エンジン音が黒潮丸に命を吹き込んだ。ゆっくりと旋回しながら静寂に包まれた枕崎港をアンダンテの速さでゆっくりと進んでいる。枕崎港内を出る頃には、モデラートくらいのスピードになり、沖堤防を過ぎると、アレグロの高速運転に切り替わる。もう何度も黒潮丸に乗っていると、エンジン音、船の揺れ具合、船底の音で今日の海がどんな状態なのかイメージできるようになってきた。凪の走行では、うまい釣りができそうな気がするし、どすんどすんと揺れるならば、これからの釣りに不安を憶える。ありという昆虫は、目が見えない。その代わりに、触角や体のいろんな部分で地面の形状を感じることができ、みごとな行進までやってのける。我々釣り師も外の情景が見えなくても、いや見えないからこそ、海の状態を想像できるようになっていくのだろう。今日のこの走行ならまずますというところか。

いつもはぎゅうぎゅう詰めのキャビン内であるが、今日は6人。大の字に寝ることができた。一睡もせずに船にのったから、これからの釣りのために睡眠をとらなくちゃ。不思議なもので、こう考えると人間の体は意識に対して、それはあまんじゃくのせいなのかはわからないが、反作用の力が働き眠れないものだ。眠れないと、いろんな思いが頭の中を駆け巡る。一体何で硫黄島に通い出すことになったのだろう。あれは、2004年の1月31日だった。釣りサンデーの別冊「超グレのすべて」という釣り雑誌の記事の中で、尾長グレというとんでもなく強烈なパワーを持つ魚の存在を知った。しかも、夜釣りで仕掛けを太くして釣れば。比較的簡単に釣ることができる。この記事をきっかけにして比較的近い場所にある本格的な離島として「硫黄島」の存在を知り、釣り雑誌に紹介してあった渡船「黒潮丸」に連絡を入れたのだった。初めて乗った磯は、何と1級ポイントの「平瀬」だった。瀬際で根かがりに注意しながら、電気ウキを見つめる濃厚な時間。

心臓の音がばくばく耳に届いている。やがて、電気ウキが放つ直線的な光が、ゆらゆらと揺れ始めた。そして、だんだん加速しながら消し込んだ。意を決してあわせを入れる。乗った!5号竿を使って初めての強い引き、ばしゃばしゃと暴れる魚。uenoさんの助け玉網が入る。何が釣れた?おそるおそるヘッドライトを当てると、そこには神々しい光を放つ茶色の尾長グレが横たわっていた。うれしくて、クーラーに入れた魚を何度もふたを開けて確認したっけ。この52cmの魚は、確実に私の釣り人生に大きな影響を与えた。この後、私は硫黄島の尾長釣りに夢中になった。しかし、雑誌では、比較的釣るのは簡単とあったが、それから今回まで尾長を手にできた釣行は3回しかない。一応の目標となる50オーバーはそのうち2尾のみ。自分の釣技がHETAなのと、尾長の喰うポイントは限られていることが原因のよう。

硫黄島の尾長の実績のあるポイントは、平瀬と鵜瀬が群を抜いている。それは、離島釣り師ならよく知っている事実だから、人気ポイントとなり、尾長の本格シーズンには乗ることさえ難しい。私の3回の尾長もすべて鵜瀬か平瀬での釣果だった。だから、今回の6人というのは、いつも乗ることが難しいとされているA級ポイントへの渡礁が約束されたも同然なのだ。

また、硫黄島の魅力は尾長だけではない。口太の数釣りという期待もある。硫黄島は現在もなお活動を続けている活火山硫黄岳を要し、溶岩で形作られた岩礁地帯で覆われている。そのため魚影の濃さには特筆すべきものがあり、青物や底物でもかなりの実績がある。今回のねらいは、夜釣りでは尾長。そして、昼釣りでは口太の数釣りだ。硫黄島の溶岩グロをどう攻略するか。これが今回の釣りのテーマなのだ。

こんなことをあれこれ考えていると、一睡もできずに、午前4時45分エンジンがスローに変わった。来た!毛布から飛び起き、ライフジャケットを装着。キャビンの外へ出て状況を確認する。「○○さん、準備してください。」船のライトが照らしている方向を見ると、巨大な岩礁が見える。天空に突き出す鳥の首のような細い岩。硫黄島を代表するA級磯「鵜瀬」である。「カマタさん」船長から呼ばれた。「カマタさん、鵜瀬と平瀬とどっちがいいですか?」うっ、夢にまで聞きたかったその台詞。何度でも言おう。尾長の本格シーズンには乗ることが大変難しいという鵜瀬と平瀬を選べというのだ。後ろを振り向き、uenoさんに意志を確認した。「uenoさん、平瀬でよかったですよね。」「平瀬でお願いします。」それを合図に船はゆっくり鵜瀬に瀬付けを始めた。船首が鵜瀬に張り付く。黒潮丸と鵜瀬ががっぷり四つになっている間に3人の釣り師が渡礁。「○○さん、尾長はそこからね。昼は裏だよ。今日は、闇夜だから(仕掛けが太くても)喰うよ。でかいのが当たってくるから、ハリス12号かワイヤーで釣って。」マイクで船長がアドバイス。さあ、今度は我々の番だ。

最初の釣り師が鵜瀬に渡礁 いやおうがでも緊張感が高まる


船は少し走って再びエンジンをスローに、どうやら我々が先のようだ。平瀬という名にふさわしくないでこぼこした溶岩の集合体に船首はつけた。素早く渡礁。荷物を受け取り、アドバイスを待った。「尾長は今船を着けたところ。それからもう一人はその先の方で釣って。昼は、そこに根があるでしょう。サラシがあるところで釣ってください。」干潮が4時頃なので、潮が引いていてよくわからなかったが、どうやらここは平瀬の高場のほうだ。平瀬に乗れたうれしさを噛みしめながら、仕掛け作り、撒き餌作りを行った。

竿はダイワ幻覇王の石鯛竿に道糸10号のスピニングリール。2号の電気ウキに10号ハリスを1ヒロ半ほどとり、タナを2ヒロの半遊動とした。餌はいつものオキアミと赤アミ1角ずつ混ぜたもの。瀬際に間断なく撒き始める。夜尾長釣りは、磯の切り立った壁に沿って回遊する尾長の習性を利用して、瀬際を釣るのが特徴。撒き餌をして気づいたのであるか、上げ潮の激流が流れていた。これでは、いくら撒き餌をしてもどんどん流れていってしまい、釣りにならない。もっといい場所はないかと先端のほうへ行ってみると、うまい具合にワンドを見つけた。っていうかこの場所もしかして低場?どうやら、高場と思っていたこの場所は実は一度乗ったことのある低場だったことがわかった。そして、たどり着いたこの場所で2004年に初めて尾長をつったんだったけ。

早速、そこへ移動。ワンドではさすがに激流は流れていない。ここにたっぷりと撒き餌をして、尾長を足止めにして釣るんだ。釣り始めたのが5時半頃。20分ほどはアタリのない時間が続いた。6時頃になると、餌がかじられたり盗られたりし始めた。タナを1ヒロ半ほどに浅くし、瀬際に仕掛けを落ち着かせてアタリを待った。すると、釣研電気ドングリ2号がゆらゆらと波紋を残しながらシモリ始め、波紋が大きく広がったかと思うと一気に海中に消えた。反射的にあわせを入れる。なんだこいつは、5号竿の感触からして、1キロくらいの魚に思えた。尾長ではなさそう。案の定上がってきた魚は、黒い糞をぶちまける離島の最強エサトリイスズミだった。海に帰せば魚が散ってしまうかもと水たまりに生かしておくことにした。イスズミが釣れたことで自分の中で期待感が益々高まっていく。2004年に釣った尾長は、イスズミを釣った直後に釣れたからだ。


尾長ねらいの夜釣りは不発

撒き餌がたまるところに仕掛けを投入する。ちょっとでも入れるところを間違えれば、引かれ潮にのってしまい平瀬名物の上げ潮の激流につかまってあっという間に流されてしまう。「カマタさん、そっちは、アタリあるね。」uenoさんがこちらの状況を聞いてくる。こんな時は大抵釣れないときだ。「潮はごいごい行くね。」どうやらuenoさんの釣り座では、仕掛けを瀬際に落ち着かせることができずに、どうしても上げ潮の激流につかまってしまうようだ。こっちはワンドという逃げ場があるのは幸い。更に撒き餌をして仕掛けを入れる。再びアタリだ。今度もイスズミ。イスズミを4連発で釣ったところで、考えた。タナが浅すぎるのかもしれない。2ヒロに戻して釣り再開。すると今度は違う魚が当たってきた。細長い魚だ。振りあげてキャップライトを当てると、ムロアジがピチピチ跳ねていた。げー、なんでえ。このタイミングでこの魚が釣れるということは、尾長はいないということか?この後、予想通りオジサンを1匹はさんでムロアジの3連発で夜明けを迎えた。尾長を釣った思い出の釣り座で運命を感じたのだが、お魚さんは釣り師の願いを叶えてはくれなかった。折角尾長の1級ポイントに乗れたにもかかわらず、私とuenoさんは二人そろって夜釣りは撃沈と相成った。


平瀬高場と思ったら2回乗ったことのある低場だった

さあ、完全に夜が明けてしまった。気持ちの切り替えが肝心だ。早速、昼釣りの仕掛けを作ることにした。竿は、がま磯アテンダー2−53に、道糸3号、ハリスは4号。西からのうねりで、船長の勧めた口太のポイントには大サラシができていた。uenoさんは、この状況で迷わず5Bのウキを選択。私も3Bで始めたが、仕掛けを落ち着かせることができないので、5Bに変えた。本命釣り座は波を被り危険。そこで、波を被らない一段上の釣り座まであがった。平瀬は、時化ると波の下になるため滑りやすくなっている。ドンゴロスをしいて滑らないように気をつけた。

釣り始めるが、中々クロがヒットしない。ここの溶岩グロはかなり手強いのか。始めのうちは、イスズミが釣れてきたが、時間がたつとだんだんムロアジが当たってくるようになった。ムロアジは、刺身にするとかなり美味しく、おみやげには喜ばれる。始めのうちはうれしかったが、こうムロアジばかりつれては、さすがにテンションが下がってしまう。偏光グラスで海をのぞくと、いるわいるわイスズミに混じっておびただしいムロアジが縦横無尽に餌を拾っている。uenoさんと二人で交互に竿を曲げる展開となり、ムロアジの1本釣り状態に。どうやら平瀬はムロアジに完全に取り囲まれてしまったようだ。


西からのうねりで釣りづらい 平瀬のクロ必釣ポイント

今まで鵜瀬などでムロアジの来襲を受けたことはあったが、それは朝まずめ限定の状況だった。しかし、今回のムロアジは数で勝負している。時間が9時を過ぎても中々平瀬から立ち去ろうとはしなかった。更に悪いことに潮位が上がってきた。現在9時過ぎで満潮は11時過ぎ。もうすでに、高い段の釣り座の近くにも波が押し寄せてきていた。この平瀬は魚影の濃いポイントだが、唯一の欠点は瀬が低いため、うねりに弱いというところだ。もうすぐ、黒潮丸が見回りに来るはず。「uenoさん、瀬替わりしますか?」「うーん、わからん。まかせるバイ」こんな会話をしているとエンジン音が遠くから聞こえてきた。黒潮丸がやってきてくれた。マイクで船長が呼びかける。「急いで、荷物を寄せて。瀬替わりします。」

船長はこの時間いつも見回りに来て釣況を確認し、場合によっては瀬替わりをさせてくれる。しかし、この日は事情が違っていた。「うねりがすごかったからね。もう少しで、波を被るところだったね。危なかったよ。」海の状況を見てこのまま平瀬に置いておくのは危険と判断した船長の好判断だった。「釣れましたか」ダメのサインを送る。「尾長は釣れなかったの?」うなずくしかない。「ムロアジばっかりでした。」「ボウズか。カマタさん、ボウズはここだけだよ。鵜瀬ではクロが釣れてるよ。」まずい。あまりいい状態ではないと思っていたが、ボウズは我々だけとは・・・。「これだけムロアジが釣れるならクロは喰わないからね。新島に行こうか?それともタジロにする?」船長が次の瀬替わりの場所を勧めてくれた。


高場には底物師が


さあ、どうする、どうする?新島はクロの魚影の濃いところ、上げ潮のポイントなのでまだまだチャンスタイムだ。タジロは、クロというよりシマアジ釣りのポイント。水温低下時に力を発揮する。気になるのは下げ潮のポイントということ。「uenoさんどうします?」一応師匠の意見を聞いてみるが、「おらどっちでもよかバイ。」そこで、魚の活性が悪いわけではないので、新島の溶岩グロとの勝負に決めさせてもらうことにした。「船長、新島にお願いします。」我々の意を解した船長は船を新島に向けて舵を取った。

しばらく走って新島の手前で船は止まった。船長が操縦席から降りてきて、新島のポイントを事細かく説明してくれた。「あそこにサラシが出たでしょう。あのサラシの横がワンドになってクロがよく釣れるよ。」「高場には行ったことがあるんですよ。」「あそこは、上げ下げでも釣れるからね。かなり歩かなければいけないけどね。」uenoさんは、「おら、あそこまで歩かんバイ。船着けでよか。」と歩かないですむポイントを希望。新島は正式には昭和新島という。昭和に火山活動により隆起してかたまった溶岩で覆われている。その複雑な海底は、魚影の濃さの証明でもある。船付けから島に向かって右から底物のポイントと上物の秘密ポイントが1カ所。そして、船付けの左側は高場までの海岸線がすべてポイントというかなりの上物人数を収容できる磯場だ。潮やサラシなどの条件がよければ、口太の大釣りが期待できる。今日のようなうねりのある日には条件がよいと思われる。ただ難点は、ポイントを移動するためには、巨大なゴロタ石のような岩場を釣り道具を運びながら歩かなければならないところだ。


瀬替わりで新島高場へ

船は新島のいつもの船着けより左側につけた。荷物をすべて受け取り船長の言葉を待った。「1時15分に回収します。」時計を見ると午前9時半。後3時間の釣りだ。ただいまボウズ。これから3時間で何としても釣果を上げなくては。もうすでに、行き先は決まっていた。一番遠いが期待できる高場のポイントまで歩くことにした。uenoさんはどうするのか聞いてみたが、「おら、ここでする。ほらよかサラシのできとんもん。ここでも釣れるバイ。」uenoさんの意見もあながち見当外れでもない。鵜瀬から瀬替わりしてきたと思われる先客の釣り人がもうすでに5枚ほどのクロを船付けの近くの磯で釣っていたからだ。

ではuenoさんごきげんよう。お互いにエールを送りつつ、片手にアテンダーを。もう一つの方の手にバッカンを持って道なきゴロタ場を歩いては休み、休んでは歩いた。15分ほど歩き汗だくになりながらようやく高場に到着。この高場は遠いけどいいところもある。釣り座が平らで足場がよく、丁度ベンチのような座るところがある。いつしかここがお気に入りの場所になっていたのだ。

午前9時半に、釣り再開。撒き餌を15分ほど聞かせた後、5Bのウキで第1投。西からのうねりは予想以上で、時折どっかーんと波がやってきて大サラシができている。こんな状況では5Bくらいの浮力がいるのだが、魚の食いは今一歩。すぐに、ウキを3Bに変えた。さらにハリスを3号に落とす。タナは1ヒロ半に設定。さあこれでどうだ。溶岩グロさんよ。しかし、喰ってくるのは、イスズミばかりなり。平瀬のイスズミはでかかったが、ここのイスもかなりでかい、それによく引く。イスズミを釣っては、傷ついたハリスを取り替えたり、ハリを結び直す時間だけが続いた。

10時過ぎ、ようやく、竿を叩かない引きに遭遇。上がってきた魚は、手の平サイズの尾長グロだった。小さくても本命は本命。リリースした後、再び喰ってきたのは、30オーバーの口太だった。よっしゃあ、ボウズ脱出。ほっと胸をなで下ろし、時計を見ると10時15分。満潮の潮止まりまで後1時間に迫っていた。


ようやくボウズ脱出


これから、いろいろ実験していくうちパターンを見つけた。サラシのあるとこでは、アタリがなく、むしろサラシのないところでクロが喰ってきた。ハリスにガン玉は打たない方がよく、ウキが消し込んだら仕掛けを張らずにウキがある程度消し込むまで待つ。そして、ある程度ウキが沈んだところで仕掛けを張り気味にする。すると、ククッと小さな当たりが伝わる。それで合わせるのではなく。糸を送り込んだり、張ったりしながら相手が走るまで我慢すると溶岩グロが喰ってくれる。また、右の根から出るサラシに乗せて流すと、クロが高確率で当たってくるようになった。このポイントは浅く、干潮間際では、底が見えるようになる。こんな浅いポイントでもクロが喰ってくるところがこの新島の面白いところ。時々、熱帯系のベラ君が挨拶に来てくれたが、満潮を過ぎ下げにはいると、38cmを筆頭に良型の溶岩グロが釣れてくるようになった。何とか釣果を2桁に乗せたところで、時計を見ると12時20分を過ぎていた。ここが潮時とこの楽しませてくれた磯場を後にすることにした。ありがとう高場。また来るよ。こんな独り言を言いながら、またごつごつしたゴロタを慎重にゆっくり歩いた。

船着けにつくと、uenoさんが声をかけてきた。「どうな、釣れたろ。4,5枚は釣ったな。」10枚というと、「おら、足裏1枚バイ。バラしてしもうてなあ。」uenoさんは、船着けで奮闘虚しく、良型のクロを浮かせたが、玉網入れかブリ上げか迷い、結局ブリ上げようとしてハリス切れという悔しいバラシをえんじたとのこと。だから、高場の方がいいといったのになあ。でも、uenoさんのおかげで釣りにこれたようなもの。なんだか申し訳ない気持ちになってきた。

右のサラシから流すと クロが高確率で喰ってきた

今日の硫黄島の状況を携帯サイト「釣りナビ」が次のように伝えている。

年明けに60cmUPの尾長が上がり、その後の好釣果が期待された硫黄島だったが、先週好天が続いた影響で水温が上昇。そのため青物やエサトリ等が活発化し、クロの活性が下がってしまった。尾長も45〜46cm止まりで、口太も500〜600gのサイズが目立った。それでも釣る人は、46cmの尾長を頭に12匹(キロ級は2〜3匹)の釣果。季節どおりに水温が下がってくれれば、再び60cmUPの尾長や良型口太の2桁釣りがねらえるだろう。このほか、石鯛は1〜3kgクラスが、まだまだコンスタントにヒットしている。


楽しませてくれてありがとう 新島


本日の釣果 クロ10枚 ムロアジ多数

港に帰って船長と今回の釣りを振り返った。「水温がおかしかったなあ。平瀬で餌をさわったら冷たいと言うし、新島じゃ魚をにぎったらあったかいというしね。この時期にシブダイが釣れるんだよ。おかしいなあ。」船長が不本意な釣果にこうコメントした。「本当はな、今日は闇夜だったから尾長があたってくるはずなんだけどね。闇夜はね、青物が活発になるんだよ。だから、平瀬はムロアジだらけで、鵜瀬はツムブリはっかりでしょ。あれだけ青物がいたら尾長は喰わんわな。」鵜瀬にのっていた関ちゃんや他のアングラーも「喰ったらいきなりビューって横走りするんだもん」と今回の状況を説明。「今年の一発目の尾長は浅瀬で釣れたからね。その時に、2kgのシブダイも釣れたからね。」「えーっ、本当ですか」「浅瀬は、夏の夜釣りでもシブは中々釣れないところだからね。鵜瀬ではブチブチ切られたけどな。まあ、もう少し水温が下がれば尾長が喰うでしょう。」

「カマタさん、どこで釣ったの?」船長が私のクーラーをのぞいて氷を入れながらこう聞いてきた。「高場まで行きました。船長が勧めてくれたポイントはうねりがすごくて、入られなかったんですよ。」「西からかなりうねりが入っとったからな。新島はね浅いでしょ。浅いとね、あれだけうねりがはいってしまえば、魚が散ってしまうんだよ。でも、うねりがたいしたことなければ、あそこにはポイントがたくさんあるから、また行ってみるといいですよ。」今回の釣りをプロデュースしてくれた船長にお礼を言って枕崎を後にした。

平瀬でボウズという不安なスタートを切った今回の釣行。終わってみれば、離島の釣りを心ゆくまで堪能できた1日だった。溶岩グロとの知恵比べの面白さを味わい、純真無垢なお魚さんに癒され、益々硫黄島が好きになってしまった。次回も再び溶岩グロとの対戦を夢見、未だ見ぬ60UPの尾長ちゃんに逢えるまで硫黄島行脚は終わることはないだろう。枕崎港を後にした瞬間から、いつものように次回への釣りへと心を躍らせるのであった。


本日の料理 

コナガ(尾長)のアクアパッツア
クロの造り
ムロアジの造り


TOP          BACK