1/26 ベテランの釣りとは 草垣群島一帯

1月も下旬。いよいよ季節は本格的な冬到来だ。北海道では、記録的な極寒で大変らしいが、その寒波の余波は南九州に来る頃には冷たい雨となる。日本列島が南北に長いことを気候が無言で語っている。天候では、本格的な冬の到来といってもいいが、海の中はそうはいかない。海水温が、甑島では19℃、硫黄島などの離島でも20℃と依然として高い値を示している。もうこの時期ならば、硫黄島などの離島では、いつもの尾長ラッシュに湧かなければならないのに。未だ「眠れる獅子」状態にあった。

ところが、1月20日以降になると、甑島の北部に位置する「里」の方からクロの好釣果が聞かれるようになった。中甑の「鹿島」でも上昇カーブを描こうとしている。今がチャンスだ。そう思った私は、1月26日の硫黄島の予約を入れようと黒潮丸へпBなぜ甑島ではなく硫黄島なのか。理由は1つ。何としてもデカ尾長を仕留めたいからだった。ところが、「カマタさん、26日からチャーターがはいってるんですよ。」と想定外の返事。ガーン。なるほど、26日は中潮で絶好の潮回りじゃないのさ。さすがにチャーターにはかないません。今回は、釣りに行く前に撃沈と相成った。

甑島大好きアングラーuenoさんは、すでに1月27日に瀬々野浦に予約を入れていた。これから甑島へ予約を入れても満員で断られるか、いい磯には乗れないかもしれない。そこで、考えたのが、離島の船釣りである。草垣などの船釣りなら尾長に出逢う確率が高くなるのではないか。また、カンパチ、シマアジ、ホタなどのうれしいおみやげもゲットできるチャンスもある。8月のマグロ釣り以来の離島の船釣りはご無沙汰になっていたが、1月には一体どんなストーリーが用意されているのであろう。そのストーリーの結末が知りたくて、ついつい釣好に電話してしまった。「いいですよー。まだ8人だから大丈夫ですよ。草垣に行きます。」いつもの明るいおばちゃんの声に早くも戦闘モードになる私であった。

この釣好のおばちゃんのスマイルはとても気持ちがいい。確かに、営業スマイルかもしれないが、やはり魚釣りという共通の業で結ばれた絆を感じる。この笑顔は確か20年以上前にも見たような気がするぞ。あっ、思い出した。学生時代に行きつけだった雀荘のおじちゃんの笑顔だ。この雀荘Nのおじちゃんは年はもう70歳に近い高齢だったが、若い人とつきあうのがうまく、学生からも慕われていた。元陸軍中尉とは思えないほど温厚な方で、困っている学生の面倒をよく見てくれた。「3人しかいなくて面子が足りないんですよ。」と言えば、快く卓を囲んでくれた。負けてお金がないといえば、場代を負けてくれたり、カップラーメンを食べさせてくれたりした。ラーメンをすすりながら、故郷を離れたとある雀荘で、私の傍らにはいつもあのおじちゃんの笑顔があった。

僕ら学生側もこのおじちゃんの生き方がそのままこの麻雀のルールになっていった。例えば、何度もハコ天(点棒がなくなってしまった状態)を喰らった友だちには、場代を勝った者が払ってやるとか。負けている相手を完膚無きまでにたたきのめすということはしなかったものだ。窓は黒いカーテンで覆われたいかにも不健康な一室で、たばこの副流煙で充満した汚い環境の中、かくも美しい義理と人情の人生ゲームが繰り広げられていたのだった。

麻雀が人生ゲームだと思うのは、釣りと同じようにゲームをする人によって独特のスタイルがあるということがあげられる。例えば、法学部の先輩にAさんという人はいたが、この人の異名は「おりのA」と言われていた。法学部きってのイケメンでいつも女の子のうわさが絶えなかったAさんにとって振り込んで負けると言うかっこわるさは耐え難い屈辱だったのかもしれない。この先輩は滅多にリーチをかけなかった。タンピン三色の手でテンパッていても誰かがリーチをかければ、当たるはずのない安牌しか打たなかったという徹底した「おり」のスタイル。だから、この先輩は大勝ちはしないもののトータルで負けることは少なかった。

ところが、このA先輩の対局にいた雀士がいた。相手が明らかに役満をねらっている状況でも決しておりなかった。1%の可能性があるのなら、そのぎりぎりまでおりずに勝負に出た。相手が国士無双をテンパッていようが、お構いなしにカンチャン待ちのリーチのみの手配でも気持ちよく一九字牌を打ち込んだ。その雀士の名は、もちろんNのおじちゃんである。そして、見事に約満をテンパッテいた相手の攻撃をくぐり抜け、いつものようにカンチャン待ちのリーチを自積るのであった。

「おじちゃん、そんな手で勘弁してよ。」点棒を払いながら苦笑する私たち。ある先輩は、皮肉混じりに、「おじちゃんは先が短いから勝負に出てるのさ。」と言っていた。でも、私はこのおじちゃんの笑顔を見ていると、単なるタコリーチ(初心者が何でもかんでもリーチをかけて勝負すること)とは違うような気がするのだった。陸軍に招集され、数々の命の危険な修羅場をくぐり抜けてきたおじちゃんだからこそ、勝負することの面白さをこころから味わっているのではないか。麻雀は点数の多い、マチの範囲が多い役をテンパッテいる者が必ず勝つとは限らない。アタリ牌が1つしかないカンチャン待ちでも勝機ありと見れば徹底して勝負する。この雀荘Nのおじちゃんの麻雀スタイルはいつしか語りぐさとなっていった。正にベテランの雀士とはこういうものだと思い知らされたのだった。

この20年以上前の雀荘の雰囲気を今でも感じさせてくれる場所がある。それは、釣船「釣好」である。雀卓の店員は4人だが、船は相乗りで12人である。雀士は、牌をどう組み合わせるかということで雀牌に向かっているが、釣り師は、その雀牌が魚に変わるだけなのだ。雀士と同じように釣り師もそれぞれに釣りスタイルをもっている。やはり人生ゲームだ。そして、釣れない人がいれば心配する他の釣り師が必ずいるし、いろいろ釣り方を惜しげもなく教えてくれる。それは、釣りを本当に楽しむためにはどうすればいいのかよく知っているベテラン釣り師が多いのも理由の1つではないか。囲む人数の違いはあるにせよ、雀卓と同じように船上でも運命共同体の意識をみんなもっている。「釣好」という釣船はここ最近利用し始めたはずなのだが、不思議と懐かしい場所に帰っていくような感じがするのだ。そして、その懐かしい場所の入り口には、必ずおばちゃんの笑顔があるのだ。

出船を待つ釣好

天気を心配して1月26日を待ったが、水、木と北西が吹いた後、金曜日はうまい具合に北東が吹いた。26日(土曜)の波予報は1mのち1.5m。案の定、釣好から電話が入る。「8時集合の9時出航です。気をつけてきてください。」これで、人生2度目の草垣群島でも船釣りが実現することになった。今回は、120号の竿とダイワの電動リールを新調し、草垣に挑む。はたして、どんな結果を草垣は用意してくれるのだろう。

金曜日の仕事を終えて、急いで自宅に戻り、高速で釣り道具を準備。午後6時過ぎに人吉ICを出発した。午後8時に何とか釣好に滑り込み、「遅くなりました。」と挨拶。いつものおばちゃんが笑顔で迎えてくれた。「まだ、人吉の人が来てないからあわてなくていいですよ。お茶でもどうぞ。」でもゆっくりはしていられない。お茶を頂いた後、仕掛けをこの釣具店で調達しなければならないからだ。300号のおもりを3個、15号ハリスの3本バリ仕掛け、半月天秤、ゴムクッション、カゴ、そして、ホタ釣りに使うガッサイ仕掛け(捨て糸付きの三つ叉サルカンによる胴付き仕掛け)を買いそろえる。

「一杯釣って笑顔で戻ってきてくださいね」のおばちゃんの声に見送られて、午後8時30分に串木野港に到着。くじを引く。6番。丁度真ん中だ。最悪ではない。「こんばんは。」いつものように他のお客さんに挨拶。Wさん、Kさん、Sさんなど、去年のマグロフィーバーの主役たちがたくさん乗船する模様。このベテラン釣り師たちも昔からお世話になっている人のように感じる。

午後8時57分、ビッグ釣好は、静寂そのものの串木野港をゆっくりと離れた。今日は満員御礼。キャビン内はぎゅうぎゅう詰めだ。いつもならちょっとした酒宴が始まるところだが、この状態では無理のよう。何とか寝るスペースを見つけ、1週間の仕事の疲れがどっと体にのしかかってくる時間帯。このままぐっすり眠りたいところだが、これも釣り師の性なのか、体が疲れているはずなのにどうしても眠れない。何とか眠りにつこうと、いろいろと努力してみる。魚が1匹、魚が2匹。冗談ともつかない半分本気で、今回の釣行を予想しながら羊を数えるように心の中で唱えるが、これも50匹ぐらい数えたところでバカバカしくなり断念。

すると今度は、自然条件について予想し始める。潮は?風は?水温は?、波は?、自分のタックルでどれくらいのサイズの魚を釣ることが可能なのか?あれこれと考えているうちに益々眠れなくなる私。頭の中を空っぽにすると、船の高速回転のエンジン音だけが聞こえてくる。このエンジン音とキャビン内に充満するたばこ臭と芋焼酎の臭いが唯一の現実の世界のディテールで、後はすべて非現実の世界へと旅立つタイムマシーンに乗っているような錯覚を起こしてしまう。離島の夢ステージに到達するまでの長くて短い3時間20分を費やし、午前0時20分、ビッグ釣好はようやくエンジン音をスローにした。

人生3度目の草垣群島。わずかな月明かりに浮かぶ黒い鋭角的な巌はまさしく磯釣り師憧れのフィールド草垣だった。船はゆっくりとしたスピードでポイントに近づいていく。釣り師たちはすでにスタンバイ。仕掛け作りや、撒き餌の調合に余念がない。私も負けじと準備を始める。竿はダイワのホカゲ120−270、リールはダイワのHYPER TANACOM500Fe。PE8号のラインに、半月天秤、クッションゴム、大きめのプラカゴ、ハリス15号の3本バリ仕掛けで準備完了。しかし、まわりの名人たちを見ていると急に不安になってきた。どう見たって、ベテラン釣り師たちのタックルは強靱だ。リールは1000クラスのようだし、竿も200号だ。自分のタックルがあまりに小さく見えた。草垣をなめるととんでもないことになるぞ。そんな苦言を受けているよう。 



第1投からチビキの御挨拶

「下から6,7mです。では、始めてください。」船長の声を合図にいよいよ草垣への挑戦が始まった。私は、竿受けのねじが外れていたので、まだ準備ができていない。そんなに焦らなくても大丈夫とゆっくり準備していると、早くも第1投から反応が現れた。竿を絞り込んでいる。どこからともなく、「オキアジだ、オキアジ。」の声。船のあちこちでオキアジのいきなりの入れ食いが始まった。型は、大体35〜40cmクラス。「今日は調子良さそうじゃなあ」釣り師たちが呟く。確かに、船釣りで第1投から釣れるときは大抵その日はよく釣れることが多い。

ようやく準備できた私も仕掛けを入れる。まず底をとる。42mだ。そこから6m上げて竿を2回しゃくる。そして、置き竿にしてアタリを待つ。さあてつけ餌を並べるかと視線を落とすと、隣から「引いてるよ」の声。おいおい、早速竿先が海面に向けてお辞儀をしている。スイッチを入れる。ウィ〜ンと魚を浮かせる。何が釣れた?竿の曲がりからしてサイズ的には今一だが。まわりの状況からオキアジだと思いきや、第1号の訪問客は、意外な初物「チビキ」であった。船長に聞くと高級魚らしいが、このサイズじゃね。気を取り直して第2投。さっきと同じ動作を繰り返す。すると、またアタリ。今度は、オキアジだった。私にとっては、これも初物だ。ぬめりがすごいが、かなり美味しいという。早速キープ。こりゃ忙しくなるかも。




オキアジの入れ食いがどうにも止まらない♪

それからというもの、オキアジの入れ食いは止まらない。こういうのを入れ食いと言うのだろう。いい加減他の魚が釣れてくれないかなと思うのだが、オキアジのオンパレード。隣からも「えらい釣れとるね」と声をかけられる。後ろからも「今日は6番がいいようだな。」の声が聞こえる。実は、完全にパターンをつかんでしまったのだった。おもりを底に落として底から4m位上げてアタリを待ち、アタリがなければ、少しずつ誘いをかけながらタナを上げていくのだ。そうすると、6m位でタナを上げた瞬間にオキアジが食らいつくというパターンだ。その後ムロアジなんかも混じり、釣り始めて3時間を過ぎた午前4時前にはもってきたクーラーは満タンになってしまったのだった。「にいちゃん、そのクーラーは小さいんじゃないの。草垣に来るときはもっとでかいのをもってこなアカンがな。」私のとなりの4番の釣り師は不思議なことに何と鹿児島の人なのに関西弁のおじさんだった。

恐るべし草垣!思わずこう洩らしてしまった。まだまだオキアジの食いが立っていたが、これ以上釣ってもしょうがない。20数匹まで数えたところで、オキアジばかりが喰ってくる五目ねらいをやめて、さっき喰ってきてくれたムロアジの生き餌によるカンパチねらいに切りかえた。となりの関西弁のオジサンが、私がムロを釣ったのを見ると、バッカンを提供してくれて泳がせ釣りを勧めてくれたのだった。ベテラン釣り師の言うことだ、きっと当たるに違いない。早速、泳がせ仕掛けにムロアジをかけ海に放した。このオジサンによるとデカ番のカンパチは泳がせが一番の高確率なんだそうだ。「必ず喰ってくるから」バッカンを貸してくれたお礼を言いながら、カンパチの強烈なアタリをどきどきの心境で待ち続けた。



ついにカンパチ来襲


午前4時を過ぎると、「おーっ、きたぞ!」どこからともなくこんな声が聞こえてきた。誰かがカンパチをかけたらしい。上がってきたのは、ここ草垣では小さめな5kgクラス。餌は、イカということ。そして、しばらくすると、また、「はい!来たあ」と誰かが魚を掛ける。竿の曲がり具合からして、オキアジではなさそう。やはり上がってきたのは、3kgクラスのカンパチ。餌を聞くと、今度はキビナゴだそうな。おかしい。なんで生き餌に食いつかないのか。私の後ろの釣り座でもマグロ名人のWさんがやはりムロを泳がせているが、こちらもあたりがない。カンパチはいる気配をムロアジの動きで教えてくれてはいるのだが、なぜだか今日のカンパチは、生き餌に興味がないと見える。

そして、午前5時を過ぎると、カンパチの活性が一気に上がり、あちこちで喰いだした。こっちで「来たー」あっちで「来たー」の展開。50cmのネイゴクラスから5,6kgの小型カンパまでがキビナゴの餌を中心に釣れだしたのだ。この時点で、カンパチが釣れていないのは、私と裏の釣り師だけとなった。私の両隣のベテラン釣り師は、次々にカンパチをかけ続ける。おかげで私は玉網係に忙しい。さあ、どうするどうする?このまま泳がせ釣りを続けるのか?ついにしびれを切らした私は、泳がせをあきらめ、今釣れている釣り師に学べの鉄則どおり、キビナゴの餌釣りに切りかえることにした。



私にはネリゴ 小物釣り師の面目躍如


すると、6時ごろようやく私にも50cmサイズのネリゴが2匹やってきてくれた。さすが小物釣り師だと心の中で言いながらも小さくても本命を釣りホッと胸をなで下ろした。そして、最後のムロアジを釣った後、6時半になったので、「(仕掛けを)上げて、少し走ります」と船長が次の釣りへ行くことを示唆した。



もう入りましぇん♪


ホタのポイントへ移動


船は北へ進路をとり、ホタのポイントへ移動した。何度かポイントを探しながら試し釣りをした後、最後についたポイントでいきなりホタが釣れだした。ここも入れ食いか。仕掛けは、さっきの半月天秤仕掛けではなく「ガッサイ」と呼ばれる上カゴの胴付き捨ておもり仕掛けに変えた。まわりでは、ホタの入れ食いが始まった。またまた、釣れない私をみてベテラン釣り師が声をかけてくれる。「底に落として糸ふけが出るくらいで待たなくちゃ。」釣れなかったのは、どうやらタナが浅かったためらしい。早速、アドバイスどおり実施すると、再び魚が釣れだした。

8時から9時にかけて潮が止まり食いが落ちたが、潮が走り出すと再び食いは活発になってきた。その本命潮が流れ出すと、船の前の方で「ワカナだ!ワカナ」の声。どうやら、ある釣り師が、私が本命視していた尾長を釣ったらしい。よしっ、折れも尾長を。しかし、釣れてくるのは、ホタとムロアジ。そして、うれしいおみやげのシロダイが2匹だった。これから喰いが更に活発になると思われたところで、納竿20分前の午前9時40分頃、船長が「クーラーに入らなくなるからやめましょうか」と私に声をかけた。、まわりを見るとベテラン釣り師はみんな片付けてしまっていた。もう十分釣ったし、楽しめた。これ以上釣っても仕方がない、といったところだろう。楽しむときは集中して徹底して楽しむ。そして、もう十分と思えば、潔く釣りをやめる。このメリハリがベテランの味なのかなと考えた。それに対して、私は往生際が悪い。時間ぎりぎりまでガツガツ釣っていた。反省!クーラーに入らなかった魚を何とか磯バッグに詰めて今回の草垣での夢舞台を終えることにした。
ああ 草垣の海よ。本当にありがとう!



ホタのダブル 潮がいってるね

瀬渡しのサザンクロスさん お疲れです




良型のシロダイのお見送り


クーラーおかわり♪ 草垣の底力恐るべし

オキアジ・ホタの造り
チビキの味噌汁
オキアジの味噌焼き

脂のりのり どれもまいう〜♪


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