3/22 釣り師の幸せとは 硫黄島

人間は誰でも幸せになりたいと思っている。いい暮らしをしたい。健康で長生きしたい。その幸せの価値は、人によって異なるものの、子どもであれ、大人であれ、男であれ、女であれ、その願いは同じだと思う。幸せを願う心というのは、人間普遍の真実と言える。しかし、その幸せをすべての人が享受できるかと言えばそれは難しい。例えば、釣り師の幸せがあるとすれば、だれもが対象魚を数釣りたい、大物を仕留めたい、できるだけ長く釣りを続けたいとこんな願いを持っていたとしよう。その願いを叶えることができたかと釣り師に聞いてみればいい。その願いを実現させることのできた釣り師は、少ないことがわかる。潮が悪かったよ。エサトリがわんさかおってなあ。風が強くてやってられないよ。水温のさがってなあ。こんな釣り師のぼやきが返ってくるはずだ。
それでは、なぜその願いは容易に実現できないのか。それは、簡単に言えば、マルクスがかつて述べたように、人間は社会的諸関係の総和であるからだ。人間は、自然や社会のあらゆる相関関係の上に成り立っている。自分だけが幸せになろうとすれば、相手が不幸になるかもしれない。だから、自分も相手も幸せになる方法を考える。じゃあ、二人だけで幸せになろうとしても、そのまわりの人間がいる。すると今度は自分も自分の所属する集団も幸せになるにはというような関係が「インドラの網」のようにつながっているのだ。つまり行き着く先は、「世界が全体幸福にならなければ個人の幸福はあり得ない」(宮沢賢治)ということになる。
これを釣りに当てはめてみる。二人で釣りをしていて同じ場所で一方が入れ食いで、もう一方は全く釣れないとしよう。釣りをしたことのある人間なら、「こっちで釣らんね。」「タナは竿1本バイ」「ハリば4号に落としたバイ」と情報提供をするなどして相手も釣らせようとするはずだ。釣りにおける幸せというのは、自分も相手も楽しんだという関係があってこそなりたつこということを釣り師なら誰もが知っている。また、例え釣れなくても、「つぎの人に撒き餌してきたバイ」「魚の資源を守ってきたよ」などとぼやき、自分の欲求を昇華することで幸せを感じることはできる。次回こそは仕留めてみせると未来への展望を創出することでも幸せを感じることだってできる。

ドイツの作家ミヒャエル=エンデの名作ファンタジーに「モモ」という作品がある。芸能人になりたいという願いをもっていた登場人物ジジが、自分の夢を実現した後、つぎのように言っていた。「本当の幸せというものは、夢を持ってすごすことだったんだ」夢を実現することで幸せを感じることができなくなり苦しんだジジの声は、現代に生きる我々にも多くの示唆を与えてくれる。自分の願いを実現した後、新たな困難が待ち受けているのが常である。念願のマイホームを実現したが、過酷なローン生活が待っていたり、意中とした会社に就職できても、その後の仕事に対する不安がら逃れられることはない。

だから、人間はいかに生きるべきかという人類普遍の命題を追い求める哲学を一人一人がもつことが本当の幸せを感じることができることにつながるのではないかと考える。釣りという夢とロマンを追い求める暮らしをすることが自分にとっての幸せなんだということを確認するために、今回もこりもせず硫黄島への釣行を計画した。短い冬は終わり、時すでに春彼岸。勤めている学校のモクレンの花が満開となり、いよいよ春も旬の時期を迎えようとしている。この時期は、乗っ込みチヌをねらってチヌ釣りが最盛期。連日、大型のチヌが磯で堤防で上がっている。私の釣りカレンダーでいけば、例年なら乗っ込みチヌをねらいに天草などの磯に立っているはずなのだが。


春の使者 モクレン
今年はどういうわけかまだ乗っ込みチヌをねらいに行く気になれない。それは、1年中で最も心ときめく今年の寒の時期に自分の対象魚であるお魚に巡り会えていないことがその理由。今シーズンはシマアジねらいで惨敗に時化。離島のデカ尾長釣りは不発。口太の数釣りもままならぬボウズもありといった展開に納得がいかない自分がいたからだ。このままでは終われない。こんな感情が心の奥底から沸々と湧いてきて思わず夢前案内人である離島便黒潮丸にр入れてしまった。通知票の仕事が終わる3月20日の春分の日に予約を入れた。「いいですよ。一人ですか?この前は水温の関係で厳しかったけどね。尾長もまだまだいけるよ。」「タジロはどうですか」「この前タジロでシマアジが釣れたよ。」

私がタジロのシマアジ釣りが好きであることをよく知っている船長は、すぐに私をやる気にさせる言葉を放ってくる。今回のねらいは夜の時間帯は尾長、そして、昼はシマアジだ。今シーズンのタジロのシマアジは絶不調だったが、船長によれば光明が出てきたとのこと。シマアジ釣りは例年12月に最盛期を迎えるのだが、今冬は時化続きで渡礁も限られ、シマアジも釣れなかったようだ。2004年、2005年、2006年とタジロでは例年通りシマアジの回遊が見られたのだが、潮流の異変があったのかわからないが、2007年はシマアジの顔を見ることはできなかった。それが、2008年3月になってようやく顔を見せてくれたのだ。もうこれは、シマアジに会いに行くほかないではないか。


尾長の夢とロマンに集まった釣り師たち

20日は時化で中止になったものの、22日にスライドさせて天候回復を待った。前日の波予報では、2m〜1.5m。これはいけるか?午後5時過ぎに電話を入れると、「でます。午前2時出航だから、1時半にきてください。餌はいつもの2/2でよかったですね。」と返ってきた。ルンルン気分で仕度をしていると、携帯が鳴った。「カマタさん、22日はどっか行くとね。」電話の主はuenoさんだ。その電話の声の調子から、釣りに行きたがっているように思えた。「硫黄島に行くとですよ。」「へえー、何か釣るっとな。」「尾長とかシマアジも釣れだしたみたいですよ。」「おら迷っとっとたい。最近、新台入れ替えで春のワルツの入ったけんなあ。入ってすぐの土日はでるけんなあ。」私はこの時すでに師匠uenoさんの心は読めていた。春のワルツは明らかにカモフラージュで本当は一緒に釣りに行きたいということがありありだった。ただあまんじゃくのuenoさんは、自分から釣りにつれてってとは言いにくいようだ。

そんなuenoさんの心はお見通し、そこで「uenoさんも一緒に行きますか。」すると少し弾んだ声で「そうなあ。春のワルツもよかばってん、やっぱり釣りやろ。おいも行くけん、予約してくだい。よかな。」でр切ってきた。ことの顛末はどうであれ、自分だけ釣りに行くよりも二人で行く方が楽しい。確かに一人で行く方がタジロでシマアジを数釣りできる可能性は高くなるが、それよりも釣りなかまとともに釣れた喜びや、釣れなかった悔しさを共有する方が釣り師としての幸せにつながるのではないか。こう思うことで、釣果も大切だが、釣りを仲間と楽しむという目標に切りかえることができた。

午後10時過ぎに人吉ICを出発。高速道路を南下し、指宿スカイラインを通って川辺町から枕崎へと入るいつものコース。今日は月夜の大潮。東の空に圧倒的な存在感の満月が我々の車の後を追うようについてくる。今夜のやや霞んだ月は尾長釣りにどんな影響を及ぼしてくれるのか。24時間営業のスーパーAZでいつものように餌や食料や水を買い、静寂の枕崎港についたのが午前1時20分だった。早くも釣り師の車が10台程度止まっている。

1時30分過ぎ、船長の軽トラックが登場。にわかに釣り師の動きが早まる。本日のアングラーは総勢14名。口太が産休に入り、尾長釣りも終盤戦に入ったこの時期としては、まずまずの人数。このところの硫黄島では、下げ潮で極端に水温が下がる状況が続いていた。例えば、石鯛釣りでアタリがあるのは上げ潮のみで、下げ潮では餌も触られないといった異変が起こっていた。そのため、昼釣りの大半が下げ潮になってしまう今日の大潮では、客はかなり少ないのではとみていた。しかし、さすがに硫黄島ブランドはまだまだ健在。地元鹿児島より熊本からの釣り客が目立っていた。荷物を船に積もうとすると横にいた釣り人から声を掛けられた。「カマタさんですよね。HPみてます。面白いですね。」と。うれしいことだ。こんなつまらないHPでも面白いと思ってくれる人がいるんだ。これも釣り師の幸せだろうか。

上物師より底物師を多く飲み込んだ黒潮丸は午前2時過ぎ枕崎港を出発。キャビンの下の段に寝て毛布を被る。低気圧の残りうねりがどうかなと気になっていたが、始めは順調な航海だった。これならいい釣りができるかも。そう思うと急にリラックスでき仕事の疲れもありぐっすり眠ってしまった。

うねりに気をつけてな
不思議なものだ。眠りから丁度覚めるころにいつも船はエンジンをスローにする。もう私の体内時計が航海の時間をあてることができるかのようだ。最初の渡礁が始まる。船はしばらく泊まっている。この間に、釣り師が続々とキャビンの外に出て行く。しかし、何とここでは船は釣り人を渡礁させずにエンジンを高速に切りかえた。うねりがかなり残っているのではあるまいな。船は確かに次なる磯を目指している。エンジンがスローに。「○○さん、準備して」今度は渡礁のようだ。何人か乗せた後で、船は再び全速力で走る。おいおいかなり走ったよな。と横になっていると、3度目のスロー。ところが、ここでは釣り人を乗せる気配がない。ここでは、誰も乗せずに再び船はひた走る。一体どうなってるんだ。

そして、4度目のスロー。「カマタさん、準備して」えっ、意外に早く声がかかったな。急いで磯靴を履いてキャビンの外に出る。硫黄の臭いが鼻をつく。間違いない。予約していたタジロに渡礁できるようだ。サーチライトが照らした先に、シマアジの絶好のポイントタジロ高場がくっきりと現れた。チャールズブロンソン似のポーターの方に促されて、竿ケース、磯バッグ、バッカン、クーラーの4点セットを確認。船首部分で待機する。やはり予想以上にうねりがある。

船首が船長の操作で慎重に磯につけられる。素早く磯に乗り移る。荷物を受け取り、船長のアドバイスに聞き入る。「うねりがあるから気をつけてな。尾長は先の根のところな。少し遠投して」タジロでは、尾長は瀬際ねらいではなさそうだ。こんな船長のアドバイスを聴けば、ブッコミでアカジョウなどの根魚をねらう釣りより尾長をねらいたくなる。どうしよう。uenoさんは迷うことなく、ブッコミの準備を始めていた。私は石鯛竿を持っては来たが、これをぶっ込み用に使うと、尾長ねらいのウキフカセ釣りが3号竿での釣りになってしまう。60を越える尾長をねらっているのに、3号竿ではあまりにも心許ない。そこでブッコミはあきらめ、石鯛竿で10号道糸を使ってのウキフカセ釣りを行うことにした。

本日のレシピは

本日の撒き餌は、いつもの赤アミ1角、オキアミ生1角に遠投できるようにと集魚材を1袋混ぜ合わせた。午前5時20分第1投。電気ウキの鮮やかな赤い光が漆黒の海に突き刺さった。潮は右に動いている。上げ潮の動きだ。釣り座の先にある根の上を竿1本くらいから始めた。この時期だ、返ってくる餌も冷たく感じる。水温が下がっているかもしれない。浅いタナでは当たってこないだろうとアタリがないので少しずつタナを深くしていった。

うねりはすごい。潮位が低くなったと思ったらいきなり大きな波が押し寄せてくる。こんな状況で尾長釣りはつらいなあ。尾長はこんなサラシのあるような波のある場所よりも、潮もあまり動かない、静かなワンドなどがポイントとなる。案の定、私もuenoさんも期待の尾長ねらいは不発となったのだった。


この時点ではかなりのやる気モードのueno氏


午前7時前、夜釣りをあきらめ昼釣りの準備を行う。竿はがま磯アテンダー2−53。道糸3号にハリス3号をチョイス。ウキは硫黄島のクロ釣りで相性抜群の釣研競R3Bの半遊動仕掛け。まだ上げ潮が動いているので水温もまだ下がっていないと判断し、2ヒロ半のタナ設定とした。ハリは、とりあえず口太ねらいでヤイバグレ7号をつけた。硫黄島の満潮は7時24分で、まもなく潮止まりを迎える。上げ潮に有利な左側の釣り座に私。下げ潮に有利な釣り座にuenoさんが構えた。おりからのうねりで本日のタジロはサラシでどこも真っ白。隣にあるタジロの低場はうねりで波の下である。尾長はだめだったが、これならサラシの好きな口太は何枚か釣れるのではないか。

競R3Bはゆっくりといい感じで上げ潮にのって、釣り座から沖に向かって右に流れている。いい感じの潮だ。だが、今は上げ潮の時間帯。上げ潮はイスズミ天国の潮だ。案の定、uenoさんがやりとりをしている。例によって竿先を叩いている。そして、中々浮いてこない。ウキが見えたと思えば、何度も突っ込みを見せる。「尾長ですか♪」と誘い水。uenoさん、「まさか!」と返答。浮いてきた魚は予想通りイスズミだった。苦笑するuenoさん。よそ見していると、こんどは私にも向こう合わせでイスズミが食ってきた。ばれてくれえ。


うねりでタジロ低場は波の下


ここのイスズミは型がいいからたまらない。ただただ竿や仕掛けの無事を祈るだけだ。こちらは、釣ったら必ずリリースするから心配するなと言っても、イスズミはもちろん言葉がわからないから必死で抵抗している。喰ったら一直線に瀬際にやってきてオーバーハングに逃げ込もうとする。ハリスがザリザリ瀬に当たっているのがわかる。だが、こちらも3号ハリス。そう簡単にはきれない。観念したイスズミくん。ブリ上げてハリをはずしてあげる。そして、お約束のウンコをたれる。磯釣り師にとってこのイスズミのウンコはお馴染みだが、硫黄島のイスズミのウンコはちょっと変わっている。ウンコの色が黒いのだ。まるでそれは見事なイカスミのような黒なのだ。


またイスかい

イスズミを釣ってはリリースを3回ほど繰り返した後、ぱったりと食いが悪くなってしまった。餌をくわえては離すという状態になってしまった。タナをこまめに調整したり、ガン玉をうたっりするが、明らかに食いが悪くなってしまったようだ。「喰わんなあ」師匠uenoさんのぼやきも始まっていた。本命の下げ潮に変われば食いが復活するはずと粘っていたか、下げ潮が走り出しても状況は変わらなかった。更に、下げ潮では釣り座から左に走るはずだが、潮は右に動いたまま。更に悪いことに仕掛けを流してもワンドに流れていくアタリ潮となった。この潮でよかった試しはない。



なんとかクロをゲット

潮が変われば食いがよくなると思いきや一向に状況が打開される様子はない。そんな中師匠uenoさんが足裏サイズの尾長を釣り上げた。聞いてみると、全遊動にしたという。私は硫黄島に来て喰い渋り対策として全遊動にしたことはほとんどなかった。っていうか、する必要がなかったのだ。つけ餌と撒き餌を合わせれば面白いようにウキを消し込んでくれる。これが離島硫黄島のお魚さんの歓迎の仕方だった。ところが、今日はどうしても喰わせられない。甑島のクロ釣りのような状況の釣りをやらなければならないのだろうか。離島まで来てなぜ全遊動を。こんな思いがわき上がってきたが、しかたがない。

ウキをキザクラLets0号に変え、潮受けゴムで仕掛けの入り具合をチェックすることにした。潮は大潮にも関わらず動きが鈍い。ワンドに向かってふらふら動き、一向に本命の左向きへと動かない。何とか潮の動く時間帯にクロを1枚釣ったが、釣れる魚は相変わらずイスズミだった。今日のイスズミ軍団もかなりの脅威となりそうである。

ブッコミはだめバイ
午前8時半を過ぎたころから、潮がいい感じで流れ出した。下げ潮の本命の動きではないが、この潮で数年前40の尾長を釣っている。チャンスだ。しかし、仕掛けを打ち返すも相変わらずイスズミ軍団の猛攻は続く。ウキをゆっくり持っていき見えなくなるまで我慢して道糸を張りながら待っているとドンと来る。えらい引くなあ。きみはだれだ。と問いかけるとイスズミが顔を出すという展開だ。


潮目の内と外で潮色が全く違うね
潮受けゴムの状態から判断するに、左の根のあたりは本命の左に行きたいという動きなのだが、沖へ進むにつれて表面を滑る右の潮につかまってしまい結局本命とは反対の方向へと動いていく。そのまま右斜め沖へと動いてくれればいいのだが、潮受けゴムは右奥のワンド向きに行きたがる。いわゆる2枚潮だろう。できればウキを沈めての全遊動をやりたいが、うねりによるサラシでどうもうまい具合に仕掛けが馴染まない。ガン玉をたせば沈みすぎてしまうといったジレンマにさいなまれていた。食いが浅いのかハリハズレが続いた。この潮では尾長は喰わないだろうとハリをシマアジねらいのチヌバリ5号に変えることにした。


やっとでシマアジ第1号


そんな中、イスズミを何枚釣ったか数えるのも億劫になった午前8時45分。何度目かのアタリをとらえてやりとりをしているとイスズミでない引きを味わう。期待をこめて海中を見つめていると黄色い鋭角的なしっぽが見えた。うれしい本命シマアジだ。慎重にブリ上げると、霞んだ春の青空をバックに美しい流線型のプロポーションをもったシマアジが飛び込んできてくれた。やったぞ本命げっと!よっしゃあ、今シーズン初めてのシマアジ。昨年の4月以来の釣果だった。「おっ。」uenoさんが振り向く。大事に大事にクーラーにしまった。チヌバリに変えていて正解だった。もしかすると、その前のバラシはシマアジだったかもしれない。型は600gほどでここでのレギュラーサイズだ。シマアジは単独で行動することはなく、この釣果は群れが回遊してきたことを意味していた。

瀬変わりだあ タジロ低場


この後、シマアジの入れ食いが期待されたが、アタリはあるものの腕が悪く中々喰わせられない。いらいらが募ったころ、遠くから聞き慣れたエンジン音が聞こえてきた。黒潮丸だ。「カマタさん、釣れましたか。」人差し指を1本立てる。「シマアジ釣れたの。」マイクから放たれた船長の乾いた声が磯に響く。指を1本立てて、首をうんうんと動かしてうなずくポーズを見せる。了解とばかりに、「ここで粘ってください」と独りの釣り人を隣の低場へと瀬変わりさせた。潮もだいぶ引いてきたので低場でも釣りができるだろうという船長の判断。他にも数名の釣り師が瀬変わりのために乗り込んでいた。この状況からして今日はどこもあまりよくないようだ。


uenoさんもシマアジゲット


「釣れんなあ。」uenoさんがぼやく。イスズミの猛攻に業を煮やしたuenoさんは座り込んで遅い朝食をとっている。「ですねえ。今日は亀もつれないですもん。」ここタジロは亀が多いことでも知られている。タジロは海底から湧いてくる温泉のために、海水温の変動が少ないというお魚さんにとってうれしい保養地だ。だから、いろんな魚が釣れる。アラの子や亀などもここに潜み、多くの釣り人を歓喜させ、また落胆させてきた。温泉好きは人間だけと思っていたが、どうしてお魚さんもじつは温泉好きだったのだった。

「よしっ、勝負ウキが使うバイ。」食後のたばこを終えたuenoさんが動いた。uenoさんにとっての勝負ウキとは、最近買ったばかりのグレックスの0号のウキだとか。「1780円もしたバイ」uenoさんは勝負ウキたる所以を真顔で語ってくれた。こちらは、それのどこが勝負ウキなんだよとツッコミを入れたくなるのだが。しかし、今日のuenoさんは勝負強かった。早速、第1号となるシマアジをゲット。私も負けじと2枚目、3枚目と釣り始める。気のせいかイスズミのアタリが少なくなったように感じる。


うねりでこんなことも ドッカーン


しかし、チャンスの時間帯だが、シマアジを中々口を使ってはくれなかった。竿1本あたりであたりはあるのだが、喰わせ切れないのだ。いい感じのアタリがあっても、うねりからの波がやってきて、違和感を感じて魚が餌を離したりと難しい釣りとなった。低場の釣り人も何回か竿を曲げていたが、イスズミオンリーだったようだ。


たぶん イスバイ


こうして、二人で奮闘するもののuenoさんがシマアジ7枚、コナガ1枚。私がクロ1枚、シマアジ5枚という寂しい結果となった。午後から天気が崩れる予報のためかいつもより早く回収にやってきた黒潮丸に乗り込んだ。「釣れましたか」と船長。「5枚と7枚」と寂しく答える我々。低場の釣り師も元気がない。「今日はうねりがひどくてね。浅瀬にも乗せられなかったよ。」


ありがとうタジロ
釣りはパッとしなかったが、適当にイスズミが遊んでくれたので退屈はしなかった。折角来たんだからとデッキでとどまってクルージングを楽しむことにした。タジロ瀬は硫黄島本島の南島に位置するため、これから西磯方面への回収に向かうようだ。東の立神を抜けると有名な東温泉付近、そして人家が点在する硫黄島港沖を進む。すると、その時、1機の未確認飛行物体が私の背中から頭上20mほどの上空を超低空飛行で飛んできた。こんな低い高度で飛ぶ飛行機は初めてみた。「一体なんでしょうね。あれは」「わからんなあ」uenoさんも首をひねっていた。「カマタさん、あそこみて」船長が指を指し示した場所をみると何と船が転覆していた。「船がひっくり返っているでしょう。だから、飛行機が写真を撮りに飛んできたんだよ。」乗組員の方は大丈夫だったのだろうか。海上自衛隊イージス艦「あたご」の衝突事故があったばかりなので、とても人ごととは思えない。海のレジャーの怖さを改めて思い知らされたのだった。


転覆した船を発見


港に帰って今回の釣りを振り返った。「今日は、始めは大丈夫と思ったんだけどね、ついた途端にうねりだよ。浅瀬にものせられなかたから。」船長が無念そうに釣り人に語っていた。東からのうねりは予想以上でほとんど西側での釣りになったそうだ。今日は、石鯛釣りはほぼ撃沈。みんなのクーラーも悲しいくらい軽かった。水温が安定すればまだまだ尾長も喰うんだけどね。「喰わせたけどバラしました。」親子連れの釣り人が、どうやら尾長を掛けたらしく、ハリスが7号だったこともありばらしたとのこと。「あそこは双子瀬といって今一番いいところなんだよ。足場もいいでしょう。親子連れだから気を使ったんだよ。それなのに、食いが悪いから瀬変わりしたいって電話だろう。白髪がまた増えるよ。」と船長。釣り師たちに笑いがこぼれていた。

硫黄島の本調子とはほど遠い状況だった今回の釣行。腕が悪いのを潮のせいにする我々だが、だからこそ夢とロマンはとどまることをしらない。60の尾長を求めて、再びあの離島の地に立つんだ。釣り師の幸せとは、夢とロマンを追い求めることなんだということを再確認しながら、どんよりした雨雲に見守られた春の枕崎港を後にするのだった。



本日の釣果
シマアジ クロ


本日の料理

クロのチリソース炒め
シマアジの造り
シマアジのサンガ焼き


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