8/2 高嶺の花を 硫黄島

磯釣りではいわゆる「高嶺の花」というものが存在する。数あるポイントの中であの磯に乗れれば、必ずいい釣果が得られる。例えば、最近の中甑鹿島の灯台下。ここは、この数年冬の時期になるとデカ番の尾長が回遊してくるようになった。60を越える尾長が乱舞するのだから、磯釣りの上物師なら誰もが乗りたくなるはず。しかし、だからこそそのポイントは当然競争率が高くなるのだ。

 この夏の時期、硫黄島で高嶺の花と言えば、迷わず平瀬だろう。南九州の離島で抜群のシブダイの数をほこる硫黄島の中でも平瀬は大変安定して釣れている。今シーズンもシブダイの2桁釣りを続けている。もちろん、好釣りには釣り師の技術の要因も大きいが、それだけ可能性を秘めているポイントと言える。

 今シーズンの夜釣りでは、まともなシブダイを釣ることができなかった。何としても結果を残したいと考えていたところ、8月2日3日にそのチャンスが巡ってきた。午前中は五木で用事があるものの後はフリー。このチャンスを逃せば、もう今年はシブダイに逢えないかもしれない。そう考えたころにはすでに黒潮丸に連絡を入れていた。「わかりました。もう水温も上がってきたし、タジロなんかの地磯でも釣れるかもなあ。」相変わらず船長の頭の中は、かまちゃん=タジロという構図のようだ。本当は平瀬と言いたいところだが、乗る瀬を決めるのは、船長である。やはり、高嶺の花をダイレクトにお願いするのはちょっと気が引ける。これも自分の性格だ。しかたがない。


8月2日大潮。先々週から暴れていた台風も中国大陸へ上陸し、夏型の高気圧が南西諸島にどっしりと腰を据えている。大気の状態も安定していて、雷雨などの心配のない天候。波も南からのうねりがとれて1mの凪ぎ。冬場のクロ釣りは多少波気があったほうがいいが、シブダイ釣りには凪がいい。先日の午後に船長に連絡をとると、「出ます。2時半に来られますか。」で硫黄島での釣りが決定した。


祭りで出港場所変更の黒潮丸

いつものように九州自動車道から指宿スカイラインに入り、国道を通って枕崎港に到着。この日は枕崎でみなと祭りが行われているため、出港場所が東側に変更。2時15分頃到着したら、ほとんどの釣り客がすでに荷物を積み終えて出港準備万端というところだった。今日も釣り人のモチベーションの高さに比例して出航時間が早くなるという法則は生きていた。予定よりも15分早い午後2時45分に黒潮丸は枕崎港を離れた。

 凪の海をひた走ること90分。午後4時過ぎにエンジンがスローになった。あれっ、いつもは平瀬か鵜瀬からの渡礁なのにキャビンの外の風景はいつもと違っていた。硫黄島本島の北向きのよう。ついでに、最初の渡礁は前回乗って惨敗した「コウカイドウ」だった。どうしたんだろう。船は次に北向きの磯へ。ヒサガ瀬の後は、いつもの西磯群へ。今日は大潮。平瀬や鵜瀬は激流が流れることを予想して、地磯中心の布陣になりそう。「今日はだれも平瀬を希望しないよ」と釣り師たちが苦笑している。「潮位が3mだからね。」「いいや潮位が問題じゃなくて、潮がどう流れるかが問題なんだよ」とは、この船の名人。なるほど。

 船は、地磯の2番瀬、そして、名人をミジメ瀬に乗せて船は永良部格・未愎覆鵑澄」2人の釣り師を口白とアラの好ポイント名礁「カメクレ」に。八代からの常連さんをこれも人気瀬「みゆき」に乗せ、いよいよ最後の番になった。



アカジョウ シブダイの好ポイントミジメ瀬に名人が


さあ タジロに向かう船内から硫黄岳を


迷ったあげくタジロに渡礁

でも、もう心は決まっていた。それは、「カマタさん、西磯に行く?それともタジロ?」という船長に期待に応えて「タジロにお願いします」と自分の気持ちを伝えていたからだ。あそこは、型はやや小振りだが、何かが釣れるという安定した場所。足場はいいし、大釣りは期待できないが、のんびり釣るのもいいものだと、気持ちは固まっていたのだった。

 ところがだ、船長の悪魔の一声が始まった。「今рナ聞いてみたんだけど、平瀬の低い方が空いてるんだってよ。カマタさん、平瀬にあまり乗ったことないでしょ。満潮の時は、高いところのてっぺんで釣らなきゃいけないけどね。どうする?」おいおい、もう気持ちはタジロに行ってしまったというのに。そりゃないよ。高嶺の花をあきらめてタジロに決めたのに。いろいろ考えたが、激流で釣りにならないことが一番怖い状況だと思ったので、「船長やっぱりタジロでお願いします」と言ってしまった。この時ばかりは、「高嶺の花」をみすみすけたくって、冒険できない自分の性格を情けないと思った。



タジロの釣り座

難なくタジロに渡礁。しかし、いつものタジロとは何かが違う。硫黄の臭いがほとんどしない。それから、わき出る温泉水の濁りが極端に少ないように感じた。夜になったがあまり魚からの反応が感じられない。たまに当たりがあっても食い込みが悪い。夜中の潮止まりまでに、足裏のクロシブと40弱のシブを釣っただけ。午前に入ってから若干魚の活性はあがったものの、シブの中小2匹と40近いホウセキキントキを釣るのが精一杯。朝がくるとお約束のカメさんが2回あたってきてくれた。今回のカメは小型だったのでよかったが。今回の釣りの最大の収穫は悲しいことにカメの当たりを見分けることができたことぐらいか。

 回収の船に乗り込み、よくなかったことを伝えると、船長やっぱりだめだったかという表情。ここのところタジロはあまり釣れていなかったようだ。

 港について、ほかの釣り人の釣果をのぞいた。釣れている人は釣れている。船釣りの人が3人でシブの2桁。ミジメ瀬にのった名人が見事2桁釣り。驚いたのは、イグロークーラーに入りきれないほどの大きなバラフエが釣れていた。結果的に船長が大潮という潮回りということで地磯の中心の布陣にしていたことが功を奏したようだ。「カマタさん、シブが釣れたの?だから平瀬に乗ったらといったんだよ。平瀬はベタ凪ぎだったよ」今回はこの船長の一言に尽きる釣りだった。やはり、「高嶺の花」を得るチャンスは確実にモノにすべしだった。次回そのチャンスがきたら必ず平瀬だと心に誓い、みなと祭りでにぎわう枕崎を本当に寂しい心で後にするのだった。



期待の朝マズメはカメに翻弄される


今回の悲しい釣果

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