8/29 釣りに行きたいのではなく 錦江湾

誤解のないように言っておかないといけないが、私は釣りに行きたくて釣行するのではない。何者かがその時期になると、私の心を制御しはじめるのだ。天気予報を調べたり、携帯サイト「TURI NAVI」の情報を得たり、道具を準備したり・・・。ついには、家族を拝み倒すという意味不明な行動を始める。私の意に反して、私とは違う人格の何者かの意志が働くと言えばいいだろうか。いや、このことを更に突き詰めていくと、自分が釣りに行きたいのではなく、海が自分を呼んでいるから、魚が自分に逢いたがっているから釣りに出かけるのではないか。現に、海が自分に逢いたくないときは、私の意志のいかんにかかわらず、ポセイドンは海を時化らせるではないか。そうだ。そうに違いない。人は自分のことを釣りバカというが、釣りバカとは釣り師が自分の意志で釣りに出かけることが1つの条件だ。このことからすると、私は釣りバカではないということになる。では、自分は一体何者だ。一体自分は何のために釣りに出かけるのだ。この答えを見つけるべく、今回も釣りに出かけることにした。


今回のねらいは? 鹿児島 重富港

今回のターゲットは、夏の海のギャング太刀魚である。銀色に輝く魚体とは裏腹に、その顔はギャングの名に相応しい。歯が鋭く、油断するとかみつかれる。一度かみつかれると血が中々止まらない。そのどう猛な性格は、一度捕食ターゲットを決めたならば、どこまでも追いかけてくるという執念深さを生み出している。活性の高い時は、顔を上にして立って泳ぎ、上層を泳ぐ魚に食いつく。その食いつき方も悪役そのもの。まず、相手の腹部にかみつく。そして、致命傷を与えておいてから本格的に食いつくという。だから、釣り人にとって見れば、あわせがかなり難しい。あたりがあってからすぐに合わせても、やつは餌の一部分しか食いついていないことが多く、ハリ掛かりしない。向こう合わせまでじっくり待つか、いかに食い込ませるかテクニックが必要となる。また、動くものに反応するフィッシュイーター独特の習性があるため、ルアー釣りの格好のターゲットにもなっている。口が大きく、歯が鋭いのもやっかいだ。ハリは軸のかなり長い専用のものが必要。歯が鋭いため、ワイヤーハリスで釣りたいところだが、活性が低いときは喰いが悪い。喰いが悪いからと、フロロハリスにするとあの鋭い歯に少しでも触れれば簡単に切れてしまう。水俣の堤防でこの魚と対峙したときもかなりストレスを感じさせる魚だと記憶している。だからこそ、この太刀魚釣りはゲーム性が高いと人気の釣りとなっているのだ。

 このところの相次ぐ低気圧の通過により日本列島は全国的に悪天候に見舞われていた。例年なら、むしろ台風に気を使うべき時期であるが、今年は発生しても中国大陸に上陸していくパターンが続いている。当然、海もこの天候に呼応するように時化の状態が続いている。離島便はもちろんのこと、近場の半島まわりの磯さえも中々ポセイドンからの許可がでない日が続いた。

 そんな中、「TURI NAVI」にこんな情報が私の触手を刺激した。7月〜8月上旬にかけて、「錦江湾の船太刀魚入れ食い。1人30〜50匹」釣れているという情報だった。天草野釜、野間池と2連続で途中回収という心の傷が癒えていないこの時期に、そんな情報を知らされちゃたまらない。早速、海晴丸のHPを見ていると、8月29日午後10時出発の夜釣りの計画があるとのこと。予約を入れようとрするが、もう予約で一杯だという。残念、遅かったか、万事休すと思いきや、船長が「そのままお待ちください。他にもお客さんがいたので、計画を変更してみます。」だって。しばらくすると、船長からрェかかってきた。「29日O.Kです。他の日にできるお客さんと替わってもらいました。」自分は29日しかできないという意志を伝えると、船長がいろいろとご苦労していただいたようだ。ありがたや。こうして、今回の釣行は、船太刀魚ということに決定したのだった。

 29日の仕事を終え、鹿児島県錦江湾奥に位置する「重富漁港」に到着したのが、午後9時半。もうすでに、たくさんの釣り師でにぎわっていた。例年なら、8月終わりから、10月くらいまで楽しめる太刀魚釣りだが、今年は、梅雨明けが早かったことも手伝ってか、7月下旬から釣れだしたという。1ヶ月早い釣況に今が最盛期ではという釣り師の野生のカンがこれだけの釣り師を集めたと言える。今日も定員10名の満員御礼である。

 船長が軽自動車でさっそうと登場。エンジンをつけ船に命を吹き込む。釣り師の動きが速くなる。「手ぶらコースの方ですね。氷と餌を受け取ってください」船長が話しかけてくる。この海晴丸での太刀魚釣りは初めてなので、不安が大きいと竿・リール・仕掛けを借りることにしたのだ。

 全員集合で、午後10時前、静寂そのものの重富漁港を出発した。天候は、いつ雨が降り出すかわからない状況。船長が「今夜は、3時までは大丈夫と思うんですよ。でも、雨はいいけど、雷が鳴り出せば、帰りますよ。」と天候の状況を客に周知徹底だ。ポイントは20分ほど走った錦江湾奥のポイント。南側に黒い桜島が見える。北向きに巨チヌのポイントである一辺島がある辺田小島が見える。他に、何隻か船が来ていた。おそらく太刀魚釣りであろう。



今回お世話になった遊漁船「海晴丸」さん

アンカーを入れ、船に灯りがともされ、釣りが始まった。「竿のシャクリがポイントですよ。魚の活性が高いから、これで大丈夫です。」船長が初心者の私に丁寧に教えてくれる。とても親切な船長だ。竿は、特注らしいがおそらく50号クラスのショートロッド。リールは、中くらいサイズのベイトリール。PEラインにやや小型の天秤仕掛け。おもりは50号。ハリスはおそらく4,5号クラスのフロロカーボンを1ヒロ。太刀魚専用バリにハリのチモトに蛍光ゴムを取り付け、ハリス切れ防止。餌はサバの切り身を縫い刺しに。仕掛けを30mほど落とし、少しずつしゃくりながら仕掛けをあげていく。そのしゃくり方、しゃくりのスピードで釣果に大きな差が出るという。


餌は サバの切り身


ショートロッドだからあたりがよりダイレクトに腕に伝わる

早速、あちこちから太刀魚が船上を乱舞し始め、船は活気にあふれ出す。暗黒の闇の中でスポットライトの光を浴びた太刀魚の輝く美しさと言ったら、言葉にできないほどだ。最初は苦労したものの、となりの人のしゃくり方などを参考にしながら試行錯誤していくとようやくパターンを見つけた。パターンを見つけたらこっちのもの。次々と太刀魚を抜きあげた。


指3本〜4本サイズが主体

今日は上り中潮だが、潮に関係なくどんどん食らいついていく。かれらのどん欲さはすごい。一度かじった餌をどこまでも追いかけていき、水面近くまであがってきてハリ掛かりするくらいだ。後ろの釣り人が、「おーい、だれかの仕掛けつきのタチを釣ったぞ。」と苦笑する。またしっぽの部分がない小型の太刀魚も釣った。おそらく、他の仲間からやりとりの最中に喰われてしまったのだろう。多くの個体は、白子を吹いていた。真子が確認できた。ノッコミ太刀魚だ。正に、今が最盛期というところだろう。


次々に太刀魚が仕留められていく


水分補給する暇もない 釣りに没頭できた濃密な時間

みんなあまりの忙しさに、水分を補給する暇もなかった。ノッコミ太刀魚は、我々に休息の時間さえも与えてくれなかった。スレでかかったり、PEラインを切ったり、仕掛けを切ったり、かなりの数の太刀魚がいることが、見えない夜の意味の中でも、はっきりと確信が持てるほど簡単に推測できた。仕掛けを入れては、しゃくる。しゃくってかける。かけてやりとりする。やりとりして抜きあげる。抜きあげて魚をクーラーに入れる。クーラーにいれたら餌を装着。餌を装着したら仕掛けを入れる。このまるで産業ロボットのような単純作業がなんとも面白いのだ。太刀魚とたくさんのおしゃべりを釣り道具を使ってやっているような感覚を持つことができた。いつの間にかみんな時間を忘れていた。

 楽しい時間はあっという間に過ぎゆくもの。冷たい風が頬をなでるようになると、ポツポツと雨が降り出した。時計を見ると、すでに午前3時。「やっぱり予報通り3時までは(天気が)もったなあ。今日は5時納竿です。」もうこれで十分。雨が降ってきたのでもう帰りなさいということだろう。その後、雨脚が強くなり、予定より早い午前4時前に納竿となった。

 港に帰ったころには、みんなずぶ濡れだった。しかし、心はみな晴れ晴れしていた。「今年は、釣れすぎてますね。だから、サイクルが長くなるんですよ。」と船長。一度にたくさん釣れすぎるので、お客さんを誘っても、「まだ冷蔵庫に魚が入っているのでもう少し後で」ということになるそうな。あまり釣れすぎるのも商売にとってあまりいいことではないらしい。「本当に太刀魚釣りが面白いのは、(喰いが)渋いときですよ。」と船長。
 錦江湾の海の恵みを心ゆくまで堪能できた今回の釣行。自分を海へ誘ってくれた太刀魚に、錦江湾に大いに感謝するとともに、太刀魚が来年のナイトゲームでも自分を呼んでくれるよう念じながら、雨の重富漁港を後にするのだった。



本日の釣果 指3本〜4本 56匹

釣った太刀魚を調理した。
メニューは太刀魚の骨せんべい、フライ、刺身。
さすがに旬だけあって、どれも美味しかった。
特に、刺身が脂がのって絶品だ。
知り合いに配り、残った魚は冷凍保存することに。
来たるべく食糧危機に備え、おみやげは大切にしなければと思うのだった。




TOP        BACK