10/12 撃沈街道まっしぐら 風雲児九州遠征編 甑島里

ピピピピッ

 携帯電話のアラームが鳴った。まだ意識がはっきりしない中、車の中に寝ていたことを思い出し、座席シートをもとに戻した。しばらくすると、そこが串木野港の蝶栄丸の駐車スペースであることに気づくのもそう時間はかからなかった。周囲を見渡すと、数人の釣り人が荷物を船の近くまで運んでいる。時計を見ると、午前2時過ぎ。まもなく、ネット上の釣り友達である「風雲児」さんを迎える時刻が近づいてきた。

 彼は一体何者なのだろう。ある時は、HP「GURESUMMIT」管理人。ある時は、磯、堤防、渓流、淡水とあらゆる釣りに精通するマルチアングラー。またある時は、食べたことのないようなゲテモノの魚まで食い尽くすというお魚拾い食いの達人。またまたある時は、南北朝の歴史を独自の視点で追求する歴史オタク。さらには、心温まるレスを必ず送る気配りの青年。その風雲児さんの九州遠征のサポートをするのが今回の私に与えられた使命なのだ。

 実は、今回の彼の九州遠征をサポートするにあたって、いきなり躓いてしまっていた。彼の九州遠征の目的は、硫黄島で釣りをしたいというのが、かなりのウエイトを占めていたようだ。ところが、一度はその目標が達成されたと思いきや。硫黄島では、夜釣りが絶好調。船長から、「カマタさん、夜釣りが好調だよ。」と逆ナンを受ける始末。夜釣りに不安を憶える風雲児さんにはこの時点で硫黄島は残念ながら遠征の選択肢から消えたのだった。申し訳ない気持ちで硫黄島に変わる釣り場として、甑島を選んだ。その中で上甑の「里」をチョイス。甑島の中で最も北のエリアに位置する「里」は、甑島の中でも一番早く良型のクロが釣れ出す場所だ。風雲児さんにゆっくり楽しんでもらうために、10月12日、13日の1泊2日釣りを計画。天気予報も良好で満を持して風雲児さんを待つことになったのだ。

 暗闇の中に、離島の釣りロマンに魅せられた輩が次々に港に集結していく。さあ、彼はいつ到着するのか。軽ワゴンに乗ってやってくるということはわかっているが。2時15分頃、1台の軽ワゴンが到着。中から1人の若者が下りてきた。いきなり荷物を運んでいる。人を探しているような雰囲気はない。自分の荷物を置く場所にまっしぐら、せわしそうに荷物を運んでいる。彼ではなさそうだな。

 しばらくすると携帯が鳴った。風雲児さんからだ。携帯でしゃべっている人を探すと、おやおやさっきのせわしそうな若者じゃあありませんか。短いあいさつの後、彼は私におみやげを渡すとせっせと撒き餌を作り始めていた。気が早い人だなあと思っていたが、バッカンに撒き餌を作らないと、荷物が多すぎて大変とのこと。エサトリの多さ、2日釣りということで大量の撒き餌を持ち込んでいる模様。彼の様子を見ていると、この九州遠征への意気込みがふつふつと伝わってくる。こりゃ、私もぼやぼやしてられないねと荷物を船に積み込み始めるのだった。

 お世話になるのは、南九州最強の渡船「蝶栄丸」。船長の「そろそろはしりのクロが釣れ始めるころだね」の言葉に期待をこめ、乗り込んだ本日の客は総勢15,6名。釣り人のはやる気持ちは、定刻の午前3時より10分はやい午前2時50分に船を出航させたのだった。
 


離島のロマンに魅せられた釣り師たち 串木野港

船の屋上で風雲児さんとしゃべっていると、早くも予想外の異変を感じた。船が結構揺れているぞ。船長から船の最上階から降りて中にはいるように促された。「2.5mの予報だったんですよ。」と風雲児さんがポツリと呟く。おかしい。あの天気図でなぜ時化てるんだ。悪天強暴組合の2人は凪になるはずの東シナ海をしけらせてしまったようだ。がっぱん、がっぱん。結構揺れているなあ。

 約1時間の船旅のあと、エンジンがスローになった。サーチライトが目標となる巌を照らしている。教会の尖塔のような巌に1名の底物師らしき釣り人が渡礁。里の沖磯群の中では最も沖に位置する黒神だ。寒グロの本格シーズンにはクロ、尾長の実績が高い場所だが、今は10月中旬。どうなんだろうね。風雲児さんと地磯に乗せてもらえないかなと話し合った。

 黒神から沖の島、双子島にそれぞれ乗せて、いよいよ船長から呼ばれた。「カマタさん、準備して、足場のいいところに行きます。」と船長。船が目的場所に近づく。岩の見覚えのある形そこが一度乗ったことのある近島であることがわかった。満潮に近いということでホースヘッドが一番上の段につけられる。2人は素早く渡礁。荷物を受け取り船長のアドバイスを待った。「左側の方に移って釣ってもいいよ。9時頃見回りに来ます。」乗せられたポイントは、昨年の寒グロ時期にのった近島の大穴のとなりの平瀬であることがわかった。釣り雑誌でお馴染みのこの磯は、寒グロ時期には、口太のデカ番、尾長の宝庫である。10月のこの時期に離島にほとんど行ったことがない自分には、これから先の釣りに不安を覚える。おそらく、朝マズメの数十分が勝負となるのではないだろうか。

 風雲児さんに視線を向けると、何か迷っているようだった。「夜釣りをしようかどうか。考えているんですよ。」それで出てきた答えは、「折角来たんだから夜釣りをやりますわ。」だった。風雲児さんは強めの竿4号をとりだした。ハリス6号の電気ウキでいざ勝負。まずは足下を探った。

 第2投ではやくもあたりをとらえた風雲児。ばしゃしゃと魚が跳ねている。よかった。魚種は何であれ、甑島のお魚さんは、はるばるやってきた来客をもてなしてくれたようだ。竿の力を利用してブリ上げられた魚は、40オーバーのオキナヒメジ。外道ではあるが、魚の活性は活性は最悪ではないことを確かめることができた。

 第2投で魚が釣れさい先がいいと思われたが、その後2人ともエサトリに翻弄され、ドラマもなく夜釣りを終えた。
 さあ、夜が明けた。この時期はおそらく朝の数十分が勝負。ほどよく解凍されたオキアミ生1角にパン粉2kg、V91袋を半日分として混ぜ合わせる。ここ近島の平瀬は、40メートルほどの広大な釣り座が確保できる広さだ。釣り座は船長の言うように、一番左側に構えることにした。北東の風が気になるが、ここは適度な根もあり、いかにも口太がいそうな気がする。



朝マズメに釣れた尾長の子

撒き餌を足下に打って第1投。潮は予想に反して沖に向かって右に流れている。全遊動で探るにはちょっと厳しい潮の速さだ。ガン玉を少しずつたしながら仕掛けが落ち着くようにしていく。釣り始めて数投目。潮がやや緩くなったところで、ウキがやる気のあるスピードで紫紺の海に消し込んだ。なんだ軽い。浮かせブリ上げた第1号は、25cm程度の尾長の子であった。海の中を観察すると、撒き餌におびただしいほどの小魚が群れている。手前はしっぽの白い尾長の子、その先はイスズミが陣取っている。何匹か尾長の子を釣ったもののその後は、イスズミ攻撃に翻弄された。


初めての九州遠征で奮闘中の風雲児

一方、風雲児さんもいろいろ手を変え品を変え奮闘したが、やはり釣れてくるのは尾長の子だったそうだ。9時過ぎになり、船が近づいてきた。「風雲児さん、どうします?瀬替わりしますか。」「どっちでもいいですよ。」蝶栄丸に呼ばれて事件は起こった。船長がすまなさそうに事を切り出した。「カマタさん、あのね、知り合いに不幸があってね。今日の泊まりができなくなったんですよ。」えっ、そんなあ。蝶栄丸は石原荘という民宿も経営している。その民宿では甑島ならではの手料理が釣り人の疲れを癒してくれる。風雲児さんにもその甑島の恵みを楽しんでいただきたいと予約しておいたのに。考えてもどうにもなるものではない。その旨風雲児さんに伝え、瀬替わりをお願いすることにした。

 瀬替わりした場所は、近島のやや北側に位置する松島のヘタママコであった。瀬自体が低くこれから潮が引いていく状況で乗せられる磯場だ。ここもエサトリが多かったが、小さい魚が少ない。偏光グラスでのぞいてみるといるはいるは。50を越えるイスズミが餌を拾っているのが見える。しかし、つけ餌には見向きもしない。見える魚は釣れないと遠投したり、瀬際をねらったりするが釣れてくるのはやはりイスズミだった。

深く入れると秒殺で仕掛けがとぶ。その強烈なあたりを何とかとらえて浮かせると、色鮮やかなブダイが浮いてきた。



深く入れるとブダイがあいさつしてくれた

風雲児さんも奮闘していたが、いつの間にか、磯場にあるタイドプールで泳ぐ小魚を細仕掛けで釣る妙技を魅せてくれた。しかし、「全然釣れませんなあ」とぼやきが・・・。


アクシデントに風雲児われ小魚とたわむる

こうして、1日目を終えた2人。夕マズメがチャンスと考えていたのに、アクシデントにより一度串木野港に戻ることになった。港に戻って民宿を風雲児さんに手配してもらい、串木野に宿泊。同じ串木野港から出る甑島への渡船に片っ端から電話して明日の釣りの計画を立てることにした。まず、鹿島へ誘う「誠芳丸」「明日お客さんが入ってないんですよ。」えっ。やはり、このクロ釣りには早い時期だけ客が集まらないのか。手打の「ナポレオン隼」はと電話するけど、「明日は用事があって休みなんですよ」鹿島へ行く「ハーバーワン」は「明日はお客がいません」鹿島へ行く「昴エクスプレス」は「お客が3人でだめです。燃料代が高いんで8名集まらないとでれないんですわ。」串木野港から甑島に向かう渡船はこれで打ち止め。仕方がないので、阿久根港から出る同じ上甑里へ行く「藤丸」に連絡をとると出るとのこと。よかった。何とか風雲児さんの2日目の釣りのサポートができるぞ。


藤丸も黒神からの渡礁


双子のハナレに渡礁 昨日と同じ尾長の子


双子の離れ釣り座


私の釣り座 エサトリ天国


風雲児さんの釣り座 尾長の子と遊ぶ


瀬替わりした先はまたまた近島の平瀬


カメノ手釣法 撒き餌仕掛け同時打ちの妙技を魅せてくれた


イスズミ弱らせ泳がせ釣法


またいつかリベンジに来るぞ


最後まであきらめない メッキを見つけてルアーを引く

2日目もさしたるドラマもなく同じような展開で釣りを終えた。私の青物らしき秒殺のあたりと風雲児さんのスジアラのおでまし、そしてイスズミを弱らせての泳がせ釣法以外は。せっかくの九州遠征なのに、アクシデント続きで思うような釣りができなかった風雲児さん。しかし、彼の飽くなき探求心、釣りへの執念は見るべきものがあった。ぜひ、寒グロの時期にきて、垂涎の地「硫黄島」で釣りを存分楽しんでもらいたいものだ。


TOP        BACK