11/2 硫黄島でビバーク 硫黄島

「船長、3日に予約お願います。」「まだ、水温が高いから、(2日からの)夜釣りで出ますよ。夜釣りで結構釣れているよ。クーラー満タン釣ったひともいたよ。タジロなんか、青物やカンパチなんかも釣れたよ。」硫黄島では異変が起こっていた。これまで、離島の夜釣りシーズンは、9月までが常となっていた。最近は、水温が高いので、昨年は10月いっぱいまで夜釣りで出船したらしいが、今年は11月に入っても夜釣りで出船するという。今シーズン2回の離島の夜釣りに出かけたが、2回とも満足いく釣果をあげることができなかった。あきらめていたが、こう船長にモチベーションを高められてはしかたがない。船長にこう言われて、瞬時に「2日からの夜釣りでお願いします。」と答えてしまったのだった。


 硫黄島へ誘うのは もちろん黒潮丸

2日は、遅い秋雨前線が日本に近づく。予報は、2日の午後から3日の午前中にかけて雨。2日が50%、3日が80%。折角訪れた最後のチャンスなのに。出航はあり得ないと3日の船釣りか阿久根大島の磯釣りあたりを考えて、黒潮丸の船長に電話した。「出ます。50%と言うとりますから。2時半に来てください。」意外な結果だった。天候の判断はとても慎重な船長なだけに。しかし、ことの顛末はどうであれ、硫黄島に行けるのは間違いない。遠足に行く気分で前日準備を終えた。


ここのところよく釣れている鵜瀬に渡礁

午前11時半に人吉を出発。枕崎港についたのが、午後2時過ぎ。船長の話によれば、船釣りの客と磯釣りが2人という布陣だ。船長がすでに到着。「カマタさん、今日は磯釣りは2人だからポイントは選び放題だよ。どうする?鵜瀬はデカイのが釣れてたし、平瀬も10枚釣れたよ。みゆきでも2桁釣り。」「タジロはどうですか。」青物をねらいたい自分は、思わず青物の1級ポイントのタジロが気になった。先週、タジロで大釣りがあったようで、第一希望はタジロだったからだ。「結構釣れてたよ。朝方ヒラスがまわってきたよ。」「型はどれくらいですか。」「50cm〜60cmくらい」だったな。やはり、タジロでは青物がまわってきているようだ。


鵜瀬のシブダイポイント

船釣りの客が到着して全員集合。いよいよ出航だと思いきや氷を入れる段になって船長が、「クーラーはイグローじゃないと入らないよ」とぼやいている。よく聞いてみると、この4人組は、船釣り初体験だったそうな。だから、硫黄島という釣り場がどんなところかよくわかっていないらしい。持ってきたクーラーは、アジゴ釣りで使うレジャークーラーだったのだ。初心者も釣りにかける思いは同じ。いろんな人がいて釣りという業が成立する。そんな釣り師たちを飲み込んだ黒潮丸は、午後3時にどんよりとした空の枕崎港を離れた。

 快適な凪ぎの海を航行。天気に一抹の不安を覚えたもののウキウキ気分であっという間の90分間だった。いつものように鵜瀬の近くでエンジンがスローになった。船長から呼ばれた。「カマタさんどうする?平瀬やタジロもいいけどシブの型が小さいからね。鵜瀬はこの前もよく釣れてたからね。」船長は鵜瀬に乗せたがってしるようだ。この硫黄島の状況を一番知っているのは船長だ。タジロのヒラスも捨てがたいが、今回は青物ねらいはやめてシブダイねらいで行こう。「船長、鵜瀬でお願いします」「今は中潮の終わりががたやから、タジロは潮が入ってこんかもしれんからなあ。」船は鵜瀬にゆっくりと近づいていく。目の前に天空を指し示した大きな巌が見える。南九州の代表的名礁「鵜瀬」が今日も釣り人を黙って迎えてくれる。

 「カマタさん、今鵜瀬の右側に上げ潮が走ってるんですよ。今から船を着けるところは潮が動いてないから撒き餌がたまるんですよ。だから、右の先端の根のところに撒き餌して釣ってください。下げになったら、撒き餌が全部流れてしまうから。」わかった。前回鵜瀬に乗ったとき、下げ潮になったら釣り座からみて左側の根回りに撒き餌がたまるからそこをねらえということだな。
 船が着けられた。ここは、釣り座が高い位置にあるため、まず自分が上の段にのぼって、もう1人の方に鵜瀬の下の段にのってもらって荷物の受け渡しをお願いした。「7時回収です。雨が降ってきたらごめんなさいな」天候の不安がありながら出航したことをこんな言葉で船長は表現してくれた。



黄金に輝くシブダイ 左の根回りでHit

上の段の広い釣り座はいかにも夜釣りにうってつけの場所だ。最近の状況として、上げ潮の水温が高く、その時に夏魚が竿を曲げてくれるという。下げになるとどうしても魚の食いが落ちてしまうそうだ。今日の潮回りは下り中潮3日目。上げ潮は、午後8時39分までと午前3時31分からということになる。チャンスタイムは、夜になってすぐと明け方ということになる。
 さあ、まずはつけ餌であるサンマをぶつ切りにしパックに入れてクーラーにしまう。撒き餌のタレクチイワシのトロ箱を細かくきざむ。タックルは、2種類用意。石鯛竿に中通しおもりのブッコミ仕掛けと、5号竿の電気ウキ仕掛けだ。


北向きの強風に絶えられず 冬期の尾長ポイントに避難

夜の帳が降りて、いよいよ釣りを開始。6時頃、まずは電気ウキ仕掛けでトライ。関ちゃんさんが、イカでシブが釣れたという情報をくれたので、スーパーで小型のイカを準備していた。鵜瀬の左側を上げ潮の本流が走っている。船長のいうように船着けのところは、潮が動いていない。撒き餌がたまる場所だ。とりあえず、左の根回りをねらうことにした。根掛かりしたりしながらも何とか底の状況が予想できたところで、タナを竿2本弱に設定し、左の根回りに仕掛けを投入。仕掛けが馴染むと、ウキが一気に海中に消えた。シブダイらしきあたりだ。あわせを入れるとぐーんと5号竿にのった。始めは鋭い突っ込みだったが、後はあっさり水面をわった。間違いない、シブの引きだ。ブリ上げて魚を確認すると、黄金に輝く魚体がピチピチ跳ねていた。40に満たない魚だが、本命は本命。大切にクーラーにしまった。

 上げ潮の時間帯がチャンスと釣り続けるが、ブッコミでキロ弱のシブダイを2匹釣ったところで満潮の潮止まりを迎えた。9時過ぎに、今日一番のあたりをとらえたが、上がってきた魚は、良型のウツボだった。ここから、魚よりも気になることがあった。それは天候である。魚釣りに夢中になって忘れていたが、この日の予報は80%だった。

9時
釣りをしていると、北から冷たい風が吹いてきた。これまでの釣り経験から冷たい風が吹いてきたときは要注意。案の定、15分過ぎたころから、粒の大きい雨がぱらついてきた。こりゃやばいかも。着替えを準備してきてよかった。がまかつのレインウエアの上から釣り用のポンチョを被ることにした。この時点ではまだ余裕だったのだが。

10時
雨が一時的にやんだ。なんだ、今夜の雨はたいしたことないようだ。楽観的になったのもつかの間、再びさっきより更に冷たい強風が北から吹いてきた。これまでの経験からすれば、かなりやばい状況だ。すると、いきなりさっきより粒の大きい雨が音を立てて降ってきた。こりゃやばい。一時的に壁のようなところに避難した。激しい雨。とても釣りを続ける気になれない降水量だ。

11時
雨は一向にやむ気配がないどころか、ますます強くなってきた。風も強くなってきた。時折突風を伴った横殴りの雨が釣り人の体を容赦なく叩く。それでも時折釣り座に戻り竿を握っているものの、ものすごい風で竿を持っているのが精一杯。魚のあたりをとらえるのが困難になってきた。これからどうなるのだろう。

12時
雨はいぜんとして降り続いている。さすがに80%だ。水がウエア内にしみ出してきた。こういうときに限ってシューズ型の磯スパイクを履いてきていた。雨水がどんどんしみてくる。下着は、汗をかくと暖かくなる釣り用のものを着てきたが、寒さはどうしてもしのげない。しかたがないので、最後の手段で持ってきていた冬用のフィッシングウエアをレインウエアの上から羽織って寒さをしのぐことにした。それでも寒さはしのげない。雨よやんでくれ。

1時
釣りを時折やってはみるが、相変わらずの突風と下げの激流でウキ釣りはできず。ブッコミも30号のおもりでは底まで届く前に根掛かりをしそうで躊躇していた。もはや魚をどう釣るかということよりも、後6時間どうやって過ごすのかが心配だった。

2時
まるで修行だ。冬のウエアもびしょ濡れ。体が冷えている。干潮まで後1時間、これから期待の上げ潮だというのに、一向に雨がやまない。それに釣りをしようという気になれない。平瀬の釣り人は大丈夫だろうか。さっきまでは時折灯りがともっていたが、このところ灯りも途絶えてしまった。平瀬の釣り人も雨に濡れて私と同じようにビバーク中だろうか。

3時
雨はやまない。もう限界だ。これ以上ここにいても何の意味があるというのだ。今日は魚にあいにきたのだ。がまん比べにきたのではない。船長に電話するが、「船釣りの人がいるからいけないよ。北風でしょう?裏に行けば風はしのげるよ。体力使うけど、そこで回収するから荷物をそこまで運んで。」今は干潮なので回収が難しいそうだ。仕方がないので、裏の冬期の尾長ポイントまで移動することになった。不思議なことに船長に電話した後は、雨が小やみになった。荷物を半分まで運んだ後だったのに残念。風まで収まってきた。これなら、さっきの場所で粘った方がよかったかも。


平瀬の釣り師は大丈夫だったろうか?

4時、ようやく荷物を運び終えた。時計を見ると午前4時半あと2時間の釣りである。しかし、ここはイスズミのアタリしかなく。無念の思いを抱きながら6時半に納竿とした。


また撃沈かい 硫黄島が語りかける

港に釣りを振り返った。船釣りに人たちも雨で大変な思いをしたらしく、釣果は船釣りとしてはもう一歩だったらしい。船長が朝方タジロ方面に行き、船長の指導のものヒラスを3本ほどあげておられた。もう1人の方は、あの雨の中ずっと釣りを続けておられたそうだ。かなりの精神力の持ち主だ。クーラーの中は、シブダイ、スジアラ、コショウダイ、ブダイなどの夏魚をクーラー半分ほど釣っておられた。


本日の釣果 さみしーい でも我が家の食材としては十分

「まだまだ、水温が高くてねえ。鵜瀬は魚の多いところなんだけどね。」またまたおいらの惨敗釣果をのぞき込みながら船長は首をひねった。しかし、自分の心は晴れ晴れとしていた。あんな状況の中で何とか絶えられたことと鵜瀬での釣り方が少しはわかったからだ。あまり釣れなくても「そんなの関係ねえ」じゃんと独り言を言いながら、今回も惨敗の二文字を飲み込みながら、小雨の降る枕崎港を後にするのだった。


シブダイのしゃぶしゃぶ 皮付きがまいう〜


シブダイのてこね寿司

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