12/13 すがすがしい釣りとは 硫黄島

師走になった。我々が走ると言われている季節だ。しかし、私は、この時期には磯の上を駆け回るようにしている。磯釣り師なら誰もが知っているように、水温が下がり良型のクロが釣れるようになるからだ。今まで君たちは一体どこにいたんだよと言いたくなるくらい、磯の上にはかなりの人数でふくれあがる。私も負けていられないと思うのだが、クロを釣る前に逢っておかなければならない友達がいる。それは、シマアジだ。硫黄島のタジロ瀬では、渡り鳥のように毎年12月になると、どこから回遊してくるのか定かではないが、シマアジがやってくる。良潮がながれると、良型のシマアジ、スマガツオなどの青物もあたってくるというから楽しみだ。

 シマアジは青物のたぐいであるからして、その疾走振りはかなり高いレベルにある。喰ったら一気に沖に底に疾走を繰り返す。その疾走ぶりに似合わないのがガラスの唇と言われているところだ。唇は切れやすく、喰わせてもバラしてしまうことが多い。そこで、唇にかけるのではなく、飲ませなければならない。だからシマアジを釣るときにはチヌバリの5号という磯釣りではほとんど使わないアイテムの登場というわけだ。

 12月13日(土)大潮。7時半過ぎが満潮でその後ほぼ下げ潮で釣ることになる。タジロでは、シマアジが釣れるのはきまって下げ潮だから好都合だ。「一応出ることにしましたわ。次の日がしけだから、日曜日はだめです。3時集合な。」船長から久しぶりのGOサインにほくそ笑む私。去年は、土日の度に時化で硫黄島の磯さえあがることができなかった辛酸をなめさせられた。つまり昨年の12月のシマアジの状況がどうだったかわからないのだ。しかし、それまでは、ずっと釣れていたからだいじょうぶ。道具類をまとめ午後11時頃自宅を出発。途中仮眠を取り、午前2時ごろ枕崎港に到着した。

 釣り客は8名という布陣。そのうち4名が上物。いつもは、底物師がにぎわいを見せる時期のはずだが、この少なさには訳がある。下げ潮が日中釣りのほとんどになる今日の釣りでは、最近の傾向として、下げ潮に水温がさがり魚の活性が下がる。そのことがわかっている底物師は、大潮を敬遠したのであろう。また、沖磯を中心に激流が流れることを予想しての見送りも考えられる。 しかし、私はサラリーマン釣り師。私に選択の余地はない。休日が釣行日なのだ。



潮がいけば釣れるよ 船長談

3時前に枕崎港を出港。ややうねりのある暗黒の海をひた走ること90分、いつものように鵜瀬の手前でエンジンがスローになった。底物師が底物師あこがれの鵜瀬に渡礁をすませ、船は再び全速力に。その間に、キャビンを出る。満月が硫黄島の山陰の色がかわるほど明るく照らしている。島の東側の周辺を走る黒潮丸。そのことから、船はいつもの浅瀬ではなく、私が乗る予定の地磯タジロへと向かっていることがわかった。硫黄の臭いが鼻をつく。エンジンがようやくスローになった。船の行き先を解した私は船長に呼ばれる前に船首部分に道具をまとめ、接岸をまつ。船が磯につけた。いまだ!最近毎日ジョギングしている安定した足腰で渡礁をすませる。9時頃迎えにきますから。船はゆっくり反転し、西磯方面へと消えていった。


今日のタジロのご機嫌は?

撒き餌は、赤アミ、オキアミ、集魚材1袋を3時間分とした。さあ、夜釣りはブッコミだと石鯛竿を取り出すと衝撃が走った。石鯛竿「幻覇王」の穂先がないではないか。いつの間にか折れていた。ガックリ肩を落とすおいら。頭の上で修理代の数字が踊っていた。


朝が来た 撒き餌も十分

夜釣りはあきらめ、撒き餌を始める。30分ほど撒き餌を続け、いよい仕掛けを入れる。まだ上げ潮の時間帯。これまでの経験では、上げ潮の時間帯はイスズミ天国になることが多く、水温の関係では瀬際からのぞいているとイスズミが浮いて餌をついばむところが視認できるほどである。下げ潮で水温がさがり、イスズミの活性が落ちたところからシマアジタイムになると予想しながら。


朝一できたわけのわからないお魚さん 風雲児さんなら知ってるね

餌を撒いているが、不安がよぎった。魚が全然見えないのだ。船長によれば、このタジロには久しぶりの瀬上げらしい。魚が寄るまで時間がかかっているんだな。この瀬のおもしろいところは、海底から温泉が湧き出しており、急激な水温低下でもここだけは魚の活性が高いところ。潮の濁りもまずまず。あまり澄み切っていると警戒して浮いてこないし、水温が下がることが予想される。この濁りなら、魚の警戒心もいくらかとれて、温かい環境のもとで食欲も旺盛になるのでは。
 しかし、おかしいぞ。魚が何にも見えないし、しかけを2ヒロ、3ヒロ、竿1本、竿1本半、竿2本。おやっ、まったく餌を触ってくれないではないか。いつもはいやというほど釣れて困ったエサトリのイスズミもまったく釣れない。一体どうなっているんだ。久しぶりだから魚が寄っていないと、撒き餌を続け、ようやく餌が盗られ始めた。オキアミを遠慮がちにかじる程度。または、頭だけ取ったり。まるで、甑島の難し時期のい釣りのようだった。


イスズミが釣れてホッとするが

汲んだ水を触ってみると冷たいし、戻ってくる餌が冷たい。水温が急激に下がったと考えた。こんな時はワンドや瀬際をねらおうと竿1本ほどをねらっていると、やっとで喰わせた。しかし、上がってきた魚は、カワハギ系のわけのわからないお魚さん。時計を見るともうすでに8時を回っていた。今までの経験では、下げ潮に変わったとこだし、そろそろシマアジが釣れてもいいはず。相変わらず、餌だけが盗られる展開。このタジロでは半遊動が有利なのだが、小粒のウキを使っても、食い込みに至らない。しかたがないので全遊動に切りかえると、ようやくイスズミの40オーバーをゲット。


潮が変だぞ

今までなかったことだが、喰い渋りには違いない。全遊動を続けているが、どうしても魚のタナを通過してしまう。再び、プロ山元ウキG2の半遊動に戻し、釣りを再開する。黒潮丸が見回りにやってきた。「どう釣れてる?」だめのサインを送った。「ダメ?シマアジ1匹も釣れてないの?どうしますか。みんな瀬変わりするみたいだけど。」まよったが、今までのいい思いが頭をよぎり、ここで粘るのサインを送った。

「1時前に迎えに来ますから」と黒潮丸は去っていった。



シマアジはいずこへ

そろそろ釣れるさと仕掛けを打ち返す。撒き餌がようやく効いてきたのか魚の活性が上がってきた。ウキを一気に持っていく離島ならではの釣りが楽しめた。しかし、釣れてくる魚は最後までイスズミだった。ここのイスズミとにかくはでかい。50オーバーを3枚。その他すべて40オーバー。腕が痛かった。来るべきというか果たしていつになるのかわからない尾長との勝負の練習にはなった。


硫黄島の上物釣りで初めてのボウズを喰らった

久しぶりに喰らったボウズ。しかも硫黄島の上物で一度も経験がなかったボウズをやってしまった。しかし、1匹釣れたより、1匹も釣れないボウズの方が不思議とへんな爽快感があるのはなぜだろう。回収の時間になり、迎えにきた船にボウズを報告。驚く船長。「いい感じの潮のにごりなんだけどなあ。タジロは久しぶりで期待しとったんだけど」船長首をかしげるばかりである。腕がないからしかたがないけど、へたな自分を責め気持ちにはなれなかった。なぜなら、すばらしい自然が眼前に広がっているからだ。


硫黄島南東部から東へ進路をとる

惨敗を喰らった時は、折角安くない渡船料をつぎ込んで来たのだからクルージングを楽しむことにしている。硫黄島に通う理由のもう一つはここにあった。


島の東側は噴煙をあげていた

古くは平家物語から記述が見られ、今も日本有数の活火山として噴煙を上げ続けている硫黄島。魚影の濃さだけでなく、見事な山肌と蒼い海のコントラスト。見て楽しみ、硫黄の臭いで楽しみ、そして、釣って楽しむ。硫黄島の魅力は計り知れないものがある。


ここが島の東側

ここが島の真東にあたる。ここから北向きに進路を取れば、釣り師憧れの鵜瀬、平瀬につく。更に東に目を向ければ竹島が見える。船は北向きに進路を取っている。新島に向かっているようだ。


新島での回収 時化男のK野さん、見事クロをゲット

新島では3名の上物師を回収するようだ。関ちゃんさんのお友達の時化男K野さんもおられた。みゆき瀬からここに瀬変わりされたそうだ。いい型のクロをゲットされていた。

予報は、昼から雨。枕崎港についたころは、強い雨が降っていた。船長の釣りを振り返り、毎回のことだが枕崎の漁協でリベンジを誓った。「船長28日からの2日釣りでお願いします。」「こんどはクロ釣りで行こう」と船長に励まされ別れた。おみやげなしの時必ず立ち寄るお魚センターで、めぼしい魚がなかったので、氷しか入っていない軽いクーラーを乗せてすがすがしい気持ちで枕崎港を後にするのであった。



本日の釣果 あれっ ボウズクラブ入会でごわす


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