2/28 なごりグロ 硫黄島

「でますよ。餌は2つずつとっといたから。2時半集合です。」

船長が一気にまくしたてる。2月も3回目となれば、船長とのやりとりもあうんの呼吸だ。年末、および1月は時化続きで磯にたつことも許されなかった寒グロシーズンだったが、2月に入り天候が安定。11日、15日と今までのうっ憤を晴らすかのように硫黄島へと足を運んだ。 
 地球温暖化のせいなのか、このところ寒グロシーズンは時期が遅れたような気がするのは、自分だけだろうか。1月後半になってようやく寒グロらしい釣果が聞かれ始めるが、2月の声を聞くと瀬ムラがみられはじめる。クロの宝庫甑島でも食い渋りの状況が現れる。魚が食い渋る中でどう食わせるかという釣りは、釣りの醍醐味の一つだが、ウキが一気に消しこみ、道糸が走るという釣りも釣り師の憧れだ。38歳からようやく釣りを始めた自分には、昔の話ではない現実の話として、撒き餌をすればクロが乱舞するという世界を体験したい。人間の登場で学習能力の優れた魚ではなく、純真無垢な青い瞳の相手と釣りという業でつながりたい。こんな贅沢な欲望を叶えてくれる場所がある。それが離島である。2月の終わりといえば、産卵期を前にして魚が食い渋る中、多くのクロ釣り師がチヌ竿や石鯛竿に握り変える時期。そんな中でも、ガンガン喰ってくれるクロがいる離島。寒グロの終わりを告げるこの時期でもクロ釣りの醍醐味を味わわせてくれる海がまってくれている。何としてもなごりグロを釣りたい。これらが、私がこの時期離島へ行く理由である。 

 とはいえ、硫黄島でどこでも釣れているわけではない。12月から1月にかけては、鵜瀬、鵜瀬のハナレ、平瀬、浅瀬のハナレなど、どこでも大釣りできる可能性を秘めているが、2月となると、これまでの経験から新島やタジロあたりが狙い目だった。今年の2月に入り、船長の計らいで新しいポイントを開拓することになる。それがみゆき瀬だ。クロや青物の実績が高く、特に寒グロ終盤に実績があるという情報は得ていたものの、これまで不思議と縁がなかった。

 その理由は今月の11日に初めて上礁したときにわかった。唯一船をつけることができる場所は、低く、波をかぶりやすい。うまく上礁すれば、今度は重い荷物を2mくらいある上の段にあげなければならない。一人ではロープが必需品になりそうだ。その上の段に荷物をまとめ、さらにその先の下の段に降りてようやく夜釣りの尾長ポイントに。そこは沖向きでサラシが発生しやすく、昼でもクロのポイントとなりそうだが、そこはイスズミの餌食になるとのこと。昼のクロのポイントは実は地磯向きの方なのだ。そこに3つのポイントがある。一番おすすめは奥の釣り座。そこに行くのが一苦労。狭い磯の割れ目に入り、流紋岩と思われるすべりやすい岩の崖をよじ登り、細い岩山の尾根を這釣り座に到着。初めてたどりついた時、汗だくになった。ここは一人では無理ではないかとその時思ったくらいだ。だから、船長は硫黄島に通い始めて日が浅い自分にみゆき瀬をすすめなかったんだ。

 これだけ体力を使わされるのにみゆき瀬が人気なのは当然のことながらその魚影の濃さにある。巌全体がオーバーハングになっており、魚たちの格好の住処となっている。本命の下げ潮が流れれば、爆釣モードに突入する。11日にご一緒させていただいた名人のHさんが25枚の爆釣劇を演じ、15日は私が上げ潮のみの時間帯だけだったにも関わらず10枚。ヒラスのおまけまでついた。たまたま潮がよくて釣れたというのではない。潮がいかなくても、水温が下がっていても、釣り人に海の恵みを与えてくれる魚影の濃さ。それがみゆき瀬の魅力なのだ。 

 28日の今回もみゆき瀬を予約。チヌ釣りに心変わりしたuenoさんは幸福丸で湯島へ行くというので、一人での釣行だ。天気予報では、曇りで降水確率40%。波高2mで出港可能と船長の判断で前日の午後11時に人吉を出発した。

 午前1時過ぎに枕崎港へ到着。早くも離島への夢とロマンに魅せられた釣り人たちが談笑していた。「6時間かかったよ」今日は、遠くは山口県からの参戦があった。船長と話している。「日曜日の明け方は雨というとりますから1泊は無理ですね。」せっかく遠路はるばるやってきたのに気の毒だと視線をそらすと、うれしい顔を見つけた。


今日も硫黄島 黒潮丸


11日にご一緒せていただいた名人のHさんだ。「どうもお世話になります」とすかさず挨拶。「今日の瀬割では、みゆきにのれんよ。かいしん丸の当番瀬さ。」と姶良町からお出でになった名人は私の意図を見透かしたように答えた。残念に思っていると、「あっちがかいしんの舟着き場だよ。明かりがついてないから今日は出港しないかもしれないね。」とうれしい情報を寄せてくれた。

 2月28日(土)下り中潮2日目。満潮が9時半ごろ。下げのポイントであるみゆき瀬なら後半の2時間半が勝負だ。Hさんもみゆき瀬が希望らしい。今日は底物師が多いのでうまくいけば、この前と同じようにHさんと一緒にみゆきに乗れるかも。荷物を船に積み込み、キャビン内に滑り込む。荒れ狂った1月と違い、2月は穏やかな海。黒潮丸はゆっくりと枕崎港内を航行。いつものように堤防を過ぎるとエンジンは高速回転になる。さっきまで離島への旅立ちに興奮冷めやらぬ山口からの釣り人たちも凪の海を確認すると静かになった。

90分というのは本当にあっという間の航海だ。エンジンがスローとなり、しばらくたった後、平瀬からの渡礁が始まった。続いて鵜瀬、新島と尾長、石鯛の好ポイントに釣り人が次々に乗っていく。暗闇の中で今日の海況をこの目で確かめてみる。北向きの風が心地よく顔をなでている。いつもは新島にはっきりとサラシが確認できるのだが、今回は・・・。凪というのがありがたいことなんだが、北向きのこの磯でサラシがあまり確認できないなら、口太が口を使ってくれるだろうか。不安がよぎる。

 しばらく船は漆黒の海を走る。この波なら、次は底物の名礁「浅瀬」のはず。とゆったりと構えていると、「カマタさん、準備して」と船長に呼ばれる。船の前部分に移動すると、名人Hさんが荷物を前に出しておられた。何もいわれなくてもどうやら11日と同じく、Hさんと2人でみゆき瀬に乗れることが確定的になった瞬間だ。暗闇の中に口太、尾長、青物の好ポイントである「みゆき瀬」が忽然と現れた。クロが産卵のために喰いが渋くなり、釣り人を悩ませるこの時期に、抜群の魚影を誇る数少ない名礁である。巨大な巌の足元は広大なオーバーハングが存在するといわれ、そこには瀬の主である「座布団尾長」が住んでいるらしい。過去にも68センチというとてつもないデカ版が仕留められている。そして、その主を守るように居付と渡りの口太が産卵前の平安の地を求めてこの磯に張り付いている。また、その外側に、クロの何十倍もの数のイスズミやソウシハギ歩兵軍団が「みゆき」という要塞を防御している。うまく攻めないとこの歩兵にしてやられ、餌だけを提供して帰ることになる。この難攻不落の要塞は潮などの条件が良ければ、最高の海の恵みを与えてくれる。さあ、今回のクロの要塞の機嫌はどうだろう。


朝まず目に 尾長の夢を求めて

ホースヘッドが磯に付けた。うねりがあり渡礁に慎重さがもとめられた。50半ばとは思えない名人の見事な渡礁に感心しながら、荷物を受け取りった。「荷物を高い処に上げて」と船長がアドバイス。暗闇の中黒潮丸は西磯方面へと向かった。「よろしくお願いします」名人にあいさつした後、要塞の門をこじ開けた我々は、城壁を登るように、1.5mほどの高さの上の段に荷物をあげる作業に入った。口太のポイントの天守閣の途中の足元が夜尾長のポイントである。

 尾長は、石鯛竿にワイヤーハリスを使った宙釣り。かけたら絶対取る仕掛け。しかし、今回も尾長は姿を見せてはくれなかった。午前7時、明るくなったので口太仕掛けに変更。これから本丸を攻めるために石鯛竿の重装備から身動きのとりやすい軽装備に変えなくてはならない。竿はダイワマークドライ遠投3号ー53。3Bのウキに道糸5号、ハリス4号をセット。バッカンにドンゴロスという装備で、磯の割れ目を下り、波しぶきを跨ぎ、波の振幅を計算しながら崖をよじ登った。そして、最後の難関天守閣の釣り座に行くのに、ホタテ岩の尾根を慎重に進んでようやく到着。瑠璃色の風が心地よい。朝まず目ということもあり、まずはヒラスなどの青物狙いと決め込んだ。


今日はサラシがないね


中潮2日目だというのに潮の動きが今一つ 


となりの赤岩も好ポイント


とりあえずヒラスねらいで

さあ、期待の第1投。30分ほど撒き餌をしたから、青物がいるなら食いついてくれるはず。極上の刺身を求めてウキを凝視。予定通り、紫紺の海にウキが忽然ときえた。離島ならではのやり取りが始まった。浮いてきたのはイスズミ。ここのイスズミはタジロや平瀬などに比べれば型が小さいのでありがたい。海へお帰り願う。まずはサラシがないということで通常の浮きフカセ釣りで1ヒロの半遊導とした。海を見ると、クロの姿は確認できず、歩兵のイスズミ、ソウシハギが活発に餌を拾っている。撒き餌を打っている割れ目に今度はミャク釣りで仕掛けを入れるがイスズミに捕まる。勝負にならない時間が続いた。


大活躍のソウシハギくん

8時過ぎに名人も登ってきた。となりの赤岩で勝負。しかし、ここも歩兵の力が強く、なかなか口太まで餌が届かないようだ。名人もかなりの苦戦を強いられていた。今日は午前9時半が満潮。上げ潮は本命ではないから下げに入るまで我慢とウキ釣りに変えた午前8時半。釣研競VR3Bがやる気のあるスピードで視界から消え、道糸が走った。イスズミとは違う引きだ。白い尻尾が見えた間違いない。35cmほどの渡りクロがやってきてくれた。おつかれさんです。


ようやく逢いに来てくれたなごりグロ

この釣果を見ていたHさんがこちらへやってきた。名人の釣りを間近に見る機会があたえられた。何のドラマもなく、それぞれ3匹ずつ釣ったところで満潮潮どまりを迎えた。今日は潮の動きが悪く、動いては止まり、止まっては動くという展開。前回25枚釣ったHさんも納得がいかないご様子。 

 ところが、満潮を過ぎたころからさらに悔しい展開が待っていた。おびただしい数のクロが見えだしたのだ。さらに撒き餌をつづけると、完全にういてしまったクロが水面でばしゃばしゃいわせて乱舞しはじめたのだった。数100匹いる大集団。硫黄島のクロがみんなここに集まっているようだ。テンションあがる2人。しかし、魚は意外なことに冷静だった。地磯の壁に張り付いて、釣りが難しいところへわざと移動する。たとえ喰わせたとしても取り込み不可能なところに回ったり、釣り人を小馬鹿にしたような動き。だれかリーダーがいるのではないかと疑いたくなるほどの一糸乱れぬ統率された動きだ。見える魚は釣れないの格言通り、ウキグロに向かって仕掛けを入れるもののほとんど喰わせることができなかった。2人で8匹ずつと何とも悔しい結果となった。前回は、早めに竿をたたんだHさんも時間ぎりぎりまでものすごい形相で釣りに集中されていた。残念、この要塞は、やはり厳しい洗礼をあびせてくれたようだ。またいつか挑戦するぞと心に誓い、この難攻不落のみゆき瀬をあとにするのだった。


 大迫力の浮きグロ


またまたお世話になりました みゆき瀬


ありがとう 硫黄島


すっぽりと曇に覆われた硫黄岳


みなさんお疲れさまでした

今回のかなり厳しい釣果だったようで、50cmの尾長が釣れたのが目立った釣果。我々の釣果はいいほうだった。「悔しいなあ。おいは、もうこれで終わり。仕事が忙しくなる。山の仕事じゃ。」名人は無念さを表現するとともに何かすがすがしい気持ちで今回の釣りを振り返った。あの軽快な身のこなしは只者ではないと思っていたが、さすがである。同じ時間に荒磯も黒島から戻ってきた。硫黄師おなじみのN村さんが「ガンガゼ10個で足りた」と今回の釣りの厳しさを一言で表現してくれた。釣りの難しさと面白さを経験させられた今回の釣行。いつかは、あの要塞でまだ見ぬ「座布団尾長」を仕留めたいと心に誓い、枕崎港をあとにするのだった。 


今回の釣果 30〜40cmクロ8枚



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