9/17 隼人の蠅 一辺島

9月の蠅はしつこい。

蠅はどちらかと言えば、人間にとって嫌われ者。前任校は、校舎の裏に牛舎があり、蠅が多かった。6月の後半ぐらいからどこからともなくやってきて、秋の終わりごろまで活発に活動する。廊下が黒く汚れているなと思ったら蠅だった。また、たとえわずかでも口をあけて廊下をあるこうものなら、容赦なくやつは人間様の口の中さえも侵入する。子供たちもなれたもので、蠅に対する嫌悪感などどこ吹く風だ。ついには、蠅1匹1匹に名前をつけて可愛がる始末。給食のおかずの中に入っても3秒ルールを適用することも。その中でも、特に9月の蠅は本当にしつこい。冬に備えて体力を蓄える算段なのだろうか、とにかく、振り払っても振り払ってもこちらに飛んでくる。9月の蠅は間違いなく、最もしつこい嫌われ者だ。

この9月の蠅のような人間がいる。ご存じ、磯釣り師である。かれらはよせばいいのに、水温が高く、好釣果に恵まれることはあり得ないにもかかわらず、何かと理由をつけて磯へと向かう。かくいう私もそのひとりである。9月でも釣りができる場所はないだろうかと9月の蠅のようにありとあらゆる方法を使って釣行場所を見つけようとする。そして、ターゲットにした磯にたかるのだ。

隼人新港にて 遠くに桜島

ところで、今回の釣行日である9月17日、大潮(満潮午前5時半ごろ)。この日は、おいらの職業ではめったに経験できない平日釣行ができる日だ。運動会の関係で、土日に出勤となるため、代休措置が取られるのだ。わくわくするも、この時期はあまりにも中途半端な季節。拘束されない時間帯の関係で昼釣りしかあり得ないが、磯釣りで出撃しようとしても、これといって行きたいところがあるはずもない。阿久根大島は厳しいだろうし、南九州の磯はまだまだ夜釣りシーズンというところ。堤防ならどうかと考えるも、最も相性のよい川内沖堤防もシイラがうろうろしていて、クロやチヌがおびえて隠れているのではないかという感じだ。かといって、水俣や芦北の堤防はあまり情報がなく不安。また、天草も遠い割に、それほど目立った釣果はないようだ。こんな時は、よく知らないポイントに行くよりも、行き慣れたところがよい。そこで、今回の夢の平日釣行は、かつて巨ヂヌランドとして一世を風靡した錦江湾に浮かぶ小磯「一辺島」で勝負することにした。


一辺島一帯を誘ってくれる あつ丸

 案内してくれるのは、隼人新港から誘ってくれる「あつ丸」さんだ。最近、一辺島は人気磯となり、土日には7,8人が渡礁するというかつては考えられない状況だったが、このところはあまり釣れていないという。人気の一辺島だけに心配したが、今のところおいら一人らしい。さすがに平日だ。一辺島を独占できるかもしれない。「6時に来てください。」で商談成立だ。ウキウキ気分で道具を準備し、朝4時に起床。永友釣具店で餌などを購入。6時ちょうどに隼人新港に到着。あつ丸に乗り込んだ。

 すでに、明るくなった錦江湾をゆっくりとクルージング。朝のさわやかな風を全身で受け止めながら、一辺島を目指した。陸の上にいると、平日のあわただしさな中に身を投じることになる。ところが、海の上では平日も土日も感じさせないオーラを感じることができる。人間様のせこせこした日常とはまるで違う時間が悠然と流れている。ここ数日間の晴天続きでべた凪となった錦江湾を15分ほど走ると、眼前に満潮の中、ちょこんとごつごつした顔を出した小磯一辺島が見えてきた。

 本当に不思議だと思うのだが、何度も苦杯を嘗めさせられている場所なのに、憧れのポイントに見えてくるから不思議だ。UENOさんに目の前で50オーバーのチヌを釣られたり、数々の撃沈でへこまされた磯なのに、今はまるで恋人に逢いに行くような感覚になっている。だからおれは釣りバカなんだな。自分自身で疑問を投げかけ自分で解決している自分を嘲笑しながら、離島では考えられないようなゆっくりとした動きで渡礁準備を始めた。


今回の釣り座は船着け

「船をつけるところからあの島の鉄塔に向かって仕掛けを投げると釣れますよ」船頭さんは、一言アドヴァイスしておいらを渡礁させた。とりあえず「3時に迎えにくて下さい」と最後のぎりぎりまで釣ることを宣言。はやくも、撒き餌の調合と仕掛けづくりに余念がなかった。

 朝マズ目に100gくらいのイカはいないかとエギングをするも全く反応がないので、本命のフカセ釣りを始めることにした。時計を見ると7時前。普段ならこの時間には勤務する学校につく時間帯だ。こんな日にこの場所にいることだけでもうれしさがこみあげてくる。

 はじめは本命とみられた沖向きの釣り座で勝負していたが、潮が芳しくなく船つけの釣り座で始める。午前8時前、よそ見をしていたら、うまい具合に作っていたポイントでキザクラ全層クジラ2Bが海中に消えたらしく、竿先に尋常でない力を感じあわてて合わせた。がっちりハリ掛かり。首を振る動作は間違いなく本命のチヌらしかった。ウキが見えてきた。もうこっちのものだと思った瞬間だった。やつは、信じられないトルクで横走りし、足元の瀬にハリスが触れた。1.75号だからひとたまりもない。痛恨のバラシ。このところ撃沈がつづいていただけに、この魚は何としても手にしたかった。残念無念。

 しかし、この日の海は魚の活性を確実に高めてくれていた。1時間後の9時前にようやく魚の動きをとらえた。41cmのチヌ。本命ゲットにほっとするかまちゃん。さらに、潮の好条件だけでなく、毎年悩まされ続けていた木端グロがほとんどいない。また、金魚(ネンブツダイ)もいつもより小ぶりだし動きが鈍い。まだ釣れるかもとやる気を出して釣り続けると、10時過ぎに遠投して34cmのマダイを、更に手前で本日最大魚44cmのチヌ。更に沖向きで31cmのマダイ。予想以上の暑さで12時納竿を決めた後取り込んだ42cmのチヌで早めの納竿とすることにした。我が家の食材としてはこれで十分。納竿とした。これだけ餌取りがいないなら、上からゆっくり探っても大丈夫。全層クジラで通して正解だった。ただ、オキアミ生ではさすがに餌持ちが難しく、今日はすべてオキアミボイルでの釣果だった。


久しぶりのまともな魚 玉掛けもぎこちない


最初の訪問者 41cmのチヌ


本日最大魚 44cm


ありがとう 一辺島


本日の釣果 チヌ3枚(41〜44cm) マダイ2枚(34、31cm)

 つい1カ月前までは20号のハリスで勝負していたから、ハリス1.5〜2号の勝負はあまりにもギャップが大きすぎて戸惑ったが、ウキフカセ釣りカンを取り戻すことができた。港に戻って家路をたどると、もうそこはセコセコした日常がまっていた。


車を運転していてしばらくして隼人港にいた蠅がたくさん車の中を縦横無尽に動き回っていることに気付いた。さすがに、港で暮らす蠅だ。潮の香りが好きなのか、私の磯バッグや磯バッカンの周りを飛び交っている。運転に集中できないねと困っていたら、よくしたもので、だんだん九州を北上し始めると、ときどき窓を開けてあげると、1匹1匹と車の外に逃げ出した。このまま山の生活になったらどうしようと思ったのかは定かではないが、彼らは生きるために最善の方法を必死に考えて行動しているように見えた。

考えてみると、おいらはこの蠅と同じだ。9月の蠅と揶揄されようとも自分のために家族のために、子どもたちのために何とかして生きていくぞ。そして、恥ずかしげもなく離島へ挑戦し続けて、釣りの夢とロマンを追い求めるんだ。最後の蠅が出て行ったのは、人吉盆地に入ったころだった。「おーい、ここは今まで住んでいたところとは全く違うが、たくましく生きて行けよ」そんな応援メッセージを無言で送っていることに気付き苦笑い。さあ、次回の希望は硫黄島。9月の蠅のように、猛々しい硫黄島に必死に集ってやるんだ。家に帰りついてもまたこんなことを考えているのだった。


本日の料理
チヌの焼き切り
マダイのアクアパッツア
チヌの吸い物



一番人気だった 鯛飯



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