12/13 爆釣かボウズか 硫黄島

「まだ、水温の高っかバイ。ぬるかったもん」

12月11日、寒グロ開幕を迎えたuenoさんは、満を持して甑島へと向かった。行先は彼が最も好きだという瀬々野浦。「おら、日曜日(12日)は行かれんけん。土曜日に行ってくっでえ。」ルンルン気分で、出かけたという。uenoさんの釣果が気になった私は、早速電話で釣果報告を聴きだすことにした。しかし、電話に出たuenoさんの声はあまりに精彩を欠いていた。

uenoさんの話によれば、1mの波高予報にも関わらず時化ていて、本命の北エリアには行くことできなかったそうだ。そして、片野浦方面の地磯に乗せられたがイスズミの波状攻撃を受け、瀬変わりしたものの、今度はデカブダイの来襲に苛まれたそうだ。「ブチブチ切られるけん。なんかなあと思って仕掛けば太くして釣ったらブダイやったバイ。赤を1枚、青を2枚釣ったバイ。」黄色を釣れば信号機でしたねと冗談でも言えば、即座にご機嫌斜めになりそうな雰囲気だった。そして、30cmにわずかに満たないクロを1枚ゲットするのが精いっぱいだったそうだ。uenoさんの近くの釣り人が14枚釣ったのが竿頭のようだったが、型はまだまだ甑サイズとは言えないものだったという。そのuenoさんの無念さが「ぬるかったもん」に表れていたのだった。

2009年も残すところあと1カ月足らず。最後の月師走を迎えた。今年も暖冬が続いている。ここ数日はとても冬とは言い難い天候が続いている。水温もまだまだ高い状態。しかしながら、昨年に比べれば甑島を中心にクロの釣果が聞かれるようになっていた。12月に入って暦の上では寒グロ突入と言いたいところだが、海の中の季節はまだ秋もようと言うべき状態だ。

磯釣り界の異変は天候だけではなかった。学期末の事務を猛烈な勢いで片付けて、uenoさんと同様満を持して臨んだ硫黄島1泊2日釣りは、意外な展開となった。「kamataさん、土曜日の客が集まらないんですよ」黒潮丸からこんな信じられないセリフを聴くことになったのだ。例年のこの時期ならば、上物師がクロのハシリの大釣りを狙って、あるいは、口白を狙って徒党を組んで離島へ足を運ぶ時期なのに。釣具店がチャーターしたらしいマイクロバスに乗って大挙して磯釣り師人口が増える時期なのに。

一体どういうことなんだ。金融恐慌の影響なのか、長引く不況がここにきてボディーブローのように効いてきたのか。はたまた、地球温暖化に端を発した水温の上昇が釣り人の触手を引っ込めてしまったのか。原因ははっきりしないが、離島釣り師としてはこれは一大事だ。このまま客足が遠のけば、離島に行く渡船はバタバタと倒れてしまうのではないか。何としてもこの離島便は守らなければならない。そんな馬鹿げた使命感を胸に、日曜日に予約を入れて吉報を待った。土曜日の昼過ぎ、黒潮丸から電話がかかってきた。「出ることにしました。3時集合です。」よかった。心配していた日曜日は何とか客が集まってくれたようだ。


本日の硫黄島の直行便は6名

九州自動車道を南へ下り、指宿スカイラインを通って、途中スーパーAZ川辺店に立ち寄る。どうもウキを忘れてきてしまったらしい。3Bのウキを2個買って今回の釣りに備える。枕崎港についたのが午前2時前。市場の横の黒潮丸の停泊している駐車スペースには何と車が3台しか止まっていない。30分ほど仮眠をすると、ぶるんぶるん。黒潮丸に命の鼓動が甦り、その音で目が覚めた。「さあ、一緒に行くよ。」船がそう語りかけている気がした。

「kamataさん、これ使って。あまるようなら撒き餌に使いなさいな。」」船長が私に手渡してくれたのは、シマアジ釣りのつけ餌としてこの時期かなり有効な生キビナゴだった。今回の狙いは、この時期限定の磯からのシマアジだ。2004年で乗せられたタジロで偶然シマアジの入れ食いに遭遇。右に左に強烈な疾走繰り返し、最後まで抵抗する見事な引き味。その上、唇はアジ系の魚らしく切れやすいため、スリリングなやり取りを堪能できる。また、その食味の素晴らしさは語ることもないだろう。天然のそれは、見事な旨みを含んだ極上の脂を伴い食べる人をうならせる。それからというもの、季節限定だが本命としては十分すぎる価値を持つこの魚に逢いたくて、毎年12月は硫黄島タジロにシマアジ釣りに出かけるようになったのだった。去年はくしくも今回の釣行日とまったく同じ12月13日に硫黄島タジロに渡ったが、イスズミを中心とした外道軍団にノーフィッシュというかつてない煮え湯を飲まされたっけ。さて、今年の縞ちゃんは元気だろうか。


いっぱい釣ってきてくださいと船長

ゆったりとした気分で黒潮丸のキャビン内に大の地に寝て出航を待った。午前3時過ぎに黒潮丸は枕崎港を離れた。沖堤防を過ぎ外海の状況を船の微妙な揺れで確かめてみる。あまり揺れることもなく船は全速力で走り続けている。今回の釣りは快適のようだ。安心していたところで睡魔が襲ってきた。いつのまにか寝っていて気がつくとエンジン音がスローとなり、硫黄島の到着を知らせた。最初の渡礁は新島のようだった。サーチライトのわずかな光でそこが石鯛場であることがわかった。風が結構吹いている。西向きの風のようだ。

一人の底物師らしい釣り人を渡礁させると、船は島の南エリアへと全速力で進んだ。おそらく私の渡礁するタジロへと向かっているのだろう。細い下弦の月が暗い漆黒の海を心もとなく照らしている。だんだん硫黄の臭いが鼻をつきだした。間違いない。船は予想通りタジロに近づいていた。エンジンが再びスローになる。荷物を船首部分に運んで、ホースヘッドで渡礁に備え姿勢を低くして身構える。サーチライトが照らされる。照らされた先に青物の好ポイントとして人気が高い「タジロ」の赤茶色の岩肌が見えてきた。

ホースヘッドがつけられる。黒潮丸がタジロとがっぷり四つになる。その間に難なく渡礁をすませた。さあいつもの船長からのアドバイスだ。「kamataさん、いっぱい釣ってきてください」と船長は今まで言ったことがない言葉をかけてきた。11月は時化続き、久しぶりの出航となった黒潮丸。この時期に魚が釣れるか釣れないかは今後の客足に大きく影響するはず。黒潮丸のこれからの命運を託されたような気になった。自分の釣りバカ度はここまで想像させるほど上がっていたのだった。

さあ、ぼやぼやしてられない。仕掛けを作らなきゃ。準備ができ、午前5時過ぎに、夏魚の底物釣りから始めた。まずはじめに、シブダイ狙いで石鯛竿のブッコミを開始。しかし、餌取りはいるものの本命の当たりはなく朝を迎えた。さて、シマアジは接岸しているのだろうか。このところ時化続きで船が出ていないので、全く状況が分からない。接岸していれば、餌がほとんど入っていないため入れ食いを楽しめるかもしれない。また、時期的に早ければ、昨年と同じノーフィッシュもありうる。爆釣かボウズか。二つに一つだ。

今日は上り中潮の1日目。硫黄島の満潮は5時ごろで、11時前に干潮を迎えるという潮回り。明るくなってきたので、海を観察していると、いい感じの下げ潮が天狗鼻をかすめてタジロの左手前の根周りにあたってきて沖へと払いだしている。今までの経験から言えば、この潮は釣れる潮だ。シマアジやヒラス、スマガツオまどの良型青物が当たってくる潮と似ている。これはチャンスとあわてて昼用の仕掛けを作るのだった。

 竿はダイワマークドライ遠投3号に道糸4号、ハリス3号、3Bのウキによる半遊導仕掛けだ。海水を触ると冷たい感じがしたので、タナはとりあえず3ヒロから始めた。朝焼けの水平線に向かって竿を振りかぶり、蛍光赤朱色のウキが紫紺の海に突き刺さった。 早くもウキに魚の反応を知らせるあたりが見られた。タナが浅いな。すぐさま2ヒロに変更。第2投でもアタリはあるものの竿に乗らない。こりゃタナは浅いぞ。餌を喰っている魚の正体をまず確かめなければならない。タナを1ヒロ半にして、第3投目。今度はうまく竿を乗った。今までの実績から、いきなりシマアジが釣れることはない。どうせイスズミだろうと適当にあしらっていると、何と尻尾が黒くなく、黄色いではありませんか。


のった場所は 去年と同じタジロ


さあ 右の釣り座で勝負



第3投で早くも本命ゲット

早くもボウズ脱出。去年は本当に苦労してへこまされたのに。今年はいきなり釣れる。これだから釣りは奥深いし、やめられないね。しかし、今年のシマアジは去年とは違っていた。それからというもの、1投ごとにシマアジが釣れてくる。それも、ウキが一気に消しこむというウキフカセ釣りの醍醐味を味わいながら。下げ潮の今の時間帯がチャンスだ。上げ潮になったらろくなことにはならない。今のうち今のうちと手返しを重視しながら順調に釣果を伸ばして行った。


タナが浅すぎるとダツにつかまるし


今日年も確かメガネハギが釣れたような

気が付いたら、クーラーに入れたシマアジは20尾を超えていた。いつもはイスズミに悩まされるのに、今年はイスズミの姿さえ見ることができない。シマアジの数釣りを楽しんでいるが、釣り師はだんだん贅沢になってくる。魚の型が30cm〜35cmと小ぶりなのが不満だ。何とか許せるサイズを釣りたいと、今度は深いタナを探ることにした。

潮は朝マズ目では、本命の沖に向かって左に流れる下げ潮の本命潮だったが、太陽が輝くころにはアタリ潮へと変化していた。それにともなって魚の反応も鈍くなってきた。また、餌取りの活動も活発になってきた。イスズミは不思議と姿を現さなかったものの、昨年からの強敵ソウシハギ、モンガラカワハギ、メガネハギ、通称ドラキュラなど、南海ならではのお魚さんたちが頑張っていた。その餌盗りたちを避けるため、3地点に分けてポイントを作って本命との分離を図る。また、少しでも潮の動くところはないか探しながら釣り続けた。

 その潮の中で中々結果を出せないでいたが、シマアジの群れが突然、瀬際に逃げ込んだ。さっきまで活発に動き回っていたソウシハギも沖へ出なくなった。何かがここにやってきたな。餌取りの動きから何かでかい魚が入ってきた可能性に心ときめかせながら釣りを続けた。

 そして、一瞬ら潮が沖へ動いた時、ウキがゆらゆらと前あたりがあった後、一気に水中深く消しこんだ。反射的に竿を立てて応戦。やつは、先手をとろうと一気に瀬際へと突進する。こちらも負けまいと、前に出て竿をの弾力を信じてためる。竿先を叩いているからイスだろうと、横走りする相手の疾走をようやく止め浮かせた。その魚体はやや細長く鋭角的な黄色いしっぽをもっていた。「よっしゃあ、シマアジだ」だれも話しかえる相手はいないのに、思わず叫んでしまった。さっきまでのシマアジとは明らかにちがう良型のシマアジだった。これは慎重に玉網をかけた。魚を自分の足元にもってきて思わずガッツポーズ。もうこれで何も思い残すことはない。この開幕戦の目標は達せられた。

 その後、予定通り潮は上げ潮となり、イスズミやソウシハギの猛攻が激しくなる中、午後12時過ぎには納竿することにした。



]待望の良型シマアジ



ナンヨウカイワリもアタックしてくれました


潮の向きが・・・タジロの左側の釣り座に変更


ドラキュラさんもやってきた



30〜47cmのシマアジ29尾 ナンヨウカイワリ1尾



ありがとう タジロ高場

港に帰って、船長を釣りを振り返った。「朝方kamataさんに電話した時、『入れ食い』と聴いて本当によかったと思ったよ。」それほど、心配してもらってありがたいが、それほどおいらはHETAだということなのね(涙)でも、その船長の心遣いは嬉しいものだ。「船長、次回はクロをお願いします」と寒グロ釣りを宣言し、次回の硫黄島釣行を早くも決めるのだった。 

 硫黄島の底力を垣間見た今回の釣行。もうシマアジとは十分に遊んだ。次回は、ハシリのクロちゃんとの出会いを求めて師走の仕事を頑張るぞお。



ありがとう黒潮丸



脂ノリノリのシマアジ 刺身が楽しみ♪


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