1/4 喰わぬなら 喰わなくていいよ クロちゃん 中甑鹿島

「おれたちゃついとらんなあ」
 uenoさんのため息が携帯の機械からでてきそうな勢いだった。

 2010年早くも21世紀は10年目に突入していた。気がつくと師匠uenoさんとの釣りバカコンビも10年目のシーズンを迎えていた。サラリーマンの応援歌でもあった映画「釣りバカ日誌」もいよいよ最終回を迎えるという。「祇園精舎の鐘の声. 諸行無常の響きあり. 沙羅双樹の花の色. 盛者必衰の理をあらわす。」変わるということはドキドキして素敵なことだが、反面さみしい思いも持つもの。この正月に福岡に里帰りしたが、帰るたびに年々街並みが次々に姿を変えていく。むかし子供のころに見た風景はもう二度と見ることはない。平家物語は語っているように、素敵なことを永遠に持ち続けることは不可能なのだろうか」

 しかし、その平家物語が不可能だと言っていることを可能にしようとする種族がいる。御存じ釣りバカ族である。彼らは、家族の不満の声を背負いながら、この寒いのに磯へと出撃する。彼らはたちの悪いことに、初釣りは1年の動向を占う、また1年間の釣りの安全を祈願する大切な年中行事などと訳の分らぬ理屈をこねる。

 その釣りバカにとって大切な初釣りに暗雲がたちこめていた。31日から正月にかけて日本列島を寒波が駆け抜けた後、4日、5日は凪になるはずだった。ところがだ。どういうわけだか、正月寒波が収まったあと間髪いれずに次の時化をポセイドンは用意していた。釣行予定の4日の予報は、1mのち3mというとんでもないものだった。この予報がuenoさんのため息となったのだ。

 当然、これまでの経験から渡船はすべて船止めかと思いきや、今回お世話になる誠芳丸の決定は意外なものだった。「出ます。2時出港です。」

 事の顛末はどうであれ、初釣りができることにはかわりがない。喜び勇んで準備をし、uenoさんとおちあい、午後10時半ごろ人吉を出発した。


誠芳丸さん 今年もお世話になります

串木野港に12時半ごろ到着。海上保安庁の船が停泊している岸壁には釣り仕様と思われる自動車が多数止まっていた。瀬どまりや民宿泊まりもいる模様。磯釣り師は当然釣れているところに出没する。しかし、あまり釣れていないのに釣り人を集める渡船がある。それが誠芳丸なのだ。N船長の顧客第一主義は、この不況にもかかわらずかなりの集客力だ。人を動かすのは人であると改めて思わされるのであった。



初めてシブダイを釣った思い出の磯「ダンママ」

 凪の東シナ海をひた走ること70分。船は藺牟田海峡から西磯へと出撃していった。「uenoさん、準備してください。」と船長から声がかかる。上甑の近島の平瀬そっくりの形状の磯に降り立つ。ここが我々が2010年の初釣りを成就する主戦場だった。あとで聞いたがここは「ダンママ」という。ここは、2003年の8月に夜釣りで初めてシブダイを釣った思い出の磯だ。


  この島の裏が今旬の「灯台下」だ

 無事渡礁を済ませて、uenoさんが満足そうに呟く。「ここは足場のよかなあ。」釣れる釣れないにかかわらずuenoさんは足場がよければとりあえず満足する人だ。もちろん、そこが釣れないと不満たらたらになるのはいうまでもないが。
「撒き餌バすっバイ。えさバたくしゃあ(たくさん)撒いて魚バ浮かせて釣ろい。」午前4時前に渡礁しても何もすることがない我々はとりあえず撒き餌さを作り、仕掛けを作り夜明けを待つことにした。しかし、渡礁前にいやな会話を聞いていたことに今一やる気ができない我々。


あれに見えるは中甑島

「今日は途中で回収になります」という船長の言葉だ。それがだんだん尾ヒレがついて、「今日は、9時か10時までの回収になるらしいぞ」となった。この情報が釣り師に悪影響を及ぼさないはずはない。「こら、いつ回収になるかわからんけん。びゃんびゃん(どんどん)撒き餌ばして、釣ろい。」uenoさんも最悪の展開を予想して撒き餌に余念がない。ついには想定外の夜釣りのウキフカセ釣りまで始める始末。二人とも初釣りで撃沈したくない思いが素直に行動に現れていた。

 夜が明けた。いよいよ朝マズ目の最も大型が釣れるチャンスタイム。二人ともやる気モード全開で釣り始める。しかし、魚の活性が鈍すぎた。魚の反応がない。撒き餌を続けて午前8時ごろになると、餌がとられ始めた。この調子で行けばいつか魚の活性が上がり釣れるのではないかと淡い期待を描いていた。甘い!「こたアタリ潮バイ」uenoさんが口火を切った。とても釣れそうにない。おまけに、いつ回収になるのかわからない。こんな条件じゃ冷静になれというのがむりかも。


2010年 第1号は君か 君のお父さんは?

 そのうち餌だけがとられる状況になった。どうやら水温低下等の理由で喰い渋っているようだ。本来ならばこんな時は、まずタナの深さを変える。鈎を小さくする。そして、次の選択はハリスを落とすというもの。しかし、これだけはどうしても実行できなかった。現在のハリスは2.5号。これを落とせば釣れるかもしれない。しかし、ハリスを落とせば大きいサイズが釣れないかもしれない。太ハリスでも魚が釣れるからこそ甑島を選んで釣りに来たのだ。細ハリスなら半島回りの磯で十分だ。だからたとえ釣れなくてもハリスは落とさないぞ。


 ダンママで交通事故的に釣れた2010年初釣果

 しかし、この考えは明らかに釣果をあげるうえでは不利に思えた。ダンママから瀬変わりした「冷や水」に移った後、ここもダンママと同じような状況であることに気づき、uenoさんはハリスをおとす作戦に出た。これが見事に的中。その後、3枚のクロを追加した。
 それを見て、2号にハリスを落としたが万事休す。納竿の12時を迎えた。
  


久しぶりだねダンママ



冷や水釣り座


ありがとう冷や水

 もっと、早く気付いてハリスを落としていれば釣れたかもしれない。でも、そこまでして魚の数をあげてどうするというのだ。太ハリスで喰わせられなければ素直に魚に対して負けをみとめようではないか。太ハリスで勝負して釣れなければそれはそれで仕方がない。それは自分の釣りスタイルであり、誰が何と言おうと、それが自分の釣りなのだ。もちろん、細ハリスで釣る釣り師をどうこういうつもりは毛頭ない。おいらは、甑島の魚を取りに来たのではない。甑島の夢にお金を払っているのだ。だから、太ハリスで大きな魚を釣るという夢にむかって努力できればそれはそれで満足なのだ。

 初釣りでクロ1匹という見事な惨敗をくらったが、心は天気予報を裏切る見事な青空のように心は晴れ晴れとしていた。


今年の初釣果 クロ35cm


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