1/8  硫黄島に初詣で  硫黄島

「kamataさん、日曜日はだめなの?土曜日は3,4人しか集まってないんだけど」

なんということだ。黒潮丸の船長のこのひとことは、さすがに体にこたえた。

寒グロシーズンインした2010年12月。兵庫県釣りネット業界の重鎮「風雲児」を迎えての年末釣行は、年末寒波のなごりで北浦への撤退を余儀なくされた。更に年末年始の大寒波は30日ごろから日本列島全体を襲った。九州でも南国鹿児島でも大雪。わが学校でもここ数十年間で最高の20cmの積雪で駐車場の屋根が壊れるというアクシデントが。平沢津という地区では、60cmも積もったという。

釣りに行くどころか、冬将軍のいたずらに翻弄されっぱなしの年末年始。恒例の家族でお出かけもできずに自宅でコタツムリになる日々が続いた。初詣でもままならぬ中、正月をやりすごした。お金使わなくて済んだしまあいいか。

しかし、まあいいかですまされない業界がある。言わずと知れた渡船業界である。

「2.5mと言うとりますからね。仕事になりませんわ。」

正月寒波後、もうそろそろいいだろうと黒潮丸の船長に3日の釣行への確認の連絡を入れた時に、ため息交じりに船長からこんな声を聞くことになったのだ。おそらく25日以降は黒潮丸を始めとする離島便はほとんど出航していないのではないか。

半島周りや甑島をテリトリーとしている渡船は、平日でも客は集まれば出航する。ところが渡船料金も高いうえに走行距離の長い離島便はどうしても土日のみの出船が中心となる。ほとんどの業種が休みになる年末年始が稼ぎ時だ。離島便にとって頼みの綱であったこの年末年始の寒波は大きなダメージに違いない。

7日の日中に船長から

「出航することにしましたわ。3時過ぎに来てください。」

と連絡をもらったが、何か釈然としなかった。

数年前の黒潮丸は、満員の磯釣り師を乗せ、硫黄島を目指していたはず。大手の釣具店のワゴン車がたくさんの離島釣り師を枕崎港へ運んでいたというのに。出航を待ち切れずに、ふるえる手でカチカチと港の岸壁近くでひたすら赤貝を割っていた底物師。港の駐車場でくわえ煙草で離島への夢とロマンをにこやかに語り合っていた磯釣り師たちは一体どこに行ってしまったのだろう。

自分が釣りに行けないからではなく、今後の渡船業界の行く末を案じてしまうこの事態を我々は一体どう考えたらよいのだろう。この離島便を何とか守りたい。離島の釣りを次の世代へたすきリレーしたい。いつのまにか、そんな馬鹿げた使命感をもつようになってしまった。

離島の釣り成立の条件はかなり厳しい。言うならば離島の釣りには次のような文字式が考えられるのではないだろうか。

離島への憧憬×自分の時間(家族の理解)×資金(景気)×土日の安定した天候×他の釣り師の数=離島の釣り

これらのどの項目が欠けても離島の釣りは成立しない。

しかし、自分がいくら考えたところでどうなるものでもない。自分にできることは離島の釣りを楽しみ、それをできるだけ多くの人に伝えることではないか。今年1年安全に楽しく釣りができるようにという思いを抱えながら、ホームグラウンドである硫黄島への単独釣行にでかけることにした。まるで、初詣でに行くかのように。


黒潮丸も今年初出船

7日の職場の新年会をウーロン茶で乗り切り、自宅を深夜に出発し、枕崎港に到着したのは、午前2時過ぎ。先客は車が1台のみ。相変わらずだが見慣れた寂しい渡船基地枕崎港で1時間ほど仮眠をとった。

騒がしくなってきた3時過ぎに、いつもの軽トラックで船長が登場。軽い新年の挨拶の後、荷物を船に積み込み、キャビン内の毛布にくるまる。いつもの行動だが、いつまでこの船で釣りにいけるだろうかと考えると、毛布の肌触りが有難くて仕方がない。

今回の硫黄島は、ピン上物師が私と福岡からの方の2名。3人組と2人組の底物師の合計7名という構成。数年前からするとあまりにもさびしすぎる出航である。悲しいかなポイントは選び放題だ。

ぶるんぶるん。黒潮丸の命の鼓動を知らせる音が静寂の港に響き渡る。しばらくすると船はゆっくりと旋回しながら方向転換を行い、港内を進んでいる。沖堤防を過ぎると船は速度を一気に上げる。ここで今回の釣りを占う癖がついている。

1月8日(土)下り中潮3日目。硫黄島の満潮は9時40分ごろ。上げ潮で釣り始め、満潮の潮どまり後、下げ潮で釣るという展開。上物で実績の高い浅瀬のハナレ、鵜瀬のハナレ、みゆきなどは下げのポイントだ。船長は一体おいらにどんな磯を用意してくれるのだろう。

潮は?うねりは?サラシがどうかな。どこに乗せてもらえるのか。こんなことを考えている内にいつの間にか眠りに落ちて気がつくとエンジンはスローになっていた。

「○○さん、地磯がいいて言ってたけど、平瀬はどう?石鯛釣れるよ。」

今回は平瀬からの渡礁だ。地磯でという釣り師に元石鯛釣り師である船長が平瀬を勧めている。北西の風がかなり強く吹いている。船もうねりを受け大きく揺れている。出航直後は凪と思われていた海も硫黄島付近に来ると結構な時化具合だ。硫黄島本島の西側はだれもが認める底物の名礁ぞろいだが、この風向きではいい釣りはできないだろう。本島の北東に位置する平瀬、鵜瀬、新島、南東に位置する浅瀬などに乗った方が無難だろう。

その釣り師たちは西側をあきらめ平瀬への渡礁を決意したようだ。高場と低場に分かれてそれぞれ暗闇の中に渡礁していった。この時期のワカナの1級ポイントに二人の底物師が抱かれた。

「kamataさん、○○さんといっしょに鵜瀬に乗って」

よっしゃあ、一番狙っていた鵜瀬に渡礁できるぞ。鵜瀬と言えば、数年前まで乗れば確実にワカナを手にできるというとんでもない高確率の超がつく1級ポイントだ。ずっとこの鵜瀬にはだれも乗っていないはず。もしかすると・・・。

こんな夢とロマンを抱き、鵜瀬に渡礁完了。もう一人の福岡からこられた釣り師と簡単な挨拶をすませ、時間がないので早速時間限定のワカナねらいの仕掛けを準備することに。

竿はダイワブレイゾン遠投5−52、道糸10号ハリス12号。ウキは1.5号の電気ウキ。タナを2ヒロとし、早速攻め方の定石である瀬際を狙った。


ドキドキのワカナタイム♪鵜瀬で

早速、尾長グレはまだ接岸していないことを知らせるアカマツカサが第1投で釣れた。更にイスズミが表敬訪問。まだ魚は寄っていないようなので撒き餌をとにかく間断なく撒いた。

しかし、我々の期待とは裏腹に釣れてくるのはイスズミ軍団の歩兵のみだった。鵜瀬は我々釣り師を最高にドキドキさせてくれたが、生身の魚を手にさせてはくれなかった。一度だけ餌が残るチャンスタイムと思われる時間帯があっただけに残念。


硫黄島本島に手を合わせます


足下の瀬際がワカナポイントだが・・・

さあ朝が来た。口太だ。朝焼けに照らされながら、昼釣り用の仕掛けを作った。竿はダイワマークドライ遠投3−52、道糸3号、ハリス4号を1ヒロ取り、ウキはこの時化気味でできるサラシに負けない釣研グレイズ3Bをチョイス。もう一人の釣り師は船つけでワカナ釣りの残り香を楽しんでいる。そこで、裏の口太のポイントのワンドに向かうことにした。

ワンドでは強烈な北風が吹き荒れていた。この風なんとかしてくれよ。強風で帽子が何度となく飛ばされそうになるのをこらえながら、ワンドの右端で釣り始める。

ワンド内には何やら大きな物体が浮いている。よくみるとカメの死骸のようだ。磯場のワンドには海面の浮遊物がたまりやすいが、カメの死骸が入ってくるとは。こたつほどの大きさがある。だいたい生きたカメに遭遇するときは、今までろくなことがなかった。このカメはボクにいったいどんなことを暗示してくれているのだろう。


鵜瀬のワンドは口太ポイント

このワンドの出口は上げ潮のポイントだ。潮がワンドに入ってワンド内を一周し、出ていくときに魚が喰うことが多い。その出口には磯のワレ目があり、2年前にここに乗った時、そこで魚が喰いあがってきたという経験を頼りに釣りを始めた。しかし、この釣り座は海面から高い位置にあり、どうしても風に道糸をとられて弧を描き、中々思うところのポイントに仕掛けを流すのが難しい。

仕方がないので足下のサラシ場に仕掛けを入れて様子を見ることにした。とめどもなく発生し続ける真っ白なサラシにもまれている赤朱色のウキがとんでもないスピードで視界から消えていった。道糸が走った。反射的に竿を立てて応戦。やつは一気に右の根に一直線だ。行かせてなるものかと強引に引きずりだす。

しかし、引きは明らかにそれとわかるものだった。3号竿の剛力にものを言わせて抜きあげたのは予想通りイスズミだった。今日はどれくらいイスズミを釣るのだろう。離島の釣りではこの異常なほどの数のイスズミと付き合わなければならない。イスズミが多いと嘆くのではなく、その中に時折混じるクロを拾っていくのだ。


2011年初釣果

しばらく今の釣り座で釣りを続けるが、釣況に変化は見られなかった。磯ワレから喰いあがっていた尾長グレちゃんは今年は留守のようだ。そこで、先端の本来は下げ潮のポイントに入ることにした。風は正面吹きで撒き餌をなんども浴びる始末。ポイントである足下はサラシで真っ白だ。撒き餌を磯場に打ちつけて仕掛けを磯際に入れる。根掛かりに注意しながら、道糸を張りながらアタリ待つ。

離島の釣りでは、答えははっきりと表れる。さっきと同じように道糸が一気に走る。ぼやぼやしていると魚が根に入って仕掛けを切られる。一気に魚を抜きあげる。予想通りイスズミだ。何度か寒波が訪れて水温が下がっているはずだが、上げ潮の間はどうしても水温が高めになるためなのかイスズミの活性が高い。

しかし、あきらめずに釣り続けると結果はおのずとついてくるものだ。何投かしたところで、初めて魚がクロに変わった。2011年初釣果だ。35cmほどの尾長グレ。頭ではわかっていても実際に魚を手にするまでは半信半疑の釣りは確信には変わらない。この1尾は間違いなく釣り師に自信を届けてくれた。


ワンド右の先端のサラシがクロのポイント


硫黄島の神が応援してくれてるよう


北よりの正面吹きにもめげず

この調子でポツリポツリと同サイズのクロを拾い続け5枚になったところで、船のエンジン音が聞こえた。黒潮丸が見回る時間帯だ。どうしよう。瀬変わりしようかどうするか微妙な状況だ。不本意な上げ潮で5枚釣れたということは、この後の本命の下げ潮ではもっと釣れる可能性が。

なやんでいるうちに船はあっという間に鵜瀬に近づいた。

「○○さん、尾長釣れた?」

○○さんは両手の人差し指で魚のサイズを示した。40に満たないサイズだが船着けで尾長を釣ったらしい。

「kamataさん、どうですか。尾長釣れたの?」

矛先がこちらに来た。ワカナは釣れなかったが、クロが5枚釣れたことを伝えると、

「どうする?瀬変わりする?この状況だから変われるところは新島ぐらいしかないけど」

難しい選択だが、ここ数年あまり調子が良くなかった新島の状況が知りたくて、つい出来心で瀬変わりすることを伝えてしまった。

福岡から参戦している○○さんも瀬変わりするという。二人は揃って新島へと向かった。


瀬変わりしますかあ?

無事に新島に到着。船長のアドバイスを待った。

「そこの足下のサラシを狙って。右にもポイントがあります。それから遠くにもポイントがあるから。浅くして釣って。回収は(午後)1時10分ごろです。2ケタは釣ってな。」

さりげなくプレッシャーを与えるところはいつもの調子だ。自分のためだけでなく、船長のturi naviの情報のためにも釣らなくちゃ。○○さんは近くのポイントで釣るということなので、自分は高場へ行くことにした。

新島は、船着けの南東側のすべてが上物のポイントと言えるほど広大な釣り場を誇っている。船着けはもちろんのこと、東に行くと海岸線はすべてクロのポイントと言ってよい磯場が続く。広大な釣り場があるにもかかわらず、船をつけるところが一か所なのはわけがある。この広大な釣り場になっている海岸線は、船をつけられないほど浅いのだ。


新島に瀬変わり

浅いときは2ヒロほどの水深しかなく、底のゴロタ場が肉眼で確認できるほどだ。そこで釣り師たちは釣り場を選ぶときに、ほかの磯場ではない選択を強いられる。できれば魚が多く、スレテいないポイントで釣りたいがそうなるとそこは船着けからできるだけ遠いポイントを選ぶことになる。遠いポイントへ行くには、道なき自分の背丈ほどのゴロタ場を重い釣り道具を持って歩かなければならない。これが自分の年齢と体重に比例して釣り人に敬遠される原因となる。

2ケタ釣ってこい。

この船長のプレッシャーは自分に一番遠い高場というポイントへ歩くことを決意させた。竿と餌ドンゴロスの入ったバッカンを抱えて歩くこと15分。ようやく高場のポイントに到着。着いたころには汗だくになっていた。


風裏のここは逆にサラシがなくて・・・

ここは距離は遠いが、足場は抜群によく、上げ下げ両方を狙えるポイントだ。魚は多い。ところが不安材料はクロが釣れる条件の一つであるサラシが思いのほか少ない。

時計を見ると10時を回っていた。あと2時間ほどの釣り。初釣りだ。思いっきり楽しむぞ。まずは撒き餌を30分ほど行って魚の様子を観察した。サラシの中から喰いあがってくる黒い影を多数確認。やる気モード全開に気持ちが高ぶる。

潮の本流は下げの時間帯になったにも関わらず、通常の上げ潮の右流れになっている。その潮に引かれる潮が右へと動いている。仕掛けを入れると右からのうねりで表面は左へと動いているのだが、仕掛けは右へと動いている。これでは、魚の当たりはあってもかけられない。


渡りっぽい魚でした

それでもさすがに離島。グレイズ3Bがとんでもないスピードで消し込んでいく。何だこいつは軽い。30cmを少し超えたところだが、尾長グレだった。とりあえず魚はいることがわかった。撒き餌を続けてチャンスを待つ。

水温が高いのかイスズミの活性が高い。また釣れても小ぶりの尾長が続く。どうした口太が釣れないぞ。首をかしげながら潮が変わるのを待った。



小さいけど尾長です

すると潮が左に行き出した。そして、潮が変わったところで足下のワレに無数のクロを確認。サラシのできるタイミングを推し量って撒き餌を投入し仕掛けを入れる。ウキが一気に消し込む。竿を叩いているがイスズミではなさそうだ。浮いてきたのは今までよりは良型の口太。

よしっ、喰いがよくなってきたぞ。サラシができる。撒き餌を打つ。仕掛けを流す。ウキがサラシから消える。やり取りに入る。抜きあげる。こんな連続したロールプレイングゲームのような展開が続いた。魚がイスズミなのかクロなのかが唯一違っていた。

これが午前11時半まで続いた。変わったのはその30分後だった。サラシの切れ間から更に良型のクロを確認。そのクロを狙って
足下から撒き餌を打って瀬際を流してクロの喰いあがる場所にもっと行くと面白いようにウキが消し込み、クロが釣れた。たまにイスズミが釣れたが、クロが入れ食い状態に。


ワカナの子?


冷たい下げ潮が流れ 最後は入れ食いに

鵜瀬から数えて、12枚目〜16枚目までは久々の入れ食いを経験。脳内モルヒネのドーパミンが何度も何度も分泌されているのがわかるほど心地よかった。

楽しい時間はあっという間に過ぎ去るもの。時計を見ると12時40分。回収時間が迫っていた。このまま釣り続けていたいところだが帰らなくては。再び道なきゴロタ場を汗だくになりながら歩き続けてようやく船着き場に到着。荷物を整え回収を待った。福岡の○○さんも4,5枚のクロをゲットしたとのこと。よかった、よかった。

荷物をまとめ前方を見上げるとそこには見事な硫黄岳が白い噴煙を上げながらたたずんでいた。魚が釣れたこともうれしいことだが、この硫黄岳の絶景は本当にすばらしい。この素晴らしい絶景に対し畏敬の念をもつとともに、初詣でにも行かなかったことだしここで今年1年の楽しく安全な釣りを祈願した。

硫黄島よありがとう。これからも離島の夢とロマンを釣り人に与え続けてくれよ。そして、いつまでもその白い煙を吐き続けておくれ。北西の冷たい強風がいつのまにかそよ風に変わっていることに気づき、暑い防寒ウエアを脱ぎ捨てさわやかな海風にしばらく当たりながら硫黄島の最後の残り香を楽しむのであった。


硫黄岳がほほ笑んでくれました


ありがとう新島


サイズが微妙だけど 口太 尾長合わせて16枚



エリンギとクロのバター醤油炒め



尾長グレのカルパッチョ


尾長の薄造り

どれもまいう〜〜〜。特にエリンギとのコンビが大人気でした。

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